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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-277 ブリガンディ王国で大きな内乱が始まったようだ


 ティーナさんが来ることは予想の範疇だったけど、まさか砦の士官達が一緒だとは思わなかった。

 やはり長城建設を先に行っている俺達の状況を視察に来たのだろう。挨拶してくれた士官の1人は工兵中隊長だった。

 工兵隊と言えばドワーフ族というイメージがあったけど、副官共々トラ族男性だった。話を聞くと、ドワーフ族は4個小隊の中の1個小隊だけらしい。


「やはり土魔法を使って進めていましたか。確かに獣人族は魔法力があまりありませんからなぁ。レンジャーを雇ったと聞いて、なるほどと感心した次第……」

「ドワーフ族ならほとんど持っているのではないか?」


 ティーナさんの問いに、工兵中隊長がゆっくりと首を振っている。

 そうではないってことだな。


「持っていても1個分隊ですね。体力増強や鑑定、水魔法に火魔法を持つものが多いのです。彼らの出身が鉱山であれば仕方のないことではあるんですが……」

「とはいえ工兵なら、戦場で土塁を作ることや溝を掘ることは多いように思えるんですが?」

「体力が私よりありますし、持久力もそれなりです。土塁や溝なら道具さえあればすぐに作れます。土魔法で土をブロック状に切り出すより速いですよ」


 要するに、必要性があまりないってことだな。

 ドワーフ族とトラ族の工兵部隊なら、体力勝負で何でも出来るということなんだろう。


「今まではそれで何とかしてきましたが、エクドラル王国の工兵部隊は2個中隊ですからね。これ以上増やすことは出来ませんから、マーベル国の方法も少し考えてみたいと思っています」

「場合によっては本国のレンジャーを雇うのも良さそうだ。この領地だけで10人近く集まっているのだからな。2個分隊程集まれば、砦間を繋ぐ工事を早く始められるのではないか?」

「そうですね。私からも上伸しますが、ティーナ様からも父上殿に耳打ちして頂けたら助かります」


 ティーナさんが頷いているけど、ユリアンさんは溜息をついている。報告書に記載するのはユリアンさんだからなぁ。


 事務所でしばらく歓談したところで、ティーナさん達は帰って行った。

 1か月交代の作業が半分ほど過ぎたから、帰ったらその後の様子を教えて貰おう。


 工事はいたって順調だ。

 大きな岩にでもぶつかるんじゃないかと思っていたけど、空堀作りで掘り出した一番大きな石でも荷車の半分ほどの大きさだった。

 石の割れ目を見付けて、爆弾を使うと数辺に割れてくれたからなぁ。トラ族が数人がかりで運ぶことになったけど、石積みの石が出来たと思えば笑みが浮かぶ。


 後数日で交代部隊がやってくるという時になって、通信兵が事務所に駆け込んできた。


「レイニー大統領からの帰還命令です。至急お戻りください」

「了解だ。それ以外に通信は無かったのかい?」

「ありません。それだけ急いでいるのでしょう」


 ナナちゃんを呼んで貰い、ナナちゃんが到着すると急いで荷物を魔法の袋に詰め込み、ボニールでマーベルに向かう。

 疾走するような走りではないが、ナナちゃんが駆けるより少し遅いぐらいだからなぁ。出発したのは昼過ぎなんだが、夕暮れ前には到着できるだろう。


 それにしても……。それだけ急いでいるということは、魔族もしくはブリガンディに違いない。

 魔族であるなら工事を中断して避難するように指示するはずだから、ブリガンディということになるのかな。

 瓦解が始まりそうだと連絡を受けたのだろう。

 となると、魔族が動いたという事にもなりそうだ。

 東に魔族の焚火の煙が見えたなら、直ぐに知らせてくるはずなんだが……。


 途中でボニールを休ませ、再び北東に走らせる。

 マーベルの南の城壁が見えてきた時は、夕暮れには程遠い時間だった。

 少しボニールに無理をさせたかな? 到着したらゆっくりと休ませてあげよう。

 

 指揮所の扉を叩くと同時に扉を開く。

 既に主だった連中が集まっているようだ。俺で最後になるのかな?

 荷物をナナちゃんに頼んで、直ぐにレイニーさんの隣に腰を下ろした。


「それでブリガンディはどうなっているんですか?」


 俺の問いに、レイニーさんが小さく頷いた。やはりブルガンディの異変ということだな。


「砦から光通信が届いたのは昼食の最中でした。直ぐにレオンにここへ来るよう連絡をしたのですが……。どうやら、ブリガンディで内乱が起こったようです。エクドラル王国の連絡文がこれになります」


 ほとんど1枚の紙いっぱいに書き込んである。

 かなり詳しく教えてくれたようだな……。


「内乱を鎮められずに拡大したということですか! 王宮内の貴族が割れていましたから、これではサドリナスと同じ運命を辿ることになりますよ」

「1つ大きな違いがある。その内乱にどの勢力も加担しないことだ。東の王国、貴族連合、そしてエクドラル王国ともに軍を国境に展開しているそうだ。避難民の受け入れはどの勢力も行わない。となれば内乱が収まった時に残るのは荒れた国土と難民だけになりそうだな」


「魔族が侵攻してきたなら、なすすべもなく魔族の刃に倒れるに違いない。因果応報ということになるのじゃろう」

「一応避難先は関連国との合意が出来ています。それに気が付けば良いのですが、さてどうなることか」


 無理な税でも課したのだろうか? それとも今までの鬱憤が溜まりに貯まったのだろうか。

 国民から背を向けられた王宮が取る手段は、首謀者の極刑ぐらいなものだろう。なるべく無残に殺すことで、反乱の意思を削ぐぐらいはやりそうなことだ。

 だが、王国全体に広がった反乱を止める手段を、王宮が持っているかどうか怪しい限りだ。

 かつては5個大隊を擁していたブリガンディ王国軍も、獣人族迫害を受けて3個大隊に減っているだろうし、その上魔族と何回か交戦しただろうからなぁ。兵士を徴兵しても直ぐには使い物にならないだろう。

 それに、町や村の自警団に武器を手渡すことが多くなれば、反乱軍の武器は王国軍と同等になりかねない。

 組織だって行動が出来ない反乱軍でも、数を頼りに押し寄せれば魔族軍とそれほど変わりはないだろう。

 反乱を鎮めるたびに、王国軍はすり減ってしまう。

 最後は王都に立て籠もることになるのだろうが、援軍もなく食料の供給も出来ないとなれば最後は悲惨な結果になってしまうだろうな。


「マーベル共和国はブリガンディの内乱に加担せず、状況を見守るだけにします。レオンはレイデル川を渡ろうとする避難民には矢を射かけると言っておりましたが?」

「それで良いでしょう。獣人族を散々殺してきた国民ですからね。その対価は命で償って貰いましょう。万が一にも、レイデル川を越えるようなことがあれば、捕まえ次第、手を縛ってレイデル川に投げ込みましょう。それでも生ぬるい処置だと思います」

「子供を檻に入れて何度も水に浸して最後に殺したらしい。その恨みは晴らさねばなるまい」

 

 そう言ったダレルさんは唇を噛んでいるようだ。よほど悔しかったに違いない。

 さすがにそこまですることはないだろうが、親兄弟、子供を殺された兵士達がどこまで感情を抑えられるかが問題だな。

 

「ということで、明日からレイデル川の監視を増強します。現在はエニルの部隊2個小隊が監視をしていますが、ある程度の範囲を1つの小隊に任せて1個小隊を即応部隊として真ん中に駐屯させれば良いでしょう。それと、最後に……。捕虜はいりません。避難民も受け入れることは出来ません。これだけはしっかりと守ってください」


 俺の言葉に意味が分かったかな?

 レイニーさんが小さく頷いているのは、覚悟を決めたということだろう。エルドさんやダレルさんは笑みを浮かべているんだよなぁ。

 

「エクドラル王国との約定で、俺達の渡河地点から以北がマーベル共和国の版図になっています。歩いておよそ3日の距離。距離にしておよそ60コルムというところでしょう。10コルム区間を1つの小隊とすれば6個小隊がとりあえず必要です。その他に1個小隊を中間地点に置きますが、これは俺がエニルの小隊を率いていくことにします」


 途端に騒がしくなってきた。

 全員が行きたいってことなんだろうけど、少しは小隊長に譲ってあげるべきなんじゃないかな。

 ナナちゃんがワインのカップを配ったから、余計に騒ぎが大きくなる。

 ナナちゃんが小さく俺に手を振って指揮所を出て行ったのは、ヴァイスさんの部隊にでも遊びに出掛けたのかな?

 確かにこの騒ぎではねぇ……。


 騒ぎが治まらない様子にあきれ果てたレイニーさんが、大声で「各中隊で選んでください! 小隊の集結は、明日の朝食後に東の楼門前とします」と告げなかったら今夜は眠れない夜になりかねなかったかもしれない。

 まだ俺達の中隊が……、と文句を言いつつ指揮所から帰って行ったけど、これから中隊の詰め所で激論が始まるんだろうな。


「やはり恨みを忘れてはいないということなんでしょうね。それは分かりますが……」

「来るかどうかも分かりませんよ。そもそも泳げる人がどれほどいるのか。船はありませんし、筏を組んで渡ろうとすればレイデル川の流れでかなり下流に流されるはずです」


 レイデル川の東岸に逃れて来ても、川の流れを見て落胆するだけだろう。対岸で俺達が武器を構えているのを見ればさすがに渡ろうとすることはないんじゃないかな。

 エクドラル王国とブリガンディ王国の間で、かつては大使を交換したとのことだから、案外国境の橋に避難民が押し寄せて来る可能性が高そうだ。

 最初は民衆に追われた王侯貴族、間をおいて魔族に追われた民衆となるのだろう。

 王国が無くなるのは構わないけど、それが民衆に影響を及ぼすようではねぇ……。

 しかも救いようのない選民思想に染まった連中だからなぁ。どの王国も受け入れることはないだろう。


「一戦することはないと考えてます。魔族や俺達を攻撃しようとする兵士ではありませんからね。せいぜい川の中ほどに爆裂矢を撃ちこむことで阻止しようと考えています」

「武器を持たぬ相手かもしれません。それぐらいで渡河を諦めてくれたならありがたいのですが……」

「こちらに渡ったなら、完全に措置しますよ。手を縛って川に投げ込むと言ったのは、話の中だけではありません。その場で殺しても神は許してくれるでしょうが、最後に本人の運ぐらいは試させてあげたいと思っています」


 俺の言葉にレイニーさんが溜息を吐く。

 ちょっと残酷すぎるかな? だけどそれだけの事を獣人族にしてきた連中だ。今さら俺達に助けを乞うなど図々しいにも程があると思うんだけどなぁ。


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