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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-269 長城作りの状況を見に行こう


 式を終えたその日の内に兄上達を帰すということは、オルバス家の矜持にも関わるらしい。

 もう一晩厄介になることになってしまった。

 夕食を軽く済ませると、グラムさんは俺と兄上を執務室に誘って、ワインを傾けながら今後の確認を始めた。


「ブリガンディの分割に関わる変更点は、レイデル川上流部にマーベル国が砦を作ること、それとエクドラル王国の東の領地から北に、ブリガンディの残党の開拓を許可することの2つになる」

「あえて残党に土地を与えることで無理な戦を避けるということですね。了解です。とはいえ、彼らが我等の領地に近づいたなら矢を射かけることは了解頂きたい」


「我等もそうするつもりだ。その後は魔族と直接戦うことになる。マーベル国の砦によって魔族は南東に侵略の矛先を変えるに違いないが、そうなると貴族連合が魔族の脅威をもろに受けてしまう。その為に大砲と放炎筒、更にフイフイ砲の技術を提供する。その為に、運用訓練の兵士を送ってほしい。1個小隊は必要かもしれんな」

「時期は1か月後でよろしいですか? 11月の上旬には貿易港に送りたいと思いますが」


「準備しておこう。レオン殿から要望はないのか?」

「そうですねぇ……。強いて言うなら、爆弾はたっぷり用意しておいた方が良いです。魔族2も大隊を相手にした時には200個を半日で使っています。数十では全く足りません」

「あれを200個使ったのか? とんでもない戦だな。レオンの言う『離れて戦う』ということがそれなわけだ。忠告、しっかりと皆に伝えるよ」


 そういえば……。

 兄上達に渡そうと思っていた品をまだ渡していなかったな。

 バッグの魔法の袋から、布包みを取り出して兄上の前に置いた。


「何とか形に出来たものです。兄上の持つ長剣の長さと重さが分かりませんでしたので、ティーナさんが持つ長剣を参考にしました。父上と共に使って頂けたら……」


 兄上が無言で布包みを開く。

 出てきたのは長剣の本体そのものだ。刀身の波紋を見て目を見開いている。


「これは……」

「斬鉄剣……、と言って良いだろう。私の長剣も同じものだ。近衛の持つ長剣を両断したよ。まったく、どうやったらこのような長剣を作れるのか。エクドラル王国の工房が血眼になって再現しようとしているが未だに再現することが出来んでいる」


「父上も喜ぶだろうな。だがこの刀身となれば、それに見合った拵えが欲しくなる」

「全くその通りで困っている。とはいえ、毎年頂く3本が誰に渡るかで王宮内が騒がしくなることも確かだ。それを手にしたなら見栄を張っても拵えに凝りたくなるようだな」


 たかが長剣、されど長剣。という感じなのかな?

 俺も同じように作った長剣なんだけど、鞘は木製だからなぁ。握り手も細い組紐を密に巻き付けただけなんだけどね。


 翌日。兄上達はグラムさんが用意してくれた馬車に乗って貿易港に向かった。

 俺とナナちゃんはティーナさんと共に、エクドラル王国の東の砦へと向かう。

 魔族を阻止するための長城作りが始まっているから、その状況をマーベル共和国に帰る途中で見てくるつもりだ。

 俺達の方も、尾根から尾根の東の見張り台に向けて長城を作っている途中だからね。

 城壁の高さを5ユーデとしたのは俺達と一緒なんだが、それで阻止上手く阻止できると良いんだけどなぁ……。


 ティーナさんと副官のユリアンさんは馬に騎乗しているけど、俺とナナちゃんはいつものようにボニールだ。

 軍馬を提供しようとグラムさんが言ってくれたけど、ボニールも結構乗り心地は良いんだよね。走らせると結構速度も出るんだけど、俺はせいぜい自分が走るぐらいの速度で止めにしている。

 

 朝食後にオルバス館を後にして、途中の町で一晩を過ごす。

 翌日は、街道から北に逸れて荒地を進んだ。

 開拓村で宿泊してさらに北東へとボニールを進めると、夕暮れ近くになって東の砦が見えてきた。


「ここからでは全く状況が分からんな。砦の指揮官から状況報告を受けねばなるまい」

「確か、見張り台から砦までを作っているはずですから、砦近くに長城が姿を現すのは来年遅くになるでしょう。結構大変な工事だと聞いています」


 そんな話をしながら砦の楼門を潜ると、直ぐに士官が俺達を出迎えてくれた。

 馬とボニールを兵士に預けて、士官の案内で砦の指揮所に向かう。

 砦の指揮官は兄上ほどの年代のようだ。若くして中隊長になったのだろう。かなり優秀な人物なのかもしれないな。


 指揮所のテーブルに案内されたところで、互いに騎士の礼を取る。

 初めて会う人物だから、ティーナさんが俺達を紹介してくれた。指揮官の名はワインズというらしい。彼の話では、この砦の指揮官代理をしているらしい。


「指揮官はマイヤー殿になるんです。私は1か月ほど代役をおおせ付かりました。本来の役はマイヤー殿の副官になります」

「そういう事でしたか……。しばらくは2人にさせてあげた方が良いかもしれませんね。マイヤー殿の伴侶は俺の姉上なんです。今後ともよろしくお願いしたします」


 ワインが配られると、ティーナさんの要望で長城作りの状況を説明してくれた。

 地図がテーブルに載せられ、長城の工事予定区間が点線で示されている。赤や緑の実線に塗られたところが工事終了区画になるんだろうか?


「工事は空堀作りに土塁作りその後の石垣作りに付帯設備作りと4段階に分けて進める計画です。赤で示した区間が空堀の完成した区間。緑が土塁工事が終了した区間です。まだ石垣作りは初めておりませんが、積み石はかなり用意できました」

「やはり1個中隊で進めるとなると捗らんということか……」


「現在は砦の守備隊2個中隊を10日ごとに交代させながら工事を進めていますが、収穫時期を終えれば近くの開拓村から作業員を集められます。2個小隊規模になるでしょうから、来春までは工事の進捗が速まるかと……」

「さらに早まるかもしれませんよ。姉上は魔導師です。土魔法を使って空堀の土砂をブロックのように移動させることが出来ますからね。俺達の長城作りもそんな魔法で助けて貰いました」

「本当ですか! 土魔法を使える魔導士はいるのですが、土砂の掘削に結構手こずっているのです」


 魔導士と魔導師の違いはかなり大きいようだ。

 姉上なら土砂を1辺が1ユーデほどのブロックにして2、3個同時に掘削と移動を行うんだからなぁ。

 姉上がいなくなってしまったけど、ナナちゃんがいろんな種類の魔法を教えて貰ったらしいから、空堀作りに協力して貰えそうだ。


「とはいえ、マイヤー夫人となっているからなぁ。こちらから依頼せずに、向こうからの協力の申し出を待つべきだろう」

「その辺りは重々承知しております。とはいえ、魔導師ですか……。エクドラルにも10人はいないと聞きました」


「ところで魔族への備えは?」

「1個大隊が1か月籠城できる資材を用意しております。マーベル国の見張り台と同盟軍の索敵情報が毎日入ってきますから、魔族発見から3日もせずに増援が到着します」


 まだ大砲と放炎筒は届いていないらしいけど、爆弾だけでも300個を備蓄しているらしい。砦には2台のフイフイ砲が設置してあるし、5台のカタパルトは移動式とのことだ。

 放炎筒が数十も届けば、砦の守りはかなり強化されるに違いない。

 

「カタパルトに荷車の車輪を取り付けた改良型を製作しているとのことです。新たな部隊の創設になるのでしょうが、長城のどこからでも爆弾を投射できるとのことでした」

「マーベル国には敵わぬとしても、エクドラルの工房の技術も優れているということか。そうなるとますます爆弾を作らねばならぬな」

「それだけ安心して戦えますし、兵士の士気は上がるでしょう。私としては嬉しい限りです」


 魔族を早期に発見して、長城で阻止する。阻止した魔族を蹂躙する方法がだんだんと出来上がりつつあるようだ。

 とはいえ長城が完成するまでには、かなりの年月がかかるに違いない。

 それまでは同盟軍と機動部隊で何とかしないといけないんだよなぁ……。


 砦の客室で一泊した翌日。今度は見張り台に向けてボニールを進める。

 距離は50ケム程だからこのペースで進めば夕暮れ前には到着できるだろう。

 昼近くになって小さな焚火を作って砦で頂いたサンドイッチを食べていると、北東から1個小隊ほどの騎馬隊が近付いて来るのが見えた。

 立ち上がって望遠鏡を使うと、ボニールに乗っているようだな。


「どうやら同盟軍のようですね。見張り台付近で野営していたのかもしれません」

「索敵もしているようだからな。我等の焚火の煙を見てやってきたに違いない」


 小さな焚火ですら見逃さないということかな?

 かなりやる気のある連中が揃っているのだろう。


 やがて、ボニールに乗った兵士達の顔まで見えてくる。

 獣人族だからマーベル共和国からの派遣部隊に違いない。


「やはりレオン達だったにゃ! この辺りは今のところ何もないけど、あまり堂々と焚火をするのもにゃぁ……」


 ヴァイスさんが、ボニールを降りてナナちゃんの頭を撫でながら、俺に苦言を言ってくる。

 だけどこれだけ見通しが良いんだからねぇ。それほど心配することはないと思うんだけどなぁ。


「同盟軍は近くで野営しているのか?」

「近くというより、見張り台で厄介になってるにゃ。2個中隊が駐屯できる屯所を東に作ったから同盟軍の駐屯地になるにゃ」


 索敵に向かうにも都合が良いし、光通信機の中継地点でもあるからなぁ。情報を集めるにも都合が良いということなんだろう。


 新たに焚火が作られ、同盟軍の連中もお茶を楽しむことにしたらしい。

 もう1杯のお茶をヴァイスさんの話を聞きながら飲む。

 1時間ほどの休憩になってしまったが、ヴァイスさんの話では、夕暮れ前には見張り台につくとのことだ。

 お茶を飲み終えると、焚火を消してボニールに騎乗する。

 ヴァイスさん達が一緒だから、野犬に襲われるなんてことは無いだろう。

 2時間も進んでいくと、夕焼けに照らされた見張り台の城壁が見えてきた。最初から比べるとだいぶ立派になったけど、まだまだ改良しなければいけないんだよなぁ。


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