表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
267/384

E-266 オリガン領の新たな産業は


「それで、貴族連合は我等の提案を了承して頂けるのか?」

「ブリガンディが崩壊した後については、エクドラル王国の提案が最適だと父上も頷いておりました。他家についてはオリガン家に全権を委ねるとのことですから問題はありませんが、逃亡先をレイデル川東岸とする話については父上も絶賛しておりました」


 さすがにブリガンディ再興は不可能だろう。魔族に脅えながら自分達のしでかしたことを反省することになるはずだ。

 たとえ魔族に滅ぼされることがあろうとも、誰も憐れむこともないだろう。

 将来的には貴族連合に吸収されるかもしれないが、それは遥か先のことだ。


「まあ、マーベル国の砦が上流部にあるし、我等の砦も近くにある。その間であれば魔族の襲撃を受ける可能性は低いと言えるだろうが、無いとは言えん」

「それで十分でしょう。彼らのしでかしたことを考えれば、獣人族の連中なら根絶やしを叫ぶでしょうから」


 距離を取れば、恨みも少なくなるということかな?

 どれほどの人口になるか分からないが、開拓をすれば何とか自給自足が可能かもしれないな。

 とはいえ、簡単ではないぞ。俺達が自給自足できるまでにはかなり年月が必要だった。北の荒れ地に比べれば肥沃な土地だろうから、3年ほど頑張ればなんとかなるかもしれないが、それまでは飢えに苦しむことになるだろう。


「ブリガンディ王国の住民に対しては全ての援助を断り、約定に定めた領土境界より100ユーデ以内に入った場合は、たとえ子供であっても矢を射かけるつもりです。これが獣人族にしでかした事に対する我等の決意でもあります」

「我等も踏襲しよう。だが、かつては大使を交換したこともある。冬越しの食料として雑穀を荷馬車3台分を提供することには目を瞑って頂きたい」


 荷馬車3台分であれば、60袋ほどになるはずだ。避難民の数にもよるが、それだけでは冬越しは出来ないな。

 寒さと飢えで最初の冬にどれだけの死者が出るだろう……。


「やはり領土が広がると、苦労が絶えん。幸いにも今年は魔族がやって来ん。収穫時期を控えているから油断は出来んが」

「我等も壁であったブリガンディがなくなれば、魔族との戦が待っています。クロスボウを使える民兵の訓練は早めないといけないでしょうね」


 貴族連合の戦力は、民兵を含めても2個大隊には達しないだろう。

 ブリガンディ王国の領地の東と西を隣接する王国が版図に加えても、街道沿い長い土地を貴族連合が守らなくてはならない。

 大砲と放炎筒の技術提供で少しはましになるんだろうが、やはり厳しい戦になることは間違いないだろうな。


「出来ればレオンにも助けてもらいたいところだが、新たな国作りをしている最中だからなぁ。父上もレオンにはレオンの大事な仕事があると言っていたぞ」

「申し訳ありません。なるべくレイデル川の上流部に魔族の注意を引き付けることで兄上達への協力としたいところです」


 うんうんと笑みを浮かべた兄上が頷いている。

 魔族としても微妙な位置に砦があるとなれば、南進に躊躇いも出るだろう。

 挟撃されたなら、大軍であっても殲滅されかねない位は判断できるはずだ。


「ブリガンディ王国が崩壊しても何とかなりそうですね。とはいえ、油断は禁物です」

「場合によっては、レンジャー達にも協力して貰える。腕の良いレンジャーに若手を付けることで、1個中隊規模の部隊になる。さすがに軍に組み入れるのは考えものだが、遊撃部隊や火消部隊として期待できるぞ」


 貴族連合のレンジャーギルドは強力的という事らしい。

 エクドラル王国も、索敵部隊として活躍しているからね。トレムさん達が尾根の北で見張っていてくれるから、俺達も安心できるんだよなぁ。


「彼らは独断専行なところがあるが、腕は確かに良い。狩をしながら索敵をこなしているようなものだ」

「おかげで肉が食べられます。ある程度は目を瞑ることですね」


 3人が思わず苦笑いをしたのも、組織に組み入れるということが無理だと考えたからに違いない。だけど結構協力してくれるんだよね。

 ワインぐらいしか渡していないんだけど、それで十分とは思えないんだよなぁ。帰ったらレイニーさん達と相談してみるか。

                ・

                ・

                ・

 夕暮れ前に、姉上達が帰ってきた。

 どうやらドレスを何着か作ったらしい。その代金は姉上が魔道具を作ってこしらえたというんだから、姉上がお金に困ることはないんじゃないかな。


「さすがに、ある程度を用意しておかないと、夫の矜持にも関わりますからね」

「田舎暮らしで無いと、苦労が多そうですね」


 俺の言葉に笑みを浮かべているけど、それは分かっているということなんだろう。姉上だけが苦労するのでは困るけど、夫婦揃って苦労するならそれも幸せの一部となるってことかな?

 兄上が笑みを浮かべて姉上を眺めているけど、兄上の方は大丈夫なんだろうか?

 そろそろ子供の話が舞い込んできそうだけどね。


「私のところは、田舎も良いところだ。普段は汚れても良いような服装でいるよ。魔法剣の使い手だから、ドレスは苦手なんだろうな」

「ちゃんとお土産に用意して置いたわ。将来はオリガン家を支えるんですからね」


 姉上らしい小言に、兄上が苦笑いを浮かべながら頭を掻いている。

 俺も小さい頃は散々服装をきちんとしなさいと言われていたからなぁ。さすがにナナちゃんの服装には何も言わないから大丈夫なんだろう。


「侍女はマイヤー家の本家より3人出してくれるそうですよ。貴族館としては小さなものですから、3人で十分でしょう。明日は見に行きましょうか? カギをマイヤー殿から預かっておりますから、これはお渡ししておいた方が良いでしょう」


 デオーラさんが木箱に入ったカギを姉上に手渡している。

 マイヤーさんでは気付かない物があるかもしれないと、何度か館を訪れたのだろう。舞い上がっているマイヤーさんを見かねて、グラムさんが無理やりカギを預かったの

かもしれないな。

 

「既に家人がいるのなら、そのまま暮らせるはずです。ライザも無理に強請るのはよし

なさいね」


 その辺りは2人で頑張って貰いたいところだ。

 それにしても姉上が隣国の貴族の妻になるとはなぁ。オリガン家の血筋が1つ増えるということになるんだろうけど、オリガン家を名乗ることは出来ないんだよね。

 ただ唯一の分家である俺も他国で暮らしているからね。


 夕食を頂き、リビングで食後のワインを楽しむ。

 ワイングラスは、マーベル共和国で作ったカットグラスだ。やはりこんな場所には良く合うと思う。

 作るだけ買い取るというエディンさんとの約束はそのまま推移しているけど、他の商会も傘下の工房を使って模造しているようだ。

 まだ綺麗なカットグラスが出来ないようだけど、それなりに需要はあるとエディンさんが教えてくれた。

 ある意味廉価版なんだろうけど、やはり潜在的な需要はかなり高そうだな。


「これで、全ての準備が整いました。明後日は光の神殿で挙式となります。披露宴は昼食会としましたわ」

「ライザは一般からすれば、晩婚に当たります。マイヤー様の矜持もあるのでしょうが……」

「全てお后様が指揮したようです。それだけレオン殿からの贈り物が御気に召したということなのでしょう。マイヤー殿がそこまでされては……、と国王陛下に具申したらしいですが国王陛下は笑い声を上げて首を振っていたそうです」


 陶器やシャンデリア、それにクリスタルグラスを進呈しただけなんだけどなぁ。国王陛下に気に入って貰えれば注文がどんどん来ると思ってのことなんだけど、しっかりとその返礼をされてしまった。

 中々王族との付き合いは難しいな。

 次に送る時には、デオーラさんと相談した方が良いのかもしれない。


「この部屋のシャンデリアも見事だが、レオン殿が贈ったシャンデリアは鏡の間に取り付けたらしい。鏡の間は舞踏会にも使われるのだが、ご婦人方が部屋に入ると、上を見てポカンとしばらく口を開けて見惚れているそうだ」

「かなり凝って作ってみたんですが、気に入ってくれたなら幸いです。エディンさんから、もっと作るように依頼があったのは、貴族方の要望があったということですね」


「この部屋のシャンデリアでさえ、何とかして欲しいとご婦人方に請われているのですよ。王宮のシャンデリアはさすがに恐れ多いということになるのでしょうが、このシャンデリアと政庁のシャンデリアほどの大きさなら、貴族達は金貨を積み上げることでしょう」


 原料を考えると、銀貨数枚の元手なんだけどなぁ。人件費や工具の損耗を足しても金貨1枚には達しない。

 あまり高くすると、シャンデリアを買えるのが富裕層だけになってしまう。

 シャンデリアも廉価版を作った方が良いのかもしれないな。


「さすがに金貨を積み上げる必要はないと思いますよ。マーベル共和国からの売値はこの部屋のシャンデリアであるなら金貨2枚も戴ければ十分です。これも、王国で買い入れて、商会に卸すということが出来るでしょう。上手く税を上乗せしてください」

「ハハハ……。レオン殿には足を向けられんな。たぶん2倍ほどの値で商会に引き渡せるだろう。シャンデリアを見て金貨を積むと皆が言っているのだ。それが数枚の金貨で済むなら注文は殺到するに違いない」


「レオンも苦労しているようだな。私の領内でも開墾や漁を行っているのだが、農具を作る小さな工房があるだけだからなぁ」

「それなら、2つほどやれそうなことがあります。オリガン領の南方に小島がありますよね。あの近くでは真珠が採れると聞いたことがあるんですが……」


 真珠と聞いて、デオーラさんの眼が輝いているんだよなぁ。

 大玉の真珠はめったに採れないし、それが採れた漁師は仲間を呼んで大宴会をすると聞いたことがある。浜値でも金貨2枚にはなるらしい。


「形が不揃いだが、年に数個は採れるそうだ。だが、真珠貝を100個採っても真珠があるのは1個あるか無いかともいわれているよ。領を豊かにするには難しいところだな」

「そうでもないですよ。無理やりに真珠を作らせれば良いんです……」


メモ帖を取り出して、その方法を兄上に分かるように描いていく。

 席を立ったティーナさんが後ろから覗き込んでいるけど、ティーナさんに理解できるのだろうか?


「なるほど……、真珠貝に丸い小石を入れるのか。その石の周りに真珠と同じ綺麗な被膜が作られるというのだな?」

「貝の蓋を開けて、これくらいの粒を2個程入れて見てください。どこに入れれば良いのかは分かりませんが、その後に海中で何年か育てれば成果が分かるはずです」

「直ぐに出来るわけではないか……。だが、これなら粒が揃うはずだ。上手く行けば真珠の首飾りが出来そうだな」


「オリガン殿。援助は私共が行います。その代り……」


 デオーラさんがちょっと大きな声を上げる。グラムさんが苦笑いをしているのは仕方がないところだ。


「貴族連合で消費することはないと思います。これも試行錯誤の産業になるのでしょう。援助はありがたく頂きます。その対価は、上手く出来た場合の半分でよろしいでしょうか?」

「それでは私共の取り分が多すぎますわ」

「外貨を稼ぐ手段となれば十分でしょう。詳しい契約書については明日にでも……。そういえば、もう1つあると言っていたね?」


 メモにもう1つの産業について描き始めた。

 この世界のボタンは、青銅か木製だ。貴族連合は海に沿って領地を持っているから、大きな砂浜がいくつかあるんだよね。

 砂浜からは大きな2枚貝が採れる。そのまま焼いても美味しんだけど、その貝を使ってボタンを作るのだ。


「木製のように簡単に割れませんし、金属製であるなら色が生地についてしまいます。貝で作るなら丈夫で色落ちしないボタンが作れますよ」

「なるほど……。これは広まりそうだな」


 貝で作ったボタンを想像しているのか、ティーナさんが上着のボタンを見ている。軍服だから金属製のボタンだが、さすがに軍服には貝のボタンは合わないと思うな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「貴族連合のレンジャーギルドは強力的という事らしい。」 →「・・・協力的という・・・」では
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ