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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-261 工房がたくさんできそうだ


「それにしても、レオン殿の知見には驚く限りです。放炎筒はグラム殿も絶賛していました」


 指揮所に戻りワインを飲みながら雑談が始まる。王子様達の対応を俺に任せていたレイニーさんも、ナナちゃんと一緒にいつもの席に座っている。

 俺1人ではやはり荷が重いからねぇ……。


「簡単ですが、これが放炎筒の図面になります。最初から抱えて炎を放つのは危険ですから、簡単な架台に据え付けて何本か試射してください。それと、見て理解できたと思いますが、放炎筒の後方は危険です」

「城壁から下に向けて放つなら問題はあるまい。とはいえ、確かに後方に兵を置くことは出来んな。置くとしたなら盾を並べて簡単な防壁を作ることになるだろう」


 グラムさんの認識で問題は無いだろう。

 図面を渡したから帰る際に放炎筒を数本渡せば、この件は終わりになりそうだ。


「これでグラム殿の心配も少しは軽くなりますね」

「そうもいくまい。砦間を結ぶ長城作りが終わるまでは安心できぬ。少なくとも早々に空堀と柵は作りたいところだ」

「せっかく作った機動部隊の役目が無くなりますね」

「いやいや、砦に駐屯する部隊が中隊規模だから、迅速な増援部隊として重宝しよう。場合によっては増員もありえる話だ」


 グラムさんとマイヤーさんの話が続いている。

 王子様は直接戦に参加しないだろうから、そんな2人に笑みを浮かべているだけなんだよなぁ。

 ティーナさんがジッと考え込んでいるのは、有翼石火矢の飛距離にまだ驚いているのかもしれないな。着弾点が炸裂炎でしか確認できなかったけど、かなり飛んだからね。とはいえ、かなり風で流されている。

 有翼石火矢を見せることで、更に長射程を誇る新型大砲を上手く隠せそうだな。


「とりあえず、砦間を繋ぐ城壁の建設は直に始めた方が良さそうだね。当座は空堀の土砂を積み重ねた土塁と柵になりそうだが、それだけでも魔族の動きを制限できるだろう。兵士の体力作りも兼ねられそうだ」

「それがよろしいかと……。石積みは東の砦からマーベル国の見張り台の線から始めましょう。マイヤー殿の2個小隊の内1個小隊と王国軍の2個中隊を使います。さらに2個中隊を使って東の砦から中央砦に向かって土塁作りを行いましょう。魔族対応に1個大隊と機動部隊を残しておけば十分かと」


「東の大部分をマーベル国に任せることになってしまいますが……」

「その点は御心配なく。でも1つ、御理解頂きたい。敵の動きによっては、マイヤー殿の領地にマーベル共和国の即応部隊が入ってしまう可能性があります」


 これだけは伝えておかないとな。

 マイヤーさんの私兵は2個小隊だ。民兵を使ってもレイデル川の防衛には苦労するだろう。俺達がマイヤー殿の領地に即応部隊を進めることで何とかしたいところだ。


「もちろんです。それは私からお願いしたいところ。エクドラル王国とマーベル国の友好条約沿っても何ら問題はありません」

「国同士で同盟軍を作っているぐらいだからな。それならマイヤー殿も少しは安心できるだろう」


 姉上の嫁ぎ先だからなぁ。これぐらいの私情は挟んでも問題は無いだろう。それに何と言ってもレイデル川の東はきな臭いからね。


 翌日。5本の放炎筒土産に王子様達一行は帰って行ったけど、王女様達の相手は母上と姉上がしてくれたらしい。

 笑みを浮かべているところを見ると、姉上達の間でも何かしらの協力関係が築かれたに違いない。

 どんな話だったのか母上達の長屋に確認に出掛けたのだが、俺とマーベル共和国には関わらないことだと言われてしまった。

 姉上の魔道具作りに関係あるということかな?

 それはマイヤー家の貴重な収入源になりそうだ。ヴァイスさん達も爆裂矢に火を点ける腕輪を貰って嬉しそうだったけど、あれも魔道具として売買されたならそれなりの値段になるに違いない。


 何時ものように指揮所のテーブルに広げた地図を眺めていると、レイニーさんがお茶を淹れてくれた。

 地図から顔を上げてお茶の礼を言うと、パイプに火を点ける。


「長城が出来れば、ここで安心して暮らせるのでしょうか?」

「今よりは安心できますが、確実ではないですよ。何とか魔族の侵入を尾根の石垣と長城で阻止しようと考えていますが、あくまで一時的に動きを止められるだけです。その機会を逃さずに石火矢や爆弾を使って殲滅することになるんですが、その為には兵士の数が問題となります。魔族との距離が遠い内から、相手を倒せる兵器を作ってみましたが、果たして数の前にどれだけ効果があるのか……」


 俺の言葉にちょっと驚いているようだけど、過去に押し寄せてきた魔族の数なら、何とかなるんだよなぁ。

 相反する魔族の王国が統一された時が問題だ。どれだけの数で攻め寄せて来るのか想像すらできないし、まだ見ぬ魔族が向かってこないとも限らない。

 空を飛ぶ魔物や、矢を跳ね返すような固い皮膚を持った魔族が絶対にいるだろう。

 イエティやオーガは何とか出来たけど、それよりも大きな体をした魔族だっているに違いない。


「頑張れば、それだけ安全な国が作れます。国というには小さいですが、貴族領に比べれば2つ分にはなるでしょう。エクドラル王国から材料を仕入れて、この国で加工することで付加価値を高めれば、小さいながらも豊かな国に出来ますよ」

「陶器にガラス加工、ステンドグラスもありましたね。まだまだレオンは考えているんですか?」


「砂鉄から作った武器もありますし、織物や編み物だってあるじゃないですか。エルドさん達が作る木工製品やヴァイスさん達の皮細工も、エディンさんや行商人が引き取ってくれていますよ」


 俺の投げナイフケースやポーチもヴァイスさん謹製だからねぇ。

 軽いし、緩むことも無いから気に入っているんだよね。


「農業をしないでも暮らして行けるなら良いんですけど……。仕事が無く、仕方なく兵士になるようでは困ります」

「職業は自由に選べるようにしたいですね。それだけたくさんの職種を作らないといけません。加工してエクドラル王国に売りだすことも大切ですけど、自分達が使う品を自分達で作ることも大切ですよ」


 器用な連中がたくさんいるから、テーブルや椅子なんかも作ってしまうんだよなぁ。そんな連中を師匠にして若者に家具を作らせても良いかもしれない。

 木工職人達と被るところがあるなら、どちらかが手を引けば良い話だ。

 それに、大工も必要だろう。毎年兵士達が長屋を作ってはいるけど、自分達の暮らしやすい家を作りたいという潜在的な需要はあるに違いない。

 今後、どのような職種をマーベル共和国に作るかについては、いつもの連中と考えてみよう。

 案外、「俺が作ってやろう!」と名乗りを上げてくれるかもしれない。


「そういう事か! 俺のところに家具作りが美味い連中がいるぞ。このテーブルと俺達が座っているベンチも奴らの作だからなぁ」


 その夜の集まってきた連中とワインを飲みながら新たな工房について話をしてみると、直ぐにガイネルさんが名乗りを上げた。


「トラ族では大きい奴だけじゃないのか?」

「そうでもない。エクドラ殿の食堂に置いてある調味料ケースはかなり凝っているぞ」


 ガラハウさんの言葉にガイネルさんが反論しているけど、エクドラさんが頷いているところを見るとかなり凝った品ということかな?


「兵士としての務めはあるが、奴がいなければできないこともあるまい。とりあえず10日ほど面倒を見れば、要領がある程度分かると思うんだが?」

「とはいえ、最後はきちんと見るんじゃぞ。弟子の作品を仕上げるのは師匠の仕事じゃからなぁ」


 それをきっかけに、いくつかの工房立ち上げが決まったけど、絨毯作りの工房という案には俺の方が驚いた。

 案を出したのはマクランさんだったけど、織物に比べれば楽だろうと言っていた。模様はさすがにまだ出来ないだろうけど、絨毯があるなら暖炉の前に寝転ぶことも出来そうだ。ナナちゃんが離れないんじゃないかな。


「そうなると、工房街を作ることも考えんといかんだろう。レオンが先に陶器工房とガラス工房を作っておる。ステンドグラス工房も近くじゃったな」

「専用の食堂もありますよ。新たに工房を作るなら少しは広げないといけませんね」


「なぁに、時間をずらせば済むことじゃ。それより工房の数じゃが……」

「とりあえず5棟作りましょう。大きさはどうします?」


 いつになく皆が乗り気なんだよなぁ……。

 レイニーさんが2杯目のワインを注いであげたから、酒の力も入っているのかも知れない。

 さすがに陶器工房の大きさは必要ないと言うことで、長屋より一回り大きな工房ということになった。大きな仕事部屋と倉庫代わりの部屋が1つというところだな。

 何とか冬前には完成させるとエルドさんが行ってくれたから、工房の道具類は早めに手に入れておこう。

 ギルドの定期便を使ってエディンさんに注文すれば、秋分には持って来てくれるだろう。

 特殊な工具は、ガラハウさんが作ってくれるに違いない。


 翌日。いつものように指揮所のテーブルに地図を広げて眺めていると、レイニーさんがお茶を淹れてくれた。

 椅子に腰を下ろしたレイニーさんが、俺に顔を向ける。


「昨夜は面白かったですね。皆が工房を作りたかったようです。ヴァイス達はさっそく材料を手に入れるために出掛けてしまいましたよ」

「皮細工は内職というよりも、工房の方が良いと思ったんでしょうね。数人で始めれば同じ品をいくつも出来るでしょうし、マーベル共和国製であることを示す烙印を押すというのも気に入ったんでしょう」


 その烙印のデザインをヴァイスさんが朝食時にナナちゃんに頼んでいたぐらいだからなぁ。美的センスは誰よりもあるナナちゃんだけど、果たしてどんな烙印のデザインを作るんだろう?

 そのデザインを探すためなんだろう。指揮所に戻ると、絵を描く道具の入ったバッグを肩に掛けて出掛けてしまった。

 だけど、マーベル共和国製であることを示す何らかの印を製品に付けるのは案外良い案じゃないかな?

 出来ればすべての製品に同じ印を付けて出荷したいところだ。


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