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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
256/384

E-255 この季節に避難民が来るとは


「全く虫が良いにもほどがある。どう考えてもワシ等に助けを求める等出来んはずじゃが?」

「その上、レオン殿を殺害してこの地を版図にしよう等とは……。ブリガンディの考えではこの地を納めているのはレオン殿、ということになるんでしょうね」

 

 夕食を終えて集まってきた連中に顛末を説明したんだが、皆が呆れかえってるんだよなぁ。どう考えても詰んでいるんだから、早めに滅んで欲しいところなんだけどね。


「とはいえ、マーベル共和国の宗教をどのようにするかについては、考えなければなりませんな。レオン殿のようにあまりに信じる神が多いのも考えてしまいますが、特定の神を信じろとは国民に命じることは出来ないでしょう。信仰の自由は私も賛成です」

「冠婚葬祭はフレーン様に任せていますからね。風の神官ではありますが、他の神を祭った祠の手入れもしっかりと行ってくれています。風の高位神官からはお叱りを受けるかもしれませんが、この国の神官はフレーン様だけです」


 エクドラル王国の神殿からも、神官を送りたいとの話がグラムさんを通してきているのだが、獣人族の暮らす土地に人間を招くわけにはいかないと断っている。

 近頃はエルフ族やハーフエルフ族の神官を打診してくるから困ったものだ。


「マーベル共和国内での信仰の自由を保障する。ただし……、と続くんですね。布教活動の制限と、神に上下は無いと明らかにすればブリガンディのような事態にはならないと思いますが?」

「教義の解釈と言えば聞こえは良いが、ブリガンディの場合は異端解釈もいいところだ。それを無くすために、もっと明確な言葉を使う必要があるんじゃないか?」

「教義を実践するに辺り、第三者を傷つける恐れのある場合は異端としてマーベル共和国より追放するということではどうでしょうか」


 相手を無視した布教を禁止し、人を傷つける恐れのある経典の解釈を禁止するってことで良いんじゃないかな?

 色々と意見が出たけど、最終的にはレイニーさんとエクドラさん、それにフレーンさんの3者で調整して貰うことにした。

 ブリガンディの悲劇を未然に防ぐ方法を探ることになるけど、人の心は複雑だからなぁ。あまり禁止事項が多いと住民の信仰心が無くなりそうだ。


「レオン殿は、ブリガンディの領土が東に流れる恐れがあると言いましたね。となると、レイデン側の東が東の王国となるということですか?」

「ブリガンディ王国の東はユバリオン王国です。かなり好戦的な王国らしいですが、義には篤いと聞いたことがあります。案外エクドラル王国に近いかもしれませんね。ですが、王国自体はブリガンディ王国よりも小さいとのことですから、ブリガンディに兵を進めることで戦力を失えば、せっかくの領地を手放すことにもなりかねません。貴族連合とどのような協定を結ぶかで、東の脅威は変化するでしょう」

 

 戦を始めるのは簡単なんだが、その後の処理いかんでは王国の滅亡に繋がりかねないからなぁ……。

 中々ブリガンディ王国に攻め入ろうとしないのは、それを良く知っているからに違いない。

 待てよ……。ブリガンディを滅ぼした後に使えそうな貴族達を使って、名前だけのブリガンディ王国を作る可能性もありそうだ。

 ブリガンディの王宮に巣食う貴族が2つに割れたら、案外そうなるかもしれないぞ。

 しばらくは、エディンさん達からの情報を楽しみに待つことにしよう。

                ・

                ・

                ・

 そろそろ雪が降るんじゃないかと指揮所の外でパイプを咥えていると、伝令の少年が息せき切って走ってくるのが見えた。

 なんだろう? この季節に魔族が動くとも思えないんだが……。

 とりあえず指揮所に入って、少年を待つことにしよう。

 指揮所に入ると、暖炉の傍で編み物をしていたナナちゃん達にお茶を頼んで、レイニーさんには伝令がもう直ぐやってくると伝えた。


「何でしょう? 魔族とも思えないんですが……」


 考えることは同じだな。苦笑いを浮かべながら首を振っていると、指揮所の扉が開き少年が飛び込んできた。


「南から馬車列です。十数台の馬車と騎兵が2個分隊付いてきてます」

「了解だ。旗は確認できたのかい?」

「旗はエディン殿の旗です」


 エクドラさんが何か頼んでいたのかもしれないな。雪が降る前に気を利かせて届けてくれたのかもしれない。

 ナナちゃんがお茶のカップを渡すと、ペコペコと頭を下げながら受け取っている。寒いし、走ってきたから喉も乾いているんだろう。


「エディンさんですか……。冬越しの食料どころか来年の秋まで十分な食料在庫があるとエクドラさんが言ってましたけど」

「となると、ガラハウさんや工房の連中かな? 高額商品になるからエディンさんとしてもたくさん作って欲しいのでしょう」


 その内にやってくるだろうから、ここで待っていよう。

 ブリガンディの様子も聞きたいところだからなぁ。


 伝令の少年が指揮所から出ようとした時だ。

 指揮所の外から伝令の少年が飛び込んできた。危うくぶつかるところだったけど、運よく回避は出来たみたいだ。


「報告します。トレム殿が避難民140人を連れてきました。避難民はリットン殿がエクドラ殿の元に案内しています。トレム殿が状況説明をしたいとの事です。荷物と避難民を引き渡したところで、エクドラル王国軍の騎馬隊小隊長と共に指揮所に出頭するとのことです」

「了解だ。レイニーさん。避難民の数が多いですから場合によっては会議室の転用も許可してくれませんか?」

「もちろんです。エクドラさんに伝えて下さいね」


 うんうんと頷いた少年が、胸を腕で叩くと直ぐに指揮所を去って行った。

 テント暮らしはさせられないからなぁ……。それにしても140人は近頃ない数だ。

 サドリナス領内はエクドラル王国の統治で獣人族を蔑視するようなことが無くなったから、避難民は全てブリガンディ王国からということになるはずだ。

 政変でも起きたんだろうか……。


 エディンさんとレンジャーが2人、レンジャーの1人はトレムさんだ。

 季節の挨拶を済ませて席に着くと、ナナちゃんがワインのカップを運んできてくれた。

 美味しそうに一口ワインを飲むと、エディンさんの話が始まる……。


「すると、ブリガンディの王宮内の貴族がはっきりと2つに分かれてしまったと!」

「ブリガンディの王都に煙が昇らぬ日がないとの事でした。王都の住民が続々と避難を始めましたが、東も西も関所を閉じていますし、貴族連合への入国は獣人族だけに限られていますからねぇ……。街道沿いの町や村に避難するしかなさそうです」


 崩壊が始まったか……。内乱で国力が低下したなら次の魔族の侵入は阻止できないだろう。街道沿いの町や村さえ安心できないんじゃないか?


「今回の避難者はブリガンディの東部の村の住人達と孤児達になる。世話を掛けると、ブリガンディのレンジャーが頭を下げてくれたよ。どうやら貴族連合の連中は、東の王国がブリガンディの内乱に介入すると読んでいるようだな」

「東の王国としても大きな決断がいるでしょうね。さすがに無血占領は出来ないでしょう。争えば戦力が低下します。残った戦力でユバリオン本国とブリガンディの新たな領地を守ることが出来るでしょうか?」


「出来んだろうな……。となると……、まさか貴族連合との同盟か?」

「その辺りが落としどころでしょうね。ブリガンディは貴族連合相手に正面攻撃をしていません。せいぜい小競り合いで止まっています。それだけ戦力があるということなんでしょう」


 事前にどこまで調整できるかが問題だな。ユバリオンに近い村からの避難者ということは、場合によっては小競り合いでは済まないと考えているのかもしれない。マーベル共和国への避難は一時的なものになるかどうかはユバリオン次第ということかな。


「避難民の移送に合わせて、エクドラ殿に頼まれた品も運んでまいりました。食料ではなく、ガラスや銅の地金、それに肥料と火薬になります」

「ありがとうございます。今夜にでも宿にエディンさんを訪ねるよう、工房に連絡しておきます」

「それが何よりの楽しみでして……」


 倉庫の在庫を無くせそうだな。冬の陶器作りの励みになるんじゃないかな。

 話を終えてエディンさんが指揮所を出る際、トレムさんがいつものようにワインとタバコの包みを置いて行ってくれた。

 タバコはそのまま受け取って、今夜の集まりでこのワインを楽しもう。いつもより集まる連中が増えるんじゃないかな。


「終わりの始まり……、ですか?」

「そうなりますね。とはいえブリガンディ領がどのような形でユバリオン王国に吸収されるかが問題です。推測はしているんですがエクドラル王国と比べると結構色々と問題があるんですよねぇ」


 何と言っても、父上達貴族連合の存在だ。

 派閥闘争に明け暮れる貴族達ではなく部門貴族の集まりらしいからなぁ。私兵を基にして民兵を組織化するぐらいは容易だろう。

 数家の貴族の合計戦力は2個大隊に達しているんじゃないか?

 ブリガンディとしても、国力の劣った王国軍では迂闊に手を出せる状況ではなかったのだろう。

 同じことがユバリオン王国にも言えるだろう。ブリガンディの地に派遣できる王国軍は良いところ3個大隊だ。

 内乱状態のブリガンディ王国ならともかく、直ぐ隣に侮れない戦力があるんだからねぇ。下手に両軍がぶつかって互いの戦力を消耗したところを狙って貴族連合が動くというのは案外あり得ると思っているんじゃないかな。


 テーブルの上の広げてある地図を指差しながら、レイニーさんにそんな話をすると、頷きながら聞いているようだ。

 こんな戦略的な考えはレイニーさんが不得意とするところだ。今のところは俺が考えていれば全体を見逃すことないだろう。


「場合によっては貴族連合とブリガンディを分割することになりそうですね」

「その分割割合と、分割した後の魔族対策が問題だと思いますよ。ユバリオンにしても貴族連合にしてもあまり多くを望むと、それによって滅びかねません」


 どうなるのかは、年を空けてからになるんだろうな。

 兄上からも便りが無いから、しばらくは状況を眺めるだけになりそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「了解だ。レイニーさん。避難民の数が多いですから場合によっては会議室の転用も許可してくれませんか?」 まだ殺害されていなかった獣人がオリガン家領地外にいたのか?
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