表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
252/384

E-251 直ぐに兵士は集まらない


 ナナちゃんから母上が呼んでいるとの知らせを受けて、母上達の暮らす長屋へと向かった。

 ナナちゃんは俺に知らせてくれたところで、妹分のミクルちゃんと共に出掛けて行ったけど、けっこうあちこちと動いてるんだよね。南に向かったからヤギの世話をするのかな。


 長屋に到着したところで扉を叩くと、直ぐにマリアンが扉を開けてくれた。

 軽く挨拶したところで、テーブルについている母上と姉上に頭を下げる。


「忙しい中、呼びだてしてしまって申し訳ありませんね。実は……」


 母上の話は、案の定姉上の結婚の話だった。

 マイヤーさんが俺の義兄になるんだが、中々良い人だと思うんだよなぁ。騎馬隊と中隊長だから長剣技能は俺より上だ。戦の基本は一撃離脱だと言っていたから敵に囲まれて討ち死にするようなことは無いだろう。


「……なるほど、父上の名代で兄上がやってくるのですね。姉上達は旧王都に住むとなれば、領地は代官に任せるのでしょうか?」

「この国の直ぐ南と聞いて驚きました。旧王都の館は宮殿での仕事がある時に利用するようです。領地に館を建てて私兵を募り、東に備えると聞きました」


 サドリナス領の分割で、現在の派遣軍を半減するらしい。

 2個大隊を残して、旧王都で睨みを効かせるようだ。新たにサドリナス領に入った貴族は本国の貴族領よりも大幅な私兵を認めるらしい。小隊規模を上回る私兵というのも考えてしまうけど、多くは民兵になるのだろう。魔族相手となれば多くても問題は無いと思うけど、隣接する貴族同士で連携できれば良いんだけどねぇ。


「この国の領地に南限は、かつて俺達がサドリナス領から抜け出した渡河地点です。そこまでのレイデル川の監視は、万が一の戦力展開を含めて対応します。たぶん、更に南の領地を持つ王子様にしてもブリガンディ王国との関所となる石橋の防衛もあるでしょうから、マイヤー殿を含めてある程度の同盟関係を強化したいと考えているのですが……」


 俺の言葉を聞いて姉上が大きく目を見開いているところを見ると、その話を俺にしたかったのかな?

 マイヤーさんの財力でどの程度の戦力を持つことが出来るか分からないけど、中隊規模にはならないだろう。

 王国軍を1個中隊指揮しているとはいえ、それはあくまでサドリナス領全体の防衛戦力だからなぁ。受持自分の領地に展開することは出来ないはずだ。

 少なくとも敵がレイデル川に現れてから数日間は所領の私兵で対処することになる。


「マイヤー殿がだいぶ気にしておりました。場合によっては激戦地になり得ると……」

「姉上を悲しませるようなことはしたくありません。それにマイヤー殿の領地があればこそ俺達の共和国が成り立つようなものですからね」


 現在の関係から一歩足を踏み出した軍事同盟になるのだが、エクドラル王国との友好条約の範疇で動くなら問題はあるまい。

 現在でも同盟軍を作っているぐらいだから、レイデル川の防衛に限定した軍事同盟であるならエクドラル王国の宮廷に波風を起こすようなことにはならないと思うのだが……、やはり事前にグラムさんと相談した方が良いのかもしれないな。


「ところで、姉上の準備は出来ているのですか? 俺は以前宮殿を訪問した時に作って頂いた軍服を着用すればそれで終わるのですが」

「ドレスを3着、ウエディングドレスは王女様から頂きました。食器一式を陶器で揃えて貰い感謝します」


 ちらりと母上に顔を向けると、小さく頷いてくれたから嫁入り道具に問題は無いのだろう。

 姉上の事だから、直ぐに魔道具の製作をするに違いない。それで館の裏を支えていくのだろう。


「レオンは妻帯しないの?」

「この体ですからねぇ……。妻を先に失う悲しみに耐えられません。ナナちゃんと長く暮らしますよ」


 同じハーフエルフなら一緒に暮らせそうだけど、この国のハーフエルフは神官のフィーナさんだけだからなぁ。さすがに神官は夫婦生活は出来ないんじゃないかな。


「せっかくの『デラ』が無価値になってしまいますね」

「レイデル川を渡った時から『デラ』は意味を持ちませんよ。でもオリガン家の分家であることを忘れないために『デラ』は使い続けています」


そういう意味では、貴族連合の当主達も貴族の資格を失っているんじゃないかな。

 貴族として任じた王国と対峙しているぐらいだからね。

 自称貴族の連合ということになるんだろうが、エクドラル王国がその存在を認めているなら問題は無さそうだ。さすがにエクドラル王国の貴族と任じることは無いだろうから地方豪族の連合ということになるのかな?

 グラムさん達が何とかしてオリガン家をエクドラル王国に取りこもうと考えているようだけど、オリガン領は歴史のある領地だからねぇ。


 マリアンからクッキーが入った袋を受けとり、母上達の長屋を後にする。

 準備は出来ているようだ。他の貴族に後ろ指を指されないように王子様達が手を伸ばしてくれていることに少し驚いてしまったな。


 指揮所に戻ると、誰もいない。

 とりあえずクッキーの袋を部屋に置いたところで、今度は東門に向かうことにした。エニル達の徴募がどの程度進んでいるのか気になるところでもある。

 他の中隊もかなり定員に足りないんだが、さすがに1個小隊が3個分隊に足りないようでは困ってしまうからなぁ。


「レオン隊長ではないですか! 何かありましたか?」

「その後どうなったかなと思ってね。エニルは屯所の中かな?」

「小隊長とご一緒です。ちょっとお待ちください」


 指揮所よりも緊張するんだよね。何といっても女性ばかりの部隊だからなぁ。ちょっと失敗したかもしれないけど、レイニーさん達は今後とも女性だけの部隊としてエニルの部隊を考えているようなんだよなぁ。


「どうぞ、中に!」

「済まないね」


 中に入るとテーブルに4人の女性が座っている。小隊長は2人だけだったんだが新たに1人増えたみたいだな。見知った顔だから部下の中かから1人選んだんだろう。

 先ずは体制を作って兵士を割り当てるということになるのかな。


「状況を教えて貰おうと思ってやってきたんだが……」

「新たに2人の小隊長を任じました。エミルにオリエになります。エミルは新人に銃の操作を教えています。オリエは砲兵部隊を率いて貰うつもりです」


 既に4個小隊の体制は出来ているということだな。となると徴募兵がどれだけ集まったかになるんだが……。


「徴募に応じてくれた兵士は38名。既存の兵士と合わせれば146名になります。銃兵3個小隊は確保できましたが、砲兵部隊が3個分隊に足りませんので現在も徴募を継続しているところです。光通信機を扱える少女兵士を6人別に確保しました。各小隊に1名ずつ付けることが可能です」


「けっこう集まってるんだな。出来れば光通信機を扱える兵士は10名程欲しいところだ。1人では休息することも出来ないだろう。問題は砲兵部隊だな……」


 2個分隊では4門しか使えない。砲兵部隊は1個小隊5個分隊程度を考えていたんだが、そうなると大砲も考えないといけなくなりそうだな。

 発射時の反動を抑制する方法が試作にまで至っていないことも問題ではある。

 この際だから、新型石火矢に着発信管を付けて発射装置をボニールで運搬できるようにしてみるか。

 石火矢なら発射時の反動は無いから、架台の製作も容易だからね。

 連装式にしても大砲の重量の半分にも満たないだろう。

 

「新型の大砲の改良が上手く行っていないんだ。しばらくは新型の石火矢を使うことになりそうだが、石火矢を少し改良できそうだから大砲に似た使い方が出来ると思う。即応部隊としての活躍は来年の秋分以降になりそうだ。今年中に1門を渡せるようにするよ。とはいえ、かなり斬新な石火矢になる。試射は此処で行って欲しいな」

「それは構いませんが、やはりレイデル川は激戦地になるのでしょうか?」


「魔族に対しては羽付きの石火矢を打ち込んだからなぁ。たぶん、此方を落とそうなんて考えは持たないと思うんだ。来るとしたらブリガンディ王国軍だな。敗残兵が押し寄せて来そうだ」

「敗残兵に攻撃を?」

「俺達と思想が合わないのが問題だ。獣人族を人とも考えない輩だからなぁ。この際だからその報いを受けて貰うよ」


「了解です……。確かに、そのような輩が大量にこの国に入れば問題ですね」

「川を渡らせねば良い。追い上げてくる魔族に石火矢を打ち込むことになりそうだな」


 自分達が虐げた連中に世話になろうとするような考えなら、すでに人間として終わってるんじゃないかな?

 自分達の行動の責任は自ら取って貰おう。

 

 エクドラル王国はどう考えるんだろう?

 場合によっては保護することも考えられるが、今までとは違う生活に彼らは満足できるだろうか?

 人種差別でもしようものなら強制労働を課せられそうだ。

 となると、一番の激戦地はレイデル川に掛かる石橋ということになるだろう。

 既に1個中隊で関所の防備を固めているようだし、カタパルトも何台か運んでいるようだ。

 王子様達が領地に入ってもその守りは維持されるから、とりあえずレイデル川の防衛は可能だろう。

 もっとも、俺達の準備が整わない内に、ブリガンディの連中が押し寄せてくるようでは困るんだけどね。


「ボニールについてはエクドラさんに50頭を依頼しました。荷車は各小隊に1台、砲兵部隊に3台を準備するつもりです」

「当座はそれで十分だろう。将来的には、中隊本部に1個分隊の戦力も視野に入れて欲しい。一応、レイデル川の防衛が当座の仕事になるんだが、場合によっては西に向かうこともありえるぞ」


「作戦行動を10日ほどに考えていたのですが……」

「とりあえずそれで十分だ。その間に兵站部隊が到着するだろう」


 光通信の中継所と共に、資材の集積所も作る必要がありそうだ。

 南の見張り台を大きくしたから資材の集積所にも使えそうだけど、東にも1つ欲しいところだな。

 領地が広くなると、いろいろと出てくるんだよね。小さいと苦労しないんだけどねぇ。

 

 指揮所に戻って、もう1度地図を眺めてみるか。

 大きいことは消して良いことでは無いんだよなぁ。何とかこの領地で妥協してくれたけど、かなりの土地を放棄したことを残念に思っている連中が多いんだから困ったものだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >土地を放棄したことを残念に思っている連中が多いんだから困ったものだ すごい伏線ですね 記録上は主人公が国の財産である領地を独断で姉の嫁ぎ先への持参金にした形になりますからとんでもない話で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ