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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-246 ナナちゃんの妹


魔族に石火矢を放った翌日には、東で上がっていた焚火の煙が全く見えなくなった。

 南下したに違いないが、果たして進路を変えたかどうか……。ブリガンディ王国に情報源を持っていないからなぁ。父上達の連合国に被害が出ないことを祈るばかりだ。


 ティーナさん達は大砲の試射に立ち会うべく朝早くから東門に向かったようだ。

 向こうはエニルに任せておけば十分だろう。原理は簡単だから、エクドラル王国の工房なら直ぐにも作れるはずだ。

 それに火薬の爆発で砲身が壊れないなら、鉄ではなく青銅で作ることも出来るだろう。軽くするために鉄を使ったけど、砲身の厚みを増せば青銅でも耐えられるに違いない。


「さすがに新型大砲が出来ていなければ、大砲を教えることは無かったじゃろうな。前装式でも戦には使えるのか?」

「砲身次第ですね。上手く作れば前装式でも3コルム以上の射程を得ることは可能です。ですが、果たして攻城兵器以外の使い方をすることが出来るでしょうか? 長距離射程を有効に使うには、数学の知識も必要とするんですよ」


 指揮所に朝からガラハウさんが訪ねてきたのは、昨夜の会議で大砲をエクドラル王国に教授するということを伝えたからだろう。

 うんうんと頷いていたガラハウさんは、俺が既に前装式の大砲に見切りをつけたと感じたに違いない。


「まだまだ発展できるということか? そうなると、新型の大砲が無駄になりそうじゃが?」

「とんでもない、あれこそが大砲の最終形態です。まだまだ改良の余地はあるんですが、あれを使って少しずつ改良していくつもりです。とりあえずは砲弾ですね。現在は炸薬を爆発させるために砲弾の中に導火線を仕込んでいますが、それだと近くを狙えば着弾してからしばらくしての爆発ですし、遠距離では途中で爆発してしまいます。こんなものを考えたんですが……」


 どれどれとガラハウさんが手を伸ばして、俺がバッグから取り出したメモを受け取る。直ぐにメモを見ていたんだが、やおら立ち上がると指揮所を出て行った。

 さっそく作ってみるのかな? ちゃんと働くかどうか俺にも分からないから、試作品を試してみるのは賛成なんだけどね。


「行ってしまいましたね? それほどのものなんですか?」

「砲弾が落ちた時に爆発する仕掛けなんです。基本は銃の点火機構と同じですよ。魔石を打ち付けた時の衝撃で生じる火花で炸薬を爆発させます」


「それなら、エクドラルに提供する大砲の弾にも使えそうですね?」

「現状では無理です。昨夜ティーナさんに、球形の砲弾を大砲に込める事を教えました。それでもそれなりに真っ直ぐ飛ぶんですが、エニル達が使っているライフルのように新型の大砲は砲身内に溝を掘ってあります。砲弾は溝に接触して砲身内を動くことで強い横回転運動をすることになります。独楽でも回転していると同じ姿勢を取り続けますよね。ですから着弾時までどんぐり型の砲弾が真っ直ぐに飛ぶんです。その性質を使った点火装置ですから、着弾姿勢が安定しない砲弾では全く役に立ちませんよ」


 導火線もまだまだ改良を続けているということだから、爆裂砲弾を前装式の大砲で使えるまでにはかなりの年月が掛かるんじゃないかな。

 そのころには、俺達の後装式大砲の最終形態が完成しそうだ。


「それにしても急に大砲を欲しがるなんて……」

「たぶん、もう1押しが欲しかったんじゃないですか? エクドラル王国としては、サドリナス領内が安定したところで領内の分割を考えているようです。エクドラル王国内の優秀な貴族の次男達を貴族にして所領を与えることになるんでしょう。その時に一番考えないといけないのは王子様と、俺達なんです」


 多分王子様には貿易港を含めた東の所領が与えられるに違いない。その北に俺達がいるということで、東の国境線を万全としたいのだろう。そうなると歩いて1日の所領では小さすぎるんだよなぁ。俺達が渡河した場所付近までの領有を認めてくれると助かるんだが……。


「貴族達に統治が出来るでしょうか?」

「あまり税を上げないなら問題は無いと思いますよ。それよりも貴族の持つ私兵を上手く使えば北の監視兵を削減できますからね。砦や光信号の中継所の防衛ぐらいは任せられるかもしれません」


 結果的に王国軍の削減に繋がるだろう。

 新任の貴族なら、しっかりと役目を果たすに違いない。3代目辺りから怪しくなる気がするが、それはエクドラル王国内で責任を取るべきだろうな。


「これからはマーベル共和国に移住してくる人達は少なくなっていくでしょう。でもここで育ったり生まれた子供達は多いですからね。将来は明るいですよ」

「そうでした! レオンの今の言葉で思い出しました。ちょっと出かけてきますね!」


 レイニーさんが慌てて指揮所を出て行った。

 何だろう? レイニーさんがそんなに慌てるような事態が無いと思うんだけどなぁ。

 それに、朝からナナちゃんがいないのも気になるんだよね。

「ちょっと出かけて来るにゃ!」と言い残して出て行ったんだけど、養魚場で子供達と一緒に餌をあげているのかな?

 それとも、母上の長屋を訪ねて、マリアンからクッキーを強請っているのかも……。


 静かになった指揮所で、のんびりと大砲の反動を減らす方法を考える。

 砲身後部に装填した装薬の爆発によって生じたガスが砲口に向かって砲弾を押し出すんだから、爆発の反動を砲架が受けるのは仕方がないことではあるんだが何とかしてこの反動を減らしたいところだ。

 それを上手く考えないと、砲弾の口径を大きく出来ないし何といっても反動に見合った砲架は大きくなるとともに重量が増してしまう。

 試作した大砲の砲弾は直径2イルムだがこれを3イルムにまで上げたい。射程は5コルムが目標だ。

 砲弾の炸薬量も増えるが、何といっても薬莢の装薬量は試作した大砲の装薬量の2倍近くなるはずだ。それだけ反動を受けることになる。

 最初に考えたのは砲身下にレールを付けて、発射時の反動を方針がレール上をすべることで反動を抑制するものだったが……。

 これだと、発射時の反動で一気にレールを滑り、レールの終点で砲身が砲架に激突してしまいそうだ。

 滑る速度を抑えるには……、もう1つの記憶から浮かんできたバネを使うという方法を取り入れてみようか。

 バネは鉄の薄金を棒に巻き付けて作れば良いだろう。出来上がったバネを真っ赤に焼いて急冷すれば作れそうに思える。

 伸びても元に戻る性質があるようだから、発射時の反動で後退した砲身を定位置に戻すことも出来そうだな。

 先ずはこれを試してみるか……。


 砲架と大砲の接合方法と後退機構の概略図を描いていると、急に指揮所の扉が開いた。

 誰が来たんだろうと顔を向けると、先ずはレイニーさんが笑みを浮かべて入ってきた。その後ろからナナちゃんが小さな女の子の手を引いて入ってきたんだが……。

 頭の上に疑問符をいくつも乗せた状態で3人を眺めていると、ナナちゃんが大きい声で俺の疑問を解消してくれた。


「今日から、私の妹にゃ! ここで一緒に暮らすにゃ」

「私とヴァイスの幼女になるんです。ヴァイスはいつも飛び回っていますから、私が殆ど面倒を見ることになります。しばらくは此処で暮らすことになりますが、その内にヴァイスと3人で暮らします」


「そうですか! 可愛い子ですね。お嬢ちゃん、お名前は?」


 出来るだけ優しい声を出してみた。

 俺が怖いのか、ナナちゃんの後ろに隠れてちょっと自顔を出して俺を見ているんだよなぁ。

 ネコ族の女の子だけど、ナナちゃんより小柄だからナナちゃんが妹認定したんだろうな。


「ミクルにゃ……」


 顔を出してそう言うと、再びナナちゃんの後ろに隠れてしまった。

 かなりシャイな女の子に見えるけど、ヴァイスさんだってジッとしていると物静かな女性に見えるからなぁ。

 ネコ族だけあってネコを被っているのかもしれない。


「さあ、座って頂戴。しばらくは此処で暮らすことになるの。私達はこっちの部屋で、ナナちゃん達は向こうの部屋なんだけど、レオンは人間族の見えるけど、ハーフエルフだからそんなに脅えなくても大丈夫よ。ナナちゃんのお兄さんだからね」


 正確にはナナちゃんが従者なんだけど、マーベル共和国では俺の妹ということで定着しているからね。


「……人間とは少し違うにゃ……」


 どう理解したか分からないけどレイニーさんの隣に腰を下ろしたから、ナナちゃんが俺達に飲み物を運んでくれた。俺とレイニーさんにはお茶だけど、ナナちゃん達はブドウジュースのようだ。


「全員の保護者が決まったのですか?」

「ええ、ちょっと心配だったんですが安心しました。次も来てくれると良いんですが、さすがにそれを願うのも考えてしまいますね」


 孤児がいるということはそれだけ家族が亡くなったということだからなぁ。

 だけど敵兵ならともかく、一般人の虐殺をするようではやはりブリガンディ王国は早めに潰れてしまった方が良いのかもしれない。


 何かと世話を焼いているナナちゃんを見ていると、ナナちゃんも家族が欲しいのかもしれないな。

 境遇としてはナナちゃんと同じになるんだろうけど、ずっと俺と一緒だったからなぁ。それを考えるとちょっと不憫に思えてくるんだよね。


「レオンのようにちゃんと育てられるか分かりませんが、いざとなればエクドラさんも頼れますからね。子供を5人育てたと言ってました。沿岸の貴族領で働いていると言っていましたから、今回の騒ぎには巻き込まれずに済んだはずです」

「それが分かっているなら、子供達の手紙を出すのは可能ですよ。エディンさんを通じてオリガンのレンジャーを経由すれば届くと思います」

「そうですね。その手がありました。エクドラさんと相談して、掲示板を作りましょう。上手く行けば親兄弟達の安否が分かるはずです」


 安否が分かれば、移住者も出るだろうし、反対にこの国を去る者もいるだろう。

 それは許容することになりそうだが、ブリガンディ王国内には連絡手段が無いからなぁ。貴族連合限定になるけどやってみる価値はあるんじゃないか。


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