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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
232/384

E-231 魔族軍はなぜ俺達を襲うのか (3)


「我等は選別をしているということか!」

「それだけには思えませんけど、一言で言うならそうなるんでしょうね。魔族同士の戦に弱者はいらないということでしょう。ですから、彼らはある程度の被害を受けたところで後退していきます。何度か戦をさせて生き残った者達を使って、魔族同士の戦をさせているように思えます」


 グラムさんが手元のカップを手に取って、ゆっくりとワインを口に含む。

 そのままカップを手の中でくるくると回している。考えを纏めようとしているのかな?


「魔族の本隊というべき軍隊は、今までの魔族とは比べ物にならぬということか……」

「いつ向かってくるのでしょう? 選別を繰り返しての兵士ともなれば、たとえゴブリンといえども強敵となるでしょう」

「だが、我等との戦が継続していることも確か。直ぐにやってくるとも思えんのだが……」


 ジロリとグラムさんの瞳が俺に向く。

 

「ここからは推測の域を出ないんですが、状況を鑑みるとかなり確度が高いようにも思えます。魔族同士で争いが続いていると考えています」


 精鋭を使って他の魔族との覇権争いを繰り返す。

 最初に魔族兵士の選別を行うために人間達の住む王国と戦わせることを考えたのはどの魔族の王国かは分からないけど、それが有効だったことから他の魔族も踏襲したと思われる。

 かなり凄惨な戦が地下深くで行われているんだろうな。

 できれば俺達を巻き込まないで欲しいところだ。


「魔族は我等よりも好戦的だからな。レオン殿の考え、そのような考えにも至るわけか」

「オルバス殿、事は簡単ではありませんぞ。互いに精鋭をもって潰しあっている状況では、何時大きな変化が起こるとも限りません。万が一にも、2つの魔族の王国が1つにでもなれば……」


 さすがは参謀と呼ばれる役職にある人物だ。

 危険性に気が付いたようだな。


「それを憂いているんです。マーベル共和国は住民が少ないこともあり、白兵戦で魔族と正面切っての戦が出来ません。爆弾と石火矢を多用することで前回は3個大隊を潰滅させています。さらに今年から実働を始めた2つの部隊は、今までのように防衛戦ではなく迎撃戦を行うべく編成をしています。もし、エクドラル王国の北に位置するこの魔族の王国が万が一にも他の魔族の王国と比べて戦力が劣ることになれば……」


「2つの王国が1つになり、さらに周辺の魔族の王国を飲み込むのも容易ということか……。推測ではあるが、状況を見ればかなりの信ぴょう性を持っているようにも思える。これは安易な判断をすることは出来ぬな」

「全くです。出来れば我等も周辺王国を版図に加えるか、もしくは同盟の強化を図りたいですが、中々そうはいかんでしょうな」


「かといってレオン殿の考えが的を得ていると国王陛下が判断しても、すぐに隣国に攻め入るような愚行はしないだろう。幸いにもサドリナス領を我等は手に入れた。さらにマーベル国との争いで爆弾という兵器も作れるようになったのだ。準備を始めなければならんだろうな。これまでの魔族との戦が新兵訓練に思えるような戦は始まりかねんのだ」


 今までの3個大隊が倍以上に膨らむ可能性がある。

 防衛する王国軍はエクドラル王国でさえも5個大隊がやっとだろう。国境の部隊を動かしたならば、たちまち隣国の軍隊が侵入してくるに違いない。


「今までの魔族より格段の強兵が、2倍以上の数で押し寄せてくるということになるな。だが我等は王国を守る軍人である以上、立ち向かわねばなるまい」

「今までは、選別のための小競り合い。その時は本格的に攻めて来るでしょう。後退することなくまっすぐ南を目指して……」


 エクドラル王国ならある程度は跳ね返す力を持っているかもしれないけど、ブリガンディやエクドラル王国の西の王国は跳ね返せないんじゃないかな。

 住民の代殺戮が始まり、王国は滅びることになる。

 魔族にしてみれば、俺達人間は野生の獣と同じだからなぁ。魔族に滅ぼされた種族はかなりあるに違いない。それなりの戦闘力があるなら奴隷化して戦場に送り込まれかねない。そこには自由な暮らしは全くないだろうな。


「困った話だな。出来れば現状を維持したいところだ」

「かりそめの平和ですか……。確かに魔族を滅ぼせない以上、そうなるんでしょうね。となると、戦のやり方を考えねばなりません」


 殲滅戦にならないようにしないといけないんだが、それが難しいことも確かだ。

 それに、ブリガンディ王国のように黄昏を迎えた王国はどうなるんだろう?

 魔族を押し返すだけで精いっぱい。王国から離れた貴族連合を再び招き入れることは出来ないだろう。そうなれば、エクドラル王国が動かずとも、東の王国が食指を伸ばすことも考えられるんだよなぁ。


「魔族が互いに覇を競っているなら問題は無いんでしょうが、ブリガンディが少し気になります」

「沿岸部に所領を持つ貴族達が連合して国を作るようだ。エクドラル王国の宮殿にも使者を送って来たぞ。さすがにオリガン殿ではなかったがな」


 エクドラル王国との同盟化を進めようとしているのだろう。

 産業としては農作物と沿岸漁業の漁果になるのだろうが、小さな領地経営を行う上では十分かもしれない。そういえばいくつか有名なワインの醸造所があったな。あれも交易に使えるんじゃないか。


「さすがに援軍を派遣することは出来ないが、それなりの援助はできそうだ。彼らとしても万万が一の亡命先を確保したいということもあるのだろう。上手い具合に旧サドリナス領内はかなり開拓の余地がある。亡命して新たに一から始めるのも良いのかもしれんな」


 さすがに地位までは保障できないということか。まあ、当然だろうな。この地で何らかの功績を積めばそれなりの地位を確保できるかもしれないけどね。

 一族を引いてやってきて、開拓地を提供して貰えるだけでもありがたいかもしれない。

 だが……。その開拓地となると……。


「現在の砦を北に3コラム程移動することになるだろう。旧砦を開拓拠点にすればいい」

「場合によっては農民兵として使えると? 俺達も似たことをしていますが、武器を握ったことが無いような開拓民では問題ですよ。その時は、1個分隊の私兵を認めるべきでしょう。私兵を使って農民兵を訓練すれば、砦の南を彼らに託すことも可能かと」


 俺の言葉に苦笑いを浮かべながら頷いている。検討に値するということかな?

 マクランさんの部隊のように活躍してくれれば良いんだけどねぇ……。


「今までの話を整理すると、ブリガンディ王国の弱体画一番の問題でしょう。旧サドリナス領内への魔族の侵入は、かなりの確度で今年は起こり得ると考えます。先ほどの話しから殲滅することにかなりの問題が出て来そうですけど、此方からの追撃を止めればそれなりの効果を得られると思います」

「生かさず殺さず……、まったく面倒な戦もあったものだ」


「先ずは部隊の有効性を確認すべきでしょう。殲滅止むなしで臨ませるべきです。魔族も愚かではなさそうですから、上手く新兵の選別が出来ないとなれば、他の王国に向かうことでしょう。この地に対する魔族の侵入を抑制することも可能かと」

「ブリガンディ王国の落日を誘うということか……。かつてはブリガンディ王国の貴族では無かったのか?」


「義の無い王国では致し方ありません。父上達は最後まで改心を望んでいたようですが……」


 忠義よりは民衆の安寧の為の義を選択する。

 ご先祖様達には申し訳ないが、オリガン家の家訓でもあるからな。ブリガンディ王国の建国にも関わった貴族ではあるようだが、王族達が建国の理念を捨てるようならそれに従うこともない。

 

「潔い話だが、その前に何か手段が無かったのか?」

「思想操作を受けた可能性も無いわけではありません。ですが心を操られては、いくら諫言かんげんしたとしても聞き入れては頂けないでしょう。カップから既にワインは零れ落ちたのです」


 父上の諫言を聞き流したというんだからなぁ……。少し考えるそぶりを見せるだけでもしたなら、父上は諦めずに何度も諫言を繰り返したに違いない。

 オリガン家はブリガンディ王国を見限ったのだ。

 俺達だって王国軍から半ば追い出されたようなものだ。今さらブリガンディ王国がどうなろうとも知ったことではない。


「今年魔族軍サドリナス領内に攻め入った時、新たに編成した2つの部隊が予想通りの活躍をしたなら……、最悪の事態が速まっる可能性が出てきます。少なくとも、国境の関所に1個大隊は常時張り付ける必要が出てくるかと……」

「エクドラル王国を相手にせず、ブリガンディで兵士をふるいに掛けるということだな? だが、ブリガンディ王国には魔族3個大隊を迎え撃てるだけの戦力が無い……。貴族連合の離反により国力が低下しているということか。なるほど……、国境の守りは必要だろう。現時点ではブリガンディ王国とエクドラル王国は対立関係にある。王侯貴族の亡命は阻止せねばなるまい」


 民衆なら受け入れるということだな。

 受け入れた民衆で新たな開拓を行うならエクドラル王国はさらに豊かになるだろう。


「短期的にはそれで良い。だが、長期的に見るなら魔族の王国が場合によっては統一されかねんな。これは?」

「さすがに魔族の王国に攻め入ろう等という野望は持っていませんよ。それに地下への侵攻ともなれば平地での戦とまた違った戦になるでしょう。魔族の領土である洞窟に攻め入って勝利することは難しいでしょう」


「倍の魔族が攻め入るのを待つだけなのか……。爆弾を用意するぐらいが我等が出来る準備になりそうだ……」

「そうでもないですよ。もし迎え撃とうとするならそれなりにやることがたくさんあります。西の尾根の長城を尾根の出口で再現すれば、そこで阻止できるかもしれません」


 長城計画とでも名前を付けようかな。

 東西に延びる長い城壁だ。新たに砦を北に作るのであれば、一緒に長城を作ることも出来るだろ。

 敵軍を足止めできるなら、爆弾を使って効果的に倒すことが出来る。さすがに2ユーデほどでは乗り越えかねないから、最低でも3ユーデ以上にした方が良いだろう。

 頂上に沿って、フイフイ砲やカタパルトを備えておけば、魔族の弓兵達が矢を射る前に爆弾を降らせることも出来るだろう。


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