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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-211 光通信技術は軍を一元化できる


 翌日は、オルバス館でのんびりと過ごす。

 ナナちゃんはデオーラさんに連れられて、どこかに出掛けたみたいだけど散財させてしまいそうで申し訳なく思ってしまう。

 客室に閉じこもり、明日の打ち合わせに向けて資料を眺めてメモを取る。

 図上演習の結果を王子様も喜んでいたらしいから、情報の大事さを知ったに違いない。戦は地形と状況でほぼ勝負が決まると言っても過言ではないだろう。

 後は負けない戦をどうやって進めて行くかになるんだが、前に向かって進むだけが戦ではないからなぁ。

 その辺りの判断が出来るようになれば良いんだが、得てしてわざわざ死地に飛び込む輩もいるようだ。蛮勇を誇るようではねぇ……。最後の最後で逆転するぐらいの気概を持って欲しいところだ。

 退くべきところは退いて、戦力を温存させるのが将の務めに違いない。

 再戦に向けての退却なら、降格にもならないはずだ。

 退却を謗るような人物がいたなら、王宮から蹴りだしてやれば良い。


 夕暮れ前に帰ってきたナナちゃんが嬉しそうな表情をで俺に金貨を見せてくれた。

 どうしたのだろうと聞いてみると、ナナちゃんが描いた絵に値が付いたらしい。


「デオーラ様が仲立ちをしてくれたにゃ。10枚見せて、4枚が売れたにゃ」

「へぇ~、それなら、俺達の部屋にも額に入れて飾って欲しいな」

「3つ額を買ったにゃ。指揮所にも飾るにゃ」


 ナナちゃんの美的感覚は、かなり高いらしい。感じたままに絵筆をとって描いたのはのどかな開拓村の風景に違いない。

 旧王都では、そんな農村の風景は珍しいに違いない。でも高く売れたものだな。


「一番高価な値が付いた絵は、デオーラ様にあげたにゃ。お返しに服を買ってもらったにゃ」


 うんうんと俺も笑みを浮かべて頷いた。やはりデオーラさんも欲しいに違いないからなぁ。さすがに客室には飾らないだろうけど、どこに飾るんだろうか?


 メイドのお姉さんが夕食を告げに来てくれた。ナナちゃんと一緒に食堂に向かうと、バリウスさんが席に着いている。隣の女性は副官なんだろうか?


「レオン殿が来ていると聞いて、やってくるのだから困ったものだ。新たな部隊の指揮官なんだから、それなりにすることがあるはずなんだがな」


 困った息子だと嘆いている。

 とりあえず挨拶はしておこう。

 副官殿にも、しっかりと挨拶を済ませると、メイドさん達が夕食を運んできた。


「それで、僕の部隊と連携する部隊は訓練を始めたのかい?」

「までですよ。持たせる石火矢の数が足りません。何とか秋分にまでは間に合わせるつもりですが、今年は訓練だけになってしまうでしょうね」


「先ずは1度魔族を相手にしたいところなんだがなぁ。訓練はしているが、先ずは一戦して何が足りないかを見付けたいと思ってるんだ」


 バリウスさんの言葉に、グラムさんと顔を見合わせて溜息を吐く。

 確かにそれも道理ではあるんだが、その戦で亡くなる兵士を考えるとなぁ……。


「兵は凶事とも言いますよ。みだりに動かすのは国を亡ぼすことに繋がるそうです」

「訓練は大事に思えるが?」


 バリウスさんが問いかけてきた。

 簡単に度を越した訓練がかつて王国を滅ぼしたという話をしたんだが、そんな話は聞いたことも無いような顔をしている。

 これって、俺のもう1つの記憶の方から出た言葉か!

 失敗したな……。

 

「王国の古い出来事は色々と記録があるが、レオン殿はかつては本の虫とまで言われたことがあると、レオン殿の母上が話してくれたことがある。海を越えた王国の話かもしれんな。だが、確かに兵は凶事かもしれん。出来れば動かさずに置きたいものだ」

「ちょっと極論かもしれませんね。人間同士の戦であるなら俺も頷けるんですが、魔族相手ともなるとそうもいきません。ですが、可能な限り大規模な訓練は避けて通りたいところです」


 だけど訓練の最終時に、魔族と一当たりして課題を見付けようというのは考えものだ。


「最も、俺が王子殿下とお会いしたい理由は、その訓練についてなんですけどね。砦の防衛部隊、バリウスさんの迎撃部隊、それに同盟軍という名の機動部隊。この3つの部隊をいかに有機的に組み合わせて魔族と対峙するかは各部隊の訓練も必要ですけど、互いの連絡を密にすることが大事なんです」


「さもあらん。私の部隊にも指揮部隊直属の伝令を1個分隊用意したよ。10騎いるなら全員が出てしまうことも無いはずだ」


 バリウスさんの言葉に、グラムさんが首を振っている。

 分かっていないなぁ……、というところだろう。


「半分で良いぞ。その代り、少年兵を3人やろう。それで私にまで報告が届く。騎兵に伝文を託すより10倍以上速いはずだ」

「そんなに早くにですか?」


「そうだ。その仕組みをレオン殿は考えた。確かに有効だ。少し面倒なところがあるから直ぐに使える訳ではないのだが、王子殿下は本国の王宮とその通信を繋ごうと考えているぐらいだからな。次の図上演習では、その通信機を使って演習をすることになるはずだ」


「あの演習ですか……。私も白軍を応援していたのですが、赤軍が川上に堰を作るとは思いませんでした」

「あれが決め手だったな。席を作ったことで流れを緩め筏での渡河を円滑に行い、その後席を破壊しての洪水だ。ぬかるんだ陣地を背後から襲われてはなぁ……。中々面白い作戦を立てる若者が出てきたな。バリウスも、良く学ばねば直ぐに指揮官を更迭されてしまうぞ」


 なんかすごい作戦だったみたいだな。後で報告書を読ませて貰おう。

 図上演習とは言え、そんなことを考えつく人物がいるとはねぇ……。

 直ぐに登り詰めて来るんじゃないかな? そうなっても、俺達が敗北しないように考えないといけない。


 秀才なら、過去の作戦を参考にするのだろうが、転載は何を考えるか分からないからなぁ。

 予想がつかない作戦程、恐ろしいものは無い。

 そんな相手の思考を踏まえて裏をかくことが俺達の作戦になるんだろうけど、案外正攻法が一番なのかもしれないな。

                ・

                ・

                ・

 翌日。前回の拝謁時にオルバス家から頂いた軍服に着替えてリビングで迎えの馬車を待つ。

 グラムさんとバリウスさんが同行してくれるそうだ。

 ティーナさんはナナちゃんと一緒に王都の商店街を巡るらしい。美味しいものが食べられそうだな。ナナちゃんも余所行きに着替えて嬉しそうにティーナさん達と話をしている。

 馬車を待つだけですから、とデオーラさんが俺達にお茶を淹れてくれたのは、俺達の会話に参加したかったのかもしれないな。


「宮殿で工事を画行われたと聞きましたが?」

「作戦統括を行う部署を作ったのだ。レオン殿の考えた通信機は遠く離れていても情報を文書で送ることが出来る。3つの大隊と3つの砦を持つ王子殿下がどのように采配を振るわれるのかが楽しみだな」


 ちょっとした疑問だったのだろうが、バリウスさんの問いに対する答えが、意外だったのかもしれない。


「私達に直接指示を出されるということでしょうか?」

「それはしないだろう。だが、引き際を間違えるようなことがあれば、直ぐに殿下の命が下るに違いない。基本は今まで通り、宮殿で全ての部隊の動きが分かるようになるだけだ」


 ちょっと驚いているな。さすがに王子様だけのことはある。

 新たな通信手段の活用を直ぐに思いついたようだ。

 本国の王宮とサドリナス領の宮殿の間で、光通信が妻がれるのもそれほど先にはならないだろう。

 最初は政治、軍事的な使い方になるんだろうが、直ぐに商人達の通信利用が図られるに違いない。その案が無いなら教えてあげるべきかもしれないな。通信の合間を利用するだけで十分だし、光通信を扱う少年達の訓練にもなるんだからね。それに通信料を徴取することで維持費を軽減できるに違いない。


「感心しているようですね?」


 グラムさんとバリウスさんの話をジッと聞いていたデオーラさんが、俺に視線を移して問いかけてきた。

 2人の会話に参加しなかったのが不思議に思えたのかな?


「俺の考えていたことを既に行っていたことに感心しておりました。明日の謁見時に、それを具申するつもりでしたから……」

「殿下の先を見る目はレオン殿に並ぶということだな。殿下もお喜びになるだろう。殿下の厳命で光通信機の習熟を行っている最中だが、レオン殿が少年達に教える理由がし越し分かって来たぞ。大人ではあの光文字の習得はかなり難しいとのことだ」


「本来なら、もっと小さな子供達の方が良いんですけど、さすがに子供達を戦場に出すにはいきません。少年達でどうにかでしょう。そもそも文字を覚えるのは子供時代ですからね。新たな文字を覚えるとなると苦労すると思います。マーベル共和国では、光通信を行う少年達同士で光通信機を使ったしりとり遊びをさせています。まだ少年ですからねぇ、遊びを通して習熟度を上げることが出来るようです」


「ほう……」と感嘆の言葉をグラムさんが上げたのは、俺達が通信機で遊んでいることを意外に思ったのかもしれないな。


「新たな通信機は、小さな子供程早く使えるということになるのでしょうか?」

「俺達が文字を覚えるのと一緒ですから、俺にはそのように感じています」


「なら! ……グラム殿、明日の会議で王子殿下に具申して頂きたいのですが?」

「デオーラの話なら聞いてくれるだろうが、採用の有無までは分からんぞ」

「それで結構です。直ぐに文をしたためますのでよろしくお願いいたします」


 王子様を良く知っているということかな? 乳母というわけでは無いのだろうが、ティーナさん達兄弟と一緒に遊んでいたのかもしれないな。


「母上が具申とは、いささか問題ですね。王子殿下も断り難いのでは?」

「今はサドリナス領の統括者だ。私事と公務を混在することは無かろう。それよりも、明日は一緒にレオン殿と王子殿下の会見の場に出るのだ。訓練成果を確認することもあるだろう。今夜は今までの訓練成果をある程度まとめて置くことだな。質問に窮するようなことでは、直ぐに配置転換があり得るかもしれん」


 バリウスさんがギョっとした表情を取る。

 デオーラさんが、そんな長男を諦めたように首を振って見ている。

 楽観的な性格だからなぁ。勇猛な指揮官にはなれそうだけど、狡賢い指揮官にはなれそうもない。優秀な副官を選んであげないといけないんだろうな。


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