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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-189 騎馬隊は攻撃よりも誘導に用いる


 しばらく待っていると、砦から『連絡を感謝』の信号が伝えられてきた。

 これで友好国としての約定を果たしたことになるはずだ。


「事前に魔族の動きを知ることができれば、それなりに動けることにはなるのだが……」

「少なくとも現状の位置から一気に南に移動するとは思えません。エクドラル軍の動きを魔族の方でも探るはずです。街道から北に点在する村落を襲うとしても5日後になるでしょう。その間にエクドラル軍の展開も可能だと思うんですが?」


「やはり弓馬兵を創設したほうが良さそうだな。中隊規模にできたなら、このような事態でも迅速に対処できるだろうが……」


 まあ、あった方が良さそうには思えるけど、騎馬民族の軍隊とは交戦しない方が良さそうだ。

 生まれながらの弓馬兵と交戦したなら、5年に満たない練度の弓馬兵等赤子を捻るような物だろう。

 その辺りの図上訓練もしっかりとすべきだろうな。騎馬民族の軍隊との交戦は騎馬戦にならないようにすることが大事だ。

 馬から下ろせば、軽装歩兵にだって容易に対処できるだろう。

 そんな意味では、騎馬民族の版図と接する国境に長い柵を何重にも設けるのも1つの対策ではあるんだけど、かなりの費用が掛かるだろうな。


「考え方としては悪くは無いと思いますよ。エクドラル王国の北西にある遊牧民たちの王国は、軍隊全てが騎兵だと聞いたことがあります。彼らの魔族対策は一撃離脱で矢を放っての戦に違いないでしょう。同じような戦をエクドラル王国でも用いるのであるなら、もう1つ追加したいところですね」

「同じように一撃離脱で魔族の勢力を削いでいくのではないのか?」


 ティーナさんの問いに、レイニーさん達も俺に顔を向ける。

 それ以外に何があるという感じだな。


「罠に嵌めることができますよ。一撃離脱で素早く魔族軍から距離を取る。1個中隊で放つ矢は1度に160本です。散布界は広いでしょうから、放った矢の1割は魔族に当たるでしょう。戦力の削減が1度に12体、矢筒の矢を全て放てば144体を減らすことになりますが、魔族の1個大隊は1万体ですからねぇ。削減効果はあまり意味を持たないでしょう……」


 一見有効にも思えるが、それほどの効果が無いんだよなあ。2個中隊で両方向から車掛かりで矢を放つとしても250体が良いところだ。予備の矢を使ったとしても500体……。魔族軍の1割にも満たないだろう。

 

「荒れ地に罠を作るにはかなり時間が掛ってしまう。それに落とし穴等掘ったなら、後々が面倒だ」

「そうでもないですよ。何も大きくて深い穴を掘る必要はありません。敵の移動方向を制御するのが目的ですからね。片足が膝まで入るぐらいの穴でも、走って来た敵が足を踏み入れたなら勢いで足の骨が折れるかもしれませんし、倒れた敵兵の上を味方がどんどん通っていきますからね。踏みつぶされてしまうでしょう……」


 柵と落とし穴を南に向かって斜めに作る。

 両側が柵と落とし穴なら、南に下がるにつれて敵兵は密集することになるはずだ。


「最後は小型のフイフイ砲で爆弾を放てば良いんです。たぶん作っているでしょうけど、まだ作っていないならバリスタのボルトに爆弾を括りつけても良いでしょう。数台あるなら放つ度に100体近い魔族を刈れますよ」


「騎兵は敵の削減ではなく誘導に用いるのか! ……となると、軍馬よりもボニールで十分かもしれんな。魔族より足が速く小回りが利く部隊であれば十分に思える」

「それで、十分かと……。とはいえ、騎馬隊単体では今のような作戦は不可能です。騎馬隊1個中隊に工兵とバリスタ部隊がそれぞれ2個小隊は必要に思えます」


「ウム……。確かにそうなるじゃろうな。最低でも2個中隊。バリスタ部隊に押し寄せて来るであろうから、重装歩兵も必要だろう。かなりの激戦になるだろうが、重装歩兵の連中は喜ぶに違いない」

 

 確かにバリスタ部隊の前に重装歩兵がいたなら彼らも心強いだろう。それに工兵の連中だって黙って見ているようでは問題だ。クロスボウを持たせれば結構役に立つんじゃないかな?


「バリスタ部隊が2個小隊なら16台のバリスタになる。オーガが現れても倒せるだろう。バリスタは砦の守備兵器だと思っていたが、このようにも使えるのだな」

「荷車が沢山必要ですよ。ボニールと荷馬車を使えば徒歩で移動する兵士はいませんから移動も容易でしょうし、何と言っても移動後に迅速な罠の設置が可能です」


 ウンウンと頷いているから、作戦の全容は理解できただろう。

 直ぐに指揮所を出て行ったのは、今の話を魔族の迎撃計画書として纏めるのかな?

 王子様に謹呈したなら、王子様とグラムさんで吟味したうえで部隊創設という流れになりそうだ。

 今の砦の陣容では、砦の防衛がやっとだからなぁ。せいぜい、ティーナさんが言ったように騎馬隊で一撃離脱を繰り返すぐらいしかできないだろう。


 ティーナさんが出て行ったところで、パイプにタバコを詰め火を点ける。

 とりあえず魔族との距離があることで皆も少し安心できたようだ。


「2つの見張り場所から角度を測ることで距離が分かるというのは、石火矢の目標までの距離を測る道具と同じなんですか?」

「そうです。射程が2ケム程度ですからね。あれの簡易目盛りで十分です。さすが距離が3ケム以上になると先ほどのような形で測定することになります」


「あのような斬新な戦術をエクドラル王国に教えても良かったのかな? 私達に使うかもしれないよ」

「俺達は防衛戦に徹しますから、全く問題ありませんよ。エクドラル王国に進軍しなければ良いだけです」


 心配し過ぎに思えるけどねぇ……。あの戦術に対抗する手なんていくらでもある。

 魔族相手に何度か戦えばすぐに分かると思うんだけど、そのまま運用しているなら教えてあげたほうが良さそうだ。さもないと全滅しかねない。

 先ほどの戦術の最大の欠点は側面防御が出来ていないことだ。

 前方に対す路攻撃だけで手一杯。側面を突かれたなら簡単に瓦解してしまう。

 それぐらいは教えておかないと問題かもしれないな。部隊創設と最初の戦での勝利はティーナさんの功績になるんだろうからね。

 どのように側面防御を行うかは教えないでおこう。それぐらいは考えつくはずだ。


「そうだ! エクドラさん。新な工房の反対側に小さな食堂を作ろうと思っているんですが……」

「朝食後に、エルデさん達が相談に来ましたよ。ちゃんと食材を渡しますし、食堂から2人程派遣しますから、安心してください。料理好きのお婆さんも手伝ってくれるそうです」


 エルデさん達がすでに動いてくれてたか! 

 俺がいなくても工房が動きだすんじゃないかな?

 もう少し積極的に関与しないと、ただ飯食らいに思われそうだ。

 

「エルドさん達が1個小隊ほどで工房作りをしているようですから、余裕を持って60人が食事を取れるようにしないといけませんよ。長屋3つを横に繋いで大きくした方が良いかもしれませんね。ついでに水場も作らないと……」


 水場か……。農業用水が直ぐ傍を流れているから、それを使って食器や野菜を洗えるだろう。ガラハウさんがそのまま飲んでも問題ないと言っていたけど、井戸を掘った方が良いかもしれないな。

 流しの排水路も作らないといけないだろう。そのまま用水路には流せないから、南の空堀に流れる排水路の整備も必要になるんじゃないかな。

 雨水を流す排水路は通りの横に溝を掘ることで対処しているけど、町が大きくなってきたなら、排水路が溢れてしまいそうだ。


 俺達の町の生活基盤作りを根本的に見直す必要がありそうだ。

 通りと水路、井戸に排水路がしっかりしていれば、町を清潔に保てるだろうし住民生活も便利になるんじゃないかな?

 特に井戸と排水路はきちんと整備しないと、何時までも3食を食堂で取ることになってしまうに違いない。

 食堂は便利ではあるけど、料理好きなご婦人方も多いだろうからなぁ。エクドラさん達の食堂経営は、かなりの数のご婦人方が協力してくれているらしい。


「この際ですから、マーベル共和国の生活基盤を整備しませんか? 広場と通りは出来ましたが、生活に必要な水場は灌漑用水路近くだけになっていますし、排水路は雨水を流す小さな溝を掘っただけです。敵への備えが出来ましたから、次は俺達の暮らしを良くするための努力をしないといけません」


 ご婦人方が感心した表情で俺に顔を向けてくれた。


「そうですね……。これからは暮らし良い町作りをしないといけませんね。水場が少し遠いという話は、結構聞きますよ。顔を洗うにも歩かねばなりませんし、雨が降るとお茶の水汲みも苦労します」


 エクドラさんの話に、皆が頷いている。

 ご婦人方ばかりだからね。確かに雨の日には問題だな。

 藁を編んだツバ広の帽子のようなものを被って雨を凌ぐんだが、けっこう濡れるんだよね。屋根付きで住宅地に近い水場の要求は、表には出ていないけどそれなりにあるんだろう。


「これもエルドさんに頼むのは少し気が引けますね……。今夜にでも、その話をしてみませんか? 住民はまだまだ増えますよ」

「そうですね。この国で生まれた子供達も結構な数になるんですよ。子供達に良い暮らしをさせたいのは皆の願いですから」


 となると、今夜の集まるに備えて作業項目を少し整理しておくか。指揮所はご婦人方の相談の最中だったからなぁ。涼しい風が吹く楼門の上にでも上がって考えてみよう。


 東の楼門に向かうと、楼門脇の城壁沿いに兵士達の待機所が作られている。

 待機所傍には広葉樹が2本切り倒されずに残されているから、調度良い日陰を作っている。

 兵士達がテーブルとベンチをその下に広げて長銃の整備をしていた。


「レオン隊長じゃないですか! 何かありましたか?」

「いや、特にないよ。暑いからねぇ。東門なら川に近いから涼しいかと思ってやってきたんだ」

「それなら……」


 エニルさんが、案内してくれたのは楼門の真下だった。

 数人の兵士が、テーブルを持ち込んでカードゲームをしている。確かに涼しいな。南の門は開いているけど、鉄格子の門は閉じているから風が来たから流れ込んでくる。北には養魚池があるから、その上で空気が冷やされるのかもしれない。

 中々良い場所じゃないか!

 空いているベンチに腰を下ろして、メモ帖をバッグから取り出す。

 兵士達は女性ばかりだからなぁ。彼女達にパイプを見せると、頷いてくれたからありがたく火を点ける。

 さて、生活基盤作りに関わる項目は……。

 指揮所での会話を思い出しながらメモ帖に書き込んでいく。

 エニルさんが冷やしたお茶をカップに入れて持って来てくれた。

 キンキンに冷えているから、魔法で氷を作ってお茶を冷やしたんだろう。やはり魔法は便利だな。

 俺の知る限り、魔法が全く使えないのは俺1人だ。

 でもそれほど不便を感じないのは、皆が色々と助けてくれるからだろう。

 そんな人達に恩義を返すためにも、生活基盤作りはしっかりとしたものでなければなるまい。


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