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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
155/384

E-154 ヴァイスさんの望む弓を形にすると


 エルダーさん達砦の仕官達の見送りを受けて、俺達3騎は東へと出発した。

騎馬隊1個小隊が護衛についてくれたけど、渡河地点前で騎馬隊に礼を言って別れると、その後は3騎でひたすら北へと向かう。


「中々評判が良かったぞ。エルダー殿も長女の嫁ぎ先にと、私に相談を持ち掛けた程だからな」

「人間族では、妻になった女性が気の毒ですよ。このまましばらくは独身を謳歌するつもりです」


俺の隣をゆっくりと馬を進ませているティーナさんが、そんな話を始めた。退屈したのかな。

俺の言葉に、ナナちゃんが笑みを浮かべて頷いている。

 ナナちゃんも俺と一緒だからなぁ。女神様の約束はナナちゃんをいつまでも守ること。

 獣人族と比べればはるかに長い年月を生きなければならない。

 子孫を残すことは出来ないが、マーベル共和国を作る手伝いが出来たことで満足しよう。


「その話は、オリガン家の奥方にも聞いていたからな。無理な話だと断っておいた。だが、案外父上達が動きかねない。次にエディン殿が来た時には、その辺りの事情を文で知らせるつもりだ」

「苦労をおかけします」


「よいよい」と言って笑みを見せてくれたんだが、そんなことを言っているティーナさんこそ相手を探すべきなんじゃないかな?


 夕暮れが終わる頃、どうにか南の城壁が見えてきた。東の楼門に明々と松明が掲げられている。

 俺を待っていてくれたんだと、思わず笑みが浮かんでしまう。

 東門をくぐってティーナさんと別れ、伝令の少年達にボニールを返す。

 そのまま指揮所に入ると、レイニーさんとエルドさん達が御茶を飲みながら俺を待っていてくれたようだ。

 そのままいつもの席に着くと、レイニーさんが自らお茶を淹れてくれた。

 

「ただいま戻りました。尾根の見張り台で操作した腕木信号は、はっきりとエクドラル王国が作った尾根の南の砦で確認が可能です」

「友好条約についてはこれで満足してくれるでしょうか?」

「先に送った陶器で満足してくれると思います。これは駄目押しですね。文官貴族相手なら陶器で十分ですが、武官貴族となると、戦に役立つことを見せねばなりません。それだけ俺達の存在を重視してくれると思います」


「伝令がいらなくなりそうですね。もう少し伝える事項を整理して、腕木をもう1つ追加してはどうですか?」

「それも可能でしょうけど、次は簡単な方法を使います。でも記号を覚えるのが面倒ですから、少年達に覚えて貰おうかと思ってます。丁度文字を習っていますからね」


 前に言ってたと思うんだけどなぁ。

 そんなことで、光の点滅を使って文字を送る方法についての概略を教えることになってしまった。

 ポカンとして俺の話を聞いていたけど、「覚える気がありますか?」と問いかけてみたら全員が首を振っていたからなぁ。

 大人になったら、やはり覚えるのは難しいのだろう。

 だがその前に、発光信号器を作らないといけないんだよね……。

               ・

               ・

               ・

 ヴァイスさんから、矢をもっと遠くに飛ばしたいという望みを聞いてはみたものの、そもそも獣人族の中でネコ族の腕力は高くは無いからなぁ。オコジョ族のリットンさんもそうだけど、前に出て槍や剣を使えないから後方で矢を射るということになっているんじゃないかな。

 砦の弓兵達が50ユーデ離れて、的を射ていることを教えたら、急にやる気が出たみたいだ。

 その意気込みは認めたいけど、急に矢の射程が伸びる訳は無いからね。やはり、長弓ということになるのだろう。

 俺の使っている長弓をヴァイスさんに持たせたら、弓の下が地面に着きそうだった。

 やはり、俺の弓とヴァイスさん達が使っている短弓の中間辺りの長さになるのかな……。

 身長と弓の長さをメモ帖に記載して、悩んでいた時だった。

 脳裏に不思議な弓の形が浮かび上がる。

 弓の持ち手から上と下の長さが異なるのだ。そんな弓が役に立つのだろうか?

 脳裏に浮かんだ弓の形をメモに描いてみると、弓の下から三分の一ほどの位置に持ち手があるみたいだ。

持ち手部分も俺達の弓と異なっているようだが、この部分を持つことは間違いなさそうだな。

 こんな形の弓が使えるのだろうか? 俺のもう1つの記憶なのだろうけど、俺でも首を捻ってしまう程変わっているんだよなぁ。

 とりあえず、作って試してみるか。

 この弓が使えるなら、今使っている俺の弓ほどの長さの弓をヴァイスさんが使うことができそうだ。弓の持ち手部分が下だから、地面に着くようなことにはならないからね。


 さっそくガラハウさんに頼むと、物好きにもほどがあると怒られてしまった。

 突き返されそうになった弓の概略を描いたメモをどうにか押しとどめ、ワイン3本で機嫌を直して貰う。


「レオンの考えることは、いつも突飛な物じゃが、これは度を越えとるぞ。こんな弓で敵を射たなら、相手が可哀そうじゃわい」

「弓の長さはヴァイスさん達の使っている弓より半ユーデ以上長くなります。2本作って頂けませんか。全体の長さを1ユーデ半それに2ユーデ半の2種類です」

「長い方はレオン用じゃな。まあ、弓が長い方が遠くに飛ぶとは思うが、これで狙いが定まるとは思えないんじゃが……」


 渋々ながらも頷いてくれたから、後は任せておけば良い。

 ガラハウさんは口は悪いけど、腕は確かだからね。

 それに、狙いが定まらなくとも遠くに飛ぶなら使い出はある。爆裂矢を専用にすれば良いだけだ。

 だけど、そうなると矢の種類が増えてしまいそうだ。今でも俺とナナちゃんの矢は別物で作って貰っているからなあ。


 10日ほど経って、ガラハウさんが変わった弓を2本と専用の矢を20本ずつ作ってくれた。

 さっそくヴァイスさんを伝令の少年に呼んで貰って、弓の練習場に一足先に向かうことにした。

 ガラハウさんとレイニーさんも一緒だ。ナナちゃんも一緒だから今日は養魚場の仕事は無いのだろう。


 北の崩れた崖を背景にした弓の練習場には、リットンさん達の小隊が練習をしている最中だった。

 30ユーデの距離で的を狙っているけど、この距離なら的を外し弓兵はいないようだな。砦に最初にやってきた当時は酷い腕だったけど、それから練習に励んだことでここまで腕を上げることができたみたいだ。


「あにゃ? レオンに大統領! それにガラハウさんまで?」

「ちょっと試したいんだ。ヴァイスさんが来たらちょっと射場を空けてくれないかな」

「休憩にするわ。でも私達にも見せてくれるんでしょう?」

「出来たら、評価して欲しいんだ。かなり変わった弓だけどね」


 練習場に隣接した小屋は屋根しかない。その小屋のベンチに腰を下ろしてリットンさん達の弓を眺めていると、ヴァイスさんがやってきた。

 布に包んだ弓を見せたら、たちまちヴァイスさんの顔が曇るんだよなぁ。


「こんなんで前に飛ぶのかにゃ? 私にも持てそうだけど、持ち手部分が下になってるにゃ」

「ワシも、それが気になってのう。それでここにいるんじゃ。ヴァイスが来たなら始めるがいい。ワシも忙しい身じゃからのう」


 そんなことで、俺から射ることになってしまった。

 弓を手にもって弦を引くと結構な強さだ。記憶に映る射程は100ユーデを越えているんだが、どれぐらい飛ぶのだろう?

 少なくとも、俺が練習している50ユーデでは不足だろう。リットンさんに頼んで、的を100ユーデ、150ユーデの2つを新たに作って貰った。


「遠距離射撃の的だから2ユーデ四方になるよ。ちょっと待っていてね」


 リットンさんが、直ぐに部下に指示を出して的を新たに作ってくれる。

 とは言っても、大きな的だからちょっと時間が掛かりそうだ。


「レオンなら50ユーデは必中距離じゃが、100ユーデ先では当たらんのじゃないか? ましてやその弓じゃ」

「弓にはいろんな種類があるみたいです。これもその中の1種ではあるようですが、本来の使い方は騎乗して使うようですね」


「騎兵なら槍じゃろうが! じゃが遊牧民の中には馬で矢を射る連中もいるようじゃ。しかし彼らが使うのは短弓じゃぞ!」

「だからこの弓の形があるんですよ。短弓と長弓の長所を取り入れているんです。とはいえ、矢をつがえる場所が中間点ではありませんから、狙いが正確に出来るかどうかを試してみたいんです」


「出来たよ!」


 リットンさんの声にベンチから腰を上げると、弓を持って射場に向かった。

 いつもより距離があるんだが、通常の弓でも俺なら100ユーデは届く。さてこの弓はどうだろう?

 矢をつがえると弓を引き絞る。さすがはガラハウさんだな。俺の腕力を考えてくれたようだ。

 最初の矢は100ユーデ先の的を狙う。

 タン! と鋭く弦が鳴り、矢が放たれる。

 的の少し上を狙ったんだが……、当たったぞ!

 練習すれば、100ユーデ先を狙うことは出来そうだ。ましてサイコキネシスを使うなら確実に的を射抜けるだろう。

 次の矢は、150ユーデを狙う。

 この距離なら的の1ユーデ上を狙わねばなるまい。

 放った矢は、的の中心を外れたが、まあまあ満足できる精度だな。魔族相手なら十分に使える。

 2つの的に次々と矢を放ったが、的を外れたものは無い。さすがはガラハウさんの作だな。良いものを作って貰った。


 射場から離れると、リットンさんの部下が矢を回収に向かった。

 そのまま俺は皆のところに向ったんだが、全員がポカンとした表情を浮かべている。


「さすがはガラハウさんの作です。狙いが正確にできますよ」

「お前さんの腕があるからじゃ。次はヴァイスじゃな? まさか100ユーデを試そうなんて考えておるまいな?」


「そこまで無謀じゃないにゃ。30、50そして最後に100ユーデを試してみるにゃ」

「100ユーデの飛距離でしっかりと刺さるなら、私の部隊にも欲しいよ。その辺りは考えているのかな?」

「それは弓兵達と相談して欲しいな。先ずはヴァイスさんの結果を見てみましょう」


 弓を持ったヴァイスさんがしっかりと的を見ている。

 普段との態度が全く異なるんだが、それがヴァイスさんの魅力でもある。

 満月に引き絞った弦が矢を飛ばす。ほとんど直線状に飛んだ矢は30ユーデ先の的に矢の半分ほどの深さまで突き立った。

 30ユーデ先の的に2矢を放ち、次は50ユーデに挑戦するみたいだ。最初の矢は遠距離の的に慣れないせいなのだろう。的の手前に突き立った。

 2矢目は的の上にどうにかささったけど、3矢、4矢は的の中心近くに突き立つ。

 うんうんと頷いているのは、弓の狙いを少し理解できたということだろう。

 最後に100ユーデに挑戦すると、5矢放って3矢が命中した。

 しっかりと的に突き立っているから、100ユーデで致命傷を与えることは確かだろう。


 全ての矢を放ったところで、ヴァイスさんが笑みを浮かべて俺達のところに戻ってきた。


「これなら十分にゃ。2個分隊分を作って欲しいにゃ」

「私のところにも欲しいよ。ガラハウさん、なんとかして!」

「困った連中じゃな。レオン、1個小隊分に予備を作ってやるぞ。冬前には揃えられるじゃろう。矢も長くなるから、木工所に頼まねばならんな」


 まあ、これで矢の飛距離が3割増し以上になったことは確かだろう。

 それだけ敵を遠くから倒すことができる。1個小隊分の短弓が余ってしまうから、別に弓兵を作ることも考えねばなるまい。

 クロスボウ部隊の中から有志を募ってみるか。クロスボウの射撃間隔の間を弓でカバー出来そうだからね。


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