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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-110 エルドリア王国軍の進軍が遅れる理由


 春の日差しが、根雪をドンドン融かしていく。

 開拓民が種蒔きに備えて畑を耕し肥料を鋤きこみに荷車をロバに曳かせていくのはこの時節の風物詩にも思えてきた。

 南の城壁作りが再び始まるということで、北のブドウ畑の予定地から石を退ける作業を明日から始めないといけない。

 もっとも、ナナちゃん達はすでに空堀掘りを始めたからなあ。

 妹分だけに苦労させるようでは俺の矜持が立たないだろう。


「今年はオビールさんが来るのが遅れてますね」

「それだけサドリナス王国が政情不安だからでしょう。治安も悪くなっているようですから、レンジャーを襲うような盗賊がいないとも限りません」


 とは言っても、オビールさん達なら盗賊を返り討ちにしてしまいそうだ。案外盗賊は慎重だと聞いたことがある。襲撃に1度でも失敗したなら潰滅の憂き目にあうと分かっているのだろう。

 だが、盗賊に成りたての連中はこの限りではない自分達の力を過信して相手かまわず襲うからね。

 そんなことから結成して1年を過ぎるような盗賊団は1割にも満たないと聞いたことがある。盗賊の数は自然に頭打ちになってしまうのだろう。

 

「夏至前にはやってくるでしょう。さすがに夏至を過ぎても来ないということになれば皆で考えないといけません」


 俺の言葉にますますレイニーさんの顔が暗くなってしまった。

 安心させようと思ったんだけど、失敗したかな?


 オビールさんが避難民を数十人引き連れて城門をくぐったのは、それから1か月ほど過ぎたころだった。

 荷車に石を積み込んでいる俺のところに、伝令の少年が走ってきてオビールさんの到着を教えてくれた。

 仲間に先に戻ることを伝えて、指揮所に向かう。

 すでに新緑の季節だから、結構汗をかいてしまった。途中の水場で軽く顔を洗って、冷たい水を飲む。

 かなり遅れていたことは確かだから、サドリナス王国で変事があったことは間違いない。その結果がどのように終息したか、もしくは継続しているのかを確認したほうが良さそうだな。


指揮所の扉を開けると、オビールさんがレイニーさんとお茶を飲んでいた。いつものせいに座ると、レイニーさんがお茶のカップを渡してくれる。

 大統領が自らお茶を入れてくれるのはこの国だけだろうな。少し威厳を持った方が良いのかもしれないけど俺達はそんな立場にたったことがないからね。


「だいぶ遅くなってしまった。荷はいつも通りにエクドラ殿に渡しているはずだ。避難民の数は56人。12家族になるがオリガン領とサドリナス王国の混成だ」

「いつもお世話になります。夏至を過ぎるようなら俺達も動かないといけないと思っていました。不足している荷が無ければこのまま冬を迎えられそうです」


 俺の言葉にオビールさんが苦笑いを浮かべる。

 言外の意味を理解してくれたようだ。

 

「西は少し遠いぞ。山伝いでの行動は魔族との一戦を覚悟せねばなるまい。それなら川を下って港に向かう方が危険は少ない」

「港は、獣人族の排斥は無いんですか?」

「それなりだな。昼に通りを歩くなら問題はないはずだ。レオン殿が獣人族の引く荷車の前にいるなら誰も文句を言わんだろう」


 使用人という立場であるなら獣人族の出入りも黙認しているってことかな。

 そうなると、港は一種の治外法権的な扱いになっているということなんだろうか?

 さすがに代官と軍の一部が駐屯しているように思えるんだが。


「港の警備はどうなってるんですか?」

「大商人達がギルドを作っているんだ。そのギルドが傭兵を雇って治安部隊を作っている。港には軍もうかつに手を出すことは出来ない。国外との貿易が止まったら困るのは自分達であることを知っているんだろうな」


 そういうことか。最悪の時には川を下れば良いと覚えておこう。

 お茶をワインに替えて一服を楽しみながらオビールさんの話してくれるサドリナス王国の状況を聞く。

 ブリガンディの状況も、定期的にやってくる船の船員からいろいろと伝わっているらしい。

 ブリガンディの方は相変わらずだが、サドリナス王国は王都で2度ほど民衆の反乱が起きたとのことだ。


「あれだけ略奪していたんだから、反乱がおこっても不思議ではない。第4皇子側に着いた兵士達も反乱に加わったようだ。おかげでサドリナス王国軍はかつての半分にも満たない。これではなぁ……」

「来るでしょうね……。今よりはマシになると思っているんですが、案外動きが遅いようです」

「確かに塀を動かすには良い季節だな。それを動かさないとなれば、ブリガンディと調整を図っているのかもしれんぞ」


 思わず飲みかけのお茶を噴き出すところだった。

サドリナス王国の分割ってことか。

 それならブリガンディ王国とにらみ合うことはなくなるだろう。どのあたりに線を引くことになるんだろうか?


「交渉で問題があるとすれば南の貿易港の扱いだろう。かなりの利権をもたらすからなあ。王都を貰うぐらいでは割が合わんかもしれん」


 交渉が長引いているってことか……。

 あまり長引くとブリガンディの方の取り分が無くなりそうだが、果たして妥協点はどのあたりになるんだろう。


「ブリガンディに貿易港が近すぎますね。なるほど、エルドリア王国の進軍が遅い理由が飲み込めました」

「向こうも魔族には手を焼いているに違いない。美味しい実が隣にあるのに手を伸ばさないんだからなあ」


 互いに笑みを浮かべてしまった。

 お互いに弱点があるということだろう。進軍するにしても大軍を派遣することは出来ないということかな。

 西と東から2個大隊を進軍させれば、案外簡単にサドリナス王国が滅びそうだ。

 だが、サドリナス王国の分割方法によっては、両者の争いに発展しないとも限らない。

 出来ればエルドリアに貿易港を押えて欲しいところなんだけどなあ……。


 いつものように俺にワインとタバコを差し出して、オビールさんは仲間のところに戻って行った。

 残された俺達はお茶を入れなおして、改めて互いに顔を見合わせる。

 

「サドリナス王国の分割となれば、この地方はブリガンディ王国に組み入れられてしまいそうですよ」

「地理的にはそうなりますが、貿易港に利権をエルドリアが簡単に手放すとも思えません。飛び地として組み入れることも考えられます」


 商人達が街道に出る時に税を掛けるぐらいはブリガンディ王国にも出来るだろうが、あまり税を上げると小舟を使ってエルドリア方面に向かいかねない。

 交易路をどのようにするか、サドリナス王国の分割次第では考えねばなるまい。

 荷馬車を連ねての交易は影響がありそうだが、オビールさん達が間に入れば、現状程度の交易は続けられそうだ。


「まったく、ろくでもない王国だったということじゃろうな。内乱で隣国に領土を奪われるとはのう」


 いつもの連中が、オビールさんの置いて行ってくれたワインを飲みながら俺の状況説明を聞いている。

 その途中でガラハウさんがそんな言葉を言ったから、指揮所が騒がしくなってしまった。治まるまで一服しながら待っていよう。


「今後の交易に影響が出る可能性がありますね?」


 エクドラさんの言葉に、急に場が静かになる。

 本当なのか? という目で俺を見てるんだけど、俺に責任は無いからね。


「エルドリア王国がサドリナス王国に軍を進めないのを不思議に思っていたんですが、どうやら最小限の戦でサドリナス王国を滅ぼそうと考えているようです。俺もオビールさんに話を聞いて驚いたんですが、ブリガンディ王国と組んで東西から軍を進めれば簡単にサドリナス王国は降伏するでしょう。2つの王国でサドリナス王国を分割するとなればその線引きが問題です。エルドリア王国が中々軍を進めないのは、交渉が上手く進んでいないせいだと思っています。その原因は、南の貿易港をどちらが手に入れるかということではないかと……」


「貿易は莫大な富を生むと聞いたことがありますよ。なるほど、もめるでしょうねぇ。落としどころが無いように思えます。あまりにブリガンディに近いですから」

「利権を両者で分けると言っても、いくらでも裏取引が出来そうじゃわい。そうなると……、今度はブリガンディとエルドリアで争うことになるんじゃないか?」


「そんな余裕が互いにないのではと思っています。サドリナスにはあまり魔族が攻め入っていなかった。つい最近ですよ。魔族が動きだしたのは」

「サドリナスに進駐して、なおかつ魔族を跳ね返す軍を互いに持っていないと?」


エルドさんの問いに、大きく頷いた。

 再び指揮所が騒がしくなってくる。これを機会に、サドリナスを俺達で滅ぼそうなんて言ってるけど、さすがにそれは無理だろう。

 俺達の戦力が10倍ほどになっていないと、その後で魔族に痛い目に合わされそうだ。


「静かに! 現状はレオンの言った通りです。私達が積極的に動くことはありません。互いに手を出しかねている状況であるなら、計画通りに城壁と石垣を作ることが出来ます」

 

 レイニーさんの言葉に、皆が静まった。

 結局は俺達にとっても良いことだと思えば十分だろう。

 とはいえ、南の貿易港がどちらに動くのかは気になるところだ。

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               ・

 夏が終わろうとする頃、トウモロコシを取り入れることが出来た。

 1つに3本程の実を付けさせたから、結構実入りも良いようだ。収穫したトウモロコシの皮を剥いて、紐にぶら下げて天日干しにする。

 ある程度乾燥したところで、身を解せばたくさんのトウモロコシの実が取れるだろう。

 そのまま塩ゆでにしたい衝動にかられたけど、ここは我慢だな。

 半月ほど天日干しにしたところで、身を両手で絞るようにすれば、面白いように実が剥がれ落ちる。大きなザル2つ分になった実を、再びシートに広げて乾燥させる。


「これを食べるんですか? 豆にも見えなくはありませんが、かなり固いですよ」

「まだまだ乾燥させないとね。その後は石臼で突いて粉にするんだ。来年撒く種はすでに確保してあるから、これを全部使っても大丈夫ですよ」


 主食としても使えると記憶に把あるんだが、果たしてどんな味のものが出来るのだろう。

 粉にして水で練り合わせてからカマドで焼くということになるようだけど……。


「カチカチにゃ! これを食べるのかにゃ?」

「食べられるよ。新年に作ってみるからね」


 ナナちゃんが笑みを浮かべる。どんな味なのか分からないけど、ソバ粉半分ほど入れて焼いたパンよりは美味しいんじゃないかな。


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