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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-100 尾根の指揮所を建て替えよう


 一度村に戻って、防衛委員会を開くことになった。

 村から弓兵とクロスボウ兵を1個小隊ずつ率いてきたエミールさんに、後を任せて俺達は村へと帰ることにした。


 防衛委員会のメンバーは、中隊長であるエルドさんにダレルさん、それとマクランさんに俺とレイニーさん、それに副官達だ。ダレルさんの副官のエミールさんは西の尾根だから、欠席している。工房長のガラハウさんとレンジャーの代表であるトレムさんも普段はあまり参加しないんだが今日は参加してくれた。


「まったく、今まで西は何事も無かったのじゃが……」

「そもそもが魔族を相手に戦っていましたからねぇ。ある意味必然ということでしょうか」

「先ずは威力偵察だけど、次がどう出るかだね」


 お茶を飲みながら、先ずは雑談から入って行くことにしたようだ。

 レイニーさんは何も言わない。しばらくは参加者の意見を聞くことにしたみたいだな。


「場合によっては2方面の戦になるぞ。レオンが懸念していたが、まさか直ぐにそうなるとはなぁ」

「西の尾根はこの村より防御力が高いにゃ。尾根全体が城壁みたいにゃ」


「戦では指揮所めがけて押し寄せてきたと聞きましたが?」

「「やはり目立つからなんだろうね。そんな意味で作ったわけじゃないんだけど……」


 俺の言葉に、皆が一斉に俺に顔を向ける。


「そういう事か……。それなら指揮所をもっと頑丈に作れば良かろう。それはワシも少し手伝おうぞ。小型のバリスタも用意しておけば迎撃は容易に思えるのう」


 話があちこちに飛んで中々進まないんだけど、それでも西の尾根の指揮所に小型バリスタを2つ、兵士の待機所に1つを設置することになった。

 指揮所までの道の整備も早めに進められるよう、トラ族兵士1個小隊の派遣も了承された。

 

「まだ仮の柵とのことですが、現状でも十分に役立ちます。それにあれだけ南北に長いとなれば、やはり指揮所を敵としても攻略点とするのは理解できますね」

「丸太の掘立小屋なんだけどなぁ。もう少し強化した方が良いのかもしれないね」


エルドさんの言葉に同意はしたものの、本格的な物を作るとなれば結構面倒だぞ。


「少なくとも火矢を防げないとダメにゃ。西と南北の壁に泥を塗りつけるにゃ。屋根は土を被せれば十分にゃ。指揮所の屋根も見張り台に出来そうにゃ。弓兵を1個分隊乗せられれば、後ろの敵兵に矢を放てるにゃ」


 泥に藁や蔦を混ぜて塗り込むか……。屋根の土の厚さも気になるところだ。あまり暑く乗せると屋根が崩れてしまいそうだからね。


「いっその事、建て替えますか? 魔族の襲撃があるとしても直ぐということは無いでしょう。この指揮所より少し小さめのものを作るならそれほど時間もかかりますまい」


 マクランさんの一言で、建て替えが決まってしまった。

 魔族を迎え撃つ拠点ともなる場所だから、防御力の高い指揮所を改めて作った方がマシかもしれない。

 そうすることで屋根を頑丈にできるだろうし、見張り台も併設できそうだ。


 こんな感じですか? と黒板に概要を描くと、直ぐに修正が入ってくる。

 作るならしっかりしたものというのだろうが、あまり凝ると材料を運ぶのが大変になりそうだな。


 何とか2日掛けて、皆が納得する指揮所が黒板に描かれたが、今いる指揮所よりも大きくなってしまった。

 指揮官室と副官室を併設しただけでなく、武器庫まで作ったからだろう。

 1階の大きさは奥行10ユーデ、横幅は15ユーデにもなる。屋根の大きさも同じになるのだが、入り口付近に3ユーデ四方の見張り台を3階建てのような形で設けることになった。そこからなら西の低い尾根の向こう側まで見通せるだろう。


「これだけ大きいと現在の土地をさらに広げないといけませんよ」

「こんな形で足場を組むにゃ。後で土を入れて固めれば良いにゃ」


 確か舞台造りとかいうんじゃなかったか? まさかそんな建築をこの世界で見られるとは思わなかったな。まして自分達で作るんだからねぇ……。


「壁は泥ではなく、簡易セメントと呼ばれる代物で塗れば敵の攻撃にも安心できるでしょう。柵に立て掛けた盾についても同じように塗れば強度も上げられるはずです」

「待機所も場合によっては激戦になりそうだ。同じように盾は措置しておいた方が良いかもしれんな。それに移動式の柵はいくつか用意しておくべきだ」


 3個ぐらいは作ってあるはずだ。西には柵があるけど、南北にはなにもない。

 指揮所の下には屯所間を結ぶ道が出来てはいるんだが、2人並んで歩けるような道ではない。そんな道ならちょっとした障害を設けるだけで簡単に敵を足止めできるし、待機所の周囲を移動式の柵で囲むだけでも防衛力は格段に上がるだろう。


「明日は準備をして出発は明後日で良いでしょう。エクドラさんにお弁当を頼んでおきます」

「俺が2個小隊でダレルのところが1個小隊、レオンのところは?」

「1個分隊です。工事中の周辺監視をして貰います。伝令の少年3人とナナちゃんも一緒です」


 出来ればエクドラさんのところから軍属の小母さんを2人程……、なんて言葉を誰かが小声で言っていたぞ。

 それも必要かもしれないな。場合によってはエニルと相談して銃兵を2個分隊に増やして貰った方が良いかもしれない。


 しばらくは村に戻れないから、村の様子をナナちゃんと見回ることにした。

 たまに小母さん達が俺達に挨拶してくれるんだけど、皆笑顔で接してくれる。この村なら安心できるということなんだろうな。俺達も笑みを浮かべて挨拶することが出来る。


「どこに行くにゃ?」

「食堂だよ。この時間ならエクドラさんがいるはずだ」


 とは言っても、村には3つの食堂があるから、1つずつ訪ねて行かねばならない。先ずは最初に出来た食堂に向かうことにした。

 

「今日は!」


 最初の食堂に顔を出したら、「は~い!」と返事をしてくれたのがエクドラさんだった。食堂のテーブルを付近で拭いていたらしい。


「あら? 珍しいわね。どうしたの?」

「実は……」


 近くのテーブルに俺達を座らせると、奥に向かってエクドラさんがお茶を頼んでくれた。

西で魔族と争った事と、それに伴い砦のような指揮所を作ることになったことを話すと目を見開くようにして俺達の話を聞いてくれる。

テーブルにお茶を運んできた小母さんを呼び止めて、エクドラさんが隣に座らせる。


「ジョネリーとハンナを同行させるわ。レイニーから2人程頼まれたのはそういう事だったのね」

「レイニーさんは詳しく話さなかったんですか?」

「明日に2人を部隊に同行させてください、と言って出てったの。急いでいたみたい」


 いくら急いでいたとしても、その理由ぐらいは話した方が良かったんじゃないかな?

 思わずナナちゃんと顔を見合わせてしまった。


「ジョネリー、どうやら西の尾根みたいよ。武器は使えたわよね?」

「元が槍兵ですよ。ハンナは弓兵だと聞きました。ということは……、相手は魔族ですね」


 軍属と話は聞いていたけど、元兵士だとは思わなかったな。てっきり夫が兵士だと思ってたんだけどね。


「生煮えのスープなどを食べたら、魔族相手に力も入らないでしょう。大丈夫、私達に任せておきなさい。ところで人数は?」


 3個小隊ほどになると答えると、数名の女性兵士を手伝いに来させるように言い付けられてしまった。これはエニルと相談だな。

 村を一回りして、南の城壁の工事現場を眺め、最後に雑貨屋に寄ってタバコとワインを買い込む。ナナちゃんは飴玉を買い込んだようだ。

 あまり買い込むと直ぐに在庫切れになりそうなんだが、タバコ2袋ほどなら統制に引か掛からないらしい。

 売れているのか聞いてみたら、今日は普段よりも客が多いと教えてくれた。

 やはり出発前に少し買い溜めしたみたいだな。


 指揮所に戻って、俺達の部屋に戻り明日の準備を始める。

 この間の戦で矢を消耗しているから、予備の矢を箱から取り出して魔法に袋にも2会戦分を補充しておく。ナナちゃんも同じように準備しているけど、今度はボルトを多く持っていくようだ。


「こっちの方が1発で倒せるにゃ。狙うのは簡単にゃ」


 どう簡単なのかと悩んでいると、矢では喉を狙って放っていたらしい。ボルトは頭でも腹でも当たればその場に昏倒するとのことだった。

 それだけ深く鏃が入るってことなのかな?

 もっとも、ナナちゃんの場合は至近距離で放つからなぁ。無駄矢が無いとヴァイスさんが前に言ってたけど、ヴァイスさん達だってナナちゃんと同じ距離で放てばそれなりの名人と言われるんじゃないかな。

 全ての準備が終えたところで、ナナちゃんは指揮所を出て行った。

 池に行ったのかな?

 俺はここでのんびりしていよう。

 ストーブからポットを下ろしてカップにお茶を注ぐ。

 パイプに火を点けて、地図を眺めながら2方面作戦の方法を考えてみよう。


 魔族と王国軍が協力することは無いだろうが、たまたまそれに似た状況が出てこないとも限らない。

 最悪想定は常に考えねばなるまい。

 

 やはり、現状では無理がある。

 4個中隊といっても、軍隊のように4個小隊ではなく3個小隊が良いところだし、マクランさんの部隊は全員が民兵だ。

 1個中隊を西に回して、3個中隊でこの村を守ることになる。南に2個中隊、他の3方を1個中隊……。かなり防御が薄くなってしまう。

 やはり2方面戦となると、総動員を掛けねば無理がある。


 翌日。朝食を済ませると、指揮所前の広場に大勢が集まりだした。

 3個小隊ほどになるからなぁ。工事資材も荷車に10台ほどに積まれている。

 指揮所前のベンチでパイプを咥えながら全員が揃うのを待っていると、次々と小隊長達が諸小郷完了の報告をしてくれる。

 どうやら全員が揃ったようだな。

 ベンチから立ち上がり、俺の傍でじっと報告を聞いていたレイニーさんに出発を告げると、大きく頷いてくれた。


「必ず見張りを付けておきなさい。魔族相手の油断は死に繋がります」

「それはレイニーさん達に教えて貰ったつもりです。それでは……」


 広場の中ほどに歩くと、大声で「出発!」と号令を出した。

 最初に歩き出したのは弓兵を率いるヴァイスさん達だ。その後ろにトラ族の小隊が荷車を引いて続き、最後は俺達の部隊になる。

 今回はトラ族だけで1個小隊だからなぁ。案外簡単に指揮所を立て替えられそうだ。

 


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