【5月号】【4体目 戦力アップと敵はセットなのです!】
【DoMA 作;黒口穂波】
【4体目 戦力アップと敵はセットなのです!】
初めに言っておくが僕、土田琢磨には女の子を傅かせる趣味を持ってはいない。そう、断じて初対面の人に、「ハハー」とさせるような行動は起こしていない……はずである。
【まぁ、そんな事を言われても今、目の前の光景を見たら、説得力が全くないけどね】
(うるさいよ)
と、僕は体の中でツッコミを入れるアリスに対してそう苦言を申した。そして目の前で行われている光景を改めて整理する事にした。
まずここは、部活動が多い現代には珍しいマンモス高校である文釣高校。そしてここは、放課後は主に【新世界剣道部】が使っている第4剣道場である。
うちの高校には4つの剣道部が存在する。まず、第1剣道場を練習場所として使い、一般的な剣道を使う【本家剣道部】。次に第2剣道場を練習場所として使い、二刀流やら銃剣を使ったりと言った実践で使える剣術を教えている【戦式剣道部】。第3剣道場を練習場所として使い、どうすれば相手に対して美しく見えるかと言った剣技を学んでいる【新世代剣道部】。そして、その4つの剣道部の中で一番強いとされる、第4剣道場を使う、【新世界剣道部】の4つである。
この【新世界剣道部】は、剣道、剣術、剣技のどれでもない、剣法を学ぶ場所である。とは言っても普通の剣では無いらしく、一瞬にして相手の元へ跳ぶ【羽馬】、剣の長さを悟らせないようにする【水面】、一発ごとに放つ速度が上がる【激流】などと言った、明らかに人間離れした剣で数々の剣の大会に優勝してきた。ちなみに他の3つの剣道部は優勝経験がなく、剣道部で優勝と言うとこの【新世界剣道部】の事を指すのである。
敵がどんな敵なのか分からない僕は、一番強いと言われている【新世界剣道部】へと訪れ、そこの唯一無二の部員とされている、剣に置いて文釣高校最強の女性2人の元を尋ねた。
黒髪の長いポニーテールと切れ長の瞳と高身長が特徴的な、一度攻めに転じると相手は攻める事が出来ないとまで言われる【最強の矛】にして【新世界剣道部】部長、2年の宮本焔先輩。
金髪のショートヘアーと見る物を虜にする笑顔と愛らしい体躯が特徴的な、どんな相手の攻撃もすんなりと流してしまい攻撃が通じない【無敵の盾】にして【新世界剣道部】副部長、2年の佐々木夜見先輩。
うちの高校の『攻めの宮本、受けの佐々木』と評される2人の剣道少女。僕はその方達に教えを乞うべく、放課後に第4剣道場を尋ねたのだが、
「ごめんくださ~い」
「「ははっ! 只今参ります!」」
扉を開ける。
声をかける。
すぐさま正座をしてお出迎え。
ここまでの動作はすんなりとしている行動であり、逆にあんまりにもすんなりとした行動なので驚いて、頭がついていけないのである。
(なぁ、アリス。僕はこの2人に、【命令権】は使っていないはずだけど……)
と、僕はそうアリスにそう尋ねる。
【命令権】、それは1日10回ずつ増えて行く、アリスが持つ他者に対して何でも命令できる権利だ。この能力によって、この前の【第2魔術部】と名乗る少女を追い返す事が出来たのだ。しかし、この2人に対してはまだ何もしていないはずなのだが……。
【私も実は驚いているのだが、こいつらはどうも旧時代に生きていたObFLのようなのだ】
(オブフル……ってなんだ? またこの前のDoMAの一種?)
【似ているが違う。我々、DoMAは宿主が死ぬ度に別の惑星へと旅するような、寄生型にして渡り人な性質を持つ高等生物だが、ObFLは違う。奴らは一度その場所に決めたらその星を離れない、生命型にして根を張る下等生物だ。
ObFLとは、『Obedient Fighting Life』、分かりやすい言葉で言えば『従順にして戦いの生物』。彼らは隕石のようにして惑星へと降り立つと、そこに住む支配種族、地球で言えば人間に当たる種族の姿へと変貌を遂げる】
(何のためにそんな事をするんだ、そのObFLは?)
【ObFLの目的は単純だ。『強くなる事』、その一点にすぎる。彼らは純粋に力を追い求めるために、一番効率が良い、支配種族の姿を模す事を覚えたのだ。そして、星の消滅まで、支配種族と同じ姿の身体でどれだけ強くなれるかを考える種だ。居る所には居る、戦闘に長けた種族だ。少なくとも、並みの支配種では太刀打ちできないだろう】
……この2人、良く「宮本の動きは人間としてあり得ない」、「佐々木の読みは神の領域だ」と評されていたけれども、本当に人間ではない宇宙生命体だったのか。なんかすげー。
「けど、それがどうして僕に対して、ここまで卑屈に傅く様が完成するんですか? そんな事しなくて大丈夫ですから、姿勢を崩してください」
いつまでも学校の先輩を傅かせる趣味がない僕は、アリスとの会話を止め、そう言う。
「はっ。ありがたき幸せです、陛下。この宮本、生涯の宝として脳に記憶します」
「私もです、閣下。佐々木夜見、今までで一番の幸福です」
傅くような姿を止めて貰ったのは嬉しいけど、涙ながらに嬉しいと語る2人の少女、しかも先輩。だから、これは一体……。
【あぁ、これは全宇宙序列のせいだな】
(全宇宙……序列……? それって、何?)
【宇宙進出星で定められた、宇宙人内での序列さ。上位の者は下位の者を従える権利を持っていて、上位の者と下位の者には遺伝子レベルで刻み込まれているので、会ったらすぐに理解するんだ。確かObFLは宇宙序列123位だったかな?】
なるほど。つまりは、宇宙に進出するほどの力を持った宇宙人同士の間で通じる事って訳か。さしずめ、彼女達は宇宙序列なんか関係ない地球人の僕ではなく、この身体の中に居るアリスに対して敬服したと言う事なのだろう。何か……分かってみると、虚しいな。
【あれ……? でも、宇宙序列って……】
アリスがぼそぼそと何かを言おうとしているが、僕はその言葉を遮って、と言うか気にしないようにして先輩に話しかける。
「えっと……先輩。僕、どうやら誰かに狙われているみたいで、出来る事ならばけn……」
『剣の稽古をつけてください』。僕はそうお願いするつもりだったのだが、何を勘違いしたのか2人は涙をハンカチでさっと拭いて、こちらに向かって敬礼する。
「はっ! 不肖、宇宙序列123位ObFL、宮本焔! 宇宙序列4位の土田琢磨陛下のために力を使う所存であります!」
「私も! 同じく宇宙序列123位ObFL、佐々木夜見! 宇宙序列4位の土田琢磨閣下のために知恵を使う所存!」
2人して、何故か『剣の力を貸してください』みたいなパーティー的な意味合いでこちらを見て来る。
ち、違う! 確かに戦力アップは嬉しけど、僕がしたかったのは自身の戦力アップで。
【まぁ、どっちも同じでしょうよ、琢磨。良いじゃないか、強い力を持つ友達が、無条件で仲間になってくれたんだ。しかも、どちらも可愛らしい女の子なんだから、年頃の男子なら嬉しくてたまらないんじゃないかな?】
【ほれほれ~、どうなんだよ~】とあからさまにおやじ臭い言葉で僕に話しかけてくるアリスに、僕はまぁ、嬉しくないと言えば嘘になるかも的な気持ちで、
「と、とりあえずよろしく……」
と手を出して、親愛の握手をしようとしたその瞬間、
「「危ないです!」」
2人していきなり持っていた木刀を振り、僕の背後に剣を振るう。その後に聞こえる何かがぶつかり合う金属音。振り返ると、そこには木刀ではなく真剣の刀を持った真剣な瞳の宮本先輩と佐々木先輩の姿。下には2人が撃ち落としたと思われる手裏剣。
そして、
「あぁー。やっぱり不意打ち程度じゃあ、弱いかぁ。まぁ、仕方ないよね。この程度で捕まえられるくらいならば、【第2魔術部】の【廃院】送りが可笑しくなっちゃうもん」
と呟く、眼鏡をかけた優しそうな、だけれども見ているだけで凍えそうな笑みを浮かべた男子生徒の姿があった。
「初めまして。わたくしの名前は後藤いろは。【超常タロット研究部】の部長にして、君達を捕まえに来た一般生徒さ」
そう言う彼の背後では、21枚のカードが宙に浮いていた。
【次回へ続く】




