【4月号】【その5 美容】
【ここは魔物町 作;二人羽織】
【ここは魔物町 その5 美容】
ここは魔物が住まうのもま町。多くの魔物が住まうこの町で、今日も今日とて平和で、どこか可笑しい毎日が繰り返されている。
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「うっ! ちょっと太っちゃたかな……」
「うっ、や、ヤバいかもしれないです……」
と、長い黒髪を持った、ちょっと太めの女子高生、二口女は体重計に映る自分の体重を見て、そう口にしていた。二口女とは後頭部にもう一つの口を持つという女性の妖怪である。
「やっぱり両方の口で食べるから太りやすいのかなぁ……」
「本当に最悪……。けどまぁ、二口女の性質として正しいしな」
彼女は人の口、そして後頭部にもう一つの口があって、普通に二人分食べてしまうのである。そのせいで二口女は普通の者より太りやすく、彼女はそれを極端に気にしていた。
「顔のニキビも増えて来た気がするし……。1個、増えてると思うし……」
「そうね、ちょっと腰のくびれも太くなってるかも……ね」
まぁ、二口女はかなり美容に感心を持ちすぎる人物なんだけれども。美容事に対して関心を持ちすぎる彼女は、ありもしないニキビやそんなに変わらない腰つきに対して異様な興味を持ってしまうのである。
「「そう言えば、雪女さんがダイエット教室を開こうとしているんでしたっけ?」」
美容に興味のある二口女は、近々開かれるとされている知り合いである雪女のダイエット教室の場所が書かれているチラシを見ていた。
☆
「それで? 私のダイエット教室に、そんな薄着で脂肪燃焼のためにやって来たと言う訳ですか」
薄い浴衣のような和服を着た色白美人、雪女は酒を飲みながら目の前でぶるぶると震える二口女に対して声をかける。
「は、はい……」
「正直、舐めてましたです……」
と、二口女の二つの口からそう言う声が震えながら出ていた。
雪女のダイエット教室。
それは他のダイエットのように熱い場所で熱くなるトレーニングをして死亡を燃焼させるものでは無く、寒い場所で無理矢理身体を温めなければならない状態で死亡を燃焼させると言う方法だった。つまりは、人間寒い所に居れば身体を温めるために脂肪を燃焼させると言う事を利用した、ダイエットであった。最も雪女も二口女も人間ではないのだが。
「まさか……ブルブル……。いきなり寒中水泳からとは……ブルブル……」
「その後、かまくらを作らされたわよね……ブルブル……」
二口女は震えながらそう言う。
「にしても、二口女さんはわざわざダイエットしなくても良いのでは? とってもお綺麗ですのに」
「「あんたの美的感覚は信じられないのよ!」」
と、雪女の褒め言葉に対して大声で反論する二口女。それも無理はない。
雪女にとって魅力的な者とは……自分が居た北の地方で見られるような、大柄で太っている者の事なのだから。
「まぁ、二口女さんは私の好みから外れてますがね。
……あぁ、熱い胸板。ずんぐりとした身体つき。ボーボーに生えたヒゲ。そして良く出た腹。あぁ、私の理想の殿方はいずこに……」
「絶対、デブ専だよね……」
「いや、ファザコン?」
うっとりとした顔で理想の男性像を語る雪女に、二口女はこそこそと口をはさむ。
「そこ、一言多いです!」
雪女はそうやってちゃかす二口女に注意する。本当は口も一つ多いのだが。
その日は雪女と二口女は大いに飲み、騒いで、結果いつものように二つの口で一人分ずつ、計二人分を平らげてしまった二口女は翌日、体重計の前で絶句する事になったのであった。
【次回へ続く】




