【創刊号】【【読み切り】つちのこ!】
【【読み切り】つちのこ! 作;二人羽織】
つちのこ。それは伝説上の生物であり、蛇に似た外見を持つ謎の生命体。それは今から45年前、U町にて発見されていた。これはそのつちのこを見つけ出した少年少女のお話である。
#この物語は一部歴史に基づいて作られております。
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45年前、U町174番地。
小学3年生の俺、稲荷山直太郎は囲炉裏にて茶を飲んでいた。
「ふぅー……」
と、俺は茶を飲んでいた。夏だから休憩するためだ。すると、いきなり壁が吹き飛んだ。嘘偽りなく、過不足なく、吹き飛んでいた。俺は壁を吹き飛ばした相手を睨みつける。
「……あれ? この壁、物凄い脆いね! 女の子の拳だけで壊れるなんて脆すぎるよ! 私、か弱い女の子なのに!」
「か弱い女は拳などという表現は使わないと思うぞ、芦屋」
と、俺は壁をブッ飛ばした女、同級生の芦屋史。黒髪を後ろでくくっており、いつも陰陽師の服装をしているこの女は、かの有名な芦屋一族の血を引く人物らしいが、どうにも妖怪を倒す事に関してはあまり乗り気ではない。嘘を吐け、嘘を。どう見ても、俺を殺そうとしているじゃないか。まぁ、俺は妖怪ではないけれども。
「と言うか、何しに来た。人の家の壁を壊してまで来る用があったんじゃないか?」
「あっ、そうだった。そうだった」
と言うか、何もなくて壊されるのが嫌だから聞いただけなのだが、どうやらあるらしい。そして彼女はジャジャ、ジャーンと自分で声を出して、
「つちのこー!」
とつちのこを取り出した。そうか、つちのこか……って、え―――――――――――――! おいおい、つちのこって未確認生命体じゃなかったか!? やべー! 暑くて参っていたが、テンションが上がってきた―!
「おいおい、つちのこなんてどこから手に入れやがった!?」
「えへへ……山の中を探っていたらいたんだよ」
「そんな簡単に見つけられたら、賞金なんてつかないって!」
つちのことは、蛇に似た身体を持つUMAであり、見つけた者には賞金が出るとされている。そんなのがここ、U町にいたなんて……!
「と、とりあえず、縁さんの所に持っていこうぜ!」
縁さんとはここいら一帯を率いている暴走族の族長であるが、不器用ながらも優しい性格のために皆に気に入られている。あの人につちのこを大々的にテレビに出すために、バイクを借りようと俺はそう思った。
「そうだね! 持っていこう!」
ワーイ! と、つちのこを振り回す芦屋。おいおい、はしゃぎすぎだぜ。
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「無理だな……悪いが私はそんな事を頼まれる筋合いはない」
と、縁さんはそう言う。
藤堂縁、高校3年生。バイクにて暴走族をまとめ上げているお姉さんは、いや姐さんはそう言った。長ったらしい黒髪と、適度に着流したセーラー服を着た長身の姐さんは小学3年生の俺らに目線を合わせてこう言う。
「言っておくが、これはお前らのためを思って言ってるんだぜ。つちのこなんて、誰にも信じられないだろうが」
「「そ、そうだね」」
と、縁さんの言葉に俺達はそう言う。つちのこ騒動として多くの場所が挙げられているが、本当に正しいつちのこは見つかっていないのだ。だから、これもつちのこではないのかも知れない。どう見ても、つちのこにしか見えないけれども、つちのこだと認めて貰えないのかも知れないのだ。
「「貰えないのか……賞金」」
「大切なのはそこかよ、ガキ共。……ったくよ。しゃあねえな」
と、縁さんはそう言って、俺と芦屋の背中を掴む。
「お姉さんが奢ってやるから、泣き止みやがれ」
「本当! 姐さん!?」
「ありがとう、姐さん!」
「良いから、そのつちのこを放してやりな」
と姐さんが芦屋に言うが、芦屋は放したがらない。俺は
「皆に認められなくても良いんだ。俺らが覚えておけばそれで良いんだ」
「うん……。そう、だね」
と、芦屋はどこか納得した顔で、手を放す。つちのこは手を放されて、嬉しそうな顔で逃げて行った。
「よし! 行くか、喫茶店!」
「「えー! もっと高級なのが良い!」」
「黙りやがれ、このガキ共。女子高生にたかるな」
俺は姐さんに高い物をお願いしつつ、つちのこの姿を覚えていた。
テレビに映らなかったのは残念だが、この俺の心に覚えておけばいいんだと。絶対に忘れないように。
【おわり】




