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嫁して3年、子なしは去れ!と言われたので、元婚家の政敵の屋敷でお世話になります!  作者: 江本マシメサ
第四章 悪を討て

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下町へ

 翌日、メクレンブルク大公と王太子の看病をメルヴ・ウィザードとふわりんに任せ、私とエーリク様は揃って馬車で出かけた。

 向かう先は下町――そこに私がお世話になった魔法使いがいる。


「ゼラの知り合いだという魔法使いについて、詳しい話を聞いていなかったな」

「そうでした」


 昨日は夜遅くなってしまったので、詳しくは当日にと言っていたのである。


「もしかしたらエーリク様のお知り合いでもある可能性もあるのですが」

「名はなんという?」

「マルベリーさんです」

「初めて耳にする名だ。家名は?」

「バーベナだったと思います。お店の名前が、家名だとおっしゃっていたので」

「マルベリー・バーベナか、どちらも覚えがないな」


 驚いたことにエーリク様は魔導会に登録している家名、全五百軒をすべて暗記しているという。


「国内の魔法使いがすべて登録してあるわけではないのですね」

「ああ、魔導会に所属しているのは、国内にいる魔法使いの三分の一以下だろう」


 もともと魔法使いというのは協調性がない人達が多いようで、所属していても、魔導省の集まりに参加しない者もいるようだ。


「まあそんなわけだから、僕が把握していない魔法使いのほうが多いだろう」

「そうだったのですね」


 マルベリーさんは魔法で調合した石鹸や香水などを販売するお店を営んでいる。

 いつ行ってもお客さんはいないのだが、そこそこ儲かっているらしい。


「魔導会が把握していない店があったとはな」


 なんでもその昔、魔法使いが営むお店にやってくるお客さんを巡って、大きな争いが起きたらしい。そんな争いを治めたのが魔導会だった。

 その後、魔導会には魔法使い同士の店が競合しないよう、さまざまな取り決めを定め、商店の営業を許可しているという。


 話をすればするほど、マルベリーさんについて話してよかったのか、と思ってしまう。


「して、そのマルベリー・バーベナとはどのようにして知り合ったのだ?」

「下町の教会に慈善活動にいったさいに、少しトラブルに巻き込まれまして、助けていただいたんです」


 それは二年半前くらいの話だったか。

 道に迷って、治安が悪い区画にうっかり足を踏み入れてしまったのだ。


「すぐに引き返せばよかったのですが、ここまで来たのだから、どうにか迂回して教会に行けないかと前に進んだところ、さらなる深みに足を踏み入れてしまいまして」


 結果、下町の中でも非常に危険な場所に行きついてしまったのだ。

 そこは悪事を企む者達が多く潜伏していた場所だったようで、すぐさま目を付けられて絡まれてしまったのである。


「奴隷商らしき人達に掴まりそうになった瞬間、マルベリーさんが助けてくださって……」


 途中から、エーリク様は私の話を呆れた表情で聞いていた。


「ゼラ、お前は離縁する以前も、一人でのこのこ出歩いていたのか?」

「その……はい」

「礼拝堂で会ったときは、すでに独り身だったから供を連れていないものだと思っていたのだが、まさか常日頃から単独行動していたとはな」


 離縁前はメクレンブルク大公夫人から、外出時に使用人を連れて回るのは人件費の無駄だと言われ、独りで行くように言われていたのである。

 最初こそ戸惑い、不安に感じていたものの、慣れたら身軽で行動しやすかったのだ。


「それで、続きは?」

「ああ、はい。偶然通りかかったマルベリーさんが、拳で成敗してくださって」

「拳? 魔法使いなのに?」

「はい!」


 マルベリーさんはレースたっぷりのドレスに身を包んでおり、装いなどは上品そのものだが、背は見上げるほどに大きく、体もがっしりしていて、さらに豪腕の持ち主なのだ。


「豪腕の魔法使いだと?」

「ええ」


 エーリク様がそう口にしたとき、何かが引っかかった。

 けれども気のせいだろうと思って頭の片隅に追いやる。


「それにしても、危険な区画にいたマルベリー・バーベナとやらも、怪しい人物ではないのか?」

「そんなことありません! マルベリーさんもわたくしと同じように、道に迷ったとおっしゃっていましたので」


 そのあと、二人揃ってさんざん下町を迷いながら目的地に行くことができたのだ。


「演技で迷った振りもできると思うのだが」

「そうかもしれません。でも、マルベリーさんはそのあとも親切にしてくださって」


 議会で論争する前にも、必要な魔法の知識を叩き込んでくれたのだ。


「ああ、なるほど。ゼラの論争に勝てないと思ったら、魔法使いの介入があったのか」

「はい」


 なんでもエーリク様が私が国家図書室で必死になって魔法の勉強をしていることは目撃していたという。

 けれども魔法使いのアドバイスがあったことまでは把握していなかったようだ。


「マルベリー・バーベナとやらは、相当な切れ者のようだな」

「なんと言いますか、大変頼りにしておりました」


 エーリク様は会うのが楽しみだと言っている。

 果たして、本当に会わせてもいいのか。心配になってしまった。


 マルベリーさんのお店がある辺りは、通路が狭くて馬車が通れない。

 そのため、ここから先は歩きでの移動だった。


 歩くこと十五分、さすがにマルベリーさんのお店は何度も通ったので迷わない。

 お店の前に、大きなシルエットを発見する。

 マルベリーさんだ。どうやらお花に水をやっていたらしい。


 声をかける前に、マルベリーさんは私に気付く。

 笑みを浮かべながら手を振りかけるも、一瞬にして真顔となった。

 いったいどうしたというのか。

 なんて思っていたら、エーリク様が突然叫んだ。


「あいつ、マルセルじゃないか!!」

「はい?」


 聞き覚えのあるような、ないような。そんな名前でマルベリーさんに呼びかけていた。 


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