『聖女』と『魔女』はロージャス王国へ ②
あらあら、可愛いシアを怒鳴りつけるなんて躾がなっていない男だわ。
こんなに可愛くて、『聖女』として優秀なシアに対して、追放なんて言い放った王子かしら?
その隣にいる女の子が、シアを追い出した『聖女』? んー、シアの方が可愛いわね!
シアは一瞬だけびくりっとして、だけど私を見て、そして怒鳴りつけてきた男に視線を向ける。
「お久しぶりですわ。王太子妃殿下」
「お前、ドラゴンを率いてこんな場所にやってくるとは、やはり性悪な『魔女』というのは正しいのだな!」
シアは堂々とした様子で王子に告げる。
私のシアは本当に可愛いわね。こうやって堂々としているシアを見ていると、にこにこしてしまうわ。って駄目ね。こういう場にいるのだから、もう少しキリッとした表情をしていたほうがそれらしいかしら。
それにしてもシアを『魔女』呼ばわりするなんて馬鹿かしら。
「――貴方は、馬鹿なの? こんなのが、王太子なんてこの国も終わりねぇ。あとね、シアは正真正銘の可愛い『聖女』よ。しいて言うなら『魔女』は私ねー」
軽い調子でその王子に話しかければ、王子が私を睨みつける。
「何を言う! 貴様は何者だ! 汚らわしい『魔女』を連れてくるなど、本当にどうしようもないな!」
「本当に馬鹿ねぇ。それよりそんなにおバカな貴方達にエルラーサ教の大司祭が話があるって来ているのよ」
「はっ、何を言うかと思えば、そこにいる神官たちがエルラーサ教のものなわけがなかろう! 『聖女』を信仰しているものが、『魔女』と一緒にいるはずがないからな。俺たちを騙そうとしているのだろう!」
うーん。
見た目は良くても、頭は悪いのかもしれない。
思い込みが激しい?
こんな王子がシアの婚約者で、何も起こらなければシアと結婚するはずだったなんて……面白くないわね。だってシアに不釣り合いだわ。
私のシアはとっても可愛くて、素敵で、『聖女』としての能力も優秀なのに。
対してこの王子って、王族として産まれたというのと見た目が良いだけじゃないかしら。
「はっ、本当に見た目だけしか取り柄がないのね」
「なっ!! 貴様!! おい、お前たち、あの『魔女』を捕らえろ!」
思わず本音が口から洩れてしまって、思いっきり睨みつけられた。
というか、ドラゴンの上にのっている私のことをどうやって捕らえる気なのかしら? だって向こうからしたら魔法しかこちらに向けることは出来ないじゃない。それにその魔法だって私には通じないわ。
だって私の方が強いもの。
魔法が繰り出される。
それを全部私は、欠伸をしながら対応する。退屈そうに対応している私を見て、王子は忌々しそうな顔をしている。
「貴様、卑怯だぞ! 降りてこい!」
「ふぅん? 別に降りてやってもいいけど」
何だか喚いている人たちを、どうやって屈辱的にボロボロにしてやろうかなと考えて私はそう口にした。
「ファニー様!? 降りるなんて、そんな……。下には沢山敵がいるんですよ?」
「あらあら、シアは、私のことを心配しているの? 何も心配しなくていいのよ。ねぇ、シア。私を誰だと思っているの? 私はあんな連中に負けるほど、弱くないわ」
私がそう言って安心して笑いかければ、シアはまだどう反応したらいいか分からない表情をしていた。
「ねぇ、シア。私を信じなさい。貴方の飼い主である私は、ずっと昔から生き続けている『魔女』よ。『魔女』のファニーは、可愛いお人形さんに嘘はつかないわ。私はあいつらをぶちのめしてくるから、見てなさい」
真っ直ぐにシアの美しい青い瞳を見て告げれば、シアは頷いた。
本当にシアは素直で可愛いわね! ちなみにアダイたちに関しては心配も何もしてないみたい。特にアダイは私が『封印の聖女』って呼ばれていた頃のことも知っているし、エルソッラと私がどんなふうに戦っていたかも知っているだろうしね。
私はそして、ロームの上から飛び降りる。
私は王宮のベランダに降り立つ。王子達がいる場所だけど、彼らが私に対して繰り出す魔法や剣は私に一切当たらない。
「な、なんなんだ、お前は!!」
武器をもった騎士が、魔法を放った魔法師が、私に手に届かないことに逆上した王子が騎士から剣を奪って私にとびかかってくる。私はそれを、吹き飛ばした。
うーん。弱い。
魔法使い相手の戦い方を分かっていないし、そもそも剣を奪って応戦しても私に対応できない。
一人相手に負けるなんて情けない連中だ。
私に襲い掛かってきたものたちは、全部魔法でひとまとめにして動けなくする。
王子は宙に浮かせたまま。
怯えた表情で私を見ている。
うん、情けない。
そして王子に話しかけようとした時、「な、何をしているんですか!」と飛び込んできた声に邪魔された。
そこにいたのは、桃色の髪と赤い瞳の可愛い見た目の少女――んー、あれが、シアから『聖女』の座を奪ったって言うターシリーという『聖女』かしら。




