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24.神殺しの一撃

 無名の神は遍く生命を冒涜し滅ぼす、暗黒の神の系譜。

 その役割を与えられただけの、機構に近い存在だった。

 

 故に、役割通り目に映る全ての命を終わらせた。

 抵抗の激しかった相手も、超高密度の魔力塊に飲み込まれ、肉体が崩壊して滅んだ。

 

 そこに喜びも達成感もない。

 ただ、役割を果たしたという結果だけが残る。


 その筈だった。


 無名の神は、制御を離れて崩壊する魔力の先に何かを捉えた。

 地獄のようなあの空間で、存在出来る物質は本来無い。

 けれど、確かに何かがいた。それが、徐々に気配を強めていく。


「ィ」

 

 無名の神を、名状し難い感覚が襲った。

 臓腑が締め付けられるような、頚椎に寒いものが走るような感覚だった。

 そこで、無意識に一歩後退ったことに気付く。

 

 自分が何をしたのか気付いて、疑問が湧いて出る。

 これは一体なんだ?

 何故自分は、こんな感覚に襲われている?


 その疑問の答えを、取り込んだ魂の中から探り――見つけた。

 これは"恐怖"だった。

 得体のしれないものに対する恐怖。


 何故あれが怖いのか。

 無名の神は、思考を巡らせ始めた。


「――――」


 それと同時に、魔力の極光が2つに割れた。

 中心に立つ者から逃げるように、エネルギーが霧散していく。

 それは、さっき確実に終わらせた筈の命だった。

 

「あんたの遺志は、俺が継ぐ」


 命は、雷鳴を帯びた黄金に輝く剣を掲げていた。

 あれで魔力を斬ったと理解し、同時にあり得ないと否定した。

 納得の行かない事象の連続に、無名の神の思考は加速する。


 急速に自我が発達し、目の前の存在に対する感情を処理しだす。

 あの生物は、自身を脅かさんとする何かだ。

 だから恐怖している。

 

「ア、アゥ……アァ……」

 

 そう気付いて、神は泣いた。

 怖いものにどう反応すれば良いかが、分からなかった。

 けれど、どう対応すれば良いかは知っている。


「第三ラウンド、開始だ」


 神と人。

 存在を賭した死闘の火蓋が、切って落とされた。






 

 振り抜いた刃が、夢と現実の壁を断ち切る。

 俺は、二度目のチャンスを得て、再び闇の世界へと舞い戻った。

 携えるのは師匠から託された、剣の形をした魂。


 これは嘗て竜帝レフタロッドが振るったとされる神の剣――[神剣・グランヴォルト]。

 レア度は最高の神話級(ゴッズ)に分類される。

 代々皇帝とその嫡子のみに抜くことを許された、本物の神器だ。

 

「行くぜ師匠!」

 

 剣を構え、無名の神へと駆け出した。

 一歩踏み込む毎に、何処からか力が湧いてくる。

 体が背中に翼が生えたように軽い。

 

「ァ!」


 無名の神が迎撃に、巨腕を叩きつけて来た。

 それを紙一重で避け、肘から先を撫で斬りにする。

 燐光と雷鳴が轟き、神の腕は青白い肉塊となって飛ぶ。


 神器はその性能(スペック)も勿論本物だ。

 神の体ですら、熱したバターのように切り裂いてしまえる。

 

「アァ!」


 自棄(やけ)を起こしたか、神は更に腕の本数を増やして襲い来る。


「――視える」


 だが、俺にはその全ての動きが、はっきりと視認出来た。

 まるで再生速度を遅くした動画のように、あらゆるものが緩慢に見える。

 

「――動ける」


 そして、認識した状況から、即座に動作へと反映される。

 まるで全ての動きに対応するプログラムが、予め備わっているように。

 それも、ほぼ静止した物体を、剣でなぞるだけの簡単な作業だ。

 どうしたって、間違いようがない。

 

「錬灰流奥義――《絶剣》」

 

 そうして、刃の軌跡が光となって空間を埋め尽くす。

 数瞬遅れて、全ての腕が同時に斬り飛ばされた。

 

 これが、師匠の魂の奥から感じる、定跡の極致。

 本来線の攻撃である剣戟を、張り巡らせた網のように面へと変える。

 

「アァー!」


 無名の神の放つ、身の毛がよだつ悍ましい咆哮が響いた。

 この世の悪意を煮詰め、音の波紋が耳朶に触れただけで吐き気を催す声音。

 同時に残された腕が結合し、暗黒の刃を作り出す。


 それは質量を持った闇。

 まるで、宇宙に生まれた暗色の渦。

 周囲のあらゆるものを歪め、崩壊させようとしていた。


「おいおい、自分の体まで巻き込んでんじゃねえか……」


 まともに食らえば、再びの死が待っている。

 しかし、逆に考えるとあれは、無名の神の最後の悪あがきだ。

 そう判断した瞬間、俺は(グランヴォルト)を肩越しに構え、駆け出していた。

 

「――――炯然たる我が魂よ、煌々たる頂の有り様よ、我が足跡こそが王道、我が座こそが至高」


 同時に、剣技では殆ど存在しない"詠唱"を始める。

 無名の神もそれに気付いた。

 暗黒の刃を振り上げ、こちらに叩きつけんとしている。

 それにより、軌道にある物質が無に帰して行く。


「天青より出る紅雷、無為の闇を照らす炫耀」


 詠唱が進むに連れて刀身は輝きを増し、雷鳴を轟かす。

 闇が空間を歪め、眼前へと迫った。

 肌がビリビリと痺れ、本能が全力で警鐘を鳴らす。

 

「全ての白の始点、世界に夜明けをもたらす原初の光を我が手に!」


 足裏の骨ごと砕かんばかりに踏み込む。

 その勢いで地面を蹴り、飛び上がる。

 俺の気迫へ応じるように、グランヴォルトが咆哮した。

 

 これは神の剣に宿る唯一無二、絶対の奥義。

 そして錬灰流スキルツリーの、師匠が遺した最後の技だ。


「《開闢の烈光(ウル・シュトラール)》ッ!」


 渾身の力を籠めて振り抜いた光の刃が、闇に触れた。

 その途端、全身が砕けたと錯覚する程の衝撃が襲う。

 あらゆるものが、白夜と暗黒に呑まれる。


「うおぉぉぉーーッッ!!」

 

 世界から音と色が失われ、時間の概念すら曖昧になる。

 ただ、膨大な質量と熱量が激しく競り合う感覚だけが、手の先から伝わってきた。

 

 最早、力を籠めているのかすらも分からない。

 その時、後押しするように、背中へ手が添えられた感覚がした。

 

『往け』


 そして少し無愛想な、聞き慣れた男の声が頭に響いた。

 途端に体の内側で何かが解き放たれ、再び全身に力が漲る。


「……ああ!」

 

 最後の一歩を踏み込み、剣を強く振り下ろした。


 剣光が迸り、闇を凌駕する。

 遍く暗黒は照らされ、存在を許されずに駆逐されていく。

 そしてとうとう、刃は地面へと到達した。


「――――」

 

 世界が、徐々に色彩を取り戻す。

 耳鳴りがして、自分の息遣いでさえ遠くに聞こえた。

 両手は競り合いの衝撃でボロボロだが、確かに剣を握っている。


「はぁ……はぁ……」


 上下する肩を諌め、俯いてぼやけた視線を前へと戻す。

 土煙が酷く、暫く場の状態は良く分からなかった。

 

「……ッ」


 徐々に晴れる土煙の先に、灰色の巨体が見える。

 俺は何が起きても良いように、剣を構えたまま固まっていた。

 しかし、煙が晴れると柄を握る力が緩む。


「や――――」


 降臨した神の肉体は、2つに割けて地面へ横たわっていた。

 体の表面が塵に還りつつあり、動く気配もない。

 徐々に、その質量は消失しつつあった。


 俺は、無名の神を倒した――――


「やった……」


 そう理解した途端、全身の力が抜ける。

 剣を取り落とし、膝をついて天を仰いだ。

 

 完全に晴れた視界の先では、城壁を越えて遥か先まで斬痕が続いていた。

 一体どれ程の距離を斬ったのか、分からない程だった。

 少なくとも、二百メートルは攻撃の範囲に入っている。

 

 「どんだけだよ……流石神器……」


 呆れたように呟き、仰向けに倒れ込む。

 もう、寝返りを打つ気力さえ残っていない。

 正真正銘、全ての力を使い果たした。


「でも、勝ったぞ――師匠」


 俺はそう言って、崩落の隙間から覗く青空へ向け、拳を持ち上げた。

 これでミッドランドは、やっと200年にも及ぶ柵から解き放たれる。


 それを俺がやったのだと思うと、やはり誇らしかった。

 いや、成し遂げたのは、俺"たち"だ。

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