多重水晶とメニュー表
美味しい外国料理の店でお腹いっぱいになった私たちだったけど、私はメニューが文字だけなのが気になり、店員さんに絵を描いてはどうかと提案した。
「あなた絵が描けるんですか?」
「はい。といっても本職ではないのでどこまで期待に沿えるかは分かりませんが……」
「ちょっとだけ待ってて、店長に相談して来るわ」
お姉さんがいったん下がって数分後にまた戻ってきた。
「いいわよ。報酬はどのぐらいなの?」
「あ、必要ですか? う~んと……ここの料理が美味しいので見本がてら出してもらうって言うのは……」
「そんなのでいいの?」
「あ~、こいつ見た目通りお子様だから、別に何か考えといてくれないかい」
「そ、そうよね。流石にそれじゃ申し訳ないわ。とりあえず、明日のお昼過ぎとかに来れるかしら?」
「うう~ん。お昼過ぎは難しいです。夕方ならいいですよ」
「それなら、今日よりちょっと遅い時間にお願いね。席を確保できるから」
「分かりました」
今日のところは店を出て帰ろうとする。すると、アルナが戻ってきた。
《ピィ》
「どう、楽しかった?」
満足したというように返事をするアルナ。町での暮らしは慣れているから問題ないようだ。
「明日も出かけるの?」
《ピィ》
まあまだ一歳と少しだし、仲間が恋しいんだろうな。
「でも、危ないことだけは駄目だよ」
コクリと返事をするアルナ。うん、いい返事だ。今日は早めの食事ということで、宿の人に紹介してもらったドレンの湯に行くことにする。着替えもばっちりだし、早速湯に着いたんだけど……。
「いらっしゃい。うちは一回銅貨七枚だよ」
「じゃあ、これ」
「あいよ。着替えはそこのロッカーに入れてくれ。魔力があれば鍵もかけられるからよければ使ってくれ」
「ありがとうございます」
横を見るとジャネットさんも鍵をかけている。魔力は30ぐらいしかなかったはずだから、結構誰にでも使える魔道具みたいだ。
「ん~、いいお湯だ~」
肝心の湯舟はというと共同浴場なのでかなりのサイズだ。そしてなんと女湯は二つあり、一つが普通のもの。もう一つはなんと炭酸泉だった。湧き出る量の関係で女湯だけらしいけど、これは癖になりそうだ。
ブクブク
「はわ~、癒される」
「おや、変わった湯だね」
「炭酸泉ですよ。泡が気持ちいいです」
「よっと……ほう? これは確かに」
「やっぱり旅は良いですね~。こんな素晴らしいものに出会えるなんて」
「はっ! まだ数日しか経ってないのにいいご身分だね」
「でも、こんなのに出会っちゃうとそう思っちゃいますよ~」
「やれやれ、あんたって子は……。ん? この湯は女湯にしかないのかい。リュートは残念だったね」
「本当ですよ~、こんないいものに入れないなんて。はふ~。ティタも連れてくればよかったです」
「ゴーレムが風呂好きなのかい?」
「分かりませんけど、これだけ人間が気持ちいいんだからきっとそうですよ」
「だけど、ティタが入るとなると目立つけど良いのかい?」
「そうでした。どうにかして連れて来れないですかね?」
「ばれずには無理だろ。ま、ティタ次第だね」
後でティタに確認してみると特にお風呂に入ることはないらしい。アルバでは一緒に入ってたよね? って聞いたら、私が入っているから気になって入っていただけらしい。残念。
翌日、私は早速リグリア工房にお邪魔していた。付き添いはリュートだ。ジャネットさんは細工してるところを見ててもつまらないから町を回ってくると言っていた。流石にずっと宿ということもかわいそうなのでティタも連れて行ってもらうことにした。ジャネットさんが一緒なら大丈夫だろう。
「よく来たな! 早速作ってもらおうか」
「はい。今日は頑張りますね」
私は服装も新たに多重水晶に挑む。本気で細工をする時には銀で出来たワンピースを下に着て作業をするのだ。これ自体が特殊な魔道具で、MPを大量に消費するものの集中力が高まりいい作品が出来る。疲れるんだけど、多重水晶は今でもたまに失敗するのでこれが欠かせないのだ。
「ほう。削るところは魔道具か。それにしても珍しいものだな」
「細工師をしているおじさんから売ってもらったんです。この形にはあんまり意味がなくて、削るのが効果らしいです」
「珍しいタイプだな。まあ、俺は魔力はほとんどないからこいつを持っててもしょうがないがな」
「それじゃあ、まずは外側を削っていきますね」
私は透明度の高い水晶をまずは外、中とくり抜いていく。これにどんどん水晶をはめ込んでいく寸法だ。二つ目の水晶はやや青みがかったものを使う。これも一つ目のサイズに合わせて外側の大きさを調節し、中をくり抜いて三つ目が入れられるようにする。ここまでの作業は問題ない。
「ふむ。見ている限りではすぐにでも出来そうだな」
「ここまでは簡単ですよ。三つ目はそのまま普通に細工をして問題ないのですぐにしちゃいますね」
私は三つ目の赤い魔石を取り出すと細工をする。この魔石は質が悪くて中央部は魔力を宿しているものの、外周部はほとんどなくて安値になっていたものだ。宝石以外にも細工にはこうした質の悪い魔石が使われることも多い。ある程度魔力のある魔物を倒すと落とすので、入手性が良いためだ。
「模様はと……バラの花にしようかな? 赤い魔石だしね。こっそり魔力も付与しちゃおう。この魔石、中央以外に魔力は宿ってないけど、中央だけなら質がいいみたいだから、何度かは魔力を込められそうだし」
私はバラの細工を施し、他の水晶にはめ込む前に魔力を込める。魔道具作成にはスクロールを使うのが一般的だけど、これ自体は結構流通量が多いので、大量に保管している。
「それはスクロールかい? ひょっとしてアスカさんは魔道具も作るのか?」
「はい。まあ、これは質の悪い魔石ですから失敗すると思いますけどね。可能性があるなら試したくって」
「まあ、スクロール一枚で銀貨一枚ぐらいならいいか。でも、その歳で魔道具までなんてよほど普段から研究してるんだね」
「週の半分ぐらいはやってましたね」
「そうそう。アスカは冒険者として依頼をするより真剣だったよね」
「そんなことないよ。使う日数が違うだけだってば」
成功したかは分からないけど、スクロールを使って魔道具化に必要なことは行った。いよいよここからは多重水晶専用の道具の出番だ。
「それは?」
「多重水晶用の専用の道具です。これを使えば内側にも細工を施せるんですよ。その所為で失敗する確率が上がっちゃうんですけどね」
「ほうほう、これで内側に模様がな……。すごいアイデアだ」
「でも、慣れないと普通の模様も難しいですよ。私も最初はいっぱい失敗しましたから」
「ここまでの工程を見てたが、お前はかなりの腕だろう? それでもそんなに失敗するのか?」
「はい。この道具を使っても直線的に彫ることはできませんし、それに彫った模様は逆転して見えますから、それも考えて彫るとなると結構大変ですよ」
「私も挑戦したい。水晶を買ってくるよ」
リンクさんはやる気が刺激されたようですぐに水晶を買いに行った。この調子だとしばらくは水晶が大漁に売れちゃいそうだ。
「彫りを入れる隙間を空けておけばいいんじゃないか?」
「それだと中で動いてるうちに削れちゃいます。一回だけ試したことがあるんですけど、ちょっとずつ模様が消えてっちゃいますよ」
「それは細工師として許容できんな。子どもの土産ならともかく」
「ミュラー親方にもそう言ってもらえてよかったです。見た目からは粗悪品って分かりにくくて」
「だろうな。削れるってのも嬢ちゃんがずっと見てて細工師だからだろう?」
「はい。ちょっとずつ薄くなっていくので、たまにしかつけなかったりすると多分気付かないと思います」
「そんなまがい物を出されたんじゃこの町の名折れだ。市場に出る時は注意をするように商人ギルドには俺が言っておこう」
「助かります。私みたいな旅人の言うことなんて信じてもらえないと思います」
「それで、この後はどうするんだ?」
「まずは、二重目の水晶にバラの絵を彫ります。この道具を使えばできますから」
私は再び集中して細工に戻る。何度もやった作業だけど、失敗するわけにはいかない。気を引き締めてかからないと。
ジャリジャリと少しずつ彫っていき、ようやくバラの花が作れた。
「ふぅ~、まずは一つ目だ」
「アスカ大丈夫? もうお昼だしいったん休憩しない?」
「えっ、もうそんな時間なの? 気付かなかったよ」
「はぁ~、アスカがどうしていつもご飯の時間に遅れるか分かったよ」
呆れるようにリュートが言うと、私を立たせて手前の住居スペースに連れて行った。
「飯はこんなもんしかないが勘弁してくれよ。どうにも男所帯でな」
「そういえばミュラー親方の工房って二人だけなんですか?」
「ああ。前はもうちょっと居たんだが、怪我をしちまってからな。見るにも教えられるにも不安なんだろうよ。俺はこの辺じゃ中堅どころだ。ちょいと下の工房ならすぐに弟子入りできちまうからな」
「大変な時にすみません」
「いや、かえって都合がいい。後釜を狙うような奴も出て行ったからな。嬢ちゃんの多重水晶も秘匿しようと変に力を入れることもない」
「そういうことってあるんでしょうか?」
「坊主。この町には履いて捨てるほど細工師がいるんだ。工房がないやつらは市で売ったりとな。だから、ある程度の腕になると売れることや有名になることを意識しちまうのさ。町が大きくなった弊害だな」
いいながらミュラーさんはテーブルに料理を並べていく。といっても肉料理はすでに調理済みのを切った程度だ。
「いただきま~す。はむっ……うっ」
「どうした? のどに詰まったか?」
「あ、いや~、気にしないでください。アスカはいつものことなんです」
私はすぐにリュートに耳打ちして、干し肉用の調味液を出してもらう。食べた感じだと味付けがなってないだけで何とかなりそうなのだ。料理は出来ない私でも案ぐらいなら出せるのだ。
「後は金属製の皿なので下に木を引いてと」
「何をしてるんだ?」
「まあ、見ててくださいね」
私は風魔法でお皿を浮かすと、一気に火魔法で焼き上げる。こうすれば焼け過ぎないし、短時間で調理ができる。薪の火だと火力が足りないんだよね。
「おおっ! 魔法か。そんなんで味が変わるのか?」
「まあ試してみてくださいよ」
「どれ、おっ! 美味いな。肉の時と食感が相まって美味い! まさかいつも食べてるこいつがこれぐらいの味になるなんてな」
「たれがいいんですよ。特製ですからね」
やっぱり鳥の巣仕込みのリュートのたれはここでも美味しいみたいだ。
このタイトル……内容と合ってませんね。どうしてかな~?




