ふらぐ&フラグ!?
「あ~、気持ちいい朝だ~」
翌日、美味しい食事と十分な睡眠を得て気持ちよく起きた私だったが、横を見るとリュートがじーっと私を見てきた。
「な、何?私なんか言った?」
「アスカ、悪いけど今日は部屋で大声は止めてやってくれ」
「ジャネットさん、リュートどうかしたんですか?」
「ああ、慣れないエールをそこそこ飲んで、しかも今は海上だろ?こいつ酔っちまってさ」
「…ごめんアスカ。そういうことだから…うっ!」
「む、無理しなくていいよ。ご飯食べられる?」
「ムリ…」
「そういう訳だから、今日は一日リュートは寝たきりだから、代わりにあたしと甲板にでも行くかい?」
「そうします。ついでにご飯もそっちで取っちゃいましょうか?」
「いいねぇ。んじゃ行くか。ほら、アルナとキシャルも行くぞ」
ピィ
んにゃ
「キシャルはめんどうだからいかないって」
「おいおい、ほんとにのんびりした猫だな。あんた、よく今まで自然の中で生きてこれたね」
んにゃ~
コツがあるんだといわんばかりにキシャルが答える。通訳してくれたティタも視線は魔石に向いており、特にこっちを気にする様子もない。従魔の統制は全然取れてないなぁ。まぁ、いてくれるだけでいいから別に気にならないけど。
「それじゃあ、行きましょうか」
「その前に給仕の部屋に行かないとな。食事を運んでもらわないといけないよ」
「そうですね」
私たちは二等船室との境にいる船員さんに話をして給仕のところに向かう。
「あら、昨日のお客様ですね。こちらまでどうなさいましたか?」
「今日の朝は連れが体調を崩してしまって、1人分は2食でいいっていうのと、甲板で食べたいんですが大丈夫でしょうか?」
「甲板で?もちろん構いません。すぐにご用意いたします」
「えっと、船員さんはお仕事があるのでは?」
このお姉さんは非力そうだし、どうするんだろう?
「問題ありません。数はそろっておりますので」
それだけ言うとお姉さんは外に出て行ってすぐに隣の部屋で物音がした。
「今持って行かせてますので、少しばかりお待ちください。3分もすれば用意できますので」
「すごいですね。皆さんてきぱきしてるんですね」
「まさか!言わないと動けないデk…まあ、彼らもプロですからね。出来ないなんて言いませんから、何かあったら言ってくださいませ」
「はい!それじゃあ、行きましょうジャネットさん」
「はいよ」
準備はお姉さんがやってくれたので、私たちはそのまま甲板に向かう。甲板に着くとそこには場違いとも思えるテーブルと椅子が用意されていた。椅子は木製だけど背もたれから座るところまで長いクッションが置かれている。テーブルには朝食が乗っており、昨日のスープらしきものとカルパッチョのようなものが置かれていた。横にはちょこんとアルナの食事もある。
「さ、どうぞ召し上がってくださいな」
「あっ、早いですね」
「たしなみですわ。では、こちらをどうぞ」
そういうとお姉さんはポットから紅茶を注いでくれた。
「じゃあ、折角なので冷める前に頂きます」
「あたしも」
「ん~、やっぱりスープは昨日の出汁があって濃厚になってますね。でも、このサラダのさっぱり感があってバランスがいいです~。アルナはどう?」
ピィ~
アルナも満足げだ。
「お気に召したようでよかったです。こちらもどうぞ」
更に食後にはスコーンも出してもらった。知ってはいたけど、お菓子のスコーンは初めてだよ。そうしてのんびりしていると、にわかに船首部分が騒ぎ出した。
「どうかしたんですかね?」
「ちっ!いいところだったってのによぉ」
「あ、姐さん!海魔が!!」
「知ってるっての!案内しな!」
「お、お姉さん…」
「アスカ、海で暮らすってのはああいうもんだよ」
「そう…なんですか?」
「それよりほら、折角なんで行くよ」
「応援ですね!」
「それよりも一度見といた方がいいだろ?」
「それはありますね。でも、リュートは見られなくて残念でしたね」
「ま、今のあいつが来ても邪魔なだけだし、この先何度も見られるからいいよ」
「それは嫌かもです」
私は素早く胸当てとブーツを装備して杖を持つ。弓矢でもいいんだけど、矢がもったいないからここは杖にした。
「ジャネットさん、念のためです。フライ!アルナは後ろで見ててね」
「ありがとさん」
ピィ
ジャネットさんにも、もし海に落ちた時のために飛行魔法をかける。そして、私たちも現場に急行した。
バシャーン
水しぶきをあげて海魔が姿を見せる。足がたくさんあるみたいだ。あれは…タコかな?
「テンタクラーか…お前ら、気を付けな!触手につかまるんじゃないよ!」
「へいっ!」
「私も手伝います!」
「お嬢様は下がってな!」
「そこの船員たちよりは役立つよ?」
「いいけど、邪魔すんじゃないよ!」
「もちろんさ」
シュ
「わっ!思ったより素早いな…アルナを置いてきてよかった。というか、でっかいタコってことは食べられるのかな?」
「アスカ、どうした?」
「ジャネットさん、あの海魔って食べられますか?」
「海魔を?知らないよそんなこと。あっちの女に聞きな!」
「分かりました!お姉さん」
「あぁ!?なんだい?」
「あの海魔って食べられるんですか?」
「海魔を?すぐに沈むしあいつは食べたことはないな。というかお嬢は余裕だな」
「まあ、思ったより早いかなってぐらいだったので…。じゃあ、試してみますね。ウィンド」
私は海魔の周辺にウィンドを撃ちまくる。その内に少しずつ、海魔周辺の水が無くなっていく。
「おいおい、とんだノーコンお嬢だね」
「後はここでと…ストーム!」
局地的に嵐を起こすストームを使う。ほんとは相手が大きいのでトルネードを使いたかったのだけど、流石に船に影響が出そうだったのでやめておいた。大きい海魔だが、ウィンドの連発で体が出ていたこともあり、簡単に空に上がった。そしてそのままストームの刃によって触手が切り刻まれ、最後には嵐の中央部にある威力の強い刃がタコを切り刻んだ。
「ふぅ、後はと…触手以外は食べ方知らないしいいかな?」
切り刻まれてぼとぼと海上に落ちていくタコの触手の一部を風魔法で回収する。
「あっ、でも甲板が汚れちゃうな。これどうしたらいいかな?」
とりあえず空中に留め置いたままどうしたらいいかお姉さんに聞く。
「あの~、これどうしたらいいですか?そのまま置いたら汚れちゃいますよね?」
「あ、ああ…おいっ!お前ら」
「へいっ!すぐに持って来やす」
船員さんたちが数人すぐに船室に向かっていき、数分もしないうちにでっかいシートと、つぼが用意された。
「とりあえずそのシートに乗せてくれりゃいいさ。出来るよね?」
「もちろんです。先にある程度集めちゃいますね」
空中で浮いていた触手をまとめてシートの上に置いていく。
「おい!そこの女剣士!」
「ああ!?何だよ…」
「あいつくれ!容姿・実力・性格、パーフェクトだ!ぜひ、この船に欲しい」
「ダメに決まってんだろ!大体、給仕係が決められんのかそんなもん」
「問題ない。あたしゃ、副船長だ!船長は航海技術しかない優男だから逆らいやしないよ!」
「そもそも、客を引き抜くとかどうなんだい?それより、あっちを見なよ。アスカが手を振ってるよ」
「お姉さ~ん、この触手をつぼに入れましたけど、溢れた分は早速使ってもいいですか?」
「いいけれど、毒がないか確認しましょう。おい!商人がいただろ?鑑定メガネを持ってる奴を連れてこい」
「へいっ!」
「さっきから思ってたんですけど、お姉さんってえらい人なんですか?」
「一応、副船長も兼務しています。給仕は趣味の一環です」
「すごい!私、副船長には初めて会いました!」
「そうですか。なんだか照れますね…」
「何言ってんだいアスカは。船自体初めてだろうが」
「そう言われるとそうですね」
「姐さん!商人を連れてきました」
「よしっ!早速、鑑定させろ」
「ええっと、これを鑑定すればよろしいので?」
「ああ」
鑑定結果は食べても問題ないとのことだった。ただ、皮が硬くてそのままだとちょっと大変なので、一部は皮をむいて、残りはゆでることにした。
「アスカ、あれ本当に生で食べられるのかい?でかい魚や、船も沈める海魔だよ?」
「大丈夫ですよ!私は食べたことありますし」
食べたといっても別種というか世界が違うけど。
「でも、ワサビとかあればなぁ…。ああいう添え物好きだったんだよね~。まあ、醤油があるだけいっか」
「醤油?ああ、あの調味料か。リュートはちょっと苦手そうだったけど、あたしも珍しい食材だし挑戦してみるかね」
幸い、テーブルセットは出たままなので、新しくお皿をもらっていよいよ実食だ。
「その前にやっぱりお箸がないとね!ジャネットさんもはいっ!」
「あたしこれ苦手なんだよねぇ。掴むのにコツがいってさ」
「慣れたらこの2本の棒で何でも食べられるようになりますから、頑張ってください!」
「分かったよ。んで、こいつをかけて食べるのかい?」
「それでもいいですけど、ちょっと塩分多いですから付けて食べるのが一般的ですね。こうやって食べるんです」
私はジャネットさんの目の前で、タコをつかんで小皿に入れた醤油に半分ぐらい身を漬けて食べる。
「ん、んん…こりこりしてておいしいですっ!」
「本当かい?じゃあ、あたしも…んん、これはいいねぇ。醤油の味がメインだけど、この食感はいいな。ゆでた方はと…おおっ!こっちのがあたしは好みかも。歯ごたえもそこそこあるし、食べやすい」
「あ~、ワサビとかめかぶとかその辺あれば別かもしれませんけど、今の調子じゃそうなりますよね」
前世ではまった時には毎日のように朝食に出してくれと家族を困らせた時もあったなぁ。初めての海魔襲撃は忘れられない思い出になりそうだ。
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その頃リュートはというと…。
「はぁ、アスカ大丈夫かなぁ」
「それより、リュートやすむ」
「ありがとうティタ。心配してくれて」
「アスカがしんぱいするから」
「…そう」
んにゃ~
「キシャルはなんて?」
「ききたい?」
「いいです」




