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地球と分子に挟まれて  作者: 半ノ木ゆか
第3章 環境
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❌3-4. Yと環境

 もっと細かく見てみましょう。



◆Xと作用◆


 私は、遺伝子が「生き物の大まかな特徴を決めている」と書きました。これは、たとえ遺伝子が同じでも、生き物の特徴が変ることがあるからです。群集が環境によって姿を変えるように、多細胞生物の個体も、環境によって姿が変ることがあるのです。


 バッタの相変異。シロアリのカースト分化。ミジンコも環境によって体の形が変ります。これを表現型可塑性ひようげんがたかそせいといいます。


 ヒトも変ります。お母さんのお腹の中で、ホルモンの量によって男性と女性が決まるのです。染色体で決まると思っている人もいるかもしれませんが、そうとも限りません。性染色体が男性でも、女性の体になることもあります。


 魚類の中には成長してから雄と雌が決まるものがいます。特殊な例に見えかもしれませんが、産まれる前(分娩前)に性別が決まるか、産まれた後(孵化後)に性別が決まるかという、時期が違うだけのことです。



◆Xと相互作用① 種間相互作用◆


 搾取は、お互いの結びつきの強さと相手の致死率によって、次の4つに分けられます (Martin, Schwab 2013; Diller et al. 2020)(註2)。


捕殺ほさつ (predation)

 お互いの結びつきが弱く、相手を殺すことが多い。

摘掠てきりやく (grazing)

 お互いの結びつきが弱く、相手を殺すことが少い。

寄殺きさつ (parasitoidism)

 お互いの結びつきが強く、相手を殺すことが多い。

寄生きせい (parasitism)

 お互いの結びつきが強く、相手を殺すことが少い。



◆Xと相互作用② 種内相互作用◆


性選択せいせんたく

種内競争しゆないきようそう



◆Xと環世界① 免疫系◆


 生き物の体に入り込んで病気を引き起こす小さな生き物や病毒びようどくを、病原体びようげんたいといいます。ヒトの病原体にはいろいろな種類があります。その多くは私たちの身のまわりに普遍的にあります。ヒトは病原体に囲まれて暮しながら、常にそれらが入り込んでくる脅威にさらされているのです。私たちの体には、これらの病原体から身を守る免疫めんえきという仕組が備わっています。


 ヒトの体は、病原体が入り込みにくいようにできています。例えば肌は、角質かくしつで覆われた組織でできていて、丈夫な作りになっています。また、鼻、口、喉、気管などの表面からは、ねばねばの液体が出ています。この粘液で病原体を含むちりを絡め取って、病原体が入り込むのを防いでいるのです。このような作りを物理的防御ぶつりてきぼうぎよといいます。一方、これらの粘液には、溶菌酵素ようきんこうそ (lysozyme) などの蛋白質が含まれています。溶菌酵素は、細菌類の細胞壁を溶かし、殺してしまうはたらきがあります。このような仕組を化学的防御かがくてきぼうぎよといいます。


 怪我をしたり虫に刺されたりすると、物理的・化学的防御を抜けて、病原体が体の内側に入り込んでしまいます。その場合に、病原体を見つけて取り除くのが、いくつかの白血球はつけつきゆう (leukocyte) です。


 免疫では、白血球が重要な役割を果たしています。白血球には、好中球こうちゆうきゆう (neutrophil)、大食細胞たいしよくさいぼう (macrophage)、樹状細胞じゆじようさいぼう (dendritic cell) などの食細胞しよくさいぼう (phagocyte) や、天然殺傷細胞てんねんさつしようさいぼう (natural killer cell)、T細胞(さいぼう) (T cell)、B細胞(さいぼう) (B cell) などの淋巴球りんぱきゆう (lymphocyte) があります。病原体に対応するこれらの細胞を、まとめて免疫細胞めんえきさいぼう (immunocyte) といいます。


 食細胞はその名の通り、病原体を捕まえて食べてしまうはたらきがあります。この仕組を食作用しよくさよう (phagocytosis) といいます。特に大食細胞は強い食作用を示して、異物や死んだ細胞を食べて取り除きます。また、活性化した大食細胞は発熱を促して、病原体が増えるのを抑えるはたらきもあります。一方、樹状細胞は、病原体に関る情報を淋巴節りんぱせつに運んで、T細胞に伝える役目を担っています。


 食作用のように、今までの感染の経験によらず、即座に様々な病原体に対して幅広くはたらく免疫を自然免疫しぜんめんえき (innate immunity) といいます。


 病原体が入り込んだり、組織が傷付いたりすると、そこに白血球が集まってきて、病原体や細胞のかけらを取り除きます。この一続きの防御反応にともなって、炎症えんしようという症状が起ります。炎症が起ったところは、赤らんだり、膨れたり、熱くなったり、かゆくなったり、痛くなったりします。局所への血の流れがよくなることで白血球が患部に集まり、患部が赤らみ、膨れます。また、血の流れによって患部の温度が体の中心の温度に近付くことに加え、大食細胞が発熱を促します。こうして体が熱くなると、食作用などの免疫機能が高められます。


 自然免疫だけでは対応できない病原体や毒素が体に入り込むとどうなるのでしょうか。脊椎類は、そうした脅威も異物と見なして取り除く、適応免疫てきおうめんえき (adaptive immunity) の仕組を持ちます。適応免疫は、異物が持つ特定の作りを認識する淋巴球であるB細胞とT細胞により支えられています。B細胞やT細胞によって異物として見なされた物質を抗原こうげん (antigen) と呼びます。B細胞やT細胞の1つの細胞は、それぞれ1種類の抗原しか見分けられませんが、見分ける抗原は細胞ごとに違っているので、個体全体としては、様々な抗原をまんべんなく見分けられます。


 適応免疫が動き出すきっかけをつくるのは、樹状細胞です。樹状細胞は、食作用により異物を取り込んでばらばらにすると、そのかけらを細胞の表面に出して、同じ物質を抗原と見なすT細胞に見せます。これを抗原提示こうげんていじ (antigen presentation) といいます。抗原提示を受けたT細胞は、活性化して殖えます。T細胞のうち、補助ほじよT細胞(さいぼう) (helper T cell) は、適応免疫において中心的役割を担い、同じ抗原を認識するB細胞や殺傷さつしようT細胞(さいぼう) (killer T cell) を活性化させたり、大食細胞を活性化させたりします。


 B細胞は、抗原を取り込んでそのかけらを細胞の表面に出します。先に同じかけらで活性化していた輔助T細胞がそれを見つけると、B細胞を活性化させます。B細胞は活性化すると殖えて、抗体こうたい (antibody; 免疫球蛋白めんえききゆうたんぱく [immnoglobulin]) と呼ばれる蛋白質をたくさん送り出す形質細胞けいしつさいぼう (plasma cell) へと変ります。形質細胞から体液の中に送り出された抗体は、B細胞が認識する抗原と同じ抗原にくっつくことで、病原体の身動きをとれなくしたり、毒素のはたらきを抑えたりします。この時、抗体が抗原にくっつくことを抗原抗体反応こうげんこうたいはんのう (antigen-antibody reaction) といいます。このような抗体による免疫は、体液性免疫たいえきせいめんえき (humoral immunity) と呼ばれます。


 殺傷T細胞は、ヒトの細胞の中に入り込んだ病原体を見つけて取り除きます。


 ヒトの細胞には、細胞の中でつくられる蛋白質のかけらを、細胞の表面に出す仕組があります。例えば、病毒に感染した細胞の中で病毒の蛋白質がつくられると、そのかけらが細胞の表面に出てくるので、病毒に感染した細胞だと外から見てもわかります。活性化した殺傷T細胞は、この目印を頼りに病毒に感染した細胞を見つけて取り除くのです。また、活性化した補助T細胞は大食細胞を活性化させて病原体を取り除くのを促します。


 殺傷T細胞や大食細胞などの細胞が病毒に感染した細胞や病原体を直接取り除く仕組を、細胞性免疫さいぼうせいめんえき (cellular immunity) といいます。


 この細胞性免疫の仕組は、移植された臓器にも全く同じようにはたらきます。他人の臓器の細胞は、自身の体にとっては異物です。そのため、樹状細胞は移植された臓器の細胞のかけらを抗原として見せて、その抗原情報を認識した殺傷T細胞がはたらくことで、移植された臓器の細胞を殺してしまいます。このような現象を移植臓器への拒絶反応きよぜつはんのう (rejection) といいます。


 ある病原体が初めて感染したときの免疫応答を一次応答いちじおうとう (primary response) といいます。これに対して、2回目以降に同じ病原体に感染したときの免疫応答を二次応答にじおうとう (secondary response) といいます。二次応答では、一次応答に比べて短いあいだにたくさんの抗体が作られます。これには、記憶細胞きおくさいぼう (memory cell) と呼ばれる細胞のはたらきが関っています。


 B細胞が抗原にくっつくと、B細胞はそれを取り込み、かけらを抗原提示します。その抗原を担当している補助T細胞がそれにくっつくと、B細胞が活性化して殖え、形質細胞に分化します。初めての感染で、決まった抗原を見つけるB細胞が活性化しても、B細胞が殖え、形質細胞になって十分な量の抗体を作るには何日もかかります。その間に、病原体が殖えて毒素が作られ、重い症状を引き起こしてしまうかもしれません。


 ですが、初めての感染でB細胞が活性化すると、その一部が記憶B細胞として体の中に残ります。記憶B細胞は、再び同じ抗原に出合うと、すぐに活性化して、たくさんの抗体を作り出します。


 2回目以降の感染では、病原体が殖えて症状を引き起こす前に、抗体が作られて病原体や毒素を取り除く可能性が高まります。このような仕組を免疫記憶めんえききおく (immunological memory) といいます。


 T細胞も、ひとたび抗原提示を受けて活性化して殖えると、一部の細胞は数ヶ月から数十年の長いあいだ体の中に残ります。これらの細胞は記憶T細胞と呼ばれ、病原体がまた感染した時などに、同じ抗原をもつ異物を取り除きます。


 病原体の抗原情報を保ったまま病原性を消したものを体に取り込むと、人為的に一次応答を引き起こせます。その後、実際の病原体が体に入り込んだときには、記憶細胞がはたらいて、すぐに二次応答が起るので、発症を前もって防いだり、症状を和らげたりできます。この時取り込む抗原をワクチン (vaccine) といい、ワクチンを取り込んだことで免疫記憶を生み出し、発症を防ぐことを予防接種よぼうせつしゆ (immunization) といいます。


 免疫が抗原に対してはたらきすぎて、鼻水や涙、肌や目のかゆみ、喘息ぜんそく蕁麻疹じんましんなどが起ることを過敏かびん (allergy) といいます。また、過敏のもとになる抗原を過敏原かびんげん (allergen) といいます。花粉、ほこり、薬、食べ物など、過敏原になりうる成分は様々なものに含まれています。人によっても違います。重い過敏では、数分から数時間のうちに突然血圧が下がり、息がしづらくなって命を落とすこともあります。このような重く過剰な全身性の過敏反応を叛敏反応はんびんはんのう (anaphylaxis) といいます。叛敏反応により全身で炎症が起ることで、体液が炎症したところに留まり、血の巡りが滞って血圧低下と意識障害を伴う症状を叛敏震盪はんびんしんとう (anaphylactic shock) といいます。



◆自己免疫疾患◆


 免疫機能は、普通なら自分自身の正常な細胞や組織には反応しませんが、まれに自分の細胞や自分のつくる物質を抗原と見なして攻撃してしまう場合があります。それにより起る疾患を自己免疫疾患じこめんえきしつかん (autoimmune disease) といいます。例えば、膵島素すいとうそ (insulin) を分泌する細胞が標的となって壊されると、正常な血糖濃度の調節ができなくなり、1型の糖尿病になります。また、関節の組織を抗原と見なしてしまうことで炎症が起り、やがて関節部の骨が壊されたりかたちが変ったりする関節風湿かんせつふうしつ (rheumatoid arthritis) も、自己免疫疾患の1つです。



◆免疫の機能の低下による疾患◆


 免疫の機能は、免疫細胞そのものの異常、疲れ、精神的重圧、老いなどの様々な原因で低くなることもあります。免疫の機能が低くなると、健康なヒトでは感染しない弱い病原体に感染して発症することがあります。これを日和見感染症ひよりみかんせんしようといいます。免疫の機能が低くなったことで、体の中に潜んでいた病毒が活動する場合もあります。


 後天性免疫不全症候群こうてんせいめんえきふぜんしようこうぐん (acquired immunodeficiency syndrome; AIDS(エイズ)) は、ヒト免疫不全めんえきふぜんウイルス (human immunodeficiency virus; HIV(エイチアイブイ)) の感染によって生じる病気です。HIVは適応免疫に不可欠な補助T細胞に感染します。HIVに感染しても平均10年は症状がありませんが、この間にHIVは補助T細胞の中で増えては細胞を壊し、補助T細胞を減らしてゆきます。ついには、免疫応答が正しく行えなくなって、日和見感染症を起こしやすくなります。この、免疫の機能が低くなった状態がAIDSです。



◆Xと環世界② 神経系◆


 動物は外からの刺戟を情報として受け取って、それに応じた反応や行動を起こします。受容体としてはたらく器官を受容器じゆようき (receptor organ)、効果体としてはたらく器官を効果器こうかき (effector organ) といいます。


 体内での情報のやり取りに重要な役割を担っているのが神経系しんけいけい (nervous system) です。神経系は神経細胞しんけいさいぼう (nerve cell) という、長い出っ張りをもった細長い細胞からできていて、この長い出っ張りに沿って興奮こうふんと呼ばれる信号を素早く伝える仕組をもっています。体の中で遠く離れた場所であっても、その間が神経細胞で繋がれていれば、目的とする細胞や器官へ、興奮を確実に素早く伝えられます。


 ヒトの神経系には、のう (brain) (大脳だいのう [cerebrum]・間脳かんのう [diencephalon]・中脳ちゆうのう [midbrain]・小脳しようのう [cerebellum]・延髄えんずい [medulla oblongata] など) と脊髄せきずい (spinal cord) からなる中枢神経系ちゆうすうしんけいけい (central nervous system) と、中枢神経系と体の各部を繫いでいる末梢神経系まつしようしんけいけい (peripheral nervous system) があります。末梢神経系には、運動や感覚に関係した体性神経系たいせいしんけいけいと、内臓などを支配し体内環境を調節している自律神経系じりつしんけいけい (autonomic nervous system) とに分けられます。体性神経系は、受容器から脳や脊髄へ興奮を伝える感覚神経かんかくしんけいと、脳や脊髄から効果器へと指令を伝える運動神経うんどうしんけいからなります。自律神経系は、交感神経こうかんしんけい副交感神経ふくこうかんしんけいからなります。


 間脳の視床下部ししようかぶには、体温や血糖値、無機塩類の濃度、血圧などの変化を敏感に感じ取る仕組があります。体内環境の変化に応じて、視床下部では興奮が発生します。この信号が自律神経系を使って体の様々な場所へと伝えられます。


 交感神経は、脊髄の胸、腰の部分から出ている末梢神経系で、各器官や組織へと興奮が伝えられます。一方、副交感神経は、中脳、延髄、あるいは脊髄のいちばん下の部分から出ている末梢神経系です。交感神経と副交感神経は、様々な器官に延びていて、各器官や組織で様々な作用を引き起こします。


 私たちは、自律神経系のはたらきを自分の意思で調節できません。体内環境は、無意識のうちに自律的に調節されています。ですが、喉の渇きや空腹感、脈拍や呼吸の頻度の変化、発熱や発汗、眠けや覚醒のように、自律神経系によって体内環境が調節されるなりゆきや、自律神経系がはたらいた結果などは、感知できるものが多くあります。


 交感神経と副交感神経は、多くの場合、一方の神経が、ある器官のはたらきを促すならば、もう一方の神経は、はたらきを抑える作用をもちます。このような拮抗的な作用によって様々な器官のはたらきが調節され、体内環境が一定に保たれています。


 心臓を例にはたらきを見てみると、交感神経からの信号によって、心筋の収縮速度が速まり、心拍数が増え、血液も速く送り出されます。これは、激しい運動をしたり、緊張したりする時に現れる反応です。逆に、副交感神経からの信号が伝わると、心筋の収縮速度が遅くなり、心拍数が減り、血液が遅く送り出されます。


 一般に、交感神経は、興奮状態にある時、または、精神的、身体的に活動を活発にしなければならない時にはたらきます。この時、呼吸と筋肉の活動は活発になり、逆に、唾液だえきの分泌や消化器官の活動は抑えられます。例えば、ある動物に敵対する動物が現れ、競って闘わなければいけない場面 (逃走の場面) に強くはたらくようになっています。これに対して、副交感神経は食べたり休んだりする時などにはたらきます。この時、交感神経のはたらきは抑えられています。



◆Xと環世界③ 内分泌系◆


 体内環境の調節には、自律神経系による調節の他にも、刺戟素しげきそ (hormone) という化学物質による調節が行われています。刺戟素は、内分泌腺ないぶんぴせん (endocrine gland)

という器官や内分泌細胞から血液中に直接放出される物質で、血の巡りとともに体中に行き渡り、濃度が低くても決まった器官や細胞に作用する特徴があります。成長や発育、食事の後の血糖値の調節など、持続的な調節が要る場合、刺戟素を使った調節が行われます。


 刺戟素の作用を引き起す範囲や時間は様々です。例えば、甲状腺からは甲状腺素こうじようせんそ (Thyroxine) が分泌され、ほぼ全身の細胞に作用して、その代謝を数日から数週間の長いあいだに渡って高めたり、成長を促したりします。逆に、脳下垂体前葉から分泌される甲状腺刺戟素のように、甲状腺だけに直に作用して、甲状腺素の分泌を促す限られたはたらきをもつ物もあります。非常に低い濃度 (10⁻⁹g/mL) で作用するのも刺戟素の大きな特徴です。体内環境を調節する仕組をもった器官や組織の集まりを内分泌系ないぶんぴけい (endocrine system) といいます。


 刺戟素が作用を及ぼす器官を標的器官ひようてききかん (target organ) といいます。例えば、昇糖素しようとうそ (Glucagon) は膵臓すいぞうから分泌されますが、離れた場所にある肝臓などにはたらいて血糖値を上げる作用を引き起します。体の中で遠く離れた場所であっても、標的器官にだけ作用するのは、決まった種類の刺戟素にだけ反応できる細胞が標的器官の中にあるからです。そのような細胞を刺戟素の標的細胞ひようてきさいぼう (target cell) といいます。


 標的細胞は、決まった刺戟素にだけ強く結合できる蛋白質をもちます。この蛋白質を刺戟素の受容体じゆようたい (receptor) といいます。例えば、昇糖素の場合、筋肉や脳にはほとんど受容体がなく、この刺戟素に対して無反応ですが、肝臓には多くの受容体があるので、強い反応を示し、血糖値を上げる作用にはたらきます。


 内分泌系の調節は、血液中の刺戟素の分泌量を変えることで行われます。体の活動状態に応じて、刺戟素の分泌の調節が正確に行われています。刺戟素の分泌の調節方法には、次の3つがあります。1つ目は、副腎髄質のように自律神経系が内分泌腺へ直接指令を伝えるもの、2つ目は、膵臓のように内分泌細胞が自ら体内環境などの変化を感じて自動的に調節するもの、3つ目は、甲状腺のように他の刺戟素などによって調節されるものです。


 刺戟素の分泌の調節で、最も重要な役割をもつ中枢神経系が間脳です。例えば、体温や血漿の塩基濃度などの変化は、間脳の視床下部で直に感知されます。その信号は、視床下部にある神経分泌細胞が分泌する刺戟素によって、脳下垂体前葉や脳下垂体後葉に伝えられます。


 信号が伝えられる道筋は、主に2つあります。1つ目の道筋では、視床下部にある神経分泌細胞から毛細血管に分泌された刺戟素が脳下垂体前葉まで血流によって運ばれて、前葉の細胞を刺戟し、そこからの別の刺戟素の分泌を促します。この刺戟素は、他の刺戟素の放出を調整するので、放出刺戟素といいます。成長刺戟素せいちようしげきそなどは、このような仕組で脳下垂体前葉から分泌されます。甲状腺、副腎皮質などを活性化する刺戟素も同じ仕組で脳下垂体前葉から分泌されます。これらを総称して、脳下垂体前葉刺戟素のうかすいたいぜんようしげきそといいます。


 もう1つの道筋は、視床下部の神経分泌細胞で作られる刺戟素が脳下垂体後葉まで運ばれ、血液中に分泌されます。

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