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響さんの日常  作者: ZEXAS
彼氏彼女になってから
89/91

ちょっと遠出初夏デート 3


 大体2年ぶりでしょうか。大変お待たせいたしました……。


 自分でもちょいちょい書いていたとはいえ、こうして次話投稿できたのは更新から一年以上経ってもエールを下さった読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます……。

 貯め置きが無い状態での無計画な更新なので、次話投稿の目処が立ってないのが本当に申し訳ない限りです(予防線)。





─森長家 台所

視点 明治響



「ふん、ふん、ふん」


 ぺたっぺたっぺたっ

 ぺちぺちぺち


「ふん、ふん、ふん」


 ぺたっぺたっぺたっ

 ぺちぺちぺち

 ぺたっぺ──


「ぬぅ、やっぱり唯斗は上手いな……」


 デートを終え、なんか流れで今日は唯斗の家で夕食を作って食べる事になった。

 俺達は互いのハンバーグを作る事になって、唯斗特性のハンバーグのタネの空気抜きをしているんだけど……一人暮らし同然の生活をしている唯斗の手際は流石に伊達じゃなかった。


 俺も家で少しは料理の手伝いをしてるけど、ちょっと敵いそうにない。なんせ俺が1つ目のハンバーグの空気抜きを終えた頃には、唯斗は2つ目のハンバーグの空気抜きを終えようとしてるくらいには手際に差があるんだもの。

 あと、俺の手だとハンバーグも小さい。つまり唯斗分を作るには3つは欲しい訳で……。


「ふん、ふん、ふん。……うぉっ!? ッとと」


 ちょっと速くしようとしたら丹精込めてペタペタしてたタネを落とし掛けた。……どうにも唯斗みたいにはいかない。


「ん、まぁ気にすんな。慣れればその内速く出来るようになるさ。……まぁ今日いきなりってのは無理だろうけど」


「……やはり経験がモノを言うのか」


「世の中そんなもんさ。というか俺達は別に競争してる訳じゃないんだしさ、自分のペースが一番だぞ」


「そー言うけどさ、手が小さい分たくさん作んなきゃいけないのにペタペタする速度も遅いと来たら……ちょっとは速くやろうともするでしょ」


 そう言うや否や、唯斗は空気抜きしたハンバーグのタネを置いて心外そうな表情を向けてきた。


「いやいや響のペースでやってくれ。なんで俺が手を抜かずにササッと終えたか分かるか? 俺の為のハンバーグが響の手によって作られる過程を可能な限り見たいからだ。響も今の自分を気になる女の子にでも置き換えて俺の目線で考えてみろ。俺のこの気持ちが分かる筈だ」


 早口で言ってそう。……というか食い気味だった。

 唯斗に言われた通り見知った女の子が俺の横で料理をしてる姿を思い浮かべると、なるほど確かになんというか嬉しいとか好きとか尊いとかがミックスになったものを感じられる。


「うーむ、俺の想像力ではまだ無理だけど、ここにエプロンが加わると結婚したくなるな」


「分かってくれたか(というか響も今エプロン着けてるんだけどな。それが意味する事を自分で分かってて…………言ってないだろうな。この子天然であざとい子だもん……)」


「……そうだな。唯斗がそうやって望んでくれるなら自分のペースで作るね。ゆっくり見てて」


 いつも唯斗には助けてもらってばかり……でもない気がするけど、まぁ気持ちってことで。たまには唯斗の望みも聞いてあげなきゃね。


 というわけで、唯斗が横で見てる中で俺のハンバーグ作りはより丹精を込め始めた。

 3つ目の小さなタネが出来たところで唯斗からもう一個要求され、結局4つ分の空気抜きをする事になった。それだけ唯斗が喜んでるって事だから、俺も気分を良くして付き合った。……まぁ、その後でもう一個作ってくれって言われた時は調子に乗るなって怒ったけど。




・・・・・★




─唯斗の部屋




 夕食を終えて、暫くしたらお風呂に入る事になって、恋人とはいえ流石に一緒はまだ恥ずかしいから先に入らせてもらって、今出て唯斗の部屋に入った。

 唯斗は意外と我慢強いのか、風呂に乱入してきたり脱衣場で鉢合わせみたいなスケベイベントを起こすこともなく律儀に自分の部屋で待ってた。とてもえらい。


 ちなみに服は家で着る用のラフな部屋着だ。ほぼパジャマかな。


 上は薄いレモン色でウサミミフードが着いてて袖口が広い……結構あざとい服だ。

 下は同じく薄いレモン色のハーフパンツだ。条件が揃えば中のパンツも見えそうで素晴らけしからん。自分の部屋の姿見で一生懸命パンツを見ようとしてたら母さんに見つかった事もあったな……。

 このあざとセットはゆったりとしていて着心地が良いから部屋着としては最高だ。という訳で唯斗ん家に泊まった時用に一式置かせてもらってる。


「唯斗~入っていいよー」


 ベッドに寝転がって携帯を弄っていた唯斗は俺が部屋に入るや体を起こしてベッドに腰掛けたが、立ち上がる事は無かった。

 そのまま何の気なしに部屋にある漫画を取って唯斗の隣に座ると、俺の髪を一房持って、匂いを嗅ぎ始めた。


「……ちょっと唯斗、なにやってんのさ」


「……うん、うん。ちゃんと俺ん家のシャンプーの香りだ」


「マジでなにやってんの」


 なんというかこう、ただの変態だ。


「いやなに、響はこの長い髪を1人でもちゃんと洗えるのか気になってな。まぁ大丈夫みたいで安心した」


「そういうことか。この髪とも2年以上の付き合いだもん、心配されるまでもないよ」


 というか、髪の扱いを怠ると母さんがうるさいから……。油断して適当にやっちゃった日には母さん同伴でもう一度お風呂行きだし。まぁ嫌でも身に付くよね。


「……って、いい加減風呂入れ~っ!」


 唯斗の後ろに膝立ちして、背中を押してベッドから追い出そうとしたけど俺の力じゃ全然動かなかった。


「あっ、ぶない!」


 割りと力を込めて押していたら唯斗がスッと立ち上がった。勢いのまま倒れそうなところで唯斗の腰に抱きついてなんとかなった。


「ははは、ごめんな」


「ぬおおお!?」


 唯斗が俺を背もたれにするように倒れようとしてきた。俺は精一杯力を入れて支えようとしたけど、やっぱり俺の力じゃ厳しい。


「おーもーいー!」


 唯斗は悪びれる様子も見せなかった。

 流石に辛くなってきたから、支えるのをやめて倒れてくる唯斗を避けようとしたら、器用な事に落下中に体の向きを変えて俺に覆い被さっててきて、そのまま抱き枕にされた。


「……どうしたの唯斗、ちょっと変だよ?」


「深夜テンションってヤツだ」


「まだ9時にもならんけど……」


「……あー、すまんな。マジな話、響と1日中いられるって実感したらどうにも落ち着かなくてな」


 遠足前の子供じゃあるまいし、なんて微妙に違う事を考えた。

 そして気付いたら俺は唯斗の頬っぺたに片手を宛て、もう片方の手を頭に置いて撫でていた。


「そんなに俺と居るのが嬉しい?」


「当たり前だ」


「離れるのはイヤ?」


「ずっとこうしてたい。こうしていてくれ」


「ふーん……」


 本当は理性を取り去って、外面も無く俺とくっついていたいんだろうな……なんて、唯斗の気持ちを知れたような気がして、思わず表情が緩んだ。


「もうちょっとだけね、そしたらちゃんとお風呂に入らなきゃダメだからね?」


「ああ、もちろんだ……」


「ふふっ♪ いい子いい子~♪」


「……な、なんか……なんか悪くないな……」


 調子に乗って子供扱いみたいな事したから微妙な顔されると思ってたら好感触だった。……あれかな、2人だけの時は外面とか気にしなくていいから色々オープンになるのかな。


 そうだな、それならもう少しだけこうしていてみようかな。確かにこんなの人前じゃ出来な──


ぽふっ


「えっ?」


 唯斗の左腕が俺を引き寄せ、スッと、さも自然な出来事のように俺の胸に顔をうずめてきた。


 唯斗の予想外な行動に俺の頭は数秒くらいフリーズしていたが、徐々に回転し始めた。

 そして気がついたのは、俺の手は唯斗を撫でるのを止めてなかったということだった。頬っぺたから離れた手は背中に回っていて、優しく擦っていた。……それはつまり、まぁその……別に嫌じゃないって事だ。


「もう……本当に少しだけだからね」


「……あぁ」


 さっき俺が思った通り、本当に理性とか取っ払っちゃってるのかな……なんて、唯斗があまりにも異常だから考えたりした。


「唯斗」


「……ん~?」


「寝ちゃダメだよ?」


「……んー」


 これ寝ちゃうヤツだ。


 ………………。

 ……でもまぁ、こんな唯斗初めてだし、たまには俺が甘えさせるのも悪くないかな。……ちょっと可愛いし。


「眠い? 寝ちゃう?」


「…………んぁ、んー」


「いいよ。……ほら、撫でていてあげるから……寝ちゃえ♪」


「…………、すま……ん」


 規則正しくなっていく呼吸に合わせて頭と背中を撫でていると、唯斗はあっという間に睡魔に飲まれて寝てしまった。


「…………ふぃ」


 夜更かしなんて全然へっちゃらな唯斗がこんな早く寝るなんて……。でもベッドの上にそのまんま寝てるからほっとくと寒そうだな。


 そう思った俺はクローゼットや押し入れを物色して薄目の掛け布団を取り出し、唯斗の首から下に適当に掛けた。なんか全身覆わなかったからもう一枚追加した。


「……不恰好だなぁ」


 ……あれだ、俺の力じゃ唯斗を動かすのは無理だし、起こしちゃ悪いし、これは仕方ないのだ。


 ………………。

 さて、対して眠くない俺はなんかゲームでもして暇潰しするかなぁ~。


・・・・・★



 唯斗のアカウントでゲームしてたら招待メッセージと共にディスイプ(通話のアレ)が掛かってきた。……ID見る限りアキタだな。

 俺は唯斗のちょっとお高そうなヘッドセットを着けて応答した。


『ハローハロー唯斗氏、お疲れちゃーん』


 丸っきりアキタの声がした。俺はいつもより声を低くして返事をした。


「やぁやぁ陸手リアくん、おはこんばんにちは」


『……リアつけんなとか『おはこんばんにちは』はもう死語じゃねとか突っ込みたいところだが……あんた一体……唯斗氏に妹なんていたっけ?』


 声を低くしても女の子認定された。俺が色々下手くそなのかアキタが凄いのか。……後者にしとこう。


「私が誰だかぁ、分からないのかねアルスくん?」


『……えー、うん? 待て、待て待て? ふふ、そういや妹さんよ、唯斗氏の事は好きかい?』


「な、何の事かさっぱりだよアンギラスくん」


 アキタが何を考えてるのか分からない。……いや、アキタからすれば俺も何考えてるのか分からない相手だな。


『あーと、この前唯斗氏は女の子にクッキーを貰ってお返しにおでこにチューしてt』

「なにぃ!? 唯斗がそんなことするわけないだろっ!?」


 よくよく考えて女性が苦手でヘタレな唯斗がそんな事する筈ないのに、俺は思わず地声で返してしまった。……ちょっと声大きかったかな。唯斗起きないよね?


『アッハッハッハ! やっぱり響ちゃんだ』


「バカやろっ! どう考えても唯斗がそんな積極的な事する訳がないだろがっ」


『分かってても反応しちゃうんだね響ちゃんは。それにしても、相変わらず気が高ぶった時の響ちゃんは男みたいな言葉遣いだなぁ。女の子ってみんなそうなの?』


「ああそうだよ!」


 アキタは通話相手が俺だとすぐに分かっててお手玉したんだ。……くそう、俺が弄ぶつもりが……。


『ごめんごめん。それより響ちゃん、なんで唯斗氏に通話掛けたら響ちゃんが出てきたの? 俺が間違えたって訳じゃなさそうだし。……あ、もしかして今唯斗氏ん家にいんの?』


「……ん? まぁ、うん。デートして唯斗ん家で夕御飯食べる事になってそのまんま泊まりって感じ?」


『……ひぇ~、お二人さんそこまで進んでたんだ。あ、もしかして俺はお邪魔だった?』


「ううん、唯斗ったら先に寝ちゃって暇だったからさ、眠くなるまでゲームしようと思ってやってたらアキタから通話が届いた訳ですよ」


『…………唯斗氏……ヘタレだな……』


「……ん? なんか言った?」


『あっ、あぁいや、唯斗氏は女の子を家に入れて先に寝れるなんて凄いなぁって』


「……うーん、なんて言えばいいのかな。二人っきりになって人の目が無いから気を張らなくてよくなった的な……分かる?」


『……いや、何となく、いや分かるぞ。……あー、良いなぁ』


「何が?」


『なんかこう、響ちゃんみたいな彼女を持てるって良いなぁってさ』


「ふーん、なんでさ」


 ここにきて俺は自分が正座で話し込んでるのに気付いてペタンと女の子座りに切り替えた。足を痛めるだけの正座よりかこっちのが楽だからね。ゲームする時は快適さバランスの良さで胡座あぐらだけど……。


『何でってそりゃあ響ちゃんは何というか他の女の子とはちょっと違うというか……こう、男女の筈なのに自然体で話せるっていうかさ、男に合わせるのが上手いっていうかさ』


「ふんふん」


『いくら恋人同士といえども男と女。どうやったって壁は出来るもんだってのが俺の考えなんだけどな、2人はそれが無いっていうかさ。男同士の親友みたいに話す事が多いじゃん? それで響ちゃんみたいな子が彼女だったら……面倒無さそうで楽そうって……あっ都合の良い女とかそう言う悪い意味なんて無いからね!?』


「いや、いいんだアキタ。たぶん恋人ってのはお互い都合が良くないと続かないもんだよ。俺も唯斗もお互い都合が良かったから今があるんだ」


 まるで俺と唯斗が対等なように言ってみたけど、結局俺は唯斗以外の男じゃ好きにならなかったと思う。でも唯斗は女の子に対する苦手意識を何とかすれば……いや、こんなこと考えたってしょうがないな。


『居眠り常習犯とは思えない頭良さげな回答……』


「ふふーん♪ これでも波頼の生徒なのだよ♪」


『よーし、そろそろアイツラ呼ぶかぁ。俺は高橋呼ぶから響ちゃんは藤崎をお願いね』


 こいつサラッと流しやがった!


「…………。アキタ、今度会ったらぶん殴ってやるから覚悟しとけよ」


『やったァ!! 早く学校行きたいなぁ!』


「…………う、むむむむぅ~っ……」


 こんなんでも俺よりは頭良いんだよなコイツ……。あっさり波頼に転入できたくらいだし……。

 でもほら、女の子の殴る宣言で間も置かず喜ぶ変態だからさ……納得いかんよねこんなん。


『たまには俺一人の力で響ちゃんを唸らせてみたかったんだよねぇ。いつもは大体藤崎がやるからさ、いやぁ今日はツいてるなぁ』


 阿呆アキタは無視してその相方の馬鹿ふじさきを唯斗の連絡リストからコールしてみたけど、すぐには出て来なかった。代わりに高橋の方は出てきた。


『お邪魔しまーす。ん、明治と藤崎はまだか』


『うんー! 今日響ちゃんは来ないヨー』


『あぁ、そういや今日は明治は唯斗氏とデートだったな』


『ちょっ、なんで高橋知ってんの!? 俺知らなかったんだけど』


『唯斗氏大丈夫か、さっきから一言も喋ってないけど。あんたが来てて明治が来ないってもしかして何かあったのか?』


『あの、スルーしないでもらえます?』


 俺……というか女の子抜きの男だけの会話を間近で聞いてみたかったけど、なんか高橋に申し訳なくなってきたから辞めることにした。


「高橋、俺d」

『どわぁッ!? め、明治!? ああれ、ちゃんと唯斗氏のアカだよな? なんで唯斗氏のアカ使ってるんだ……?』


「あ、いや、今唯斗ん家にいてさ、泊まりなんだ、今日」


『なにィッ!? ……ま、マジか』


『マジらしいぜ。俺も最初はびっくりしたよ』


 流石は三島さんお墨付きの鈍感純情ボーイ高橋……反応が凄いな。


「唯斗は先に寝ちゃったけどね」


『……え。……明治、分からなかったら聞き流して欲しいんだが、何もしてないのか?』


「何も……っていうか、ご飯食べて先にお風呂もらって、そのあと珍しくじゃれてきて……何か寝ちゃった?」


『……なるほど』


『……ヘタレっつか、簡単に満足しすぎだろ唯斗氏……』


 これもなんて言えばいいのかな……なんとなく分かってるんだけど言葉にするのが難しいな。


「俺は唯斗と一緒にいるとね……楽しくて、嬉しくて、みんな預けちゃいたいくらい安心するんだ。……もしかしたら唯斗も同じだったんじゃないかな」


 なんだかこの部屋に来てからの唯斗は子供みたいで妙に甘えてきてたし……。


『聞いただけで胃もたれしそうだな……』


『俺も響ちゃんに全部さらけ出したいだけの人生だった……ぐぞぉ゛ッ! 羨ましいぞ! 響ちゃんみたいな良い女が欲しい!』


『流石に陸手ほど淀んじゃないけど、俺も明治達みたいな健全で微笑ましい恋愛とかしてみたいなぁ』


「あはは、アキタはともかく高橋は脈アリな人がいそうだから、きっと叶うと思うよその望み」


 鈍感なのさえ直せばね……。


『響ちゃぁんっ……俺には……俺には居ないのですか……。女の子から見て脈アリな子は居ないのですかぁっ……』


「あ、そう言えば藤崎出なかったよ。とりあえず一回マッチやってからまた呼ぶね」


『ああ、よろしく』


『んがぁーッ! どうして打ち合わせもなくサラッと無視出来るんだよォ!』


「……いやだって、ホラ」


『お前と藤崎の対処は慣れてるし……』


『お、俺と藤崎のアホは同列なのか……』


「誰もが認めるバカコンビじゃない」


『だな。今更な話だがな』


『で、でも俺も藤崎も響ちゃんよりは成績いいぞ』


「…………ぬぅぅ」


 せっかく意趣返し出来たと思えばこれだ。赤点はそう出なくなったとはいえ、学校で俺より成績の悪い奴は居ない。成績の話をされたらもう言葉を詰まらせるしかないのじゃ……。


『陸手、お前そんなんだから浮いた話の欠片もないんだぞ』


『うるせぇっ、高橋だって彼女いねーじゃねーか!』


『はっはっは、少なくとも俺は明治から希望はあると教えてもらっている。ガツガツ行かずにじっくり待てば可能性はあるさ』


「……ごめん高橋、ちょっとはガツガツいかないとダメだと思う」


 なんだろう……もう高橋と三島さんを繋げるにはり気無くフォローしてたんじゃダメかもしれないな……。


『ぶぁははは! やっぱり高橋は乙女心ってやつを分かってないみたいだな! 響ちゃんの言いぶりからお前を想う子がマジにいるとしてだな、もしその子の想いが時間を掛けて暖められたものだったらどうだ? 今の状態を壊したくないから一歩踏み出せなかったりするんじゃないか?』


 今の状態を壊したくないから一歩踏み出せない。なんだか……俺に、いや……唯斗にもめっちゃ刺さる言葉だな。


『変な言い方だな。わざとらしいというか、何だか事情を知ってるかのように聞こえる』


『まぁな、薄々感じてたところにさっきの響ちゃんの発言で確信したんだ。だが……これは高橋自信が気付かないといけないから教えられない』


 今日だってそうだ。俺は普通なようで実はどこかそわそわしてた。お風呂に入ってる時、もしくはお風呂から出た時、何かやましい事の1つでも起こるんじゃないかなんて考えてた。もしかしたら俺は……それを望んでいたのかもしれない。


『明治も教えてくれないのか?』


「……えっ? ……あ、あぁ、ダメダメ! そういうのは俺達が教えたって冗談か何かだと捉えちゃうのがオチなんだから」


『にぶちんの生態をよく解っておられるな響ちゃんは。それに引き換え高橋ときたら男の風上にもおけないクズ野郎だよ』


 今は……まぁ、その、あれだ。ゲームが終わったらまた考えよう。スカッとして気持ちを切り替えれたら何か良い考えでも思い付くかもしれないしね。


『……えー、あれ? なんだこの流れは』


「高橋が悪いんだよーだっ」


 唯斗に対して、そしてなにより俺に対して放ったその一言は、単なる高橋への八つ当たりだった。


『急に当たり強いなぁ……』


『ま、響ちゃんにも何か思うところがあるんだろう』


「女の子ってのはね、色々めんどくさいもんなんだよ」


『自分で言うのか……』


『響ちゃんなら全部可愛いで済むけどな』


 やっぱり早いとこゲーム始めないと思考が堂々巡りするだけだな……。よし、ちゃっちゃとゲームに集中して気持ち切り替えてこう。


「藤崎いないけど始めちゃおっか。一回マッチいってから掛け直そうよ」


『ん、そうだな。まぁ響ちゃんいるしボロ敗けはしないだろう』


『俺は……』


『高橋、自覚してるなら鍛練あるのみだ』


『そうだな……』


 やっぱり唯斗がすぐ近くで寝ているのは気になるけど……そう、友達の家に泊まりにいって友人が先落ちしたと思えばいいんだ。なんて事ないじゃないか。

 なんて、無理矢理自分を納得させてゲームに取り掛かった。……割りとすぐに唯斗は気にならなくなった。




★ ★ ★





「………………ん」


 たぶん朝、ぼんやりと目が覚める。


 何かに体が包まれている感じがしたから何だろうと思ったところで、それが唯斗だと気付いた。……いつの間にか俺は唯斗の抱き枕にされてたみたい。


 ちょっと勿体ないけど唯斗の手を俺の体から引き剥がして、枕元辺りにある俺の携帯で時間を確認した。ちょうど午前6時を過ぎたところだった 。


 そして、もう一回唯斗に抱き締められるように上手いこと唯斗の腕を動かした。……この感じ、なんか、すごく安心する。こうしていたのは唯斗なんだし俺だって堪能してもいいよね?


「…………♪」


 元々寝起きでぽやぽやしてたのにこんな事しちゃったから眠気が帰ってきた……。

 えへへぇ……今度はこっちが抱き枕にする番だからね…………♪


 ………………♪


 ……………………♪


 …………。

 …………はっ !!。


 あ、危ない危ない。二度寝するとこだった。せっかくだからカノジョのお手製朝ご飯ってシチュをお見舞いしてやろうと思ってたんだ。危ない危ない。


 誘惑に負けて寝そうだから取り敢えずベッドから降りよう……名残り惜しいけど。


「……ん、しょ。……ーっ」


「…………うぅぅぅ」


 軽く伸びをしながら部屋を出ようとしたら後ろから呻き声のような声がした。

 その声の主は唯斗以外に有り得ないから、ちょっと慌てて振り向いた。


「いかないでくれ……」


 普段じゃ絶対聞けない、まるですがるような声に思わずベッドに戻って唯斗の腕を抱き締めた。


「ゆ、唯斗……大丈夫?」


 大丈夫? なんて大丈夫じゃない人に掛けるべきじゃない言葉だけど、抑える間もなく咄嗟に口から出た。


 少しだけ腕に力を込めると、唯斗は少しだけ頭を起こして目を開け、俺を見るや再び枕に頭を落とした。


「嫌な夢でも見たの?」


「……ああ」


 特に唸ってはいなかったから急に寝言が漏れた事になる。夢の中の唯斗にとって突然堪えられない出来事が起きたんだと思う。


「響」


「ん?」


「お前は……どこにも行かないよな?」


「さっき朝ご飯でも作りに行こうと思ってたんだけど……。ほら、起きて一階に降りたら彼女がご飯作ってくれてた~って、凄く良いシチュエーションでしょ? えへへぇ……。……でもやっぱり、二人で作ろっか。昨日みたいに」


 唯斗は申し訳なさそうな、それでいて寂しそうな顔をしながら聞いていたが、最後の辺りから一層悲しそうな表情になった。

 そして唯斗は上体を起こしてそのまま俺を抱き寄せてきた。


「ゆいと……」


 こんなにも……放っっておいたら消えちゃいそうな唯斗は初めてかもしれない。どんな言葉を掛けていいか分からなくて、ただ抱きしめ返すことしか出来なかった。


 初夏からいきなりクーラーを炊いている贅沢なこの部屋はちょっぴり肌寒くて、唯斗のぬくもりがより感じられて自然と心拍数が上がった。なんだか落ち着かなくなって自分のつま先同士や太もも同士を擦り合わせる。


 そうこうしていると唯斗の大きな手が俺の頭を優しく撫で始めた。何も言わずただ撫でられているだけなのに、まるで身体が浮き上がってフワフワするような不思議な感覚が起こった。


「…………♪」


 そのまま飛んで行かないように唯斗に抱きつく力を更に強めて胸元に顔を埋める。……すると安心感と一緒に幸せな気持ちが押し寄せてきて気を抜くと本当に身体が吹き飛んでしまいそうになる。呼吸は乱れないけど心臓は高鳴るばかりだ。


 そして、唯斗の視線を感じて上を向くと、さっきまで辛そうにしていたとは思えないほどに爽やかな微笑を浮かべていた。


「ありがとう、響」


 唯斗は落ち着いたみたいだけど俺は逆に衝動の塊みたいなものが身体から突き出そうになっていた。何か物足りなくて、何か……何かを求めてる。……だから俺は珍しく唯斗におねだりをすることにした。

 もぞもぞと唯斗の頭よりちょっと低いところまで動いて目と目を合わせる。こういうのっていつもは俺が照れくさくなって目とか顔とか逸らしちゃうんだけど、今日は不思議とブレずに真っ直ぐ見据えていられる。


「お礼」


「……ん?」


「お礼ちょーだい。……んっ」


 顔を近づけたら目を摘むって……後は待つだけ。なんだか自分の全てを委ねてるような感じがして余計にドキドキする。


 待っている間、色んな思いが頭を巡っていたのに、唯斗の腕が俺を包んだだけで『来る』『来て』『好き』みたいな単語だらけになった。なんだかそれまでの思考なんて意味の無いものみたいだった。


 お互いお腹が根を上げるまで甘えさせてもらった。時間にすると10分にも満たない行為だったらしいけど、俺の感覚ではもっとしていたような気がするし……お腹さえ空いていればもっと……もっとしたかったな。なんて。








 響さんに天然小悪魔化フラグが……予定に無い現象が……。


 実のところ、朝ご飯の後二人でお風呂に入る事になって、裸で入るつもりだった響さんに唯斗さんが「こんなこともあろうかと」と響さん用の水着を出して「用意いいな!?」って突っ込まれたり、その後に唯斗さんが響さんの髪を洗ったり、響さんが唯斗さんの背中を洗ったり、その過程を経て最後に響さんが『俺たちはまだ怖くて一線を越えられないんだな……でも今はこれでいいのかも……』って結論を出すってオチでした。……でしたが、久しぶりに着地点も決まっていましたが、これ以上は本当に時間が掛かってしまうのでいつしか小ネタ集を出すときにでもという考えに至ったのです。……待ってくださった皆様にも本当に申し訳ないですしね。

 ちょっと長めなのも本来分割する話を一本にまとめてしまった為です。


 ほぼ同じ理由で、本来後書きには響さんとディザーリィの掛け合いを出して、今回唯斗さんが悪夢を見たのはディザーリィが唯斗さんの夢に入ってあれこれした結果(NTRれる夢を見せた)だったという裏話的なのをする予定でした。

 あれもこれもって詰め込みすぎるのは良くないからね作者は善処を尽くしたからねディザーリィの出番がカットされるのは仕方ないね……。


 環境が変わって中々執筆が捗らないというのは置いといて、簡単簡潔に話を進める方向に進化していかないと……話をやたら膨らませる癖はなんとかしないといけませんね。



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― 新着の感想 ―
[一言] お待ちしておりました! 今回も甘々で最高でした... もし機会があれば唯斗が見た悪魔(NTR)の内容も見てみたいです!
[一言] お帰りなさいませー!!!!!お待ちしておりました!! (内容が)あまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!! 今回も本当に、ほんっとうに最高です… これからもゆっくりのんびり待たせていただきます! …
[一言]  楽しみができました、ありがとうございます。  さー 読むぞ~
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