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【社畜貴族の成り上がり】転生したらパワハラ令嬢に婚約破棄されたので、嫁いできた白い令嬢と幸せになります  作者: 昼行燈


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第9話 実食



「少し人が集まってきましたね、アミノ様」

「ですね。とりあえずみんなに味を知ってもらえば、今日は成功です」

「大丈夫です! アミノ様の作った物は凄いですから」

「ありがとうございます」


 そう言ってもらえると、とても嬉しい。

 

 自信満々、という訳ではないが、受け入れてもらえる準備はしてきたつもりだ。


 俺とアリスが直接、領民たちに香辛料を掛けた食べ物を渡す。それだけのことだが、安心してもらうには顔を出すのは必要だろう。

 

 よく卵作った人はこの人! みたいな顔写真載せてるし、あれみたいなもん。


 俺は辺りに視線を向ける。


「でも……疑いの目はだいぶ向けられているなぁ」


 集まってきてくれた人の中には、敵意とまではいかないが俺を訝しんでいる人が多い。

 ユリミアを迫害し、イジメてきたなどという噂を信じている人たちだろうか。


 しかし、冷静に考えれば俺がユリミアを迫害するわけもないんだけどなぁ……。


 これもゲームの特性故……みたいなものか。

 

「アミノ様。やり方次第ではこの国で一番になれるほどの大金持ちになれるのに、香辛料の値段は抑えめで良いのですか?」

「アハハ……正直に言って、お金にそれほどの興味はありません。もちろん、あった方がいいのは事実ですけど」


 お金があれば好きな物が買える。

 誰もが羨むようなものが手に入る。


 あれが欲しい、これが欲しい。


 そういう気持ちはよく分かる。


「でも、お金ではどうしても埋まらないものだってあるんです。例えば、アリス様と一緒に作った時間、とか……」


 我ながら少し変なことを言っているな、と思うが口走ってしまった物は仕方ない。


 アリスは僅かに照れて視線を逸らし、呟くように喋る。


「そ、そうですか……」


 そうして、【アミノ産ガーリックフラワー】の販売を開始した。


 

 お祭りとはいっても、規模はとても小さい物で、ポルシェノール家で出来る範囲のものだ。

 街中で小さな催しを開いていた俺とアリスの周りに、人々が集まってくるようになった。

 

 農民や鍛冶屋、服屋などといった様々な職業の人たちが問いかけてくる。


「これは……なんの催しですかい?」

「俺が作った香辛料なんですけど……まだ試作段階で、まずは皆さんに味を知ってもらおうかと」

「へぇ~……! 香辛料……こんなものが」


 一応、味別のバケツと粉でわけておいて、それぞれ名前を付けてある。


 ニンニク、コショウ、ショウガ……とりあえずはこれだけでも十分だろうと判断した。


「どれも同じように見えちまいますがね……香辛料不足ってのをネタに、詐欺しようって言うんじゃないんですかい?」


 そういう疑いが出るのも当然だ。

 否定する気はないし、逆に疑っている方が判断力のある人だと思う。


「みんな苦しんでるんですよ。それをこんなもので騙そうって言うんじゃないでしょうね。貴族の人ってのは絞ることしか考えてないですし」

「アハハ……」


 俺が苦笑いを浮かべていると、隣にいたアリスが無言で取り分けた皿を出した。


「……アミノ様が詐欺を働くとお疑いになるのでしたら、ご自身で確かめてはいかがでしょうか」


 俺が疑われてちょっと怒ってる?

 それに一瞬だけ、バツが悪そうな顔をした商人が皿を手に取る。


 そうして指先に付けて食べた。

 

「はっ、こんなんで、コショウの味が出る訳が……んっ!?」


 商人は唐突に目を見開いて何度もコショウ味を食べた。


「なんだこれ。コ……コショウの味がする……! 凄い……!」

「他の味もありますよ」


 そう言って違う味も渡すと、そちらにも驚愕する面持ちを見せた。

 

「これなら確かに料理にも使える……もう素材の味だけの食べ物じゃなくても……」

「一応、【薬祖の祝福】を持っている人間が監修と調合をしました」

「薬祖!? 王都でも数人しか持ってない祝福持ちの人が!?」


 えっ、そうなの。

 ★でレア度は分かっても、どれくらいの人間が持っているかまでは知らないんだけど。

 い、一応俺ってことは言わないでおこう……。


「凄い……! なら宣伝としてもかなり強力だ」


 隣にいるアリスが、まるで自分のことのように誇らしげにしていた。


 祝福を持っているかどうか。

 この世界では、祝福を持っているかどうかというのは大事だ。


 鍛冶屋では、【鍛冶の祝福】を持っている職人が作りました!と宣伝すると売り上げが十倍になったりする。

 

 祝福持ちというだけで品質は確実だ。


「ごほんっ」


 アリスがわざとらしく咳をして、チラリっと商人に目をやった。


「……っ! す、すみませんでした!」

「いえ、お気になさらないでください」


 元々はそういう疑いを晴らして信じて貰おう、というのが今回の趣だ。

 いきなり人から信じて貰おうだなんて、最初から思っていない。


 信頼はいきなり勝ち取ることなんてできないのだから。


 一通り来てくれた人たちを見て思う。


 とりあえずは……成功したのだろうか。

 

 俺だけがガーリックを占領して、後からバレて『ズルい!』なんて怒られる未来も嫌だからね。

  

 そう言い訳しつつ、心の中は少し満足だった。

 

「うまっ……!」

「これは凄いぞ……!」

「アミノ産ガーリック香辛料か……」


 ……その名前で広まってしまった以上は、もはや変えられなさそうだけど

 

 *


 帰り途中、アリスが少し上機嫌になっているように俺には見えた。


「何か良いことありました?」

「ふふっ……アミノ様がきちんと評価をされているようでしたので、嬉しかっただけです」


 とても可愛らしい笑顔で、アリス・クリファイスは喜んでいた。

 

 

 

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