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【社畜貴族の成り上がり】転生したらパワハラ令嬢に婚約破棄されたので、嫁いできた白い令嬢と幸せになります  作者: 昼行燈


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第6話 アリス・クリファイス視点


 聞いていた話と違う。


 アミノ・ポルシェノールは横暴で婚約したユリミア様を陰でイジメていたという噂だ。

 夜な夜なには遊びの惚け、ユリミア様の領地から税を横領した、などという話も流れている。

 ろくでもない貴族、それがアミノ・ポルシェノールという人間だ。


 そこへ嫁ぐことになった私は、それほど彼への期待はしていなかった。


 しかし、アミノ様と出会った時は、魔物に襲われた時だ。


 アミノ様とは殆ど言葉を交わすことなく、彼は自らの名も名乗らずに私を安全な場所まで届けて去ってしまった。


 なんて潔白な人だろう、と私は思った。


 普通は誰かの命を助けたのなら、見返りを求めてくるものだと思う。


 でも彼は……アミノ様は見返りを求めなかった。


 もう一度、生きて会えるのなら、お礼が言いたい……そう私は思っていた。


 そして私はクリファイス家に帰ることもできず、王都から命じられた新しい婚約者の元へ向かった。


 それがまさか……私を助けてくれたアミノ様だとは知りもせず……。


「……不思議な人」


 ポルシェノール領の屋敷にある一室。

 そこで私は、アミノ様に貰った枕を抱きしめていた。


 良い香りがして、とても柔らかい。

 今まで使っていた寝具などでは比べ物にならない。


 今まで生きてきて、ずっと不安に駆られていたのに……これを貰ってから安心して眠れている。

 鏡を見ると、前まであった目の下のクマが消えていた。


 こんな凄い物を作れるなんて、本当に凄い人なんだ。


「もしかしたら……気づいていたのかな」


 私があまり眠れていないことを、アミノ様は知っていたのかもしれない。

 他人にそのことを話したことはないし、弱みを見せるつもりもない。


 それに、好物が甘い物であることも知っていた。


『うん! 甘い物にチョロいでしょ?』


 あの言葉を思い出す。

 本人は言うつもりがなかったのか、とてもユニークな表情をしていたことを覚えている。


「……」


 でも、不思議とアミノ様へ怖さは感じなかった。

 どちらかといえば、好意の方が強かった。


 私だと知らずに魔物から助け、距離を取っているのに縮めようとしてくれた。


 自分の意思で決めた婚約ではないのに、嫌な顔一つせず、不愛想で無表情ばかりな私を大事にしてくれているんだ。

 

 私は……アミノ様へ誠意を見せなければならない。


 ただ流されて、自らの死を受け入れるだけではないんだ。


 *


 それから私は、アミノ様の研究室へ向かった。

 寝室に行くのは流石に緊張するし、心臓が持たない気がする……。


 【アミノ研究室】と手書きで書かれた看板がある。

 自分で書いて作ったのかな……。


 開けっ放しの研究室へひょっこりと顔を出す。


 研究室の中は整理されており、棚から取り出した本が机の上に重なっていた。

 あれを全て読んだのかな……凄い分厚い本もある……。


 当の本人は、悩みながら薬を作っているようだった。

 

 また不思議な物を作ってる……。


「アミノ様」


 そう声を掛けると、こちらへアミノ様が顔を向けた。


「アリス様! どうしたんですか?」

「少し……お話を、と思いまして……お忙しいですか?」

「いえ、大丈夫ですよ」


 アミノ様が手袋を外し、薬品瓶に布を被せた。

 そうして窓の月明かりに気づいたようだ。


「もう夜だったのか……外で話しませんか? 実験してて匂いが籠ってまして……」

「構いません」


 ポルシェノール領は自然豊かな場所だ。

 田舎なんて言われているけれど、昼は太陽でぽかぽかとしていて、夜は月明りで心地よい風が流れている。


 屋敷の中庭にやってきて、アミノ様は庭園の白い花を「これ薬師で使えるかな……」と呟いていた。


 二人で歩きながら、先に私が口を開いた。


「その……少し前の、命を助けてくれてありがとうございました」

「命……?」


 思い当たる節を探しているようで、「もしかしてアレかな」と気づいたように呟いた。


「魔物の件なら気にしないで下さい。アリス様が無事でよかったです」


 あぁ……やはりこの人の悪評はすべて嘘なんだ。

 なぜそんな噂が広がっているのかは分からない。でも、誠実な人だ。


 私は足を止めた。


「……あと、どうか私とはあまり関わらないで下さい」


 私には厄介な事情がある。

 だから、アミノ様へ嫁ぐことになった。


 隠していちゃだめだ。

 はっきりと、ちゃんと伝えるんだ。


 その覚悟はしてきた。


「……私は、呪われています」


 そうして、耳を掛けた。

 アミノ様が呟く。 


「エルフ耳……」


 これが、私が誰にも言えない秘密。

 本当にごく一部の人しか知らず、穢れと言われてきた。


「陽が落ち、夜になると私はエルフになる呪いが掛けられています。魔力は常人を越え、自分でも制御ができない時があります」


 誰に呪いを掛けられたか。

 いつからこうなったのか。


 自分でもはっきりとはしていない。


「私は化け物なんです」


 それでも私が婚約破棄をされ、クリファイス家から見捨てられ、今に至る原因がこれだ。


「だからお願いします……アミノ様」


 しかも私は命を狙われている。


「私は、あなたを巻き込んで傷つけたくありません……」


 アミノ様はこちらへ振り返り、微笑んで答えた。


「それは無理な相談です」

「え……」


 突如、風が吹いた。


「誰かに婚約させられたにしろ、俺はあなたの将来の旦那だ。その責任から逃れて、自分だけが助かる道を選ぶつもりはありません」

 

 ……っ!

 ギュッと胸に手を当てる。


「アリス様が呪われていようが、どれだけの事情を抱えていようが……」


 私の頬から抜けていく風によって、白い花が舞って辺りを包んだ。


「俺が必ず、君を守ります」


 不思議な感覚だと思った。

 でも、それは明確に言葉として現れてくる。


 ポカポカする。


 これは……嬉しいんだ。

 幸せだと思う感情なんだ。


 ゆっくりと、アミノ様は手を伸ばした。


「だからどうか……俺の手を、安心して取って欲しい」


 底のない、人の善意に初めて触れた気がした。

 

 僅かに視線を落としながら、私はアミノ様を手を遠慮しながら握りしめた。

 そしてアミノ様の笑顔は、きっとこれからの未来で、最も記憶に残るであろう瞬間だった。



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