魔女は奴隷に躰を捧げる
鮮やかな、海からは離れたこの都にとっては大変貴重な生食のできる海の幸を豊富に用いた料理は一目見て豪華絢爛な飾り付けをされていた。しかし、それらの料理を僕は全く目に入れられなかった。
盛りつけられた皿が、まごうこと無く僕の妹、“賢者”シンシア・テリングワースであったから。
「ミリィ、これは衛生的に大丈夫ですか?」
後ろから僕に追いついてきたレオンは部屋に横たわる姉を見ると、ミリアに対し聞く。でもそれは何処かずれているような気がする。
「大丈夫、だよ。シア姉は、長耳、だから」
以前、院長先生から聞いたことを思い出した。長耳族、あるいはエルフとも呼ぶらしい一族がいて、魔術に長けた人々だという。容姿端麗な姿が特徴であり、体質的に常に清潔である事も聞いていた。つまり、裸のシンシアは皿以上に皿に適しているという事らしい。さらにミリアの言う事には、鮮度を保つためにシンシアの上に乗っている食べ物は常に一定の温度に保たれているそうだ。
「今日のにぃにの、晩御飯は、シア姉の、女体盛り」
ミリアが尻尾をゆったりと真上に上げ、茶色い耳をぴこぴこと動かしながらこちらを少し見上げてくる。この動作はいつもミリアが構ってほしかったり撫でて欲しいときにする動作だった。シンシアの姿が強烈に映る僕だったけれども、昔のままのミリアを見て身体は自然とミリアの頭を撫で、喉をさすっていた。うにゃ、うにゃぁと声が彼女から漏れる。
「よくできているわね、さあ、美味しいうちにいただいてしまいましょう。さあ、お兄様」
リーナに手を引かれ、席に着く。目の前には頬を朱に染めたシンシアがこちらを見て微笑んでいる。その横ではレオンとリーナが僕とは別に出されている同じ料理の前に座っている。もちろん女体盛りではない。僕もそっちが良かったが、シンシアの手前、口に出すことが出来ない。
「エリスはまだよだれを垂らしながら幸せそうに眠っていましたわ。先にいただきましょう」
そう言ってレオンとリーナはそれぞれ食べ始める。僕もお腹は空いているのだが、微笑みかけるシンシアを前にどうすればいいのか戸惑っていた。
「レン君、お姉ちゃんが教えてあげるね。まずはそこのフォークをとって、ここに刺して食べるの」
言われたとおりに僕は示された食器をとる。先の尖ったそれを持ち、シンシアの指さす部位、臍に乗っている白身の魚の切り身を見る。貴族であるシンシアが食べ方を教えてくれるのはありがたいのだが、これは本当に普通の料理なのかと思う、先ほどミリアにはシンシアが皿として優秀な体質だとは聞いたけれども、それでも妹を皿として扱うのは人扱いをしていないようで心に引っかかるものがあり、今日みんなは僕に彼女達自身をさも道具か何かのように扱うように強いている。これもその一環なのかも知れない。でも、どうして彼女達はそんな事をするのだろうか。僕は僕の知らない彼女達のナニカに不安を抱いていた。
「レン君、どうしたの? おててが止まっちゃったよ?」
思考にふけっていた僕をあやすような口調でシンシアが呼びもどす。それを聞いて少し慌ててフォークを扱ってしまったため、白身魚を貫き、彼女のお腹をフォークでついてしまった。
「あっ」
高めの声がシンシアの口から漏れ、体がピクリと動く。身体を痛めてしまっただろうかと思い、シンシアに謝る。
「だいじょうぶ。でももうちょっとだけ優しく食べてね?」
少し潤んだ緑の眼で優しく話しかけるシンシア。やはり痛かったのだろうか。僕はシンシアに言われるまま、お腹の魚を食べていった。刺さないように、肌に沿わせて掬いあげるようにして食べると、それでも彼女は短く声を出して身体を悶えさせる。今度はくすぐったかったのだろうか? やはり怪我する可能性のあるシンシアを皿代わりとするのはおかしい。そう思って食べるのを止めようとしたら、体が動かない。いつの間にか命令が身体を支配していた事に僕は全く気付いていなかった。そのまま僕はシンシアのお腹の料理を食べ終えた。
「レン君おじょうずね。次はここを食べてね」
そう言ってシンシアが示したのは彼女の大きな胸に盛りつけられた赤身魚。黒い水着の上に盛りつけられたそれを僕はフォークでとろうとしたが、滑ってしまいなかなか取れない。試しているうちに水着を何回かついてしまった。
「ぁっ……はぁ……ぁっ!」
二度三度とつついてしまう度にシンシアが何かを我慢するかの様な声を上げる。息が徐々に荒くなっていて、頬も先ほどより赤みを増している。
「レン君、フォークがっ、難しかったら、直接食べてもいいよ?」
そう言って僕を呼び寄せるシンシア。僕の体はそのまま彼女のそばに移動し、口で直接水着の上で主張している頬のように朱色をしたそれを口で挟んだ。汁気を帯びた魚を彼女の胸の前でよく噛んで食べると、彼女はボーっとしつつも僕に微笑んで頭を撫でた。少し恥ずかしい。そのまま、彼女の胸にあった赤身魚を食べ終えた。
「よく、できましたぁ、次はぁ、お姉ちゃんの、ここぉ、食べてぇ」
その言葉で動いた僕の体は彼女の膝のあたりまで動き、跨ぎ、上半身を彼女の下の水着に近付けた。そこには練り物が多く盛りつけられていた。僕の身体はそのまま彼女のふとももに盛られたそれに舌を這わせ、じゅるじゅると吸い取っていく。
「ひぃぁ、はぁ、はっ、はぁっ!」
シンシアから比べ物にならないほど大きな声が漏れ始める。とても不安になるが、僕の身体が動かない。腿の練り物を吸い取り、腿の間に盛られた料理に取り掛かる僕の身体。黒い水着の上に舌を這わせ、器用に舐め取っていく。その度にシンシアの声がどんどん切羽詰まったモノになっていった。残りはもう少しになったが、閉じられた腿の間に深く入っているので身体は勝手にシンシアの二つの腿の間を広げようと両手を動かした。
「あ、そこはぁ!!」
シンシアが焦ったような声をあげて僕を止めるが、命令を出されていた僕は既に開かれた腿の根元を啜りあげていた。
「っ!! っぅーーーーーッ!!」
途端、僕の顔が強く挟まれてしまった。身動きが取れなくなり、鼻からはクラクラする強烈な匂いが入り込み、顔じゅうにはベタベタの練り物の塩気を含む水気が擦り込まれる。しばらくして、息苦しくなった頃に腿から力が抜け、ピクピクと動く身体から顔を上げようとすると、再度押し込まれ、目に何かを巻きつけられてしまった。酷く水気を帯びた布か何かで目隠しをされたようだ。暗さが奴隷のころを思い出させる。
「はぁッ……レンくぅん、おねえちゃん美味しかったぁ? 最後はぁ、デザートにしようねぇ?」
シンシアの声が聞こえてきて安心する。頭からさっきのクラクラする匂いが強くする中、手のような何かで捕まえられ、そのまま柔らかい感触に包まれた。シンシアのつぶやくような声が聞こえ、布の先で何かが光ったような気がした。
「はぁい、れんくぅん、あーんしてぇ」
言われるままに口を空けると口の中に柔らかく、それでいて少し固い何かが入れられた。そこから甘くて、どこか落ち着く飲み物が注がれ、僕は一心不乱にそれを飲み干してゆく。
「あぁ、レンくんはほんとうに可愛い、甘えんぼさんねぇ……」
シンシアの声と頭を優しく撫でる温かい何かに包まれて食欲を満たした僕は再び強烈な眠気に襲われ、意識を失ってしまった。
鼻の中には酷く強烈なシンシアの香りが最後まで残っていた。




