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異聞平安怪奇譚  作者: 豚ドン
海賊吼ゆるサイゴク
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ニシの幕間

 

 やっとの事で小野好古(おののよしふる)の乗る船の修理が完了し……追跡に向かわせた船へと追い付く。

 暴の限りを尽くされた死体が転がる船上……好古(よしふる)は匂いに顔を(しか)めながら、血で化粧を施された船上を見渡す。

 好古(よしふる)は大将らしき男の背に突き立てられた刀と残された文を見つける。

 血で汚れ、読みにくくなった文を見ながら溜息をつく。


「ああ……やはり駄目だったか、追跡命令も出さなければ良かったかもしれないな」


 好古は持っていた文をぐしゃりと潰しながら、さらに深い溜息をつく。


「屈強な男がこんなに簡単に……化け物ですかい?」


 歯の欠けた水夫は(しか)めっ面をしながら、転がった首や胴体に手を合わせながら、一つ所に集丸。


「……どんな男でも凄惨(せいさん)に殺されたのを目の当たりにすれば、足も(すく)むものよ。ほれ、此奴(こやつ)なんか一撃で頭をカチ割られている」


 割られた頭の男を少し持ち上げると、眉間(みけん)のあたりからどろりとした赤いモノがべちゃりと音を立て落ちる。

 男達は光景に我慢ならず、海に胃の中の物、全てを吐き出す。――吐瀉物(としゃぶつ)に釣られて魚が集まり、ぱしゃぱしゃと音を海面で奏でる。


「うむ、では……京に報告に戻るか」


 その好古の言葉に面々(めんめん)は驚きの顔をしながら口元を拭う。


「長官、よろしいんですかい? 純友の野郎を地の果て……あいや、海の果てまで追いかけなくて?」


 さらなる嘔気(おうき)を懸命に(こら)えながら、水夫は問う。


「ああ、これ以上は甚大(じんだい)な被害も出せんしな。――それに太宰府の復興もあるし、第一に純友に勝てるかどうかも分からん」


 さらに驚愕(きょうがく)するような話を聞き、()いた口が塞がらなくなる。


「それは……武芸に(ひい)でた好古様の腕を、もってしてもって事ですかい?」


 皆があんぐりと口を開け、(にわ)かには信じられずにいた。


「おうよ、土に足つけてなら、五分五分の良い戦いが出来るだろうが……海の上では藤原純友(ふじわらのすみとも)の方が何手も上手(うわて)だ」


 溜息を吐きながら、(ひげ)(いじ)り遊ぶ、好古(よしふる)


「あとな文に書いてあったのだが……散々に暴れまわって好き放題したが、日ノ本には戻らないし、官位は返すから許せと書いてあったぞ」


 くつくつと笑う好古。――野狂(・・)と呼ばれた祖父をもつ為か。どこか純友の奔放さが懐かしい気がした。


「今頃、純友は新たな大地に、新たな冒険、新たな宝の山を目指して西に向かってるだろうよ」


 一頻(ひとしき)り笑った好古は、真剣な面持ちとなる。


「それと此奴(こいつ)らは……置いても、連れても行けねえから荼毘(だび)に付してやれ」


 そこからの男達の行動は速かった。

 男達は壺を持ち、壺内の魚油(ぎょゆ)を船に撒き、松明(たいまつ)で火をつける。

 赤々と燃えながら、船が黄泉への旅路に向かうのを苦い顔をしながら見送る好古達。


「迷わずに向こうへと渡れ……祖父、小野篁(おののたかむら)閻魔殿(えんまでん)で待っているぞ」



 一方その頃。

 源経基(みなもとつねもと)源満仲(みなもとのみつなか)、両名は太宰府へと足を伸ばしていた。


「うむ、先に晴明(はるあきら)が被害調査に来ているはずなんだが」


 其処彼処(そこかしこ)で崩されてしまった建物の修繕をする大工や、避難から戻ってきた人、道端で商売する人。

 陥落した後だというのに、妙に活気に満ち溢れていた。


「他の純友に襲撃に遭った国と似たような状況だな……民は元気に商売や仕事に精を出し、目立った酷い被害は建物以外、あまり無し」


 意気消沈しながら、満仲の前を横切るように歩く、裂かれ、汚れた朝服を着込んだ官人らしき男。


「おっと……忘れていた、主に官人。とりわけ、不正を働いていた者は酷い目にあうとな」


 筆をさらりと動かしながら、彼方此方(あちらこちら)を見て回る二人。


「陛下への報告ですね、民には他の筋書を流布するでしょうが」


 満仲(みつなか)経基(つねもと)の言葉に対して、苦い顔を返しながら語る。


「親父殿……これは民にも語れない、書にも記せない事……だが、誰かが真実を知っておかなければと思うのです……誰かが」


「その話を聞けば、将門も……喜ぶでしょうね」


 経基(つねもと)は東の空を見やる。――遠くなってしまった|過去に、悔やんでも悔やみきれない将門との邂逅(かいこう)を思いながら。

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