26話
「だーかーら」
珍しく、温厚(自称)な空が少しだけ声を荒らげるようにして目の前にいる二人に言葉を発する。
「高木くんの隣には私が座るって言ってるでしょ?私は店員だし、男の人相手は慣れてるからこれがマストなの。分かる?」
「いやいや、空よ。私はいずれ京介を右腕として雇うつもりでいるんだ。今のうちにこの距離感に慣れておかないとダメだろう?」
「そ、それなら!私はお部屋もお隣ですので!バスのお隣の席でも大丈夫です!お隣ですから!」
と、ちょっとした修羅場がバスの席決めで起こっている。少々ヒートアップしているせいか、声が少しだけでかく、クラス中がいまや注目していた。
当然、その話し合いに参加していないかつ、視線に敏感な京介はーーーー
(誰でもいい……誰でもいいから早く終わって……)
ぐでーっと、視線にやられて机に突っ伏していた。彼のSAN値はもう少ない。一体なぜそこまで京介の隣に座りたがるのか。それは、乙女達の様々な理由が混じる。
(これを機に、高木くんの周り渦めく環境をしっちゃかめっちゃかにしたいの!掻き回したいの!)
(こ、これは……そう、将来京介を私の右腕とするための布石なんだ!私が京介の隣に座りたいからというのは……少ししかない!)
(きょーちゃんとどうどうとお近付きに!頑張って!私!)
一名ほど何やら腹の中まっくろくろすけな思想を持っていたのがいたが、まぁ全員京介の隣に座りたいというのは本当だ。
となれば、乙女達が取る選択肢はただ一つ」
「高木くん!」
「高木さん!」
「京介!」
「「「誰が隣がいい!?」」
そして、教室中の視線が、京介に注目する。当然、一気に視線を集めた京介は、体の至る所から汗が出始め、ちらりと三人を向いた。
「…………………………」
(……え、どうすんのこれ?)
京介は、現在人生で一番のピンチを感じている。目の前には何やら期待している目線、後ろからは嫉妬と好奇心の混じっている視線。
京介は、はぁ……と、ため息を吐き、がバっ!と上体を上げるとーーーー
「はい、じゃーんけーんーー」
「え!?ちょっ!?」
「ん!?」
「はわわ!」
ポン。
京介が選んだのは、いつの間にか知っており、広く日本、もしくは世界にまで浸透している簡単に勝ち負けが決まる遊びーーーじゃんけん。
反射と言うべきか。あまりのパニックに脳を介さずに出す三人の手。
人間、咄嗟に反応した時は作りやすいグーを出してしまうという性質があり、それをしっかりと体感した空と花果はグー。しかし、麗羅はチョキを出している。
そして、京介が出した手はーーーーー
「ぱ、パー……」
「はい、それじゃ勝った琴吹さんが隣で、異論は認めん」
(………ふふ、きょーちゃんの癖は昔から知ってるもん……)
勝敗は、幼馴染特権を使った麗羅の一人勝ちであった。
作っていたチョキを見て、にやにやが隠しきれない麗羅だった。




