21話
「………あー」
その後の授業も終わり、精神が疲労しているのを感じながらもベッドへと倒れ込んだ京介。理由は当然、今日の昼休み時の、花果についての行動だ。
京介は昔、記憶喪失時、周りの視線から同情やら可哀想なものを見る目を多数の人間から見られたことにより、それに付随してマイナス面での視線に敏感になっている。
裏を返せばプラス方面の感情については分からないということなのだが、当然それに気づいている京介は、何も感じなければプラスなのだろうとは思っている。
(………分からない。何故花果が嫉妬してあんな行動をしたのか分からない)
確かに見えた、花果の瞳から覗く嫉妬の感情。対象は麗羅なのだろうが、何故花果がそれを麗羅に向けたのかが分からないし、なぜあんなアーンと関節キスをしてきたことさせえも分からない。
それは、ただただ将来の右腕としての勧誘としては、少々行き過ぎてるように感じる。
もしかすると、自分のことが好きなのでは?と男子高校生ならば心躍ることを思いそうになったが、瞬時に首を横に振る。
(いや、にしてもこの一週間で関わったことといえば、授業中のいたずらに耐えたりだとか、一緒にゲームをやったりとかで、そんな好感度を稼いだ覚えはない………何故だ!?)
その後も約30分程ベッドの上で悶えていたとか。
「……ただいま」
木更津家。大企業にしては一般的な家と大して変わらない実家に花果は帰ってくる。
「……ん?おかえり、花果……なにか様子がおかしいが大丈夫か?」
丁度、二階から降りてきた花果の姉、木更津花奈美だ。既に木更津グループの社長代理として働いていると同時に、スティックヒューマン・オンラインでは、『ハナミ』という名前で活躍している自他ともに認める最強プレイヤーでもある。
「………ん、大丈夫だ。姉さんが心配をするようなことは………多分ない」
「多分………それが一番心配なのだが……」
はぁ、と軽くため息を吐いた花奈美。花果へ近づくと、ポンッと頭に手を置いて撫で始める。
「……まぁいい。なにかあれば私に相談するといい。何時でも相手になろう」
「うん、ありがとう姉さん……今は、そう言ってくれるだけで充分かな……」
と、姉のなでなでを特に抵抗せずに受け取る花果。しばらく堪能して、自身の部屋に入り込むーーーと同時に、カバンを投げてベッドにダイブした。
(わ、わわわわわ私は何をーーー?!?!?!)
「~~~~~っつ!!」
そして足をじたばたじたばた。枕に顔を埋め、ゴロゴロと悶え始めた。
思い返すのは当然、今日の昼休みのこと。
(な、なぜ私はあんな事を……!)
間接キス二回に、あーん。まるで恋人がするようなことをほとんど本能に任せた状態でやったことに対して、今まで生きてきた中で今までにないほど顔が熱くなる。
(私はこの感情を知っている……というかよく小学生の時にやられたやつでは無いか!)
好きな子にほど意地悪をしたくなる。
別に自慢する訳では無いが、花果は昔から可愛く、小学生男子の憧れ的存在であり、勿論当然のごとくモテていた。
可愛くて、勉強もできて、愛嬌もいい。そんな彼女に惚れない男子はいない。
しかし、相手は木更津グループの令嬢。当然、普通のことでは気を引くなんて出来ず、両思いなんてのは夢のまた夢。
だから、男子たちはわざと気を引くために花果に意地悪をしていた。当然、そんなことが大嫌いな花果は余計に嫌いになったのだが。
それでは、今日の花果の行動を振り返ってみよう。
授業中、京介の脇をシャーペンでつんつん。
休み時間、構えと頬に空気を入れてぶー、と見つめる。
昼休み、大胆な間接キスにあーん。
(ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
暫く、花果の悶絶は続いた。
「………ふふふ、認めよう……認めようでは無いか……私は、京介のことをだいぶ気に入っていると認めよう………」
はぁ、はぁと悶えすぎて息も絶え絶えな状態でふふふ、と不敵に笑う花果。無駄に心臓がドクンドクンと高鳴っているのは、疲れているからだと言い聞かせ、決して惚れているとは言わない。
…………まぁ、認めるのは時間の問題なような気がするが。
(……しかし、私はなぜあそこまで京介のことを気に入っている……?そこがまだ分からない……)
言うなれば、まだ出会って一瞬間しか経っていない。そこがまだまだ謎である。
ふと、思い出したのは、出会った初日、入学式の日。教室で寝ている時なのだが、匂いで目を覚ましたことだった。




