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一話

「……ここか」


 とあるマンションに、スーツケースを持った青年が一人。


 彼の名前は高木京介(たかぎきょうすけ)。この春から、高校入学を機に一人暮らしをごくごく普通の男子高校生だ。


 黒髪黒目で、顔は普通よりは整っている程度だ。


「えっと……三階か」


 手元の紙を見ながらこれから自分のマイホームとなる部屋を確認し、首をポキポキと鳴らしながらマンションに入る。


(……うわ、すっげぇ綺麗な人)


 エントランスに入り、ぐるりと当たりを見渡すと、まず目に止まったのは、綺麗な金髪を肩ほどまでに伸ばした美少女の姿。エレベーターを待っているのだろうか、じーっと上を見上げていた。


(……何となく居ずらいから反対のエレベーターの方で待つか)


 右と左にエレベーターがあり、左の方は先程の美少女が待っていたため、敢えて反対方向のエレベーターを使うことに。


 上の矢印ボタンを押して、ぼーっと待つこと数秒。チーんと音がして、中から子連れの主婦が出てきた。


 ぺこりと会釈してきたので、慌てて会釈を返しながら、慌ててエレベーターに乗った。


(……あ、あの子もエレベーターに乗るんだ)


 ドアが閉まった瞬間、ほんの一瞬だが、目が合ったような気がした。


 エレベーターに乗って数秒、三階に着いたので、紙に書かれた部屋番を見ながら確認していく。


(…313……314……315……あ、ここだ)


 紙とドアの横に掛けられていた番号を二回ほど念の為に確認しながらロの字型になっている廊下を回りながら歩き、マイホームとなる部屋に到着。


 既に受け取っていた鍵をポケットから取り出し、鍵穴に指した瞬間、隣からも『チャラっ』と鍵の音が聞こえたので、ついつい隣を見てしまった。


(……………あ)


 隣にいたのは、先程エレベーター前にいた美少女だった。


 奇跡的なタイミングでその美少女も京介のことを見ていたのか、顔を向けた瞬間に目が合った。


(……っ)


 人とのコミュニケーションは一般並みにはあると思っているが、京介は産まれてきてから、これほどまでの美少女とはあったことはない。


 何か話しかけるべきか。その事を少し考えていると、彼女がクスリと笑った。


「あなたも、ここに引っ越してきたんですかん」


「っ、お、おう……そうだな。高校入学を機に、一人暮らしを……」


「そうなんですか、私と同じですね」


 身長とは裏腹に、少し落ち着いた様な凛とした声。物腰柔らかさなどが、京介の心を惑わしていく。


(……っ、落ち着けー落ち着けー?俺は、急に美少女に話しかけられたから動揺してるだけだ。OK、Q.E.D、証明完了)


 そんなことをコンマ0.数秒程で思い、落ち着いた京介。


「今年から、この近くの長月高校に通う高木京介だ。よろしく」


「あら、同じ高校なのですね」


 まぁ、と手を口に当てて驚く仕草をする少女。


「私も、今年から長月高校に通うことになります、琴吹麗羅といいます。よろしくお願いします、高木さん」


「うん、よろしく、琴吹さん」


「…………っ」


 京介は、笑顔で麗羅と名乗った少女の名前を呼んだが、何故か麗羅の顔は一瞬だけであるが、悲しい顔をした。


 京介はそれに気づかないまま部屋に入っていった。


(……まぁよろしくとは言ったものの、あれはどう考えても俺とは同じステージに立ってないな……琴吹さんの方が数段上だ。関わることなんて殆どないんだろうな……)


 靴を脱いで、リビングへとはいる。そこには、京介の荷物のダンボールと、前に住んでいた人が善意で置いていてくれたテレビ等の家具がそのままになっていた。


(………誰か知りませんが、ありがたく使わせてもらいます)


 と、京介はテレビやエアコン等にパンッ!パンッ!と二回手を叩いてお辞儀をした。

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