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10:何が間違いだったんだ!? 従者

従者編です。

ジェイクの残した手紙や村人のエリシアに対する反応の答えです。

 最近、ラルフォード様が一人の平民を気に入られたようだ。エリシアというその平民は聞けば類稀なる剣の才能を秘めているらしく、ただの平民にしておくには惜しい逸材らしい。


 ラルフォード様にお仕えしてそれなりになるが、ここまで一人の女性に執着しするのは初めてのことだ。


 いったいそれほどの人物なのかと見に行ってみることにした。剣の才能だけでそれ以外は大したことがないと勝手に思っていたのだ。しかし、目にしたエリシアという女性は美しかった。


 貴族的な美しさはもちろんないが、これから磨けば大きく化けることは容易に想像できた。これならばラルフォード様がお気に召されるのも納得だ。


 きっとエリシア様は将来のラルフォード様の奥様となられるであろう。その時までにエリシア様には心からお仕えしておいて信頼を勝ち取っておくべきだろう。


 そう決めた私はエリシア様の周囲を調べ始めた。少し時間がかかったが結婚をしておりその夫が凡庸なただの村人だということが分かった。才能値を計ったわけではないのでハッキリとは言えないが、エリシア様は才能溢れる優秀なお方のようだ。


 ゴブリンキングを倒し、様々な依頼をこなしていく中で魔術も使えるようになっていくエリシア様は平民とは一線を画していた。ましてや恐ろしい化け物と言われていたペトリリザードすらも葬ってしまわれたのだ。


 素晴らしい才能に美しいエリシア様に私はいつしかその存在を認め、やがてラルフォード様の奥様というだけではなく、一人の女性として崇拝するようになっていった。


 エリシア様が幸せになるには平民の夫が目ざわりだった。ラルフォード様がエリシア様の夫のジェイクを邪魔に思われているのも当然だろう。もっとも直接的な排除まで行わないので何らかの理由があるのだろう。ならばいざというときに動けるように少しでも準備をしておこう。


 エリシア様の生まれた村を調べる際に三人の男に接触することに成功していた私はその三人を呼び出してこう告げた。


「いいか、貴様らが私に情報を寄越せば金はくれてやる。ただし、嘘偽りがあった場合は金どころか命がないと思え」


 村では三バカと呼ばれている連中だが情報一つに銀貨三枚の誘惑には勝てなかったようで、私に村のことをいろいろ漏らしてくれる都合のいい道具になってくれるようだ。我々のような存在からすれば銀貨三枚など子供の小遣いにもならないがこいつらには十分なのだろう。


 こうして私はラルフォード様のために準備を済ませておくことが出来た。後は命令があり次第動けばいいだけだ。







 それからしばらくは動きがなかった。ラルフォード様はご自分でエリシア様を口説かれるのを楽しんでおられるようで、私は日々の細々とした仕事に追われていた。


 三バカも大した情報を持ってこず役には立たない。あいつらは適当なところで処分するとしよう。


 そんなある日、私にラルフォード様から指示があった。あの村への行商が商人達によって自主的に控えられているらしいのだが、どうもそれとは逆に村へ行くように支援している者がいるようだと。


 商人達の活動に貴族が口を挿み過ぎるのは良くないので実態を調べろということだった。


 なるほど、確かにそれはあまり良くない話だ。ラルフォード様の意に沿わない動きをするべきではないというのに。


 私は早速調査を開始したのだが、なかなか尻尾を掴むことが出来なかった。かなりの人物が支援しているのだろうか? ラルフォード様は家令のフォルド様を疑っているようだが果たしてあの方はそこまでの人物だったのだろうか?


 遅々として進まない調査にラルフォード様が苛立たれたころ、私は仕方なく強硬策に出ることにした。三バカに金を握らせて村に来た行商の帰りを襲わせたのだ。三バカでもその程度のことは出来たようで、何とか誰が支援をしていたのか聞きだすことに成功した。


 支援していた人物はラルフォード様の予想通りフォルド様だった。そのことをラルフォード様に報告をすると、フォルド様は解雇こそされなかったものの遠ざけられることとなった。


 その後村への圧力は増すこととなり、これから苦しい状況が始まると思っていたのだが、三バカから意外な話が舞い込んできた。


 あのジェイクが村を出るというのだ。






 ジェイクが村を出るなら好都合だ。なにしろラルフォード様から追い出すように言われているのだからな。とはいえただ追い出すだけではダメだろう。後のラルフォード様の手助けになるようにしなければ。そうだ、ジェイクが自分からエリシア様を捨てて出て行ったことにしようではないか。そうすればラルフォード様がエリシア様を支えることができ、口説かれるのに役に立つかもしれない。


 残念ながらエリシア様はジェイクという平民を未だに愛されているようだ。ならばここはエリシアさまのためにもハッキリと別れを告げた方がいいだろう。


 私は人の手配や準備をしながらジェイクを追い出す際のシナリオを考えていた。筋書きはこうだ、エリシア様についていけなくなったジェイクが家の金を持ち出して指輪を残して去る。そして手紙を残していき、そこにはついていけなくなったことと今後の活躍を祈るという内容が書かれているという塩梅だ。


 これならば不自然でもない内容だろう。早速私は手紙の偽造などが得意な裏の世界の人間を呼び出して手紙を書かせる。こういう才能を持った人間はいるところにはいるものだ。筆跡を真似ることが出来たのも三バカに持ち出させたジェイクの書き損じの手紙のおかげだ。


 準備は十分に出来た。後はあいつを追い出すだけだが、時間がかかったせいでそろそろラルフォード様達が帰ってくる頃だろう。エリシア様とジェイクが鉢合わせをすれば意味がない。急がなければ。






 暗くなったころを見計らって人を連れてジェイクの家へと向かう。三バカはこういう時には役に立つようで人目につかない道でジェイクの家へと着くことができた。いきなり玄関を開けてもいいのだが、私はラルフォード様の従者だ。そんな野蛮な真似をすれば平民と同じところまで落ちるだろう。


 玄関をノックするとジェイクがどちらさまですか?と聞いてきた。


「早く開けろ、スフィールド家の者だ」


 全く、貴族の家の人間がわざわざ来てやっているのだからさっさと開ければいいものを。


「まったく、田舎というものは不便なものだ。明かりすらまともな物が無い。おい、さっさと水でも出せ。私は喉が渇いた」


 言われずとも水くらい出せないのだろうか?


 これだから教養のない平民は愚図だと言われるのだ。


「どうぞ。それでなんの用ですか?」


 出された水はそれなりに上手い代物であった。もっとも普通は貴族の関係者が来たのなら平身低頭の上で茶なりを出すのものなのだが。


 それにしても薄汚くみすぼらしい家だ。こんな場所でエリシア様が過ごされていたかと思うと胸が痛む。


「貧相な家だ。こんな場所でエリシア様の貴重な時間が浪費されたかと思うと胸が張り裂ける思いだ。ラルフ様の憤りも当然のものだな。」


「わざわざ嫌味を言うために来たんですか?」


「そんなに暇ではない。貴様が明日辺り出て行く予定なのは知っている。そのことについて用があるから来たのだ」


 やれやれようやく本題に入ることができそうだ。全く無駄な時間を使いおって。


「それでなんでしょうか?」


「出て行く際に置いていって貰う物がある。……貴様が分不相応にもエリシア様と交換したその指輪だ」


 貴様には過ぎたるものだからな。それにその指輪が無ければシナリオが完成しなくなるのだ。


「お断りします」


 ん? まさか断る権利があると思っているのか? そこまで愚か者だったということか……仕方あるまい。馬鹿でもわかるように説明してやるか。


「いいか、貴様の感情や意思など関係ない。これは命令なのだ。その指輪を置いていくことは既に決まったことで後は貴様が従うだけだ。……もし万が一逆らうと言うのなら村は貴様がいなくなった後も辛い日々が続くのだろうな」


「村はもう関係ないでしょう!? 僕が出て行くのだからそちらの目的は達したはずだ!」


「これだから平民は困る。貴様がエリシア様からもらった指輪を持っているということがラルフ様には不快なのだ。これ以上何か言うつもりなら村のことは何も保証は出来んぞ?」


「おいおい、ジェイク。村のことなんかどうだっていいって言うのかよ!?」


 貴様がおとなしく従わなければ村に無用な被害が出るというのに。村よりも自分の方が大事なのだろう。全くもって身勝手な男だ。


 観念したのか指輪をテーブルの上に置いたので取ろうと手を伸ばした時、ジェイクがその手を掴んできた。まるで万力のような力で締め付けられて思わず悲鳴が漏れそうになる。もっとも痛みが強すぎてそれどころでもなかったのだが。


「これだけは忘れないで下さい。これ以上この村へと何かするようなら僕は決してあなたたちを許さない!!」


 少し緩んだ締め付けに安堵しながら指輪をポケットにしまう。刺すような鋭い視線を見ないようにしながら私は内心怯えていた。ただの平民がこのような目が出来るというのだろうか? さっさとこんな仕事は終えてしまいたかった。震える腕を抑えながら言葉だけは強気で行く。ここで折れたら逃げ出してしまいそうだった。


「ふ……ふん、早く渡しておけばいいのだ。ああ、そうだ。金銭的価値の高い者や金は好きなだけ持っていくといい。貴様のような平民には過ぎた金だがこれから必要だろうからな。手切れ金というやつだ、エリシア様に感謝するがいい」


 せめてもの慈悲だ。エリシア様が稼がれた金を持って行ってもらおうじゃないか。そうすれば手切れ金として受け取られるだろうからな。


「いりません。自分で稼いだ分で十分です」


「まぁ、好きにするがいい。……見たところ荷物の準備は済んでいるようだな」


 持って行かないというのなら好きにすればいい。その場合はこちらで回収するだけだ。


「はぁ、それが?」

 

「これなら問題ないな。いいか貴様は今から出発しろ」


 もう話は終わりだ。明日の朝エリシア様がこちらに訪れるのだからここにいてもらっては困る。こちらにも準備というものがあるということが理解できんのか? 


 もうこれ以上貴様と一緒にいるのは苦痛でしかないのだ。すぐに暴力に訴えてくる野蛮な平民はさっさといなくなってくれ。


「エリシア様が明日の朝にここに訪れる予定になっている。貴様が明日に出発すれば鉢合わせるかもしれんだろうが。エリシア様に不要な心労をおかけするべきではない。よって貴様が今夜出発すれば問題は無い」

 

「こんな時間に出れば死ぬのは分かってますよね?」


 知ったことか。むしろ貴様が死んでくれた方が安心するというものだ。というか死んでくれ。


「知らん。貴様の生死など問題ではない。大事なことはエリシア様に不要な心労をおかけしないという点だけだ。自主的に出て行かないというのなら無理やり連れ出してもいいのだが?もっともどこに捨てられるかは責任もてんがな」


 私が懐から取り出したベルを鳴らすと3人の使用人の格好をした冒険者達が入ってきた。こいつらがいれば先ほどのような暴行も出来まい。三バカが何やら腕をグルグル回しているがこいつらは本当に役に立たない。まぁ、それも今日までだ。


「さぁ、選べ。自分から出て行って死に場所を選ぶ自由を得るか、無理やり連れ出されて死に場所すら選ぶ自由を無くすか?」


 さっさと出ていってくれ。急いで後始末を付けなければならんのだ。私は他の冒険者がいるにも関わらず少なからず怯えていた。ジェイクは力強い目で私を見てくるのだ。その不思議な迫力にもしかしたらこいつが只者じゃない可能性がふと頭によぎったが、気のせいだと片付けてしまった。


「……自分で行きますよ。あなたたちの手は必要ないので」


 ようやく出ていったジェイクの姿が見えなくなると思わず安堵の息をついてしまった。


 い、いかんいかん。ほら何をしている! さっさと準備をするぞ。


 まずエリシア様が稼いだ金を半分持ちだしたように見せるために金を回収しておく。まぁ、これは適当に小遣いにでもすればいいだろう。


 次に冒険者に命じて家探しをさせる。何か不都合なものが無いか一応の確認だ。


「あったぜ、従者さんよ」


「でかした!報酬には色を付けてやる」


 どうやら隠し場所があったようでそこには今回の経緯などが書ける範囲で書いてあった。こんなものを残しておいたとはな。考えたようだが所詮浅知恵だ。


「色付けてくれるっていうんなら大目に頼むぜ。何せこいつはプロでもうっかり見落としかねない隠し方だぜ」


「本当か!?」


「嘘言ってもしょうがねぇだろ。俺みたいに観察力に優れている本職でもないと気が付かねぇでスルーしちまうよ」


 この冒険者はたしか探索系の才能値が高いとは聞いていた。ということは予めこいつを雇っていなかったら私はこれに気が付かなかったということか。


 紙一重で避けれた事態に私は恐ろしさを感じながらもここまでした以上後には引けなかった。用意しておいた手紙をテーブルの上に置き、そこに結婚指輪を置いておく。


 これでいいだろう。あとは村長を呼び出すだけだ。


 ジェイクの家に呼び出された村長は一瞬目を見開いた後、納得したようにそういうことですかとため息をついた。


「理解できたのなら話が早い。余計なことは今後一切エリシア様には言うな。言えば村の今後は保証しない」


「……畏まりました」


 ああ、これだ。貴族への態度はこうあるべきだ。決して先ほどのような反抗的な態度を取ることなどあってはいけないのだ。


 回収した手紙はあとで焼き捨てるとして、残りはいろいろ知り過ぎているこの三バカだけだ。私は冒険者連中に大目に報酬を握らせると森の中で三バカを始末させることにした。あまり使えなかったし、死んでも構わないようなバカ共だ。


 知らなくてもいいことばかり知ってしまった自分の運の悪さを呪うんだな。ああ、証拠はいらんからな。






 それから全ては順調に進んでいった。ラルフォード様はエリシア様とご結婚されて一男一女のお子様も生まれた。


 全て上手くいっていたはずなのに私の目の前には炎が迫っている。圧倒的な炎は私を灰一つ残さずに焼き尽くすだろう。


 そもそもこうなったのはラルフォード様、いやラルフのクソ野郎が私を無理矢理火竜退治に引っ張ってきたからだ。


 何が伝説の生き証人だ!! このままじゃ伝説のバカの見届け人じゃないか!


 エリシア様の功績に嫉妬して火竜なんて化け物に挑むことがおかしんだ!!


 やめてくれぇ! 死にたくなんかない!


 死にたくなんくぁぁぁぁl!!!


 どこかでジュッと短く音がした気がした。

次回からはアニー編です。

いよいよ、最後にして本作最大の仕掛けの解明です(え?

大袈裟に言い過ぎましたm(__)m



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