24:彼女の僕の旅立ち
こえで二章終わりです。
次からようやく最終章です。
お待たせしてすみませんでしたm(__)m
あと感想を返すのが下手な私にお付き合いくださる皆様に心からの感謝を申し上げます。
上手く返せるように精進しますのでどうかお付き合いくださいm(__)m
「これで最後かな」
家の片付けはもう済んでいて、後は持っていく荷物をまとめておくだけだ。最後の準備をしていたら日も暮れてしまった。
荷物自体は意外と持っていくものは少なく身軽なままでいけそうだ。エリシアとの思い出の品は多いけれど、この指輪さえあればいいし。他のものは置いていくことにした。置いていく荷物の管理はお義母さんとオーベルがやってくれるらしい。
あとはエリシアが帰ってきたら話をするだけだね。本当はもっとエリシアと話をする時間が欲しかったけれど、急がないといけない。シェリアさんの為にも一刻も早く行商を再開してもらわないといけないのだから。
一応最悪の場合に備えて二人で話しておいた隠し場所に手紙を置いておくことにしよう。彼らのことだ、もっと嫌らしい嫌がらせをしてくるかもしれない。もっとも、この手紙が読まれているような事態なら、いろいろ黙っていても意味は無いからある程度書いておこうと思う。
『愛するエリシアへ。僕は君と一緒に冒険者になるために隣村の薬師に弟子入りしようと思っているんだ。もちろん簡単な道じゃないけれどエリシアと一緒なら頑張れる気がするんだ。だから一緒に来て欲しい。ただ、エリシアに横恋慕している貴族がいるらしく、その人から村へ嫌がらせをされているんだ。どうやら僕が村にいるのが気に食わないらしい。そのせいでエリシアを待てずに追い出されることになるかもしれない。だからこの手紙を読んでいる頃には僕は隣村にいると思う。もし指輪が家にあったり、誰かに渡されたら僕が追い出された証拠だと思って欲しい。とにかく早くエリシアに会いたいよ。隣村で待っているからね。 きみのジェイクより』
こんな感じで残しておけば大丈夫だろう。しっかりと見つからないように隠し場所に隠しておく。お義母さんに預けることも考えたけれどトラブルに巻き込むかもしれない。だから手紙自体は隠しておいた方が良いと思う。エリシアなら何かあったと思って探してくれるはずだ。
本当は全部ぶちまけてやろうかとも思ったけれどそれをやってエリシアが暴走してしまえば今までの我慢が全部意味がなくなってしまう。ままならないものだ。
「……まさかこんな形で村を出て行くことになるなんてな」
幼い頃外に憧れたことはあったけれど実際に飛び出していく勇気は僕には無かった。逆にエリシアはその勇気をずっと我慢して抑えつけていたのだろう。
「でも……僕が大人しく出て行くと思ったら大間違いだ」
とにかくエリシアが帰ってくるのを待とうかな。今日か明日くらいには帰ってくるはずだから。とりあえず夕飯の準備でもしようかな。そう思って明かりを灯そうとしたとき玄関をノックする音が聞こえた。
誰だろう? 村の人間なんかノックなんてしない。
「どちらさまですか?」
「早く開けろ、スフィールド家の者だ」
声に聞き覚えがないけれど、あの時後ろにいたラルフさんの従者だろうか。こんな時間にいい迷惑だ。僕が開けるとそこには予想通り不機嫌そうにした従者が立っていた。後ろにはあの三バカもいる。
「まったく、田舎というものは不便なものだ。明かりすらまともな物が無い。おい、さっさと水でも出せ。私は喉が渇いた」
「……はぁ」
なんだこの人は。貴族なんだろうけれどあまりにも品が無い。同じ横暴さでもラルフさんに比べれば小物に見えてくる。まぁ、彼も子供みたいな人だけれど。
「どうぞ。それでなんの用ですか?」
水なんか出したくないけれど、出さなければ出さないでうるさそうだ。出した水を飲み終えると従者はジロジロと家の中を見渡しはじめた。
「貧相な家だ。こんな場所でエリシア様の貴重な時間が浪費されたかと思うと胸が張り裂ける思いだ。ラルフ様の憤りも当然のものだな。」
「わざわざ嫌味を言うために来たんですか?」
「そんなに暇ではない。貴様が明日辺り出て行く予定なのは知っている。そのことについて用があるから来たのだ」
何で知っているって……そうかこいつらか。ニヤニヤと僕を見ている三バカは卑しいで嗤っている。それにしても貴族は暇なんですね?
「それでなんでしょうか?」
「出て行く際に置いていって貰う物がある。……貴様が分不相応にもエリシア様と交換したその指輪だ」
はぁ!? なんでこの指輪を置いていく必要があるんだ? 冗談じゃない!?
最悪の予想が当たってしまったよ。手紙を用意しておいて良かった。
「お断りします」
僕がそう答えると従者は明らかに馬鹿にしたような顔をしてきた。
「いいか、貴様の感情や意思など関係ない。これは命令なのだ。その指輪を置いていくことは既に決まったことで後は貴様が従うだけだ。……もし万が一逆らうと言うのなら村は貴様がいなくなった後も辛い日々が続くのだろうな」
「村はもう関係ないでしょう!? 僕が出て行くのだからそちらの目的は達したはずだ!」
「これだから平民は困る。貴様がエリシア様からもらった指輪を持っているということがラルフ様には不快なのだ。これ以上何か言うつもりなら村のことは何も保証は出来んぞ?」
「おいおい、ジェイク。村のことなんかどうだっていいって言うのかよ!?」
三バカのリーダーがそんなことを言いながら凄んでくる。でも怖くないし、そもそもこいつらは何しに来たんだ?
それにしてもなんて連中だ。たったこれくらいのことも許しておけないのだろうか。しかし、村を盾に取られるとどうしようもない。僕は仕方なく指輪を外してテーブルの上へと置く。そして従者が指輪を手に取ろうとした瞬間、僕はその腕を掴んだ。そのまま目一杯力を込めて握りしめてやる。
「これだけは忘れないで下さい。これ以上この村へと何かするようなら僕は決してあなたたちを許さない!!」
強い意志を込めて睨みつける。従者は僕から視線を外しながら指輪をポケットへとしまった。それにしても怖かったのだろうか? 腕が震えている。
「ふ……ふん、早く渡しておけばいいのだ。ああ、そうだ。金銭的価値の高い物や金は好きなだけ持っていくといい。貴様のような平民には過ぎた金だがこれから必要だろうからな。手切れ金というやつだ、エリシア様に感謝するがいい」
どこまで馬鹿にすれば気が済むのだろう。冗談じゃない。僕はエリシアをお金で渡すつもりは無い。彼女への愛情はお金で変えられる物じゃない!
「いりません。自分で稼いだ分で十分です」
「まぁ、好きにするがいい。……見たところ荷物の準備は済んでいるようだな」
「はぁ、それが?」
もういい加減帰ってくれないだろうか。僕がそう思っていると従者はとんでもないことを言い出した。
「これなら問題ないな。いいか貴様は今から出発しろ」
何を言っているのだろうか? もう日も暮れて夜になってくる。月は出ているが暗く危険なことに変わりは無い。冒険者でもないのにこんな時間に出発するのは自殺行為以外の何物でもなく、正気ならまずやらない行為だ。
まさか、本気で言っているのか!?
「エリシア様が明日の朝にここに訪れる予定になっている。貴様が明日に出発すれば鉢合わせるかもしれんだろうが。エリシア様に不要な心労をおかけするべきではない。よって貴様が今夜出発すれば問題は無い」
大有りだ。死ねと言われているも同然の話だ。魔物が活発になる時間なので準備もなしに出歩ければ魔物の夜食にされてしまう。当然ながらこんな時間に出発する予定も無かったのし冒険者でもない僕に準備する当ても無い。
それにエリシアに会って話し合うつもりでいたのだからまだここにいたわけで。分かっていて言ってくるあたりあのラルフさんの従者らしい。
「こんな時間に出れば死ぬのは分かってますよね?」
この人はバカか!? 言ってることは死ねと言っているも同然だ。
「知らん。貴様の生死など問題ではない。大事なことはエリシア様に不要な心労をおかけしないという点だけだ。自主的に出て行かないというのなら無理やり連れ出してもいいのだが?もっともどこに捨てられるかは責任もてんがな」
従者がそう言って懐から取り出したベルを鳴らすと、玄関から3人の使用人らしき男たちが入ってきた。みんな体格が良くとても敵いそうに無い。三バカも何やら腕をグルグル回しながら威嚇するけれど、こいつらは怖くない。
「さぁ、選べ。自分から出て行って死に場所を選ぶ自由を得るか、無理やり連れ出されて死に場所すら選ぶ自由を無くすか?」
ここまでされなければいけないのだろうか!?
こっちが何か悪いことをしたなら理解できる。でも僕は何もしていない。それなのにこれがまかり通ると言うのならそんなルールの方が間違っている!
僕は貴族というものが恐ろしくおぞましいものだと思えて仕方なかった。
「……自分で行きますよ。あなたたちの手は必要ないので」
僕は荷物を持つと彼らに背を向ける。もうこれ以上不愉快な連中の顔なんて見たくなかった。
玄関を出ると月が明るく照らしてくれている。これなら歩くぶんにはなんとかなりそうだ。こんな時間でもまだ安全に過ごせるかもしれない場所に心当たりもある。ただ無事にたどり着けるかどうかが不安だ。気をつけていこう。
「……ここなら」
村の外れのフェレーヌの花が咲き乱れるあの場所には一本の木がある。あそこなら雨もしのげるし何故かそんなに危険な生き物も魔物も出てこない。だから木に登れば一晩くらいなら比較的安全に過ごせるはずだ。
荷物を木の上にかけて登るとフェレーヌの花が咲き乱れているのがよく見える。何度かここで昼寝をしたこともあるから寝る分には大丈夫なはずだ。それにしても綺麗だなぁ。月明かりに照らされた淡い紫の花はきらきら輝いているようだった。
あの従者には正直に言えばかなり腹が立つ。とはいえ逆らっても勝ち目は無い。幸い村の皆は事情は知っているから僕が急にいなくなっても事情を察してくれると思う。このまま大人しく死んでやるつもりもない。明日から大変だろうけれど、今日はここでエリシアのことを思いながら寝ようかな。
「おやすみ、エリシア」
これから薬師の勉強をしていってエリシアの力になれるように頑張るんだ。負けるものかあんな連中に。
次の日、朝早く起きた僕は隣村への道を歩いていた。少し離れたところに森があるが開けていて見通しのいい道だ。このまま予定通りにいけば昼くらいには予定の村へたどり着けるはずだ。予定通りに着いておかないとエリシアが来た時に出迎えられなくなるからね。
天気もいいし、空は青くてどこまでも広がっている。まだ終わっていない、僕にはまだ出来ることがあるとそう元気づけているようだった。
そんな時だった。
――グルゥルルルルルルル
獣の唸り声のようなものが聞こえた気がする。僕は急いで辺りを見回した。街道は基本的に獣、魔物避けの魔術がかけられているから獣や魔物なんかでてくるはずはないのだけれど。
見回していると一匹の狼と目が合った。大きな体躯で獰猛そうな……ちょっと待て、ぱっと見て大分距離はあるのに大きく見えるって……狼じゃない?
「……嘘だろ」
僕が見ていると狼がこちらを見ているのが分かった。え?……今目が合った?
その瞬間、僕は駆け出していた。あいつは追ってくると確信できた。
「グルゥルルル……グルァァァァァァ!!」
狼は唸り声をあげながらと僕の方へと駆け出してくる。いや、あれは狼なんかじゃない魔物だ!
どこかに隠れたいけれど、最悪なことに見通しのいい道なので隠れる場所も遮蔽物もない。
「なんで、こんな場所に、いるんだよ」
悪態をついてもいなくなるわけではないのだけど言いたくもなる。追いつかれないように必死に走って逃げたのだけれど足が絡まってしまう。
「しまった!!」
急いで立ち上がろうとしたら足首に激痛が走った。転倒した際に足をくじいてしまったのだろう、痛みで立てそうにない。仕方ない、こうなったらあらかじめ用意しておいた魔物撃退用の煙玉を投げつけてやる。走っている時に当てる腕前なんかないけれど、向かってくる相手なら当てられそうだ。これには魔物が嫌う成分が入っているから逃げ出すはずだ。
頼むからこれで逃げてくれ。これはクレイスさんに頼んで分けてもらったものだから三個しかないんだ。普通はこんな道に魔物が出てくることなんて滅多にないからこれだけあれば十分なんだよ!
「喰らえ!」
腕に自信が無いから避けられないように三つまとめて投げつけてやる。これなら煙から逃げられない。しかし、狼の魔物は煙を気にすることなくそのまま真っ直ぐこっちに向かってきた。
「そんな馬鹿な!」
あわてて何とか逃げようと痛む足を我慢して這っていく。必死に這いずるけれどなかなか思うように勧めない。
「グルルゥゥゥゥゥゥゥ」
気がつけばすぐ後ろに狼の魔物が迫ってきていた。思わず後ずさると手が空を切る。いつのまにか崖まで追い詰められていたのだ。もうこれ以上後ろには下がれない。
「おいおい冗談だろ」
狼の魔物はじりじりと近づいてくる。このままだと朝食にされてしまう。そんな死に方はごめんだ! 僕だってなんとかできるはずだ。エリシアは凄いなこんな化け物相手に戦っているんだ。冒険者になろうとしている人間がここで諦めるわけにはいかない!
「このまま食われてたまるかよ」
崖を覗きこんでみると高さは結構あるけれど、傾斜があるので転がり落ちるようにいけば助かるかもしれない。何もせずに死ぬくらいなら一か八かに賭けてやる。
「それじゃ、朝食は他を当たってもらえると助かるよ」
そう言って荷物を背負った背中から滑るように落ちる。なんとか首と頭を守るように姿勢をなるべく丸まるようにする。分かってはいたけれどかなり痛いこれは。頭を手で守っているけれど背中や肩が石などに当たってかなりキツイ。
いつ終わるかも分からないくらい長い時間転がっていた気がする。ようやく止まった頃には全身が悲鳴をあげていた。なんとか仰向けに転がる。背中に背負っていた荷物は紐が千切れたのか近くに転がっていた。
「い……った」
幸い頭と首を守ったから死にはしなかったようだけれども動けそうにない。このままここで気を失えばそれこそ命の危機だというのに。全身が痛みを訴え、足や手が熱を持っているようだ。頭も痛いし、クラクラする。
痛みのあまり遠ざかる意識のなか僕が見た最後の景色はどこまでも広がる青空だった。
おお、ジェイクよ死んでしまうとは情けない。
もう一度復活して冒険の旅を続けますか?
→はい
いいえ
最終章はエリシア視点からスタートです。




