10:彼女の僕の可能性
第一章 エリシア編 16:私と彼女の一部に加筆しています。今回の話の矛盾を解消するために加筆したもので内容に大きな変化はありません。
遅くなってすみませんm(__)m
「分かったよ。だったらあたしがこれ以上どうこう言うのはスジ違いってもんだね」
「いえ、こうやって心配してくれる仲間がエリシアにいるということで僕は安心できます」
エリシアを思っていろいろ言ってくれる人はとても貴重なのだから。シェリアさんだってエリシアが冒険者をしていることに不安を覚えたからこうやって話に来てくれたんだし。
「もっとも、冒険者をやることは反対しませんが、ラルフとかいう冒険者に関してはいろいろと思うところはあります。ラルフってどういう人なんですか?」
「……ラルフさんですか」
「あいつか……」
僕の言葉に二人とも微妙な顔をした。やっぱり大分非常識なタイプの人間らしい。シェリアさんは困ったようにそれでいてどこか忌々しそうに呟いた。
「魔剣をくれた令嬢の兄貴さ。スフィールド公爵家の三男坊なんだけど冒険者やってる変わりもんだよ。優男で腕も良いし紳士的と人気は高いが、あたしは気に食わないね」
「なんでまた気に食わないんですかい? というかジェイク。ラルフって冒険者はいったい何をしたんだ? お前がそこまで嫌悪感を出す相手なんざ三バカくらいなもんだったろうに」
オーベルが分からないという顔をしている。それもそうだろうね、聞く限り人物的には問題が無いように思っても不思議じゃない。ネックレスの件が無ければ僕も好感の持てる人物だと思っただろう。
「あたしみたいな女性らしくない奴や、美人以外を見る時にモノを見るような目で見てきやがる。それにあいつはエリシアにいつの間にかマジックアイテムとはいえ装飾品を贈っていやがった。普通既婚者に贈るかねぇ」
「シェリアさんは女性らしい綺麗な人ですよ! そいつの性根が腐ってるだけです! いや、目も腐ってやがる! それに既婚者にそんな物を贈る奴はおかしいですよ!」
急にオーベルが身を乗り出しながらシェリアさんの言葉を力強く否定しだした。言い切ってから恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしながら椅子に座って黙ってしまう……何と言うか分かりやすい反応だなぁ。
「あ、ありがとう、オーベル……」
シェリアさんも顔が真っ赤だ。おや、これはいけそうな雰囲気だぞ……親友の恋路だし可能な限り応援してみようかな。もちろん、無理をしない範囲でだけれど。レイラさんも気が付いていたのか僕に目で合図をしてきた。これは協力してほしいってことなのかな?
「えぇ~と、話を戻しますが。ラルフさんはすごく上手に取り繕っていますから気付いている人は少ないと思いますが、そういう目をしているのをたまに見ます。なのであまりエリシアを近づけないようにしていたのですが、最近はエリシアも自分で動くので止められなくなってきています。ラルフさんが年上の兄妹として接してくるのもあって気づいたら懐いていたんです」
そんな関係になっていたなんてちょっと驚いた。僕たちの世代は年上の子供がちょうどいない世代だったから、年上に憧れる気持ちは分からなくはないけれど。それにしてもやはりおかしいな。エリシアらしくない行動が多い。
「エリシアはいろいろ迂闊なところはありますが、それでも常識は持っていましたし、貞操観念もしっかりしていたはずなんです。だから最近の行動が何と言うか違和感を感じて仕方がないんです」
「話を聞いていて俺も思ったんだけれど、確かにエリシアらしくないな。あいつはジェイク以外に口説かれても返事すらしない時だってあったのに」
人は変わると言うけれど、それにしても急激に変わってきている気がする。クレイスさんに調べてもらっているけれど、結果は芳しくない。
「クレイスさんにも協力してもらっているんですけれど、なかなか上手くいっていなくて……」
「クレイスの旦那と知り合いかい!?」
僕は以前絡まれたことも含めて説明した。三人は驚いた後顔を真っ赤にして怒り始めた。
「そんな連中はゴブリンと同じだよ! まったく!」
「同じ冒険者として恥ずかしいです。そんな冒険者はごく一部ですと言わせてください」
「俺がいたらぶん殴ってやったのによ!」
いや、オーベル。剣持った冒険者と喧嘩しないでね。さすがに勝てないからさ。それにしても我がことのように怒ってくれる三人は本当に優しいね。僕は人に恵まれていると思う。
「それにしてもそんなにエリシアは変わっちまったのか? ジェイク」
オーベルはその変化を見てきたわけじゃないからピンとこないかもね。実際少しずつだけれどエリシアは変わってきている。もちろん冒険者としての変化は当然だけれど、あれはそれとは違う何かだと思う。
「あくまで私の感じたことですが、魔剣を手に入れてからのエリシアは変わったというよりも急速に冒険者に染まって行ったと言う方が正しいかもしれません。依頼を受け報酬を受け取り仲間と飲み明かす。そんなよくある冒険者の姿とでも言うのでしょうか、それまではどこかそういう冒険者からは一歩引いて距離を開けていたように思えます。でも魔剣を手に入れてからは……」
「酒の付き合いや下品な連中のあしらい方、実に上手くなったもんだよ。今では多くの冒険者のアイドルみたいなものさ。口説こうとする連中には旦那がいるからって断ってはいるが付き合いまでは絶ってないしね」
「そんな冒険者らしい今のエリシアにとって冒険は生きる楽しみになっているようです。そこにラルフさんは上手く入り込んでいるというか」
「……生まれる場所を間違えたような奴だなぁ。あいつは」
オーベルが呆然と呟いた言葉は結構当たっているかもしれない。この村で生まれなければもっと早く活躍していたかもしれない。もっともそれだと僕が出会うことは出来なかっただろうから、却って良かったなどと卑劣な感情を抱いてしまった。
エリシアは村に来た冒険者の話を聞きに行ったり、古くて読みにくくなった冒険譚をまとめた本を文字が掠れて読めなくなるまで読み返していたりしていた。そんなエリシアの夢が叶えられる環境を望まないなんて……僕は度し難いな。
「“女神の剣”休止中の今は私ら二人よりもランク昇格に意欲的なアニーや“勇気の盾”とよく一緒に行動しているしね。ラルフがエリシアに余計なちょっかい出さないようにアニーに頼んではいるんだけれどね」
シェリアさんはそう言ってため息を吐いた。何と言うかエリシアの仲間は素晴らしいけれど、肝心のエリシアは冒険者に向いていないのかもしれない。もっとも今更そんな理由で夢を邪魔するつもりはない。向き不向きはあれども挑戦する権利はあると思う。
ラルフに関してはこちらからそれとなく注意するしかないと思う。あれから何も直接的な行動はしていないのだから、こちらから何か言うことも難しい。エリシアは一度懐に入れた相手を信用するというか、甘くなる傾向があるから理由なく批判すればきっと喧嘩になると思うからね。
話し終えると風が木々を揺らし音をたてる。暖かい空気が流れ込んできて重い空気を和らげてくれた気がする。
「……ありがとうございます。エリシアのことを教えてくれて」
僕は二人に頭を下げる。僕の知らないエリシアの話をしてくれたのだ、話し難い内容だったと思う。だからこそ感謝を伝えたかった。
「私とシェリアでエリシアに冒険者を辞めるように説得した方がいいでしょうか?」
確かに二人がそれを言えばエリシアは話を聞くかもしれない。でもそれは辞めれば解決する問題でもないと僕は思う。僕はエリシアが冒険者を辞めることよりも、ちゃんと周りを見てどう判断すればいいか、どう振舞えばいいかを知る方が先だと思う。それを理解しないまま辞めても何も根本的な問題は解決しない気がするのだから。
「いいえ、それよりも今のエリシアにいろいろな行動の意味を解説してあげてください」
「解説ですか?」
「理由聞かせてくれるかい?」
二人が驚いて僕を見る、するとオーベルが僕に聞いてきた。
「要は、同性からどう見られているかを教えてやればもう少し慎重に動くんじゃないかと言う話だよな?」
「うん。僕が言うよりも同性の方が受け入れやすいと思うので。その上でラルフという冒険者と距離を開ければいいかなと思います」
僕の意図を理解してくれたのか二人は頷いてくれた。エリシアの性格を知っているからだろう。説得は無理だと分かったのだと思う。
「あたしらはその程度でいいのかい?」
「エリシアに注意してくれれば十分です。もちろん悪いことやダメなことは言ってあげてください。それ以外はエリシアの責任です。エリシアももう子供ではないのである程度は自分で背負うべきです」
「分かりました。そのようにやってみますね」
「あたしらで出来る限りやってみるよ」
何でもかんでも助けてもらうのならそれは仲間じゃなくて保護者なのだから、自分自身でなんとかしないといけないモノだってある。自分で選んだその結果、何かを失うことがあろうとも受け入れないといけない。昔それに近いことを母さんから言われたことがある。
―――薬草茶を淹れるには薬草を使わないといけないって
「それにしてもジェイクさんは薬草に関しての知識は十分に備えていますね」
オーベルとシェリアさんが意気投合して話し込み始めてしまったので、あぶれた僕とレイラさんは世間話をしていたのだけれど、僕がエリシアの貰ったネックレスに不思議な感じがしたと話した時、急にレイラさんがそんなことを言い出した。
「運が良かっただけですよ。母が古い薬学大辞典を持っていたことと、この近くには様々な薬草が自生しているので知ることが出来ただけで、それ以上の知識や実践は無いので正直もう頭打ちですよ」
「……そうでしょうか? 私はまだ先に行けると思いますよ」
レイラさんはそう言いながら僕の目の前に手を出してきた。一体何だろう? 手の平には何も乗っていないけれど?
「よく集中して見てみてください。なにか感じませんか?」
そう言われてもただの手のひらが……あれ? 何か不思議な感じがする。まるであのネックレスに感じたものみたいだ。
「なにか不思議な感じがしますね……これは?」
「魔力です。マジックアイテムなどに込められている魔術などの源になります」
そう言ってレイラさんはやっぱりと呟いた後頷いている。一体全体何なんだ?
「ジェイクさんのように薬学に才能がありそうな人は同時に癒し手の才能がある場合があるんです。そういう人は魔力を感じる才能も持ち合わせていることが殆どなんです。だからもしかしたら魔力を感じられるかもしれないと思ったので」
これが魔力……初めて意識してみたけれど何か変な感じだ。こうモヤモヤとした何かがあるんだけれどそれが何なのかハッキリとは言えない。そんな感じだった。レイラさんの手の上にまるで霧のようなものがある感じだ。
「才能を調べたわけではないので何とも言えませんが、ジェイクさんは薬師から癒し手になれる可能性がありますよ」
レイラさんはそう言って僕に微笑みかけてきた。僕は言われたことがまだ上手く呑み込めないでいた。だって僕が癒し手になれるかもしれないなんて……考えたこともなかったのだから。
二人は帰る前にエリシアの様子を定期的に教えてくれると約束してくれた。そしてエリシアを注意深く見てくれると言ってくれたんだ。
それにしても帰る時に名残惜しそうにしているオーベルとシェリアさんを見ているとこれは何もしなくてもいいかもと思ったんだよね。レイラさんもそう思ったのか何も言わなかったし。
それから暇があればレイラさんとシェリアさんは村への行商の護衛で来るようになったけれど、シェリアさんはそれを口実にしてオーベルに会いに来たかったみたいだ。レイラさんは付き添いだって言って笑っていたけれど。
まぁ、僕としてもエリシアから手紙やエリシアへの届け物を運んでもらったりしていたから正直助かっているんだ。
エリシアが疲れて宿で休んでいる時に手が空いていれば護衛を引き受けているって言っていたけれど、エリシアの場合はただ単に村に帰るとそのまま家に帰りたくなるから来ないだけだと思う。エリシアは帰ってくると決めている時以外に村に帰ればきっとリズムを崩すだろうしね。そこら辺は繊細なんだよね。
あとクレイスさんがちょくちょく村に様子を見に来てくれるようになった。調べてくれていることやエリシアの様子などをクレイスさんからも聞けることで更に詳しく知ることが出来た。最近はエリシアもおかしな変化は起きていないみたいだし、村に帰ってきてもちゃんと二人で決めたことは守ってくれている。あのネックレスも村では着けないでくれているしね。
そんなある日、エリシアからの手紙を持ってきてくれたシェリアさん達が、行商が帰る時間までいつものように僕とオーベルに話をしてくれている時のことだった。
「オーベル、あ、あんたの狩りを見に行っても……ダメ……かねぇ?」
そんなことをシェリアさんは凄い乙女な顔で言っていたんだよね。
……エリシア帰ってこないかなぁ。これを見せつけられるのはキツイよ。
エリシアは現時点で
剣術:80/120
雷魔術:35/90
体術(身のこなし):60/100
料理:6/30
ジェイクの才能は現時点で書ける範囲で
鍛冶:8/8
魔力感知:5/secret
な感じです。




