3:彼女との約束
北海ひぐま様と小牧・長久手の賄い様からレビュー頂きました。本当にありがとうございます。
「私、パーティー組んだの」
帰ってきたエリシアはお茶を飲みながらあっさりと言い放った。
「パーティー?」
片づけをしていた僕は一瞬意味が分からずについ聞き返してしまった。パーティーって言うとあの冒険者が組むって言われているパーティーのことだよね?
「今回のゴブリンキングを倒した時に一緒にいた人たちとパーティーを組むことになったの。メンバーは私みたいに後方に配置された新人しかいないけどね」
「まず、ゴブリンキングを倒したことにビックリしているんだけど」
僕はエリシアの隣に座りながら話を聞くことにする。それにしてもまさかゴブリンキングと戦うことになるなんて想像もしていなかった。エリシアに責任が無いのは分かるけれど、その運が悪いのか良いのかよく分からないところは厄介だと思う。
個人的にはギルドに文句が言いたい。
「みんなと力を合わせた結果だよ。ツイていなかったけど、結果的に何とかなったから良かったよ」
「メンバーはどんな人がいるの?」
僕がそう尋ねるとエリシアは楽しそうに一人ずつ教えてくれた。
「まずはねレイラって言う魔術師がいるのだけど、落ち着いた性格で戦闘中の指示も的確な頼りになるお姉さんだよ。
次にアニーって言う同い年の少女で癒し手なのだけど、明るい性格でちょっとした怪我ならすぐ治してしまうの。
最後にシェリアっていう戦士の人がね、斧と盾を上手く使う戦士で妖艶なお姉さん。冒険者になる前は傭兵だったんだって」
エリシアのパーティーメンバーは何と言うかいろいろとバランスの良いメンバーだなと思えた。年上がいるのは安心できるし、何より女性だけというのも好ましい。エリシアは見た目が良いからトラブルを避けるためにはその方が良いと思う。
「そうか、他のみんなは村から通ってるって知っているの?」
「話したからね。みんな良いよって言ってくれたよ」
「なら、大丈夫だね」
エリシアは嬉しそうにうんと言って笑った。
疲れているだろうに今日はエリシアが夕飯を作ってくれるらしいから僕は甘えようかな。その間に洗濯物でも畳んでおけば無駄が無いしね。
「イモ、イモ、イモー」
上機嫌なエリシアの鼻歌を聞きながら僕はさっさと洗濯物を終わらせる。楽しそうなエリシアの声をもっと近くで聞きたかった。
僕が近づいて声をかけるとエリシアは楽しそうに答えてくれる。エリシアの作るご飯は美味しいから僕は大好きだ。だから僕が作るときはエリシアに同じように思って欲しいからいろいろ研究はしているんだけれどね。
窓から差し込む夕日が家を赤く染め、エリシアの赤い髪を輝かせる。その美しさに僕は眩しくなって目を細めた。
大好きなエリシア。
夢にまっすぐでいろいろと心配なところがある愛しい女性。
もしかしたら凄い才能を秘めているのかもしれないけれど。
僕はその才能を否定したりはしないから。
共に歩けるように僕も努力していこう。
ちなみにお土産でもらったティーポットはかなり使いやすかったのでこれでエリシアに薬草茶の新作を淹れてあげようかな。
次の日、僕はエリシアの剣を見てみることにした。話の通りなら大分酷使したはずだからメンテナンスが必要なはずなんだよね。抜いてみれば案の定ボロボロだ。これじゃいつ壊れてもおかしくないよ。
「僕の腕の無さが問題なんだよな」
無いものをねだってもしょうがない。なんとか腕を上げようと練習しているけれど、こればっかりは父さんが死んでから独学だから限度がある。誰かに師事しに行くことも考えたけれど、そんな余裕は無いんだよね。村で唯一の鍛冶屋だから農具が壊れたりすれば僕が必要になる。
「必要とされるのは嬉しいけれど……腕は上げたいなぁ」
今日の仕事は終わってるから時間もあるし、今のうちに手入れしてしまおう。武器は生命線だから何かあったら笑うに笑えない。僕の剣がエリシアの命を脅かすなどあってはならないのだから。
僕が作業に集中していたためかエリシアが声をかけてくれるまで気が付かなかった。エリシアも自分の剣がメンテナンスされていることに興味を持ったみたいで聞いてきたので教えておく。すると自分でメンテナンスしたいと言い出した。しかも僕に教えてくれと言うから僕は慌ててしまった。
甘えるように顔を近づけてくるのは卑怯だ! なんて言えれば良いけれど僕は赤くなった顔を見せないように逸らす。何度もエリシアのこういう顔を見ているけれど可愛すぎて負けてしまう。
エリシアはズルい……何がと言うわけではないけれど。
今日はエリシアが家にいるから僕は頼まれていた修理の仕事をしにオーベルの家にやってきていた。なんでも倉庫の蝶番を壊してしまったらしく、作り直すついでに細かいところも直せないかなんて言ってきたんだ。
僕は鍛冶師であって大工じゃないんだけれど?と言いたいけれど、雑用屋の仕事に入ってはいるので仕方ないから直そうかな。
「まったく、オーベルはいろいろ雑なのがいけないんだよね。この倉庫だってもうちょっと丁寧に扱えば大分持つはずなのに。狩りは丁寧にやるくせに生活の方はいい加減なんだから」
と言っても僕はオーベルに世話にもなっているので本当に文句があるわけではないんだけれどね。
ガタがきていた部分を交換したりして修理し終わったころにはもう昼を過ぎていた。夢中で作業していたからお腹が空いたことにも気が付いていなかったみたいだ。
「いつもありがとう、エリシア」
用意してもらった食事を取りながらこの後の予定を思い出す。確かこの後はペンテ爺さんに荷車の調子を見てくれって言われていたっけ。ちょうどここは終わったし、食べ終わったら行こうかな。
「やっぱりエリシアのご飯は美味しいや」
さて、さっさと働いて帰るとしますか。エリシアがいるうちに一緒の時間を楽しむことも大事だからね。
僕がペンテ爺さんの所へ向かっていると向こうからアリアがやって来た。
「あら、お義兄さん。仕事?」
「ああ、アリアは帰るところ?」
アリアの……と言うかエリシアの実家は今僕が来た方角だからそう思っただけなんだけどね。
「お義兄さんのところにお裾分け持って行けってお母さんがね」
「ああ、お義母さんにお礼言わないといけないね。後で顔を出すよ」
僕がそう言うとアリアはいいのよと言って笑った。エリシアと姉妹なだけあって笑った顔が似ている。村でも評判の美人姉妹なんだよね。お義母さんも美人だけれど、その見た目からは想像できないくらい気が強くて結構口調がキツイんだけれどね。
「ねぇ、お義兄さん。どうしてお姉ちゃんが冒険者なんかやっているの許しているの?」
やっぱりそれは気になるか……アリアやお義母さんは冒険者には批判的だし、偏見をちょっと……いや、結構持っているんだよね。母さんも打ち解けるまで苦労したって言っていたっけ。もっとも冒険者を辞めた後は普通に接してくれたらしいから、冒険者という職業に思うところがあるだけで個人にはそういうのは無いみたいだけれど。
「エリシアとの約束だからかな?」
「約束? いったいどんな約束したの?」
アリアは怪訝な顔で見てくるけれど、多分理解してもらえないかな。だってこれはアリアも無関係じゃないからね。
「それは……秘密かな。僕とエリシアだけの約束だから」
「……まぁ、いいけれどね。お義兄さんが納得しているなら私は何も言わないけれど。お母さんが今度二人で顔を出しなさいって言っていたから伝えておくね」
「ありがとう、アリア。そうだね、だったら今日行ってもいいかい? お礼を言うついでにさ」
エリシアも最近実家に顔を出せていないし、ちょうどいいと思う。夕飯の用意はまだしていないはずだし、もしお義母さん用意していたとしても対処できると思う。
「分かった、お義母さんに聞いてみるね。大丈夫なら迎えにくればいい?」
「そうだね。お願いするよ」
アリアと別れて僕は家へと向かうことにした。エリシアに一応確認しとかないとね。大丈夫だと思うけれど、こういう確認は大事だしね。ペンテ爺さんの所はその後に向かっても十分間に合うだろう。
歩きながら僕はエリシアとの約束を思い出していた。
あれは僕らが冒険者に助けられてからしばらく経ったころだったと思う。あのころの僕とエリシアはオーベルとよく遊んでいた。村には他の子供達もいたけれどあまり一緒に遊ぶことは無くなっていた。
というのも彼らがエリシアをいじめだしたのが原因だったのだから。
あのとき助けてくれた冒険者に憧れたエリシアは冒険者になりたいと言うようになった。もちろんこんな田舎ではそんな機会もないし、ギルドなんか存在しない。ましてやあのころは今よりも冒険者への偏見が強かった頃だから、そんなことを言う子供は格好の標的だった。
ある日、僕とエリシアがオーベルと遊ぶ約束をしていたので待っていると、村の子供がやってきた。あまり仲が良くない三人組だったから、僕は嫌な予感がしたんだよね。エリシアを後ろに下がらせて庇うように前に出たんだっけ。
「お前、冒険者なんかになりたいんだって!?」
そんな僕を無視して彼らはエリシアに話しかけた。まぁ、僕は体が小さい方だからバカにされていたんだろうな。実際、村の子供のリーダーだった子は体が大きかったからなおさらだと思う。
「うん! ズバーッてシュピーンってカッコよかったの!」
興奮して話すエリシアを彼らは面白い物でも見るように哂うと持っていた木の棒でエリシアを突きだした。止めろよ!と僕が止めようとしたら他の子供達が僕を捕まえて動けないようにしてきたんだよね。
……今、思い出すだけでも腹が立ってくる。
「止めてよぉ……止めてぇ」
木の棒で突かれて泣きそうになっているエリシアをリーダーの男の子が面白そうに哂っていた。
「ほら! 冒険者になるんならこれくらい簡単にかわせないと死んじゃうぜ! ちゃんと冒険者やってくれよぉ、ほらほら」
「止めろぉ! エリシアをいじめるな!」
あいつは僕の声を無視してエリシアを突き続けることを止めなかった。そのまま座り込んで泣き出したエリシアを見下ろしながらあいつは言ったんだ。
「お前みたいな弱虫がなれるもんか! 冒険者はろくな奴じゃないって父ちゃんが言ってたんだ! そんなバカみたいな夢見てるなんてお前バカだろう!? お前みたいなやつは大人しくこの村で結婚でもすればいいんだよ! なんなら俺が貰ってやろうか? お前見た目は可愛いからな」
「そうだ! そうだ! お前なんかが村の外に出て行ったって死んじゃうに決まってるんだ!」
言いたい放題言うあいつら。それを聞かされて耳を塞ぎながらイヤイヤと首を振るエリシア、僕は羽交い絞めにされていて身動きも出来ない。おまけに文句を言っていたら口まで押えられてしまった。
でも、あいつがエリシアが耳を塞いでいた手を無理矢理剥がそうとした時、僕は限界だった。思いっきり口を押えている手を噛んでやったんだっけ。
「いてぇ!!」
思わず手を放してひるんだ隙に頭を後ろに叩きつけて羽交い絞めにしている子の顔に当てる。拘束が緩んだからそのまま僕はリーダーの子に殴りかかったんだよね。
結局その後、駆け付けたオーベルと二人で三人と取っ組み合いの喧嘩をして大人に止められるまで殴り合ってたっけ。もちろん、エリシア以外の全員が怒られて罰を受けたけれど僕は気にならなかった。オーベルと二人で堂々としていたら何故か父さんに頭を撫でられたっけ。
「ジェイク……痛くない?」
あの後、怪我をした僕を見てエリシアが心配そうに青あざを指さしてきたから僕は笑ってへっちゃらさって答えた。
「……私のために喧嘩しなくていいからね?……私が冒険者になんかなれっこないのはその通りだし……」
僕は悲しそうにエリシアがそう言うのが嫌だった。
だからあの時決めたんだ。
「エリシア、そんなこと無いよ。夢を見るのは自由なんだ。だから僕はエリシアが本気で冒険者になりたいって思うのなら応援するよ」
「ジェイク……」
「僕は、何があっても僕だけはエリシアの夢を否定しないから!」
僕がそう言うとエリシアは本当に嬉しそうに笑ったんだよね。
もっともエリシアはこの前の我慢の限界に至るまで、冒険者になりたいって憧れてはいたけれど行動には移さなかったから、僕は積極的には応援しなかったんだけれどね。
ちなみに例の三人の子供だった彼らは出稼ぎに村を出て行ったんだよね。
まぁ、復讐として僕とオーベルがやった悪戯を何回か彼らに押し付けてやったから居辛くなったせいかもしれないけれどね。
エリシアはゴブリンキングを倒した時点で
剣術:35/120
雷魔術:1/90
体術(身のこなし):25/100
料理:10/30
な感じです。




