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2:彼女の冒険は動き出した

いつも感想と誤字報告ありがとうございます。

 ゴブリン――昔、母さんに聞いたことがある。戦える人なら特に問題ないけれど、そうでない人なら決して油断してはいけない相手。数が増えれば戦える人でも危険な相手。


 聞いたときは何で母さんが知っているか疑問だったけれど、冒険者だったのなら知っているのは当然なんだよね。


「……どういうこと?」


 僕はエリシアの横に座りながら驚きを隠すために淹れておいた薬草茶を口にする。苦い!……今回のブレンドはちょっと失敗かな、苦みが強すぎて甘みが死んでいる。薬効は高いけれどこれじゃ飲みにく過ぎる。


「えっとね、いつものように薬草採取の依頼を受けたんだ。」


 薬草採取の依頼を受けたエリシアはいつものように領都ケートの近くの森で目当ての薬草を探していたらしい。


「だいたいのポイントは初日でいろいろ聞いていたの。だから場所は把握していたんだけどその日はちょっと違ったの。」


「違った?」


 同じポイントで採取し続けるのは良くないので場所を変えて採取するらしいのだが、ポイントの一つが荒らされていたらしい。もちろん冒険者が荒らすわけが無い。


「だから、すぐ脇の茂みがガサガサいったとき嫌な予感がしたの。……そしたらゴブリンが出てきたの。それも五匹」


 ちょっと待った! それは素人が相手できる数じゃないって聞いていたんだけれど……もしかして他の冒険者に助けてもらったとか?……いや、倒したと言っているんだからそれはないか。


「良く無事だったね?」


「うん、とっさに剣を抜いて二匹切り捨てられたのが幸いだったよ。あとは一匹ずつ倒していけたんだ」


 エリシアはあっさりと言ってのけた。


 でも僕は言葉が出なかった。そもそも今まで戦ったことのないエリシアが当たり前のようにゴブリンを斬って倒した。そのことに僕は驚きを隠せなかった。エリシアはどれだけのことをしたのか理解しているのかな?。


「そのことをギルドに報告したらなんか騒ぎになっちゃって」


「はぁ~正直予想外だよ。でも、エリシアが無事で本当に良かった」


 驚いたが無事ならそれで良かった。それにしてもまさかそんなにあっさり倒せるなんて……正直僕の作った剣はなまくらだと思う。それで戦えるということに何よりも驚いていた。


「それでエリシアはこれからどうするつもりなの?」


「え?どうするってどういうこと?」


「冒険者を続けるのか辞めるかだよ。もう体験は出来たんだ、十分じゃないのかな?」


 こんな危険な目に会ったのにエリシアはまだ冒険者を続けるというのだろうか? ただの憧れだけならここで辞めさせようと思うのだけれど……もし、本気なら僕は今までエリシアが我慢し続けてきた夢を可能な限り応援してあげたい。


 だから僕はエリシアに問いかけてみる。その夢は本気なのか知りたかったから。


「ジェイクは辞めて欲しいの?」


「だって怖くなかった? 子供の頃ゴブリンに襲われそうになった事もあったろ」


 エリシアは暫くうつむいたまま指輪を撫でた後に僕をまっすぐ見た。それは変わらず夢に希望を燃やしているいつものエリシアの瞳だった。


「怖くないって言ったら嘘になる……でもね、冒険者になりたいってのも本気なの。危険なことも分かっているし、毎日二時間掛けてケートまで行くのも無理があるって分かってる。それでも夢なの、昔、一緒に読んだ冒険者の活躍する本みたいな冒険は出来ないけれど、少しでも近づいてみたいの。ジェイクと離れる時間が出来るのは嫌だけれどね……」


 エリシアの言葉は正直だった。僕はエリシアの正直な思いにエリシアなりの本気を感じた。だったら出来る限りサポートしようと心に決めた。


「あのね、ジェイク。一つお願いがあるの。もし私が半年以内にランクを上げられたらもう一年だけ冒険者をやらせて」


 ランクを上げるのは簡単なことじゃないって聞いたことがあるから、むしろこれはエリシアに不利な条件だと思う。


 そんな条件を出してでもやりたいんだね。


 分かったよ、エリシア。


「……無理はしないって約束できる?」


「うん」


 おや? 何か言いづらそうにしているけれど……これは既に何かやらかしたな? 僕がどれだけエリシアのことを見てきたと思っているんだい? 分かるに決まっているだろう?


「それでね、ジェイク。実は言わないといけないことがあるんだ」


 僕は黙って先を促す。まぁだいたい予想は着いているんだけれどね。


「今回のゴブリンはねどうやら偵察隊だったらしく、近くに巣があるんじゃないかと言う話になったの」


「それで、どういう依頼を受けたの?」


「よく分かったね!? 私まだ何も言ってないよ?」


 エリシア、君は自分で思っているよりも分かりやすいよ。それに結構単純だから騙されないか心配になってくる。


「君の様子と状況を考えれば予測はつくよ」


 言いづらそうにしていれば何か後ろめたいこと、つまり依頼など自分で決めたことがあるのだろうと想像できる。それにゴブリンの巣とくれば予想くらい立つ。


「ギルドから討ち漏らしの討伐だけでいいから出てくれないかって言われたの。もちろんランクも低いから後方に配置になるだろうって言ってはいたけど。あと、最悪二、三日かかるって言われたんだ……だから」


 後方に配置なら基本的には安全だと考えてもいいと思う。もちろん絶対の安全は無いけれどエリシアの話通りなら参加することは認めざるを得ないだろう。時間がかかるのも納得できる、スムーズに進めばいいけれど、上手くいかないのは良くあることだし。


 それにギルドからの依頼を断らなかったのはいい判断だったと思う。新人育成の場所として使うつもりなんだろうなぁ。それなら下手に遠ざけるよりちゃんと管理された環境の方が安心できる。


「分かったよ、それなら仕方ないよ。それに君と約束したんだ。反対するのは約束破りになる」


「ありがとう~ジェイク~」


 エリシアは嬉しそうに抱きついてくる。エリシアを抱き返しながら僕は釘を刺しておく。


「危ないところに自分から近づいたらダメだからね。冒険者は無用のリスクは冒さないんだろう?」


「もちろん、それに私にはこの指輪があるしね。これがある限り私にはジェイクがいるって教えてくれるから。あなたがいるのに無用の危険を冒すことなんて出来ないもの」


 エリシアはそう言いながら右手の中指に嵌めた結婚指輪を僕に見せてきた。


 右手の中指の指輪は既婚者の証。僕とエリシアで同じ指輪をしている。これが僕らの夫婦の証なのだ。たいした指輪ではないが二人で選んだ指輪がきっとエリシアを守ってくれる。


 僕はそう信じられた。





「わりいな、急に頼んじまって」


「いいですよ、今ちょうど暇でしたから」


 エリシアが依頼に出かけた日の午後、鍬が壊れたというペンテ爺さんに直しますよと声を掛けて工房まで持ってきてもらった。


 僕は早速修理に取り掛かることにする。幸い柄を固定する部分が壊れただけなので修理は簡単だった。


「これで大丈夫ですよ」


「おお、助かるよ。いやぁ~お前さんがいてくれてよかったわい」


 ペンテ爺さんは嬉しそうに鍬の調子を確かめる。ペンテ爺さんにはいつもエリシアが世話になっているからこれくらいはお安い御用だ。


「それにしても、エリシアちゃんもよく頑張るな~。帰りは送ってやれないっていったら適当に馬車を捕まえるって言うんだもんな」


「それだけエリシアの本気は凄いってことですよ」


 僕は笑いながらペンテ爺さんに答える。


「ま、俺みたいな爺でも役に立つのなら嬉しいもんさ。どうせケートまで行かんといかんのだ」


「ありがとうございます」


 僕がお礼を言うと気にすんなとペンテ爺さんは笑いながら去って行った。


 ペンテ爺さんが去った後、僕は良く晴れた空を見上げた。エリシアは今何をしているだろう。無事だろうか、危険なことになっていないだろうか。


 上手くいっているのかと心配は尽きないが考えても僕には何も出来ないのだ。そんな自分が歯がゆかった。


 村に吹く風が髪を揺らしていく。ちょっと偏屈な所やいまだに古い考えが多いところはあるけれど、それでも故郷だから嫌いにはなれないそんな場所だった。


「お義兄さん、どうしたの? 空なんか見上げちゃって」


 気がつくとエリシアの妹のアリアが籠を抱えて立っていた。いつからいたんだろう? ぜんぜん気がつかなかった。


「エリシアは大丈夫かなって思ってね」


 僕がそう答えるとアリアは呆れた顔をしながら溜息をついた。


「お義兄さんはお姉ちゃんに甘すぎると思う。冒険者なんかになって家にいないって何考えているんだか」


「まぁ、それでも半年以内にランクを上げられたら続けていいという約束をしたしね。今は結果を見守るよ」


 僕がそう言うとアリアは納得こそしてはいないが、これ以上何も言う気が無いようで、はいこれと籠を渡してきた。中には果物やパンなどが入っていた。


「お姉ちゃんがいないんだからご飯だけでもちゃんと食べないと。これお母さんからね」


「ありがとう、後で頂くよ。」


 アリアにお礼を言って家に戻る。シンとした家の中はいつもより広く感じ、エリシアのいない家は少し寒かった。それでも心は寒くは無かった。指輪を撫でればエリシアのことを感じられる気がするから。


 さて、僕は僕が出来る努力をしてみようかな。





 次の日、村に帰ってきたペンテ爺さんから僕は信じられない話を聞いた。エリシアがゴブリンキングを倒したというのだ。どういうことかと詰め寄る僕にペンテ爺さんは分かっている範囲で教えてくれた。


 ゴブリンの巣に攻め込んだところまでは上手くいっていたらしい。ただ予想外だったのはゴブリンキングが存在していたことだった。ゴブリンはただの群れなら脅威としては低いがここにゴブリンキングがいると話は変わるという。


 ゴブリンキングは通常のゴブリンよりも格段に強く中堅の冒険者でも一対一は危ういらしく、更にゴブリンを統率し烏合の衆から一つの集団へと変えることが出来るという。


 さらに運が悪かったのは今回のゴブリンキングは普通よりも少し頭が良かったらしく他のゴブリンを捨石にして逃げ出したらしい。ゴブリンキングはそのまま森を迂回して逃げて後方に配置されていた冒険者達とかち合ってしまった。


 エリシアもそこに配置されていた為に戦わざるを得なくなり、一緒に配置されていた他の冒険者達と協力して激闘の末討ち取ったらしい。


 以上がペンテ爺さんの馴染みの冒険者から聞いた内容だ。


 これはエリシアが帰ってきたら直接聞くかしないね。聞けば不可抗力だったみたいだし、仕方なかったようだし。とにかく無事に帰ってきてくれることを神様に感謝しないとね。


 それにしても、エリシアは僕の予想なんか軽々と飛び越えて行ってしまうらしい。僕も置いて行かれないようにしないと。

ジェイクの才能は現時点で書ける範囲で

鍛冶:4/8


エリシアは

剣術:15/120

雷魔術:1/90

体術(身のこなし):10/100

料理:10/30


な感じです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ジェイクの鍛冶の才能は悲しいくらいに低かったんですね。 才能が一般人の下レベルじゃあ父親が健在でも誰かに師事したとしてもろくに腕は上がらなかったんでしょうね。 しかしまあもっと酷いの…
[良い点] ペンテ爺さんは少ない村の情報源でもあったんですね、 なるほど、納得しました。 そしてエリシアが急激なペースで剣の腕を覚醒させていってるのが、わかりますね。 [気になる点] あ、ジェイクの才…
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