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24:私に存在してはいけないモノ

評価、ブックマークをしてくださった皆様に心から感謝を申し上げます。

 ペトリリザードを倒した私達は急いで回収できるものを回収してケートへと向かった。幸い怪我をした人はいても死んだ人はいなかったのでホッとしたかな。


「これでレイラも元に戻るねー!」


 アニーも嬉しそうでちょっと泣きそうになっている。アニーが何度もレイラの元へ通って治せないか試していたことを知っているから私もまた涙が出そう。


「エリシア、君は凄いな。ペトリリザードと真正面から斬り合うなど私には無理だ」


 ラルフがそう言いながら首を振っているけれど、あんなものは殺気さえ読めれば出来るような気もするんだけれど。


「魔物の殺気なんか読み切れねえよ」


 オイゲンが呆れたように返してくる。そんなことを言ってもなんとなく出来るのだからしょうがないと思う。


 そのまま途中休憩を挟みながらケートへと戻ってきた私達は急いで毒袋を神殿へと届けたのだった。




「「「カンパーイ!」」」


 ギルドの隣の酒場で皆で集まって杯を掲げる。そのまま一気に飲み干してひっくり返るバカや、ちびちび飲んでいる人までいろいろな冒険者が私達の勝利を祝ってくれていた。


「しかし、すげぇな、お前たちは! ケートの冒険者の誇りだぜ!」


「エリシアが止め刺したんだろう? やるじゃねぇか! 流石“赤雷の剣姫”だぜ!」


「こりゃランク昇格も間違いないな!」


 皆が口々にお祝いの言葉を述べてくれた。昔の私なら気恥ずかしさで固まっていただろうけれど、今は違う。


「皆が手を貸してくれたからこその結果だよ。皆! ありがとうー!」


 そのままカンパーイと声を上げて何回目かの乾杯をする。うーん、ちょっと飲み過ぎたかも。


「……うぅ」


「おい、そこら辺で止めておけ」


 ちょっとぼんやりしているとオイゲンが私の手からグラスを取り上げる。


 まだそんなに酔ってないよ? オイゲンが二人いるけれどきっと分身したに違いない。アニーがなんだか酒樽の上で踊っているのが楽しそう。私も踊りたくなってきた。


「ダメだっつってんだろうが! こいつは段々と酒癖が悪くなってやがる」


 オイゲンが何か言っているけれど、きっと褒めてくれているのかな? あはははは~。


「私が宿へ送ろう」


 ラルフが私を抱き上げて運んで行こうとしてる~。これってお姫様抱っこってやつかな? 初めてされちゃったかも……ジェイクじゃ出来ないからなぁ~。


 しばらく運ばれていると何やら周りが騒がしいような? そうこうしているうちに見覚えのある宿へ着いたみたい。


「ほら、もう寝たほうがいい。二日酔いの薬は置いておく」


 そう言ってラルフが何かを部屋に置いて出て行ったみたい。まったく本当にラルフはお兄ちゃんだなぁ……むにゃむにゃ。


 次の日の朝、頭痛で目が覚めた私は昨日のことをバッチリ覚えていたため朝っぱらから悲鳴をあげてしまい、宿の女将さんからしこたま怒られたのは内緒です。




「ただいま~、ジェイク」


 私達はペトリリザードを倒したことから一週間程休むことにしたんだよね。レイラの治療も結果が出るまで時間がかかるし、それにペトリリザードを調べるために王都から偉い学者さんが来るらしいんだよね。ペトリリザード自体はギルドが現地まで回収に行くらしいから任せっぱなしだけれどね。上手くいけばあいつの甲殻で防具を作れるかもしれないらしいから結構楽しみ。


 なので私は家でのんびりと過ごそうと思って帰ってきたんだよね。昼過ぎに帰ってきたからかジェイクはいなかった。仕方ない、掃除でもしようかな?……掃除も必要ないくらいに出来てるみたい。


 洗濯物はもう干されているし、台所も片付いている……あれ? やることない?


 やることは他にもあるにはあるけれど、下手に手を出すとかえってジェイクを困らせるかもしれないんだよね。


 思いがけずやることが無くなった私はしばらくボーっとしていたけれどジェイクは帰って来そうにないので、先にシェリアの所へ報告に行ってみることにした。


「シェリアいる?」


「おや、エリシアかい。久しぶりだねぇ」


 もうすっかり奥さんになっているシェリアが出てきてくれた。良くある村の女性の格好だけれど背が高いシェリアが着ているとなんかカッコよく見えるなぁ。


「何かあったのかい?」


「あいつ殺したよ」


 私がそう言うとシェリアは目を見開いた後、口元を押さえて座り込んでしまった。


「……そうかい、そうかい……やったんだね……凄いよ、エリシア達は」


「皆が支えてくれたからだよ。シェリアやジェイクが信じて送り出してくれたから私は戦えたんだ。だからこれは“女神の剣”の勝利でもあるんだよ」


 シェリアは泣きながら何度も頷いていた。


「それじゃ、レイラは治るんだね?」


「まだハッキリとは分からないけれど……治るって私は信じている」


 復讐のためだけではなく、そのために他のどの冒険者にも先を越されないようにしたんだもの。必ずなんらかの進展はあると思っている。


「じゃあ、大人しく待とうかね」


「それでさ、シェリア。家事が完璧に終わっているから暇なんだよね。何か手伝えること無い?」


 私がそう聞くと薪割りを手伝ってくれと言われた。ならついでだから家の薪も持ってきて一緒に片付けてしまおうかな。クロノスフィアで宙に投げた薪を斬り分けていたらシェリアに信じられないモノを見るような目で見られた……何でそんなにビックリしているの?




 しばらくシェリアと話した後家に帰るとジェイクがちょうど帰ってきているところだった。


「ただいま、ジェイク!」


「おかえり、エリシア」


 ジェイクは今日は農作業の助っ人をしていたみたい。作業用の汚れてもいい格好だったけれど働いてきた後の旦那様はカッコよかった。私はこういうカッコよさが好きだなぁ。


 私が抱き着くとジェイクはワタワタと逃げようとする。なんで逃げるの? 


「汚れるよ!? エリシア」


「私が洗うからいいの。ジェイクは大人しく抱きしめられていて、ね?」


 観念したように私を抱きしめ返してくれる。日々の仕事で引き締まったジェイクの体にドキドキしちゃう。


「……帰ろう。エリシア」


「……うん」


 沈む夕日に置いて行かれた私達はのんびりと家へ入る。少しでも長くこの時間を味わっていたいから。






 夕食を終えて二人でゆっくり薬草茶を飲みながら話をする。


「あの化け物、倒したよ」


 私がそう言うとジェイクは静かに頷いて良かったと呟いた。


「エリシアが無事に帰って来てくれて嬉しいし、目的も果たせて良かったよ」


 実を言うと危ない場面はあったんだけれどそこは黙っておこう。心配させてしまうしね。


「毒も手に入れたし、これでレイラの治療も進むと思うんだ。毒って血清作るのに毒自体が必要なんでしょう?」


 私がそう聞くとジェイクは驚いた顔をした。もしかして私が知っていることに驚いたのかな? だったらちょっと嬉しいかも……こういう知識はいつもジェイクに驚かされてばかりだから。


「良く知っていたね、その通りだよ。必ずとは言わないけれど、毒そのものがある方が早いことは多いよ。もっとも毒を手に入れることは難しいからあまり使えない方法なんだけれどね」


 本当はもっと詳しい話があるのかもしれないけれど、私にはそこら辺は分からないからなぁ。とにかくレイラが早く治ることが大事なのであって、方法は専門家に任せようかな。癒しは癒し手っていう言葉があるくらいだしね。


「そうなんだね、ならもう安心できるよね。ねぇ、ジェイク、今日はお酒に付き合ってよ? あいつを倒したお祝いに……ダメ?」


「……分かったよ、だからそんな捨てられたような子犬みたいな目でみないでってば」


 ジェイクは苦笑いをしながら私が家に置いているお酒を用意し始めてくれるんだけれど……捨てられた子犬のようなってどんな顔してたの?……私?




「どういうことですか!!」


 神殿の一室で私の声が大きく響く。きっと部屋の外にも聞こえているかもしれないけれど、そんなことはどうでもよかった。今はそんなことに気を使っている場合じゃない。


「……エリシアの言う通りなんだけど? なんでこれじゃダメなわけー?」


 アニーも今にもメイスで目の前の神官の頭を叩きそうなぐらい目が座っている。それもそうだろう、こんな結果が待っているなんて思ってもいなかったのだから。


「ですから、この毒ではダメだったのです。患者が受けた毒は呪いによって変質していました。結果毒が全く違う物になっているのです」


 神官が汗を拭いながら必死に説明するけれど納得できないよ。少しも意味が無かったっていうの?


「それでも少しくらいは解析できるんじゃないのー? 元は同じ毒なんだから?」


「ではお聞きしますが、水を火にかけて出た湯気を掬うことが出来ますか? 元は同じ水なんですから出来ますよね?」


 ……出来る訳がない。元は同じでもそれは同じ物じゃないのだから。アニーも言わんとすることが理解できたせいか、これ以上何も言えないみたい。


「……それに、もうあの魔物は討伐されたのですよね? ならばこれから治療はさらに難しいモノになると思います」


「どういうことなのかな?」


 ラルフの質問に神官は悔しそうに顔を歪ませた。待って、何かあったの? 何でそんな顔をするの?


「……予算が減るのです。神殿と言えど先立つものが無ければ治療のための研究は出来ません。しかし、もう問題の魔物は討伐されました。つい先ほど神殿と王国側の話し合いで予算が減らされることが決定したのです。これ以上被害は拡大しないだろうと」


「んなバカな話があるかよ! まだこれから先出て来ないとは限らねぇだろうが!」


 オイゲンの言葉に神官は首を振って答えた。


「王都の調査官があの魔物、ペトリリザードを調べたところ、亜竜とコカトリスの合いの子であることが分かりました。しかもあの魔物は東方の魔物で滅多に生まれることが無いという記述が見つかったそうです。よってこちらに来たのは偶然だろうということでした」


 そんな、そんなことを根拠にもう被害は出ないだろうって無理があるよ!


「生殖能力は無く、増えることもないので基本その都度討伐すれば問題は無いと。予算は出すが、これ以上一部の被害者のために予算は多くかけられないということでした」


「ずいぶん、非情に切り捨てましたね。やっぱり被害者の中身ですか?」


 コントールが吐き捨てるように呟いた。中身? 中身ってどういうこと?


「……はい、その通りです。被害者に貴族や富裕層はいません。その結果、急いで救済する必要は少ないであろうと言う……言葉では言われていませんがそういう思惑が上層部にあるのは間違いないでしょう」


「具体的にどのくらい減らされるんだ?」


「四割カットです。正直に言えば研究を続けることは可能ですが、今のペースの維持は無理です」


 どうして……どうして、そんな理由で被害者が見捨てられなければならないのだろう。私にはその理屈はとても納得できないし、大人しく従いたくもない。


「ねぇ、私がお金を出せば受け取ってくれるー?」


 アニーがそう言いながら金貨を四枚取り出した。


「それは助かりますが、本当にいいのですか? 返す当てなどありませんが……」


「いいよー。返してくれなくていいけれど研究は続けてー。これからもなるべくお金持ってくるからー」


 アニー、凄いね。私は思いつきもしなかった……ジェイクならこんな時なんて言うかな?


 私はアニーのようにすぐに決めることは出来なかった。




 村に帰って、私はジェイクにアニーの行動の件を相談してみた。


 静かな夜だった。鳥の声がどこか遠くから聞こえてくるだけで月が優しく外を照らしている。そんな優しい夜だからこそ私は落ちついて話すことが出来た気がする。


「……凄いと思ったけれど……私だけのお金じゃないし……」


「エリシア」


 上手く言葉に出来ない私にジェイクは優しく微笑みかけてきた。


「人を救うために何かするのは間違いじゃない。ましてや自分で稼いだお金なら胸を張って使うべきだよ。仲間の為に頑張ろうとする君は僕の自慢の奥さんだから……その研究のためにお金を出して良いよ。僕はここで生活する分だけあれば十分だよ」


 ……ジェイクはどうしてこんなに優しいのかな? 凄く立派なことを言ってくれる凄い旦那様。比べて私は甘えてばかりいるただの村娘から変われていないのかもしれない。ふとそんなことが頭によぎった。


 村を出ても変われていない私と、村を出なくても立派なジェイク。私はいったい何をしてきた……やめよう、これ以上考えない方がいいよね。


 私は浮かび上がった暗い感情に気が付かないふりをした。私がジェイクに嫉妬することなんて有り得ないのだから。


 ジェイクに近寄ってくる女性がいたら嫉妬するけどね。


「ありがとう、ジェイク。私、ジェイクの奥さんで良かったよ」


 見ないふりをした感情はジクジクと痛みを放っていることに私は何も気付かない。そう、何も……ないのだから。





 ジェイクと相談した結果私が稼いだ分の四割を神殿に寄付するということに決まった。仲間にも話すとアニーはもちろん、ラルフも寄付してくれるらしい。オイゲンとコントールは余裕があれば寄付してくれると言ってくれた。


 それに私達がこのことをギルドに報告すると他の冒険者が余裕のある時に寄付をしてくれると約束してくれた。皆、ありがとう、これできっと被害者を助けることが出来るよね?




「というわけで! 実入りの良い仕事を受けようと提案しまーす」


 私達がこれからどうしようかと話し始めた時に、アニーがそんなことを言い出した。


「実入りの良いってどんなの?」


 私の疑問にアニーは指を目の前でチッチッチッと振ると胸を張って言ったのだ。


「もちろん、貴族の依頼だよ!」





話を書くたびにいろいろ悩んでいますが

ジェイクや他のキャラクターの未来を書き上げることを目標に頑張っています。

まとまりが無くならないように気を付けてはいますが、なかなか難しいですね。

ルート分岐とか個人的に書かないことにしているので先にごめんなさいしておきます。

良かったら、これからも読んでください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族づてにうまいこと人材が連鎖して呪いを解く手立てにたどり着けるといいなあ。
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