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19:私と指輪

「おかえりー、エリシア」


 ケートについた私を出迎えてくれたのはアニーだった。あれからいろいろ準備をしていたようで装備も少し変わっている。


「ちゃんと許可もらったんだね?」


「うん、ちゃんと話し合ったからね」


 アニーは自分のことのように良かった良かったと喜んでくれる。ギルドへ入ると顔馴染みの冒険者が集まってきた。


「良く戻ったぜ、エリシア。もう来ないのかと思っちまったよ」


「旦那とはちゃんと話をつけたのか?」


 皆が口々に話してくるから口をはさむ隙がないんですけど。


「ほらほら、そんな一気に聞いたって答えられるわけないだろう。少しは考えろ馬鹿共が」


 オイゲンが集まってきた皆をかき分けながらやってきた。前よりも上等な装備を着けているオイゲンは腕も上げたみたい。


「ありがとう、オイゲン。ちゃんと旦那様と話してきたから大丈夫。遅くなったけれど私も参加するよ」


「「「「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」」」」


 なんで皆そんなに嬉しそうなの? 何かあったの?


「あの化け物を追うのに協力してくれるんだよー、皆は」


 アニー達はどうやって皆を説得したのかな?


「説得した方法? そんなもんエリシアも来るって言っておいただけだよ」


「なんでそれで集まるの!?」


「エリシアはここいらの冒険者の間でファンが多いから。気付いてなかったかもしれないけれど人気あるんだよ」


「な、なななんで!?」


「強いし、美人だし、優しいし。まぁ、こういうのは放っておくのが一番だよ」


 知らなかった、そういうのがあるなんて……気にしないでおこう。


 私がいない間どうしていたのか聞いてみると依頼を受けてお金を稼ぎつつ、一緒に戦えそうな人を選んでいたみたい。


「よく戻ってきてくれた、エリシア。待っていたよ」


 ラルフがそう言いながらエールを持ってきてくれた。


「向こうで大人しくしている間は飲んでいなかっただろう?」


「どうせ田舎の村ですよーだ」


 まぁ、飲んでいなかったけれどね……うん、美味しい。




 それから週に一回はなるべく帰るように、帰れない場合は手紙を書くようにして一月が経った。


 今週は護衛の依頼のおかげで家に帰れなかったからジェイクに手紙を出してから出発したんだけれど、帰ってきたらその返事が届いていたから凄く楽しみ。


 むふふージェイクはどんなことを書いたのかな?


「なんかご機嫌だね、エリシア」


 アニーが私の持っている手紙に気が付いて冷やかすように肘で突いてきた。


「仲良いね~。この、この」


「ラブラブな夫婦だからね。ジェイクは優しいから心配してくれているんだよ、アニー」


 私がそう言うとアニーはしまったという顔をしてそれじゃあねーと言ってそそくさと離れて行ってしまった。まだこれからジェイクの良い所たくさん話そうと思ったのに。




 そんな日々を過ごしていたら嬉しい知らせがジェイクから届いた。


「アニー! 大変、大変だよ!」


「どうしたのー? もしかして手掛かり見つかった?」


 残念ながらそっちはまだ何も見つかっていない。だけどこれはそれに匹敵するくらいの大ごとなのだから大変なの。


「シェリアがとうとう結婚するって!」


「なにをー!……マジで?」


 アニーはよっぽどビックリしたのか食べていた串肉を落としてしまっているし。


「本当だってば。オーベルといつ結婚するんだろうって思っていたけどとうとうするんだぁ」


 今頃村は大忙しだろうな。娯楽のない村だからこういう嬉しいイベントは皆張り切るんだよね。


「よし、ならお祝い用意しないと!」


 アニーの言う通りだね、でも何が良いのかな?


「結婚の祝いなら酒だろ酒」


 オイゲンが飲みたいだけでしょうに。ほかの冒険者共が便乗して酒だ酒ーとか騒いでいるけれど、こいつらは……私も飲むに決まってるでしょうがぁ!


 結局お祝いは無難にアニーお勧めの鍛冶屋で作ってもらった包丁にしました。村だとなかなか手に入らないし、悪縁を切るという意味で縁起が良いからね。




「よく来てくれたね、二人とも」


 婚姻衣装に身を包んだシェリアはとても綺麗だった。村では花嫁は白のベールを被って白を基調とした服を着ることになっている。街で言うドレスほど煌びやかじゃないけれどそれでも十分綺麗な格好だった。


「おめでとう! シェリア!」


「あーあ、シェリアもとうとう結婚か……これで独身仲間はレイラだけだよ」


 アニーがそんなことを言いながらも綺麗だねって褒めていた。まったく素直じゃないんだから。


「よう、エリシア。来てくれたんだな」


 私の幼馴染のオーベルがやってきた。狩人をしているせいでしっかりとした体つきをしていて冒険者をやっても成功すると思うくらい器用なんだよね。弓がとても上手で森にも詳しいから頼りになると思うのに、昔冒険者に興味あるかなって聞いたら無いってきっぱりと言われたから誘わなかったんだよね。ジェイクはそもそも争いごとが向いていないから誘えなかったけれど。


「まったくお前は少しは村に帰ってこいよな。三人で酒場で飲もうぜ」


「村の酒場は割と早く閉まるでしょうが」


「遅くまで飲む前提で話すなよまったく」


「あんたたちは面白いね」


 シェリアがそんな私達をみて面白そうにクスクス笑っている。ちょっとシェリア、これはオーベルが先に喧嘩売って来たんだからね。


「良かったよ、エリシア。変わりなさそうで、あたしは心配だったからさ」


「私には大事な人がいるからね。ちゃんとジェイクの所に帰らないといけないからね」


 私がそう言うとシェリアはそうだったねと頷いてくれる。それにしても幸せそうで良かった。オーベルは口はちょっとだけ悪いけれど優しいからシェリアを幸せにしてくれると思うし、シェリアは実はかなり乙女だからかいがいしい新妻になると思うんだよね。


「オーベル、そろそろ行かないと皆待ってるよ」


 ジェイクがオーベル達を呼びに来たから行かないと。今日は私も目立たない程度にだけどオシャレしているからジェイクは褒めてくれるかな?


 昨日は独身最後の宴を男性陣と過ごすって言うからジェイクは家に帰ってきていないんだよね。おかげで綺麗に準備してからジェイクに会えるのは良かったけれど。


「エリシア綺麗だよ。でもそれ以上綺麗にならないでね……花嫁さんより綺麗だと申し訳ないからね」


 私を見つけたジェイクはこっそりとそんなことを耳打ちして準備に戻っていく。は、恥ずかしいセリフをさらっと言っていかないでよねー! ど、ど、どういう反応して良いか分からなくなりそう。


 真っ赤な顔で式に参加したらお母さんからあんた風邪?とか心配されたけれど、これはジェイクのせいです!




「それでは指輪を互いの指に」


 神官様の宣誓に従ってオーベルとシェリアが指輪を交換するのを皆で見届ける。


 私の時もああやって指輪を交換したんだよね。ジェイクがガチガチに緊張しちゃってなかなか嵌まらなくて大変だったなぁ。今では良い思い出だけれどね。


 右手の中指に嵌めた結婚指輪を撫でてみる。私達の愛を誓った証……こうして撫でるだけでも幸せだなぁ。横にいるジェイクを見上げると優しく微笑んでいるから私も微笑み返す。


「これで二人は夫婦です。いかなる時も二人は互いを助け合い、慈しみ合い、尊重し合うのです。

これは何人たりとも身勝手に引き裂くことは許されておりません。新しい夫婦に祝福を!」


 神官様の言葉に合わせて最後に皆でお祝いの花びらをばらまいて式はおしまい。後は村の皆で宴会だね、こういう日は飲み過ぎても新郎新婦に迷惑さえかけなければ怒られないので、いつも奥さんに尻に敷かれている男連中は大騒ぎするんだよね。


 もっともジェイクはいつもそういう騒ぎには参加しないで女性陣の手伝いとかしていたから、女性陣からの人気は高かったんだよね。ほら、今日もいつの間にか手伝ってるし……妻として夫だけを働かせるのは沽券にかかわるので行ってきます。





「ジェイク、これ持って行けばいい?」


「うん、エリシア。頼んだよ」


 次々に作られる料理を運んでいく。オーベルは男連中に絡まれて飲まされているから放っておこう……なんでアニーが混じって絡んでいるんだろう?

 シェリアは女性陣と仲良く話しているから、これからも安心出来そうかな。そうだ、シェリアにも料理を持って行ってあげようかな。あまり食べれてないみたいだし。結婚式やると花嫁は食べれないことの方が多いんだよね。私の時はジェイクは酔い潰されてたし、何というかいろいろ忙しかったなぁ。


「はい、シェリア」


「お、すまないねエリシア。なんかあたしみたいなガサツな女が結婚とか変な感じだよ」


「シェリアは綺麗だよ、だから自信持ってよ」


 私達“女神の剣”の仲間なんだからもっと自信を持って欲しい。レイラもここにいれば必ずきっとそう言ったはず。


「そうかね……そうだね、ありがとうよ。エリシア達もこんな結婚式だったのかい?」


「うん、もっとも私の時はオーベルがジェイクを酔い潰したから大変だったけど」


「あのバカ、そんな真似をしていたなんてね……そうだ、エリシア。今からオーベル潰しに行くよ!」


 え? 花嫁が花婿を酔い潰すなんて……面白そう! ぜひあの時の復讐を!


 私はシェリアの後を酒瓶を持ってついていく。こちらに気付いたアニーがおもちゃを見つけたように目が爛々としてきたんだけれど……ま、いっか。


 こうしてシェリアとオーベルの結婚式は楽しく過ぎて行った。


 騒ぎすぎて私達がジェイクに叱られたのは愛嬌ということで許してください、旦那様。




 シェリアの結婚式から十日ほど経った日のことだった。今回は少し離れた街まで行くという商人の護衛だったから往復で一週間くらいかかってしまった。


 ジェイクには旅先で手紙を書いて送っておいた。護衛先の街で見つけた面白そうな薬草の本を見つけたから一緒に送ったんだけれど喜んでくれるかな? ジェイクの薬草に関する知識が増えたらいろいろ出来るようになるよね。


「すみません、リセリアさん。手紙来ていませんか?」


 いつも手紙は依頼という形でギルドに送ってもらっているので来ていればあるはず。


「来ていますよ、少々お待ちください」


 少ししてからいつもより厚い封筒を持ってきてくれたんだけれど……これは?


 注意しながら開けてみるとそこには手紙といつもの薬に押し花の栞が入っていた。この花は……私の好きなフェレーヌの花だ! 淡い紫の小さな花がたくさん咲く花で村の近くに咲き乱れる秘密の場所があるんだよね。今度、ジェイクと一緒に行こうかな? お弁当持って行ってさ。


 なになに


 『愛するエリシアへ、怪我などなく無事でいるのかな? 送ってもらった薬草の本はとても面白くて、つい夜更かししてしまったよ。こんなに良い物を送ってくれて本当にありがとう。これからもこうやって本を送ってもらえるのは嬉しいかな。こちらは特に大きな問題もなくやっているよ。オーベルとシェリアは最近仲が良すぎて少しうっとうしいと思ってしまうくらいだけどね。無理をしないで、エリシアらしく頑張ってね。最後に新しく作っておいた耐毒薬と押し花の栞を入れておいたよ。薬は前より効能が高いから使い過ぎないでね。その栞を使ってエリシアも本を読んでみてね。  ジェイクより』


 ん~!! 流石旦那様! もう大好き!


 私の好きな花で押し花の栞まで作って入れてくれるなんて愛情を感じるなぁ~えへへへへ。


「凄い顔しているよエリシア」


 気が付けばアニーが呆れた顔で横に立っていたっていつの間に!?


「エリシアがぼんやりしているだけだと思うよー」


 う、は、恥ずかしい。


「それで何かあったの?」


「ラルフからこれ」


 そう言ってアニーが差し出したのは指輪だった。ナニコレ?


「これはマジックアイテムだよー。毒とか麻痺といった肉体に影響する状態異常の耐性を上げてくれる物なんだって」


「へー……って何で指輪?」


 指輪を複数付けるのはあんまり好きじゃないんだよね……今は結婚指輪をしているし。


「ラルフがね、皆に不調封じのマジックアイテムを配ったんだよ。で、一番攻撃力の高いエリシアが身動き取れなくなったら困るから一番効果の高いものをってことでこれになったの。他の皆は腕輪だけど効果が高いのは買える範囲だと指輪しかなかったんだよね」


 ん~それなら仕方ないかなぁ。でもどうしようかなぁ。


「防護のタリスマンと同じで家以外で使えば? 結婚指輪はタリスマンの鎖にでも通しておけば失くさないだろうし」


 確かに失くさない方法ならそれが一番かな? あいつを相手にする時は毒対策は必須だし。ジェイクの薬以外にも準備はしておいた方がいいよね。指輪を着ける時は左手にしておこう。こっちなら何の意味も無いしね。


「分かった、ありがとうアニー」


 とりあえず不調封じの指輪はタリスマンに通しておこうかな。今日はもう依頼無いし。


「夕飯食べに行こうよ、アニー」


「明日も依頼だから飲みすぎ禁止だからね?」


「分かってるってば」


 とりあえず今日は串肉でエールの気分かな?

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― 新着の感想 ―
[一言] アニーが完全にラルフ側の人間として動いてますよねこれ。 全部が終わってしまってからエリシアにネタバレがあるのかな。 憂鬱だけれど先を見たい!と思ってしまいます。
[良い点] 戻ってきて冒険者から歓迎されてる感じがすごくよいです。 そして結婚式など日々を過ごしながら、少しずつパーティー全員の練度や装備が整ってくるという具合で、万全な状態で挑めるといいですね。 …
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