新田川高校、堕ちる
午前8時30分
それはいつもと変わらぬ日常であった。朝早くから行われる朝礼。誰もが良い気持ちはしないであろう。しかしそれはただの日常。いつもと変わらぬ景色だった。
「起立、礼。」
いつもと変わらぬ進行。くどい校長の話が始まる。
「えー。もうすぐ文化祭ですね。各クラスの個性をしっかりと表現してください・・・」
ただ少し前までは前に出ている校長は中年の太ったおばさんであったが今は若い男だ。存在感のある声色に意外と良いルックス。それもあり、以前よりは話に引き込まれる生徒も多い。
「あれ?将人いなくね?」
「あ、ほんとだ。生徒会の連中もいねえよ。」
「腹でも壊してんじゃね?」
1年5組の中辻はあることに気が付いた。今日はいつもと比べて明らかに欠席者が多いということであった。しかしそんなことはそれ以上気になることではない。彼らのひそひそ話は違う話題にシフトする。
「では次は生徒会からのお知らせです。」
司会進行の生徒がそう言うと生徒会長の立花千代が壇上に上がった。
「生徒会はなんか忙しいみたいやな。全員出払うとかヤバ。」
よく見るとなにやら顔色が悪く少し元気がない様子。それは同じく壇上に上がった他の生徒会メンバーにも言えることだった。
「では、お願いします。」
マイクを渡され受け取ると、立花千代は静かに話し始める。
「・・・みなさん、おはようございます。生徒会長の立花千代です。今日は皆さんに大事なお話があります。突然ですが、今日は何の日かご存知でしょうか?」
唐突に生徒に聞く質問としては予想外な部類に入るであろう。しかしアイスブレイクの効果はあったようで、場がざわめく。
「え?何の日何の日?」
「誰か先生が結婚したとか?」
「俺が初めて立って歩いた日。って誰が興味あるねん!!」
皆が様々なことを邪推する中、生徒会長が出した答えは想像を絶するものであった。
「はい、もちろん様々なことを意味する一日だと思います。しかし答えはいたってシンプルです。今日は皆さんが生まれ変わる日です!」
「・・・は?」
体育館中がどよめく。あまりにも意味の分からない答えに生徒たちはおろか、体育館の壁沿いにいた教職員でさえ驚愕する。
「こんな、素晴らしい日にこの国の変革が行われるなんて!ああ、感銘の極みです。」
急に表情が爆発して涙を流し始める生徒会長。その様子は明らかに異常である。
「そんな素晴らしい日を皆さんとともに分かち合えることをうれしく思います。」
立花千代は片腕を挙げる。すると突如体育館の4隅にある出入り口から目出し帽をかぶり全身黒づくめの者たちが次々となだれ込んでくる。その手にはサイレンサー付きの銃が握られており、一斉に生徒や教職員達に銃口を向ける。
「皆さん、動かないでくださいね。驚かせてすいません。ただ少し協力していただきたかっただけなんです。大丈夫、大人しくしていれば無事に家に帰れますから・・・」
立花千代の声はうれしさと冷静さが入り混じった声であった。しかしその声を聞いてもなお当然皆はパニックに陥る。あまりにも突然の事なのでほとんどの者は状況を受け入れられず、ただ立ち尽くしているだけだったが逃げ出そうとする者もいた。
「うわーーーーーー!!!!!なんなんだよお前ら!!」
1人の生徒が一番近かった出入り口に全力で走り、側にいた黒い者に飛びかかろうとした。すると黒い者の1人が銃を発砲する。音はあまりならずに首筋に針のようなものが刺さる。生徒は全身の力が抜け、意識を失う。
「あああああああああああああ、なんと、なんと慈悲深き行いなんでしょうぅ??メガミの名のもとに集った我らに暴挙を働こうとした輩を優しく、そして丁寧に封じる。我ながらなんと善い行いでしょうぅ!!!」
突然響き渡る狂気に満ちた声。その場にいた者が一斉に黙り、振り向くほどの存在感がそこにはあった。
「はいはいはいはいはい。皆様ハジメマシテ。私はメガミ教の司祭をやっております、ベルフェゴールと申します。以後お見知りおきをぉ!!!」
突然現れた狂気の持ち主は素早く壇上に上がり、目出し帽を自ら剥ぎ取った。
「!!!!!」
露になった顔は痩せこけ、骨と皮だけ、かつ青白い肌の色。まるでゾンビのようであった。顔のあちこちにはひっかいてできたような擦過傷が複数あり、そこから肉が露になりただれ、膿んでしまっている。この顔を見て恐怖しない者はそうそういないであろう。
「ヒヒヒヒヒヒ・・・その表情、あぁなんていいんでしょう!!ぞくぞくしますねぇ。あなたたちの顔が恐怖と絶望に染まる。そんな瞬間こそ私は神を否定できるぅ!メガミ様だけが私の生きる希望なのですぅ。」
ベルフェゴールと名乗る者は狂喜しながら全身をかきむしり始める。
「とまあ、遊んでいる暇もないですねぇ。時間がありません。あなたたちにはさっさと眠ってもらいましょうかねぇ!!」
ベルフェゴールが合図をすると黒い者たちが一斉にガスマスクを装着し生徒たちに白い煙が立ち込める筒を一斉に投げつけた。
「きゃーーーーー!!!」
女子生徒たちの悲鳴、一心不乱に誰かを踏み台にしてでも逃げようとする者、必死に落ち着くように生徒たちに呼びかける先生。様々な者たちの声が交差し体育館はパニックに包まれる。
「ヒャハハハハハハハハ!!!!!!いいですねぇ、いい!!!最高だぁ!!まさに人間たちの醜いパレードと言ったところですかねぇ。愉快愉快ィ!!」
ベルフェゴールは狂喜のあまり頭を壇上の机に打ち付ける。何度も、何度も。次第に生徒たちの声は聞こえなくなり白い煙も晴れて行く。
「ああ、メガミ様ぁ・・・私の犯した大罪をどうかお許しくださいぃ・・・」
頭から出血し、大粒の涙を流している。2つが混ざってまるで血の涙が流れているようである。
「・・・では、生徒と教職員を回収しお部屋に連れて行きなさい。慎重に丁寧に包み込むようにお連れしてくださいねぇ。」
ニカァと笑うその顔をうつろな目で見つめていた立花千代は、
「はい・・・!」
消え入る声で返事をするのだった。
☆
「はあ、はあ・・・」
息が上がる。全力疾走で校門まで駆け抜けようとする。足がおぼつかない。恐怖で力が入らない。
「くそっ!」
何度も何度も転びそうになった。しかしそのたびにこらえ、走り続けた。あの非現実的な空間から逃れたくて、それだけで足を動かしているに過ぎない。あの時偶然一番近かった出入り口が開いていた。白いガスで視界が見えなくなっていたことが幸いだった。黒い者たちもガスマスクを装着して視界が狭くなっていたのだろう。1人だけ逃げたことに気が付いていない。よって追っ手はいなかった。
「あと・・・少し・・・」
目の前に校門が見える。アレをくぐればしばらく行ったところに民家がある。そこに入って助けを呼べばゴールである。校門に到達したその瞬間、
「おいおい、どこ行くんや?トモキ。」
背後から見知った声が聞こえた。一瞬時間が止まるような感覚がした。
「ま、将人お前・・・!」
振り返った先にいたのはよく見知った顔。ポケットに手を突っ込んでニヤニヤ笑っている。
「お前、今までどこに・・・」
「悪いなぁ、答えられへん。」
将人はゆっくりと近づいてくる。中辻はそれに合わせ一歩一歩後退する。
(こ、こいつも様子がおかしい!絶対やばい!)
中辻は並々ならぬ気配を感じとり、身構えたが脳裏に1つの考えが浮かんだ。
(そうだ!こいつさえ倒せば・・・)
安易な考えであったが逃げるよりは確実だろう。この体力で将人から逃げるのは自殺行為だ。追いつかれることは目に見えている。
「お、おい落ち着けよ、話せばわかる。」
中辻は必死に笑顔を作ろうとした。しかし少しずつ将人は近づいていく。
「とりあえず、逃げようぜ。」
中辻は必死に冷静を装って語り掛ける。中辻と将人の距離が縮み、完全に攻撃範囲内に入った。
(今だ!!!)
意を決して中辻は自分のできる最高速で将人に殴りかかる。
「ぐっ・・・!」
しかし結果はその努力を無に帰した。殴りかかるスピードなどよりも速く将人は中辻の首筋に手刀を食らわした。中辻は攻撃する、という動作をする前に将人に先手を取られていた。完全敗北である。
「悪いなあ、トモキ。」
中辻が最後に見たのは将人が自分を支える姿。口角が引きつり、笑っていた。
「一人も逃がしたらあかんねん。こっちの仕事もせんとなあ。」
将人は中辻を抱えると校舎の方に消えた。
☆
午前9時
学校は静まり返った。というより新田川市自体が静まり返っている。しかしそんな街の様子などこの学校からわかるはずもなかった。自分の学校の様子だけで精いっぱいである。
「チッ。」
校内に舌打ちの音が響くほど、物音1つ聞こえない。その状況になおも石川の苛立ちは増す。今朝の出来事を思い出せば出すほどやるせなさと怒りでどうにかなってしまいそうだった。
思えば3週間前から今日という日に何が起こるのか、そして自分が何をすべきなのかと言うことに関しては決まっていた。しかし、いざ生徒たちに危害が及ぶとどうしても手を出したくなってしまう。あのような狂気の集団ごとき、介入すれば追い払えるだろう。しかし任務という重い足かせが石川の身にのしかかっていた。
☆
「カタカタ・・・」
三週間前、偶然1人で残業をしていた時のことだ。以前の様にこの学校の裏のセキュリティを監視する必要もなかったため、管理用務員の神戸タカエに協力して職員室をぱぱっと清掃し、こっそり夜食のおかかおにぎりを食べた。どうせ家に帰っても狭苦しい空間に1人でいることになるのだから残業など訳もない。
「先生。残業はほどほどにして早く家に帰るのよ!」
そんな姿を見て神戸は心の底からそう言ったのだろう。石川は「ありがとうございます。」と微笑して少しほっとした気持ちになった。
(母、というのはあのような感じか。)
普段あまり自分の事など考えもしなかったが、今日は神戸の言うとおりに早く帰ろうと決意する。そんな折だった。
「仕事熱心ですな。石川先生。」
低く、存在感のある声に驚いて石川はパソコンの手を止めた。
「・・・ヒュー先生?」
そこにいたのはこんな時間に本来いるはずのない教師。職員室の扉の高さを軽々と超えた身長。ダンディな髭、筋骨隆々といえる肉体。学校という職場にはあまりいないタイプだ。
「なぜ、こんな時間に?」
ヒューはその質問を予期していたように突然地面を蹴り、石川に飛びかかった。
「なに!!」
まさかの展開に驚く石川。しかし反射的にヒューの攻撃を防ぐ体制に入る。
「Great! 流石はコードネームアカオニ。よく訓練されているようだ。」
攻撃を防ぐ、などと言う行為をとっさに完璧に出来るはずはない。簡単に後ろを取られ、首を太い腕で絞められた。
「な、なんなんだ貴様は・・・」
石川はそのパワーの前になすすべがない。その気であればいとも簡単にその剛腕で首をへし折られただろう。
「・・・hahaha!!ジョークです。お許しください。」
ヒューの腕の力が弱まり、石川は解放される。しかし石川の緊張感は消えない。
「だから何者なんだと聞いている!さっきの身のこなし、只者ではない。」
身構える石川をよそにヒューは豪快に笑っている。
「そうですね、失礼した。私はあなたの味方です。と言うより同僚?ですね!」
意外な言葉に石川は困惑する。
「どういうことだ?」
「私は、ヨシヒト・スザクの友人です。」
「はあ?」
よりによって自分たちのボスの名前が出て来るとは。石川はとりあえず敵ではないことを認識して肩の力を落とす。
「簡単に言うとスザクさんに日本に呼び寄せられましてね、まあ任務をいただいたわけです。」
ヒューは懐から1枚の手紙を出して、石川に渡す。
「彼はサプライズが好きですからね。これを石川先生に渡すように言われました。これが任務だと。」
石川は手渡された手紙を恐る恐る見た。
「・・・なんだ、と。」
そこに書かれていた内容は驚くべきことだった。
「どうか、この指示書の通りに行動するようにと彼は言ってました。」
「だ、だがな・・・これでは生徒たちは。」
石川の心配をよそにヒューは口をつぐむようなジェスチャーをして、
「大丈夫。私も、かわいい生徒たちに危害は加えさせません。ご安心を。」
石川はふう、と軽くため息をつき指示書をたたんでポケットに入れた。
☆
「コツ、コツ、コツ。」
石川の階段を下って行く足音はやけに重く響いていた。背後に何かがいる。常に付きまとわれている。その感覚が石川にとって非常に不愉快だった。
「・・・ついてくるな!うっとおしいんだよ!」
階段を下りた先、上階からついてくる影を石川は睨みつける。
「え?ばれてました?なーんだ!じゃあ堂々とそばにいればよかったですねっ!」
そこにいたのは最近赴任してきた怪しさ満開の化学教師のうちの1人、日向智明であった。相変わらず声はうるさく、頭の方はハゲている。
「フン。どうせ俺を見張りに来たのだろう?安心しろ、今更逃げも隠れもしない。」
「はいはい、それはよくわかっていますよ。なにせこの学校の生徒が皆眠らされるのを黙って見ていたのですからねっ。先生は。」
やけに挑発的な言い方だ。日向はゆっくりと階段を下りてくる。
「私はねー正直がっかりしているんですよー。赤オニと呼ばれ恐れられている冷酷なあなたがこんなちゃちな任務に気を取られているなんてね。どうです?生徒たちは。かわいいですか?・・・殺したいほどに。」
日向は男の耳元でささやく。
「ああ、そっかー。あなたにとってこの学校の生徒たちはただの石ころ。救う価値もないんですねっ。私はうれしいですねっ!あなたはあくまで任務に忠実。反抗もしない。そんなあなたに好意を抱きますよ。まあ、あなたが1人で立ち向かったところでなーんにもかわりゃしないですけどねっ。」
「・・・黙れ!」
石川雅治は日向の首元にとてつもない圧をかける。キラッと光る得物を首筋に押し付けた。
「・・・はは。そんな怒るなよ。冗談だって。」
急に声色が別人のように変わる。
「来いってさ。地下研究室に。」
そう言って日向は首筋に押し付けられたナイフをゆっくりつまんで石川の腕ごと下におろす。
「さーて、お楽しみの始まりだ!」
くるっと方向を変えた日向の表情はぐしゃりと歪んだ。
午前11時25分
沖田昂大は怒りと焦り、そして不安でどうにかなってしまいそうであった。普段はしない貧乏ゆすりを無意識でしてしまう。目線はどこに行くかもわからずにうろうろする。ここは車内である。バックミラー越しにそんな昂大をちらちらと見て、朱雀の執事村上はふうとため息をついた。
車は新田川市内を走行しているが先ほど発生した新田川駐屯地立てこもり事件、そして朝からニュースになっていた宗教施設立てこもり事件の影響で立ち入りが規制されているため、目的地までかなりの回り道をせざるを得なく、その上さらに渋滞気味であるため昂大の落ち着きのなさは増すばかりである。
「・・・」
「・・・」
車内はただ沈黙している。車のエンジン音だけがやけに響いてくる。そのような状況でも村上はただ冷静に黙々とハンドルを握り続けている。
「・・・」
信号が青になってから10数秒、ようやく車は前進する。ギリギリ赤になったところだが強引に交差点を突破して進んでいく。長い、がようやく目的地が前方に見えてきた。昂大の目線がようやく定まる。
「・・・ここでいいです。」
昂大は小さく力のない声でそう言うと車が脇に止まった。
「本当によろしいのですね?」
村上は小さく、そして意思を込めた様な声で昂大の目を真っ直ぐに見据えた。
「もちろんです。」
昂大はそんな村上を見ることなくいそいそと返事をすると車を出た。
「・・・ふう。」
村上は昂大が前方の山の上にある高校に走って向かう様子を見ながら再び嘆息を漏らすのであった。
☆
「はあ、はあ・・・」
車を降りてからすぐ昂大は息を切らせながら坂を走って上りきる。当然息が切れる。しかし一呼吸置く間もなく校門に向かう。昂大の焦りはピークに達していた。校庭は人っ子1人おらず、校門にも誰もいない。というより校舎全体で人の気配をまるで感じられなかった。
「どういうことだ・・・?」
昂大は校門の前でその異様な気配に気が付く。今日は月曜日である。当然学校に人がいないはずはない。そして昂大は確実に人がいることを知っている。一歩、また一歩学校内に入って行く。昂大の頭には地下の事が思い起こされていた。以前にこの学校の地下に存在した兵器工場兼研究所。あの異様な空間の事を考えてしまう。昂大の足は自然と入り口である化学教師の部屋に向かっていた。あと少しで校舎に入れると思ったその時であった。
黒い影。焦る昂大をまるであざ笑うかのようにゆっくりと昂大を取り囲んで停止する。
「な、なんなんだよ。お前ら。」
黒い影の正体は全身黒づくめの存在。目出し帽をかぶり、黒い法衣のような服を着ている。影のように現れた者たちは昂大の周りを取り囲む。昂大は変な汗が出てくるのを感じながら全身に力を入れる。
「ヒヒヒ・・・ようやくいらっしゃいましたねぇ、メガミの寵愛を受けし者よ。」
昂大は思わず目を見開いた。昂大は今まで数々の暗殺者たちを見てきたが、目の前にいるソレは今まで感じたこともないような不気味さがある。まるでこの世の存在とは思えない。まさに死人のようであった。
「えぇ、えぇ、いいですよぉ!ああ、いいぃ!その表情!私感激いたしましたぁ。まるで何が起こっているかを理解していないようですねぇ。」
男、なのか。フードを外し、現れたその顔は痩せこけ、光る青白い肌。その者はケタケタと笑いながら自分の両腕をかきむしり始める。
「我々はあなたをお迎えに上がったのですよぉ。寵愛の使徒。あなたはメガミに選ばれた!あああああああああああああああああああああああああああ、なんと光栄でしょう!あなたはメガミに愛されているのですよぉ?さあぁ、参りましょう?」
メガミ?寵愛?昂大は何のことかさっぱりわからなかった。頭が混乱する。それよりも目の前にいるこの狂気じみた存在に恐怖を抱かずにはいられなかった。男は喜びのあまり自分の顔をかきむしっている。頬から血が滴れ落ち、男の指は赤く染まっていく。
「!!!」
それは本能だった。昂大自身予想もしていないことだったが、昂大は全力で疾走し始めた。取り囲まれてはいたが、黒ずくめの存在をなぎ倒しながら校舎内を進んでいく。なんなんだアレは?みんなは、学校のみんなはどこに行ったんだ?なんであんな奴が学校にいて本来いるはずの生徒たちがいないのか、昂大には考える余裕もなかった。ただ疑問だけが頭を駆け抜けていく。
「おやおやおやおやおやぁ?どこに行かれるのですかぁ?お友達はそっちにはいませんよぉ?」
遠くで男の声がした。それはやけに大きく廊下に響いてくる。
「!」
昂大が気づいた時にはすでに目の前に黒づくめの存在たちが待ち構えていた。手には奇妙な形状の細長い短剣を持っている。そしてそれを一斉に投げてきた。
「!!!」
昂大はとっさにそれを全身を捻ってすべて避ける。しかし避けた先には黒い存在が待ち構えており、そのうちの一人に顔面を蹴飛ばされた。
「ぐっ!」
昂大はとっさに両腕で蹴りを受け止めたが、衝撃で窓ガラスに飛び込んでしまった。大きな音を立てガラスが飛び散る。外に投げ出された昂大は一回転して受け身を取り、すぐさま走り出そうとするが、
「うっ。」
頭に鈍い痛みが走る。全身の力が抜け、昂大は地面に倒れ伏す。まだ開いている目に映ったのはあの男。
「あーあ、大切な体に傷をつけてしまいましたねぇ。どうするんですかぁ?これ、ちょっとーあなたぁー来てくださいー」
改めて男の顔を見てみると醜悪そのものである。かきむっしった頬はただれ、肉がむき出しになっている。さらに歯は抜け落ちており、笑うと不気味さが冗長される。
「いいですかー人の頭を殴る時はちゃんと一撃で仕留めなくちゃ。わかりますかぁ?」
昂大は黒い存在に抱きかかえられたのがわかった。頭から出血している感じではあったがかろうじて意識がある。目の前にはあの男と鈍器を持った黒い存在が一名。
「しょうがありませんねあなたぁ。私が見本を見せて差し上げましょう。」
そう言って鈍器を奪い取ると、
「こうやって!!!強く!端正に!几帳面に!腰を入れて!心を込めて!!!やるんですよ!!!!!」
大声でわめきたてながら男は先ほど鈍器を持っていた黒い存在を連続で殴打する。辺りには血が飛びちり、鈍器は血に染まり、そして男も、返り血で染まっていく。そして原型もなくぐちゃぐちゃになったところでようやくゆっくりと手を止めた。
「ああああああああああ、!!! 私はまた信徒を殺めてしまったぁ。このような至らぬ私をどうかお許しくださいませぇ。」
男は急に泣き崩れた。昂大はそのショッキングな光景を朦朧とする意識の中で目撃し、ただひたすら恐怖した。
(くそ、どうなっちなうんだおれ・・・みんなは無事なのか・・・)
昂大はゆっくりと意識を失った。
えっ。なにこの人、怖い。こんな怖いの今の自分には書けない(笑)




