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偽りの惑星―fake planet―  作者: 過去(10年前)のくろひこうき
最終章
21/32

ガサ入れ、開始

10月21日 午前5時30分


 明朝、新田川市郊外のVIMPATIOR(ヴィンパティオ)新田川支部で動きがあった。朝方でまだ暗いその施設を取り囲むように幾人もの足音が響いていく。その数ざっと数百人。皆、完全装備でかつ盾を持っている者もかなりいる。さらに拳銃の携帯も認められているため、皆ホルスターにハンドガンを忍ばせている。


 「こちら3番隊、配置完了です。」

 「同じく1番隊、配置完了。1から7番隊までは配置完了です。全部隊配置完了まで残り1分です。」


 暗い部屋の中、各部隊の動きをモニターで確認する馬崎。


 「よし、6時00に正門からガサ入れに入る。」


 施設正門から少し離れたところに装甲車が大量に用意されている。そこの1つが馬崎のいる指令室になっていた。


 「新田川署、捜査1課各員は車の中で待機。あくまで“普通の”ガサ入れだ。なるべく悟られないように待機しろ。」

 「「はっ!」」


 馬崎はきびきびと各捜査員たちに指示を出していく。


 「見事ですね。でも少し休憩なさってください。3日前から寝ずに準備をなさっているのでしょう?あと15分は時間があります。」


 そんな様子を見ていた広島紅葉管理官が缶コーヒーを持って馬崎に近づいて来た。


 「ああ、ありがとうございます。しかし心配は無用です。このガサ入れにすべてかかっていますから。」


 馬崎は缶コーヒーを受け取り、広島に一礼するとまた指令室に戻っていく。


 「・・・タフな人ね。」


 広島はゆっくりと誰かに電話をかける。



 正門から少し離れたところに藤堂と大谷はいた。車の中で待機しているのだが、辺りのあまりの静かさに何か違和感を覚えていた。


 「どうしたんすか先輩?」

 「いや、あまりに静かだと思ってな。」

 「え?それは昨日のうちにこのあたりの住民を避難させたからじゃないすか?」


 確かに施設から半径500m以内(と言っても北側は山なので住居の数は少ないが)の避難は済ませてあるが、藤堂が感じているのは施設の中の静けさなのである。


 「よく考えてみろ。昨日の夜のうちに住民を避難させた時に普通奴らが異変に気づいてもいいと思わないか?報告によると3日前に出入りがあってから誰一人として施設から出ていないらしい。まるですべてお見通しのようじゃないか。」

 「えー。考えすぎじゃないすか?」


 藤堂は自前の双眼鏡で施設の中をのぞいてみるが人っ子一人見当たらない。


 「おっ!行くようっすよ。」


 捜査員たちはぞろぞろと車から降りて正門へ向かっていく。藤堂は時計を確認する。時刻は5時55分。


 「いよいよだな。俺たちも行くぞ。」

 「はい!」


 2人は気合を入れる。バンと車の扉を強く閉めると捜査員たちの列の最後尾に着いた。


 「ピーンポーン」


 ゆっくりとインターホンが押される。最前列にいるのは機動隊以外の捜査員たちを束ねる内村警部である。


 「はい・・・」


 応答したのは男性。


 「朝早くに申し訳ありません。警察の者なんですが、この施設に対して家宅捜索令状が出ています。よって只今より捜索を行います。責任者の方を呼んでいただけますか?我々は建物に向かいますので。」

 「・・・はい。かしこまりました。」


 少し間をおいて消え入るような声で男性は答えた。


 「いくぞ。」

 「「オウ!」」


 全捜査員たちは一斉に建物に向かう。


 「第1班、施設の者に反撃される可能性がある。細心の注意を払え!」

 「了解。」


 馬崎もモニタールームから指示を送る。捜査員たちは着々と庭を抜け、建物の入り口に近づいていく。そして洋風な建物の大きな扉に近づいたその時だった。


 「ようこそ警察の皆さん、VIMPATIOR(ヴィンパティオ)新田川支部へ。お待ちしておりました。」


 なんと2階のバルコニーから突如人が複数出てきたのである。全身黒い服装をしている。


 「な、何者だ!?」


 内村警部以下最前列にいた捜査員たちは突然のことで少しうろたえた。


 「責任者の方を呼べとおっしゃったので私が出てきたのですが?」


 バルコニーの中央で語り出したのは小岩井である。腕を後ろに組んで堂々とした佇まいで余裕の貫録を見せている。


 「そ、そうか。では1階へ降りてきていただきたい。」

 「お断りします。だってこれからあなたたちを・・・」


 小岩井の口がゆっくりと歪んでいく。


 「たっぷりとおもてなしせねばならないので。」


 まさにそう言った刹那、バルコニーの上から黒ずくめの者たちがマシンガンと思しき小銃を一斉に構え、狙いを定めると即座に発砲した。


 「パン、パン。」


 2発、捜査員の横に着弾する。まるで時が止まったように捜査員たちは硬直する。


 「・・・た、退避!!」


 反射的ともとれる内村警部のその言葉に捜査員たちは目が覚め、止まっていた時間が動き出す。


 「に、逃げろー!!」


 一斉に捜査員たちは背を向け、正門の方へ全力で退避し始めた。


 「・・・撃て。」


 小岩井が静かに言い放つとバルコニーのマシンガン部隊6名が発砲を開始する。弾は捜査員のケツを追いかけるように地面をえぐっていく。


 「な、なにい!?」


 一番驚いたのは最後部にいた藤堂と大谷だ。波の様に押し寄せる逃げ出した捜査員たちに押され、転びそうになりながら退避する。


 「バババババババババババ・・・」


 戦闘員たちの攻撃は続く。最後の一人の捜査員が正門の外に出た時、ようやく止まった。そして辺りは静寂に包まれた。


 「なんだと?マシンガンで発砲!?」


 このことに一番動揺したのは馬崎だった。


 (なんて失態を犯したんだ俺は!)


 馬崎は拳を壁に思いっきり打ち付ける。


 「・・・と、とにかく突撃命令を。」

 「プルプルプル・・・」


 突如馬崎の携帯電話が鳴る。


 「馬崎だ。」


 馬崎は落ち着いて電話を取った。


 「・・・やあ、馬崎。久しぶりだね。」

 「き、貴様!!」


 電話の相手はなんと小岩井本人だった。


 「なぜこの番号を・・・」

 「そんなことどうでもいいじゃないか。私は交渉をしたくて電話したんだ。いいだろう?」

 「貴様のような奴と交渉をする気などないぞ!」

 「落ち着きなさい。君も見たろ?我々は武器を持っている。それも大量に。ガサ入れ内容と同じだよ。銃刀法違反。ププ、笑えるね。」


 まるですべてわかっていたようだ、と馬崎は直感で思った。


 「・・・くっ。いいだろう。条件はなんだ。」

 「おや?やはり君は優秀だね。状況理解が早い。条件は簡単なものだ。陸上自衛隊中部方面総監戸田正俊をここに呼んでほしい。ただそれだけだ。話がしたい。」

 「なんだと?戸田正俊?なぜだ?」

 「答える義務はないね。期限は明日の明朝6時までだ。期限が切れれば我々は撃って出るぞ。」

 「そんなくだらない意見を聞くと思うか?施設は包囲されているんだぞ。今からでも強行突入して・・・」

 「おや?何か勘違いしているようだね。もし突入すれば多くの警官が死ぬことになる。ちなみに我々の方は施設内に200人近くの戦闘員がいる。君たちにばれずに忍ばせるのは苦労したぞ。武装はわかっていると思うが警察の物を凌駕している。頭のいい君ならわかるはずだ。おっと少し話しすぎたようだね。ではよろしく。もし戸田正俊を連れて来たら我々は武装解除し、降伏する。」

 「ガチャ、ツーツーツー。」


 電話はそれで途切れた。


 「・・・ば、バカな。200人だと?」


 馬崎は全身から力が抜けていく。こんなはずではなかった。しっかりと下調べもして、完全な状態で臨んだはずだ。しかし計算とはこんなにも容易く崩れ去るものなのだ。そんな現実が馬崎を襲う。



 午前7時


 馬崎は心底苛立っていた。焦りと不安でどうかしてしまいそうなのを抑えながら簡易本部として新たに設営されたテントのパイプ椅子に座り、足と手を組んでじっと施設の方を睨んでいる。


 「おい馬崎。お前らしくもない。しっかりしてくれよ。」


 藤堂は苦笑いしながら馬崎をあまり刺激しないようにやんわりとした物言いでなだめるが、


 「わかっていますよ!そんなこと。」


 あまりの事態に馬崎は完全に冷静さを失っていた。


 「大丈夫?馬崎君。まだ失態ではないわ。」


 広島も何やら心配そうに近づいてくる。

 そうして心配してくれていることが馬崎の気に障る。


 (クソッ!とにかく冷静になれ!今から何をすべきか、敵は施設内に何人いるかわからない。先ほどの銃撃で敵がマシンガンを持っていることがわかった。そして奴はさらなる戦力が施設内にいるということをほのめかした。つまりうかつに強行突入はできない。今は敵の要求を呑むことが賢明な選択か。)


 馬崎はしばらく考えたあとメガネをクイッと上げ、


 「藤堂さん。あなたにしか頼めないことがあります。いいですか。」

 「なんだ?」


 馬崎は少し間をおいて、


 「小岩井の要求は中部方面総監、戸田正俊を呼ぶことだそうです。」

 「な、なんだって!?」

 「そう。あなたの勘が見事に当たったようですね。勘を通り越している。何が目的なのかはわかりませんが明日の6時までに連れてくるようにと言っていました。期限が切れたら撃って出ると。」


 藤堂は腕を組んで項垂れる


 「つまりタイムリミットはあと24時間を切っているということね?」


 広島は冷静な表情で椅子に腰かけた。


 「それまでに決めなければならないということか。突入か、交渉か。」

 「そうです。そこであなたに戸田さんの交渉をお願いしたい。警察という組織の体裁上、要求を呑むことが知られてはまずい。テロリストに屈したなどと言われかねないですからね。ただ何としても戸田さんを連れてきてほしい。あなたにしかできません。」

 「わかった。くれぐれも早まった真似だけはするなよ?絶対に連れて来るからな!」

 「フッ。わかってますよ。」


 馬崎は緊張が解けたように苦笑いをし、


 「広島さん!捜査員たちを集めてください。説明します。ここからは籠城戦になります。」

 「わかったわ。」


 馬崎は捜査員たちのいる位置へ向かっていく。


 「先輩?何話してたんすか?」


 大谷は3人とは少し離れた位置でスマホを見ていた。


 「詳しくは車の中で説明する。いくぞ!俺たちにしかできないことだ。」

 「ラジャー!」


 大谷は敬礼の真似事をしてかなり楽しそうである。


 (戸田陸将。すべてを吐かせてやるぞ・・・!)


 藤堂は心の中で静かに闘志を燃やしていた。


プロトタイプ馬崎はかなり感情的ですね。それはそれで面白いですが。あと一人称が俺、なんですよね……。

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