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偽りの惑星―fake planet―  作者: 過去(10年前)のくろひこうき
三章
20/32

旧友と捜査本部


 大谷は終始落ち着いてカツ丼を食べることができなかった。理由は目の前のメガネの男。ちらちらと顔色を見てしまう。


 「まさかあなたが地域課にいるなんてね。思いもよらなかった。」


 メガネの男は厳粛な表情を崩すことなくお冷を口にする。


 「お前は相変わらずだな、馬崎。5年ぶりくらいか?」

 「ええ、もうそんなに経ちますか。時間が経つのは早い。」


 馬崎はちらちら見てくる大谷と目が合った。大谷はとっさに逸らす。


 「そんなことはいい。お前がわざわざ東京から来たってことは何か俺に用があるんだろう?じゃなければ来ない。要件を言え。」

 「そうですね、時間も惜しい。結論から言いましょう。今、私はある人物について調べています。少々厄介な人物で詳しくは言えないのですが、そいつがこの新田川市である宗教法人を運営しているという情報が入りましてね、土地勘がないので少し調査に協力していただけないかと思いましてね・・・」

 「え?宗教法人?」


 大谷は大きな声を出す。


 「え、ええ。名は確か・・・」

 「「VIMPATIOR(ヴィンパティオ)」」


 2人は言葉が重なる。


 「ご、ご存じなのですか?」


 馬崎は驚きを隠せないようだ。


 「ま、まじか。ちょうど俺たちも今調べているんだ。近隣住民への迷惑行為を行ってるみたいでな・・・」

 「それなら話が早い。今からちょっとご側路願えますか?藤堂さん。あと・・・」

 「大谷っす!」

 「すいません、大谷さんも。」


 馬崎はそそくさとお会計を済ませようとする。


 「おいおいいいのか?」

 「ええ、おごりますよ。」


 店を出ると待っていたかのように車が止まっていた。三人は車に乗り込む。


 「大谷さん。私の自己紹介がまだでしたね。私は警視庁公安部特命係の馬崎優貴(うまさきゆうき)と言います。よろしく。」

 「ええ!?公安だったんすか?」


 大谷は驚愕する。


 「なんで警視庁の公安が?」

 「詳しくは着いてからお話ししますが、私が追っている小岩井と言う男は、これからテロを起こすと思われます。」

 「テ、テロだと?それは本当なのか?」

 「はい。確かな情報です。ですから早急な対応が必要なのです。確かな証拠は乏しいですが、小岩井、いやVIMPATIOR(ヴィンパティオ)はテロ組織なのです。」


 藤堂と大谷はこの急展開な事実にただただ驚くしかなかった。



 「失礼します。」


 藤堂と大谷が馬崎に連れてこられたのはなんと京都府警察本部。さらにこの部屋は、


 「本部長室っすか!?」


 大谷は焦って藤堂の後ろに隠れようとする。


 「入りたまえ。」


 そう言われたので馬崎は扉を開け、そそくさと中に入る。

 2人が少し気まずそうにしていると、


 「大丈夫ですよ。これは本部長の指示ですから。」


 馬崎はにこっと笑って2人を中へと促す。


 「失礼します。」


 2人は奥にいる本部長の前に立った。


 「お前たちか・・・捜査権もないのにでしゃばって新田川高校事件の時にアレ(・・)を見たというのは。」


 京都府警本部長高橋は、呆れたような表情を浮かべている。


 「まさか、俺たちみたいな末端の警察官のことを本部長がご存知なんて・・・感激ですよ。」


 藤堂は少しオーバーに礼を述べると高橋は苦笑いである。


 「お前たちはまさにパンドラの箱を開けたんだぞ。その自覚はないのか・・・」

 「ということはやはり俺の見たものは事実だったんですね。」


 藤堂はニヤッと笑うが、


 「アレは、忘れろ。幻だ。無論口外しようと勝手だが。なにせ誰も信じないだろうしな。」

 「おい、馬崎君。君は知っていたのか?」

 「ええ、存在は。しかしまさか学校の下にあるとは思ってもいなかった。」


 馬崎はメガネをくいっと上げる。


 「で、本題は何なんですか?」


 藤堂は間髪入れずに続ける。


 「・・・本部長。藤堂、大谷両名を今から立ち上げるVIMPATIOR(ヴィンパティオ)捜査本部に入れてもよろしいですね?彼らなら組織にとらわれない視点でVIMPATIOR(ヴィンパティオ)を検挙できます。スパイの可能性を考慮しても彼らなら適任です。」

 「・・・いいだろう。」


 高橋は頭を抱える。


 「新田川署に捜査本部を立てる。捜査一課とうちの公安課を使うといい。必要なら機動隊の出動も許可する。必ず証拠を挙げろ。」

 「了解しました。失礼します。」


 馬崎はそそくさと本部長室を出る。


 「失礼しました。」


 藤堂と大谷も一礼して出るが、大谷は緊張でがちがちである。


 「どういうことなんすか?俺にはさっぱりわかりません。」

 「いや、同感だ。展開が急すぎる。一から落ち着いて説明してくれないか?」


 2人にそう言われた馬崎はふうとため息をつき、


 「それもそうですね。わかりました説明します。」


 馬崎は重そうに口を開く。


 「藤堂さんはよくご存じでしょうが、我々警視庁公安部特命係というのはかなり特殊な部署でして、公には存在しない部署なんです。そんな我々の仕事は世の中に決して出せない案件について超法規的措置で調査し、秘密裏に解決すること。詳しい業務内容は言えませんがとにかく存在しない部署なんです。

そんな我々が昨年から情報を受けて調査していたのがVIMPATIOR(ヴィンパティオ)です。奴らは裏で兵器密輸、さらに兵器の極秘開発などの行為を行っている疑惑が浮上し、半年前から裏を取っていました。そこでこの新田川市でこの秋に何らかのテロを画策しているという確かな情報筋からの情報がありまして確実にがさ入れを行う手筈を整えていた訳です。」

 「つまり、奴らは自衛隊から兵器を買っていた。ということか。」


 藤堂ははっきりと切り出す。


 「・・・ええ。そうです。本当にこの事実は驚きましたが。」


 馬崎はメガネをゆっくり上げる。


 「兵器製造を自衛隊内で主導していたのが戸田俊行陸将。現中部方面総監。」

 「な、なんですって!?」


 馬崎は大きな声を出して周りの人に振り向かれてしまった。


 「そ、それは本当なんですか?」

 「いや、俺の勘だ。証拠はない。」

 「なんですか・・・期待したのに。」

 「俺の勘はよく当たるだろ?」


 なぜか自信満々の藤堂。


 「もしそれが本当なら自衛隊にも捜査のメスを入れなければならないですね。まあそれも奴らを追い詰めてから吐かせますよ。もしその事実が分かれば新田川高校の地下の存在も暴けるかもしれません。とにかく私は先に新田川署に向かいます。後で来てください。」


 そう言って馬崎は車に乗り込んだ。


 「なんか、とんでもないことに巻き込まれてしまったような気がするっす・・・」


 大谷は空いた口が塞がらない様子である。


 「同感だな。だが、道は開いた。何としてもがさ入れに同行する。」


 藤堂はいつまでも遠くをぼんやり見つめていた。



 新田川署はいつもとは明らかに様子が違っていた。たくさんの車両が出入りし、捜査員たちが慌ただしく動き回っている。そのただならぬ空気は地域課まで伝わってしまい、みなピリピリして仕事をしている。そんな中、二階のひときわ大きな部屋に看板が立てられる。そこにはただ捜査本部とだけ書かれていた。


 「みなさん席についてください。」


 捜査本部内にたくさん並んだ机、その最前列に馬崎がいた。馬崎の言葉を聞いて、捜査員たちは粛々と席についていく。


 「今から、第一回捜査会議を行うわ!捜査員は各自捜査情報を共有します。」


 馬崎の横で捜査指揮を執るのは、広島紅葉管理官である。気がつけば馬崎が新田川署に来てから三日経つ。馬崎はこの三日の間藤堂からの情報を元に、VIMPATIOR(ヴィンパティオ)について捜査し、VIMPATIOR(ヴィンパティオ)が危険物を所持している可能性があることを突き止めた。それは銅像に刺さる剣のオブジェであったが、これを銃刀法違反とみなしてガサ入れに入るという。もしガサ入れで本当の兵器やその他テロの証拠が出なければ大失態であるが、馬崎は何やら確実な情報をつかんでいるらしく失敗する気はさらさらないらしい。


 「VIMPATIOR(ヴィンパティオ)の実質代表である小岩井は過去に指定暴力団緑竜会に所属していたらしく、かつて組対がマークしていた人物だったようですが過去5年間の足取りはつかめていなかったようです。」


 着々と捜査員たちが情報共有を行う中で、藤堂は何か釈然としない思いであった。そもそもどうして馬崎はVIMPATIOR(ヴィンパティオ)について調べているのか、警視庁の人間が京都府警までわざわざ赴き、強引にガサ入れに入る。考えれば考えるだけわからなくなった。しかし今はそんなことを考えるよりもガサ入れのことを考えることが先だ。藤堂もあの施設には何かあると感じていた。なにか得体のしれないものが、そう、あの学校の下で出会った存在。それに似た何かを感じていた。


 「・・・せんぱい?先輩!」


 藤堂は大きな大谷の声によってふと我に返る。


 「あ、ああ。すまない。」

 「大丈夫っすか?」

 「ああ、なんでもない。」


 藤堂はいつの間にか捜査会議が終わっていることにこの時点で気づき、急に立ち上がる。


 「それより聞きました?VIMPATIOR(ヴィンパティオ)の関係者が新田川高校にカウンセラーとして出入りしていたって話。」

 「なんだと!?」

 「え?話聞いてなかったんすか?」


 大谷は少々呆れ気味だ。


 「ちょっと考え事をしていてな。聞いてなかった。」

 「ああ、そうなんっすか。じゃあ俺が話しますよ!」


 なぜかテンションがあがる大谷。


 「いや、いい。とりあえずガサ入れまで新田川高校を調べるぞ。」

 「えーー。ちょっと早いっすね行動が。」


 2人は足早に新田川高校に向かうのだった。その様子を影から見つめる人物がいることにも気づかずに。



 暗闇の中、信者たちはただやみくもに祈りをささげる。何を思っているのかは誰にもわからない。ただわかることはこの者たちは自分の意志でそのような行動を取っているということだ。それが誰かから植え付けられた石であっても。新田川高校の生徒たちも夜な夜なこの施設に通って祈りをささげている。自分たちが信じているメガミ様のために。メガミ様は自分を救ってくれる。自分を世の中の呪縛から解放しているのだと、そう信じて。


 「皆聞きたまえ。パイライト様がお越しになった。」


 その小岩井の声を聞いた信者たちは一斉にそちらの方を向く。


 「ああ、パイライト様だ。」

 「ありがたやー」


 信者たちは一斉にパイライトにすがる。パイライトは黒色のマントに身を包み、フードをかぶり、さらには奇妙な仮面をかぶっているので素顔は全く分からない。ただ分かるのは長身の男ということだけだ。


 「皆、話がある。ついにこの時が来た。聖戦の時だ。」


 場がどよめく。それと同時にパイライトの言葉を聞いて信者たちの感情は高ぶる。


 「10月21日。この日が運命の日となる。我らがこの国を変えるスタートライン。メガミ様の意思が実現する日となる。さあ!メガミの寵愛を受けし我らが信徒たちよ。武器を取れ!この国の悪しき風習を変えるのだ。運命の日。その日に我らの名が世界中に響き渡ることであろう!」

 「うおーーー!!!」


 信者たちは狂喜乱舞する。老若男女問わず皆が喜びあう姿は皮肉にも世界平和を体現しているようだ。この中だけの世界平和である。



 「10月21日。ガサ入れを行います。必ず証拠をあげて見せます。」


 馬崎は決意に満ちた眼差しで藤堂たちにそう言った。」



 「10月21日、フフ。面白くなりそうだな。」


 朱雀は自室で月を見ながら笑う。



 「10月21日。この国は少なくとも変わる。」


 楠木正成は車の中でぽつりとつぶやいた。



 「すーすーすー。」

 沖田昂大はこの時腹を出して寝ていた。


 それぞれの強い意思が近づいていくように時は流れ、ついに運命の日を迎えようとしていた。この先に待つものは、幸か不幸か。


なんと、プロトタイプ馬崎さん登場です。

それだけでもまあ価値はある。

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