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偽りの惑星―fake planet―  作者: 過去(10年前)のくろひこうき
二章
14/32

将人の家に行こう。


ブーンという扇風機〈強〉を首ふりにしながら昂大は上半身裸で丸まって寝ている。時刻9時、そろそろ気温が上昇し、暑くなる時間帯にもかかわらず、すーすー寝息を立てて寝ている。


「ぶーぶーぶー」


突如として携帯のバイブ音が鳴り、驚いて目を覚ます。


「んー、目覚ましなんてかけてねえぞ。」


不機嫌そうに携帯を見てみると、どうやら将人からの着信らしい。


「もしもし?」

「昂大君?おっはよー!」


明らかに上機嫌だ。直観で昂大は嫌な予感がした。


「あ?なに?」


「まさか寝起きやった?声死んどるで?」


将人は笑っているようだ。


「いやー今日暇?ちょっと俺ん家こうへん?」


唐突だった。


「ええーなんで?」

「いやーちょっと今日月に一度のタコパすんねんけど、うちのちびたちがゲストを求めとんねん。」


ゲストを求めるとか意味がわからん、と思ったが昂大の頭に妙な気がわいた。


「たこやき、食べていいの?」

「おん、もちろんやわ。」

「行く!」


ただ飯がおなか一杯食えるとあらば、昂大は即決であった。


「じゃ、夕方ぐらいに来てな。」

「わかった。」


こうして昂大は将人の家に行くことになった。



「ここやでー」


昂大が訪れたのは少し古びた保育所のような所だった。表には消え入りそうな文字で〈楠木孤児院〉と書かれていた。昂大はその看板をまじまじと見た後将人に続いて中に入る。

「こっちやで。」


将人はニヤニヤしながら昂大をリビングに通す。


「おっしゃー今日はお客さん来たでー!」


将人が叫ぶとリビングで遊んでいた子供たちが振り返る。


「えー、いまふどうさんごっこやってるからあとでねー」


そう答えたのは『ひなた』4歳。


「だれーこいつ。」


昂大の下でなぜかビールジョッキでオレンジジュースを飲んでいるのは『たいが』7さい。


「ぶーんぶーん。」


完全に自分の世界に入ってプラレールをいじっているのは『かずき』5歳。昂大はどこを突っ込んでいいのかわからずに苦笑いを浮かべる。


「まあそう言わんと、遊んだってーな。このおにいちゃん泣いてまうでー。」


将人はにやにやしながらコップにお茶をいれて、昂大にわたす。


「うーん、ここでなかれたらめんどくさいし、あそんでやるか。」

「しゃーなしな。」


真顔でそう言われると何といっていいかよくわからない。


「じゃあ、まずはかくれんぼしようぜ。」

「うちのなかで!」

「じゃんけん!」


先ほどとは打って変わって楽しそうに三人ははしゃぎだす。


「お、おお。家でやってもいいのか?」


昂大はそう言ってまごまごしていると、


「いえでかくれんぼはふつうだよな?」

「おまえはやったことないのか?」


なぜか不思議そうに見つめて来るので、おかしいと思いながらも昂大は手を出す。


「じゃーんけーんぽん!」


結果はかずきの一人負け。


「じゃあおまえおになー」


そう叫んで、たいがは走って部屋を出て行く。それに続いて2人は各々隠れ場所を探しに出かけていく。


「どこに隠れよっかなー?」


昂大はひなたと一緒に二階で隠れ場所を探していた。施設の中はかなり広く、使われていない部屋もあるようだ。そんな中、2人は着き当たりの部屋の中に入る。


「ここは?」

「将人にいちゃんのへやー」

「へえー」


中は整理整頓がきちんとなされており、高校生の部屋とは思えないほど、物がなかった。


「将人はきれい好きなのかな?」

「えー、かなりがさつだよ、あのひと。」


昂大は苦笑いする。


「ここにかくれよっか。」


そう言ってひなたは将人のベットの下に隠れる。


「えっと、じゃあおれは。」


その時昂大はふと、机に目が行く。そこにはある写真が飾られていた。その写真は少し色あせており、古い写真のようだ。よく見てみると、孤児院の前で子供たちと小学生くらいの将人が楽しそうに写っている。その左右でにこやかにほほ笑んでいる、おじさんとおばさん。将人の両親であろうか。


「そういえば、あいつの親、どこにいるんだろ。」


昂大は写真を元の場所に戻す。その時、


「あ。」


がさっとそばの書類を床に落としてしまった。


「やべっ。」


昂大は急いで元に戻すが、その中にもう一枚写真を見つけた。そこには中央に白髪交じりのいかにもお金持ちそうなおじさんと、その周りにたくさんの人が写っている。集合写真だろうか、あまり皆、笑っておらず、厳粛な表情で写っている。注目すべきは場所、どこかの豪邸をにおわせる背景だ。皆、礼装をしているからか、まるで政治家の集まりみたいである。


「ふーん、人の部屋勝手に入るとか、ええ趣味してるなあ?」


あまりにも集中していたせいか、将人が後ろにいることに気づかなかった。


「わ、わりい。別に覗き見していたわけじゃねえよ。」


昂大があまりにもテンパっていたせいか、将人はふう、とため息をつき、


「それ、俺の親戚の集まりやねん。実は俺ん家の実家めっちゃ金もやねんで?」


将人は右端の方に写っている。


「一応、本家の方は政治家やら、自衛隊幹部やら警察幹部、などなど偉い人ばっかやねん。まあ俺んとこはギリギリ名前が残っとるぐらいで端くれやねんけど。」


将人はまたふう、と息を吐く。


「へえ、じゃあこの真ん中の一番偉そうな人は。」

「当主の楠木晩冬(ばんとう)。元自衛隊の統合幕僚長や。」

「まじか。すげーな、お前ん家。」


将人の顔色が少し悪くなる。


「全然すごないで?あんな最低な家。」


そう言って将人は昂大の手から写真を奪った。


「もうええやろ、ちゃうとこでかくれんぼせななあ、ひなた。」

「ごめんなさーい。」


ひなたはベットの下から出てきてバタバタと部屋から出る。


「あっ!みーつけた!」


運悪く部屋を出た瞬間に、かずきに見つかってしまった。


「はいはい、お前らかくれんぼやめて外で遊んで来い。」

「はーい。」


怒られてしまった子供たちはしぶしぶと外へ向かう。昂大も向かうが、いつもとは様子が違った将人に対して、疑問を持たざるを得なかった。



「ふあー、疲れた。」


昂大は腕を空高く押し上げる。夕方、外がだいぶ暗くなる時間まで昂大はやんちゃな子供たちの相手をしていた。


「おつかれさん、あいつらの相手疲れたやろ?」


将人はニヤニヤしながら昂大に水を渡す。


「で、お前は何してたんだよ。」

「俺は買い物行っとった。」


将人はエコバックの中に入っている大量のキャベツと豚肉を見せる。


「今夜はお好みに変更や。たこ焼き器の調子悪くて。」

「え?まじか。お前んとこ好きだなーお好み焼き。」

「当たり前やん。粉もんは大阪人のソウルフードやで?」

「まあ、そうだけど。」


将人はそう言ってキッチンで早速調理をしようとする。


「ただいまー、あれ、お客さん?」


振り返るとそこには中学生の制服を着た女の子が立っていた。


「おう、おかえり夕奈。こいつは一日家政婦の昂大。」

「誰が一日家政婦だ。」

「軽快なつっこみやね。やり手やわ。」

「なんのやり手だよ。」


将人と夕奈は笑いだす。


「いやーええわーうちにツッコミ役居らんから。」

「そ、そうなん?」


たしかに無茶苦茶なボケ集団だな、と昂大は思った。


「夕奈も手伝って、ほらほら野菜きってきって。」

「しょうがないなー。」


そう言いながらもゆうなは高速でキャベツを切り分ける。


「はい、昂大はこねてこねてー」

「お前なんにもやってねえな。」

「あれ、ばれた?」


再び笑いがおこる。

その様子を見て昂大も笑う。そんなこんなで大きなホットプレートの上でこんがりふわっととてもおいしそうなお好み焼きが完成する。


「うわーうまそー。」

「ねえねえ、食べていい?」

「お、おれも。」


三人の子供たちと昂大は目をキラキラさせて将人を見つめる。


「おう!ええでーいっぱい食べろよー」

「「いっただっきまーす!」」


無心に頬張る、とにかく頬張る。


「はい!昂大君もご飯。」

「あひがと。」


昂大は口いっぱいにお好み焼きを入れている。


「やっぱ、お好み焼きやなーみんなで食うとしたら。」


将人は腕を組み、うなづいてなぜか得意げだ。


「がちゃん。」


扉の閉まる音、だれかが帰ってきたようだった。


「お、おかえり悠仁。お好み焼き食べーや。お客さんもおるし。」

「こんちわ。」


昂大が悠仁と呼ばれた者の方を見るとなんとなく、ヤンキーだとわかる。髪は金ぱつに染めていて耳にピアスをつけている。


「・・・。」


昂大を終始睨みつけている。


「おいおい、そんなとこに突っ立ってないでこっちこいよ。」

「はあ?俺に命令すんな!クズ!」


そう言い放ってさっさと二階に上がって消えた。


「・・・。」


場が少し凍りつく。


「・・・ゆうじんにいちゃんぐれてるね。」

「かなりやばかった。」

「ほっとけばいいよ、ああいうのは。」


口々に子供たちはぼやく。


「まあ、あいつをぐれさせたんは俺やしなしゃーない。」


将人がそう言うと、


「そんなことない!悠仁はわかってないねん。」


夕奈は必死に将人をかばう。かなり場は険悪だ。昂大はなんと言おうか迷った挙句、


「ま、まあ誰にでも反抗期ってあるよな。おれも中学の時あんなだったし。ガラス割ったり、落書きしたり・・・そうそう、ノーヘルで補導されたっけ。あはは。」

「「え・・・?」」


みんな一斉に昂大の方を注視した。よけい場が混乱した。



「今日は楽しかったわ。ありがとう。」

「まあこちらこそ変なとこ見せてもうたし悪かったな。」


玄関で2人はどこか他人行儀に会話する。


「・・・あ。そうやお土産あげるわ。」


そう言って将人は二階にいそいそと上がっていく。しばらくして降りてきた。


「これあげるわ、プレスト2。」

「えー!プレスト2?まじかよ。」


プレスト2とは10年ぐらい前にでたテレビゲームである。今は4まででている。


「カセットは昔俺がやっとったこれつけとくわ。」

「なんでこんなもんくれるん?」

「まあ、お礼や。これ誰もせえへんからいらんねん。」

「まじでいいの?」

「おん。」


そう言って将人から思いがけずゲーム機をもらってしまった昂大。家に帰るととりあえず家の小さなテレビにつないでみる。


「おれ、ゲームあんまりしたことねえしなー。ま、でもめっちゃうれしいわ。」


昂大は一人でにこっと笑ってスイッチを入れる。


「ガー」


起動した。


「おおー」


そして中のソフトが仰々しい音楽とともに始まる。


「てかこれ何のゲームだろ?」


題名は『プロジェクトM』となっている。どうやらシューティングゲームのようだ。


 「うわ!始まった。」


 昂大はとりあえず主人公?と思われる変なチャイナ服を着た女を動かす。すると前から敵?と思われるロボットが発砲してくる。


 「う、うううううっ。」


 女は攻撃を受け、悶える。連続で弾をくらってしまった。


 「やべ。」


 昂大はすぐさま女を元来た道に走らせようとするが、とにかく女のスピードが鈍い。前傾姿勢でのろのろと動く。


 「おっせ!なんなんだよ!反撃してやる!」


 今度はこっちがやり返そうするがなぜかスコープモードの様になり、撃ちにくい。


 「ばばば、ばばば。」


 三発ずつ弾が出るが全然撃っても敵が倒れない。


 「体力多すぎだろこいつら。」


 一応述べるが、イージーモードである。そうこうしている内にこちらの体力がなくなっていき、ついにゼロになる。


 「ふあ。」


 女は変な声をあげ、股を全開で開き、倒れた。


 『ゲームオーバー』


 「・・・なに、このゲーム。クソゲーじゃねえか。誰が買ったんだよこんなの・・・」


 昂大は空いた口が塞がらなかった。


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