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偽りの惑星―fake planet―  作者: 過去(10年前)のくろひこうき
二章
13/32

遠足に行こう。腹ペコ昂大と不審な奇術師


 金曜日、誰かが待ちに待った遠足の日である。この日は前日の天気予報通りの久しぶりの晴天で、最高気温が34度というかなりの鬱な気温であった。


 「おはよー」


 今日は皆、来たものからバスに乗るという集合方法で割と早い8時30分までにバスに乗っていること、だった。現在の時刻は8時25分。まだ昂大は来ていなかった。


 「各班の班長は人数確認しろー」


 堀田は一番前の席からバスに備え付けてある拡声器で生徒たちに言う。


 「沖田がいません。」


 声をあげたのは三班班長の赤西羅韑圡(らいと)である。


 「あ?またあいつは遅刻かよ。」


 なぜか同じ三班の綾野翔が嫌味っぽく言い放つ。


 「お前が言うなよ。」

 「きもっ。」


 明らかに冗談ではないトーンで世瑠(せる)遊二と中田聖詩(とーます)は切り捨てるように綾野を批判する。


 「すいませんやん。」


 なぜか謝る綾野。そうこうしている内に時計は8時30分となっており、担任の堀田は学年主任になにやら報告している。そんなギリギリの状況の中で悪びれる様子は微塵にも見せない昂大が眠そうに目をこすりながらバスに乗ってくる。昂大は一列目に差し掛かった時、空いている席を確認するために立ち止まる。


 「なにしてんねんお前は!ウシかぁ?」


 綾野が急に昂大を罵倒する。


 「・・・はあ?」


 驚くべきことに綾野と昂大はこれが初めての会話である。昂大はやはり眠そうに目をこじ開けながら空いていた三列目の右側の席に座る。


 「じゃあ今から出発します。」


 賑やかなバスが動き出す。かなり険悪な雰囲気な三班だったが、そのやり取りは他の人たちの気にも留められていないのである。



 遠足とはどこの学校でも大体ある行事であるが、その種類は千差万別である。修学旅行さながらのところに行ったり、テーマパークに行ったり、はたまたただの散歩だったりする。驚くことにマラソン、なんて学校もあったりする。そんな中この学校はバーベキュー(・・・・・・)であった。秋とはいえ残暑が厳しい中、目の前で火をおこすということがただただ暑かった。

 昂大の班はなぜだか肉や野菜が少なく、お菓子などが大量に買ってあった。六人班だったが高校生にもなってバーベキューをノリノリでやるはずもなく、班長の赤西羅韑圡以外火に近づく者はいなかった。昂大は席の長椅子に腰かけながらぼーっとその様子を見ている。

 しばらくして肉と野菜が焼き上がり、六人で分けて食べたが、当然足りない。


 「肉少なすぎやろ。なんでこんな量しかないねん。あほちゃうか。」


 急に綾野がブッ混んできた。うすうす皆思っていたものの誰もあえて言い出す者はいなかったことだが。


 「はあ?もう肉とか売り切れやってん。文句言うなよ。」


 綾野が本気のトーンで文句を言ったので世瑠はかなり怒っている。


 「なんで早めに行かへんねん。」

 「いや俺ら部活があってん。」


 そこですかさず赤西も参戦する。


 「だったら他の人に行かせろや!」


 そう言って綾野はそそくさと場を離れていく。


 「なんやねんあいつ、きもすぎやろ。」

 「なんもせえへんのに文句だけいいやがって。」


 険悪である。腹は満たされないのに心も満たされない。そうして班員はみんなどこかへ行ってしまった。


 「はあー。つまんね。」


 ついそうこぼして昂大は渋々キャンプ場の中をうろうろすることにした。


 ここは山奥の公園にキャンプ場が併設されている。そこでクラスごとにバーベキューを行うのだが、他の班を見てみるとやきそばやチーズフォンデュをやっていたりと計画性がある。そんな様子を歩きながら横目で見ていると昂大のおなかがなる。


 「うー、いいなー」


 考えれば考えるほどおなかがすく。そんな状況にイライラし出して昂大は鼻をおさえて走り出す。


 「おっ、昂大やん。何しとるん。」

 「げっ。」


 いきなり呼び止められたので妙な声を出してしまった。


 「げっ、てなんやねん。」


 後ろから声をかけたのは先日ハモった宮原陽翔だった。昂大と全く同じ格好をしている。

 「おお、宮原。」

 「お前こんなとこでなにしてんの?さては女探し?」

 「はあ?ちげーわ!」

 「だってここからやとあそこにおる女子軍団まるみえやん。あの真ん中の子かわいない?」


 キャピキャピしているスカートの短い女子たちを見て宮原はニヤニヤしている。


 「お前が覗き見したいんだろ?」


 昂大は苦笑いして逃げようとする。


 「あれ?どこいくねん。まてやー」


 ろくなやつがよってこない、と昂大は内心思った。将人といい昂大によって来る者は少し癖がある気がした。つまり類は友を呼ぶということで昂大が変わり者だからだろう。


 しばらくして誰もいないところに出た。木々に囲まれた広場のようなところで、側の看板には〈ピクニック広場〉と書いてあった。昂大は誰もいない広場の中央に来たときに大きなため息をした。そして近くにあった長椅子に腰かけた。よく近くを見てみると緑緑した木々が風に揺れていて何とも言えない気分にさせてくれる。しかしそれもつかの間、何やら足音が近づいてくる。


 「パン、パン、パン。」


 誰かが手を叩く音がした。昂大が音の方を見るとおかしな恰好をした人が近づいてくる。よく見るとピエロの仮面をかぶっている。


 「ようやく見つけました。あなたが沖田昂大君ですね。」


 声は男である。男はオーバーにお辞儀をする。


 「私は奇術師のジェスターと申します。以後お見知りおきを。」


 自己紹介を済ませたジェスターと名乗る男はさらに近づいてくる。


 「いやー思いのほか見つけるのに時間がかかったあ、なんせ同じ服装をしている上にみんな坊主頭。あなたたちは個性がないー」


 男の挙動は終始大げさだ。


 「しかし助かりましたー。なんせあなたの方から一人になってくれるのだから。最悪の場合あなたのクラスメイトを人質にするところでしたよ。」


 その言葉を聞いて昂大は男を睨みつける。


 「オーオー怖い怖い。噂通りの野蛮な顔だこと。知ってます?あなたこの業界では『白い悪魔』って呼ばれてるんですよ?まああなたの身内に『黒い悪魔』もいるみたいですが。それはいいや。」


 男はくねくねと動く。


 「あーそうですねえ。ばらしちゃいましょうか?あなたのその本性!あなたのお友達にねえ?なんて思うでしょうねえ全く。」

 「なんだよお前。なにが目的だ。」


 ケタケタと笑う男に昂大は怒りを露にする。


 「目的?そうですねえ、あえて言うなら?あなたを楽しませることですよ。暗くてさびしーい高校生活を送っているあなたを。それが私たち奇術師のモットーですから。」

 「ああ、わかった。お前うざいわ。」


 そう言うと昂大は目の前のジェスターに殴りかかった。


 「おっと。」


 ジェスターはひらりとかわす。昂大はすぐさま連続攻撃にうつる。


 「ほっほー、ほっ。」


 ジェスターは拳をかわし、けりを捌くがどんどん押されていく。すると突如として手からカードのようなものをとりだし、昂大に投げる。


 「!」


 昂大はさっとかわすがその瞬間ジェスターは消えていなくなる。


 「こっちこっちー」


 ジェスターは昂大の背後から謎の白い球を投げたかと思うとはじけて白い煙が立ち込める。昂大は反射的に息を止め、後ろにかわし、煙に入らないようにする。


 「なんだこれ。」


 前が全く見えない。その時空気を切り裂く音が聞こえ、カードが飛んでくる。


 「!!!」


 昂大はギリギリのところでかわす。しかし二枚目のカードに気づかなかった。


 「痛って!」


 二枚目のカードは昂大の左肩を切った。


 「そこ!」


 そのチャンスを逃さずジェスターは飛びかかる。しかし昂大は体をひねり、回し蹴りをジェスターの顔面に叩き込んだ。


 「ほえーーー」


 ジェスターはコロコロと転がっていく。そして立ち上がろうとしたとき。


 「捕まえた。」


 昂大はジェスターの体を瞬時に引き寄せ、仮面を叩き割る力で殴り飛ばした。


 「ぶへえー」


 ジェスターは木に激突して沈黙する。


 「ふー、すっきりした。」


 昂大がゆっくりジェスターに近づいて行こうとしたその時、


 「おおーこんなとこあるんやなー」


 昂大にとって聞きなれた声だった。


 「げえ!やべえ。」


 昂大は焦った、とにかく。そしてその場であたふたした後なぜかその場で寝ころび、足を上げ下げし出した。


 「昂大?お前何してんの?あほちゃうか。」

 「え?体操やで?体操。ええとこみつけたなーあは、あははははー」


 顔を見ると明らかに引きつっている。


 「なんやねん。エセ関西弁気持ち悪。まあええわ。」


 将人はニヤニヤした後、長椅子に座る。昂大は起き上がってジェスターの方を見るがもうすでに何もなかったかのようにいなくなっていた。


 「あいつなんだったんだ?」


 風が強く昂大に吹き付ける。昂大はぼそっとつぶやいた。



 すーっと障子の開く音が聞こえてふと箸が止まる。和室の机の上には見事な懐石料理の数々が並べてある。


 「いやー遅くなりました。遠路はるばるようこそおいでくださいました。」


 遅れて現れた新田川市市長の跡部は深々とかしこまる。


 「遠路?これからは関西が私の職場になるんですけどね。」


 跡部の方を見ることなくスーツ姿の若い男は焼き松茸を頬張る。


 「まあ、市長も早く召し上がったらいかがです?おいしいですよ。」

 「はあ、ではいただきます。」


 跡部はそそくさと向かいに座り箸を手に取る。


 「学校、ようやく再開したんですって?よかったですね。」

 「おかげさまでメディアからのお咎めも少なくてすみました。これも楠木さんの尽力のたまものですよ。」


 普段とは違い、やたらとペコペコする跡部。


 「いえいえ、私の力ではないですよ。」


 楠木正成(まさなり)は終始跡部の顔を見ずに松茸を食べている。


 「それにしてもあぶないところでしたね、もう少しで警察にばれるところでしたよ。ばれたら楠木さんの身が危ういところでしたな。まあ橋本もやられてもう金をよこせとか言ってくる奴も消えてよかったですよ。これですっきりしました。でもいったい何者ですかね?あんなに鮮やかな殺し屋を送ってきたのは。」

 「・・・。」


 なぜか安堵の表情を浮かべる跡部に対し、楠木は少し小ばかにしたような態度で、


 「なにか勘違いなさってるようですねえ、そもそも私はあなたに管理を任せるといったんですよ?どう考えてもあなたの失態でしょう。それに警察が橋本校長の身辺を調べ出したらあなたのところにも来るに決まっていますよ。」

 「は?」


 跡部は困惑する。


 「ああ、勘違いしないでください。こちらとしてはこれでいいんです。あなたのおかげで証拠をそろえられました。これで戸田を失脚させることができます。ありがとうございます。」


 楠木はにやにや笑っている。


 「どどど、どういうことです?あの工場はあなたがた防衛省の持ち物ではないんですか?それに私はあなたが戸田さんの部下だというから協力をしたんですよ?」


跡部の顔は青ざめる。


「ええ、私は戸田陸将の部下ですよ?しかし防衛省があんなもの作るわけないじゃないですか。」


楠木は爆笑する。


「じゃあなんなんですか?あれは!」


跡部は急に激高し、立ち上がる。


「戸田の私物ですよ。」


楠木は静かに言い放つ。


「まあまあ落ち着いてください。我々は運命共同体なんですよ?あなたは警察に追い回されたくない。防衛省としては戸田の独断専行を警察に知られるわけにはいかない。お互い秘密を共有しているんだから仲良くやりましょう。こちらとしても警察に圧力を掛けてあなたを守ります。ですからあなたはすべてを忘れてください。たったこれだけで我々はお互いにハッピー、あなたの地位も守られます。さあ、一緒にがんばりましょうよ、跡部市長。」


そう言って笑顔で手を差し出す楠木。

跡部にとって自分の身を守ることは最優先である。よってこの条件に跳びつく。


「はい。秘密は守ります。」


そうして跡部は苦笑いで差し出された手を握る。楠木は再度にこっと笑った。



「くそっ!あの若造ふざけやがって。」


夜のホテルで持っていたカバンをベットに投げつける跡部。


「との~今夜はご立腹ね~どうしたの?」


傍にいた市長秘書の姫は甘い声で殿に語りかける。


「ひめーぼくちん騙されちゃったー」


殿は姫に抱きつこうとするが姫はそれをひらりとかわす。


「会食に行ってたんでしょ?自衛隊のひとと。」


殿の顔色が変わる。


「戸田さんの部下だっていうから信用して言うこと聞いてやってきたのに嘘つきやがった!その上あの人を失脚させる気だ。でも言ったら私のこともばれちゃうし、どうしよー姫―」


殿はまたしても姫に抱き着こうとするがかわされ、姫はベットの上に逃げる。


「うーん仕方がないんじゃない?だってぇ殿と私の事がばれたら殿終わりよ?私はどうしても議員になりたいの。おねがぁい?」


姫は上目使いで殿を見る。


「わかってるよー姫ぇ。絶対に私の後継者としてすいせんしてあ、げ、る。」


いつかも述べたが殿は御年71歳だ。


「ま、今夜は飲みましょ?」


姫はワイングラスにヴィンテージ物のロマネコンティを注ぐ。


「何て名前なの?そのひどい人。」

「楠木正成(まさなり)っていうんだよ。」

「ふーん。はい、どうぞ。」


姫にワインを手渡された殿はにやにや笑いながら夜景を見る。


「お金も手に入ったし、まあいいか。」


殿は満足げにワインに口をつける。



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