第44話ー単独脱出ー
周囲で凄まじい爆発音が鳴り響き、大きく上下に揺れた。
衝撃でネロの足が床から離れて身体が宙に浮く。
このままだと天井に身体を打ち付けてしまう、が。
間一髪配管を掴み、身体を固定できたヒナキがネロの腕を掴んで力強く引き寄せて抱きとめた。
「なぁにこれぇ!!」
「クソ、クアッドのヤロウ海中爆撃してきやがった!!」
海中では連鎖する爆発音が聞こえている。
この艦は仲間ではなかったのかと考えを巡らせるが、おそらく直接の狙いはこの潜水艦ではなくこの潜水艦を捕らえようとしていた敵対勢力……方舟の海中戦力だろう。
凄まじい爆発音に対し、この艦自体の被害が少なすぎるところを見るになんの算段もなく爆撃してきたわけではないはずである。
(包囲されるまでここに留まっていたのは方舟の海中戦力を削ぐためか……?)
揺れが収まってきたため走る。
緊急脱出用の小型艦の場所はすでに把握しており、後はそこまでたどり着くだけだ。
だが同時にこの艦が航行を開始したのか、エンジンの稼働音が聞こえてきた。
(研究設備が整ってたところを見るとこの間は奴らにとって主要艦のひとつだろ……方舟の戦力寄せに使うためのデコイじゃねェ筈なんだよな)
走りながらぐるぐると思考を巡らせる。
この潜水艦だけならわざわざこんな方舟近くの海中に堂々と潜み続ける必要はない。
なら撤退しない理由があったはずだ。
その理由はまあ間違いなく今自分の隣にいる方舟の最高戦力……ネロ=ステイシスだろう。
その目的の少女が今この艦に乗っているため撤退を開始した……とは考えられない。
なぜなら今、脱出の手立ても行動の自由もある状態で野放しにされているからだ。
あの黒尽くめも、ネロの戦闘力を見た後にこの潜水艦自体が脱出不可能な檻だとは思っていないはず。
逃走した後も追ってこず、脱出のための小型艦への道筋にも妨害するものはなにもない。
走りに走ってついに緊急脱出用小型潜水艇までこぎつけた。
3〜4名程乗り込めるそれに先にネロを乗り込ませた。
「操縦の仕方わかるか?」
「んぅ……大丈夫ぅ。しどぉもはやく乗ればぁ?」
「はいよ……」
……と、ヒナキも乗り込もうとした直後。
ヒナキの腹部から長尺の刃が突き出した。
あまりに突然のことだったため、ネロですら反応が遅れる。
内蔵まで損傷したのか吐血、黒い仮面の下から血液が滴った。
ヒナキが後方を確認すると、次元の裂け目から突き出しているブレードが自分の背から貫通しているのが見えた。
『お前は逃さんよ、ヒナキ』
「ゴール目前で……、意地悪ィな……!」
ヒナキは小型脱出艇に出入りするためのハッチを足で蹴りつけ閉めた。
ネロが何かを叫んでいるがもはや聞こえない。
外部にも設置されていた小型脱出艇の切り離し装置のスイッチを押した直後、ネロが乗った脱出艇はこの潜水艦から放たれ、海へ脱出。
この艦に残されたヒナキは一人、多数の刃物を操る黒尽くめの人型と対峙することになる。
黒い仮面を外し放り投げ、口から溢れた血液を拭う。
『姫君の離脱支援ご苦労だったな』
「いきなり手のひら返しやがって……腕ぶった切られたから日和ったんだろ」
『ふ、この艦を落とされるわけにはいかないのでな。かの姫君を侮りすぎていた。単体戦力としては異常な能力だな、驚いたよ』
ヒナキは腹に刺さったブレードを引き抜き、床へ放り投げた。
ブレードを抜いた事により酷く出血したが、ドミネーター因子に強化されている体であるためある程度時間を置けば塞がるはずだ。
『ボスから、お前はここで殺しておけとのことだ。すまないな』
「死ぬつもりはねェから謝るなよ、姉貴」
ヒナキの瞳に赤い光が灯り、黒尽くめの周囲一帯におびただしい数の刃物が出現した。




