第29話ーファーストアタックー
人混みを同時に抜けたヒナキともうひとりの男は隣に並んだ人物と顔を合わせる。
「ん」
「あ?」
目の前に広がるは破壊された二脚機甲兵器。
それを巨大な腕で引き摺るようにしている奇形人型ドミネーター3体が一斉にヒナキと……そしてGNC所属兵士、RB軍曹の方に視線を向けてきた。
常人ならすくみ上がり悲鳴を上げるような状況だが、その二人は異様なほどの落ち着きを見せており……。
「Hay ya、VR訓練がしてェならここはオススメしねェぜ。なんたってありゃモノホンだ」
RBのその言葉に対し、ヒナキは黙って右手の小指と人差し指を立て他の指を内に折り込んだハンドサインを見せた。
ロックやメタルなどのミュージックに合わせた感情の昂りを示すものだったりするサインであった。
「ハッ、骨のあるやつだと思ったら骨しかねェやつが来たな、最高だぜ」
破壊された二脚機甲を引き摺っていたドミネーターがヒナキとRBに向かってそのスクラップを投擲してきた。
凄まじい速度と金属質量を持って向かってきたそれを二人は避ける素振りも見せなかった。
なぜなら後方にはまだ避難中の人々がいる。
ここで回避してしまえば後方の罪なき人々に被害が及ぶ。
RBは背のブレードを体の前に突き立てバリケードの用に使用、ヒナキは右足を前に突き出して静止。
地面との摩擦で火花を散らせながら向かってきた大質量の金属塊は二人に直撃し、凄まじい衝撃で後方へ押されたが勢いを殺しきり、止まった直後。
《しどぉ、3体一斉にくるわよぉ》
「了解」
《正面上のはまかせてぇ》
二脚機甲の上を乗り越えてくるように1対、左右から回り込むように2体が連携を取って接近してきておりRBとヒナキを挟撃。
「……なンだよごりごりにやる気だなコイツら、やってろうぜ兄弟」
「!」
RBは地面に突き立てていたブレードを持ち上げて一度肩に担いだ後、腰に差し込んでいた象撃ち用ほども大振りなリボルバーガンをヒナキに投げ渡し、ヒナキはそれをなんの疑問もなく受け取ってセーフティを外し右側から襲撃してきたドミネーターに銃口を向けた。
ビルの屋上ではネロが対ドミネーター用に誂えられた大口径狙撃銃のスコープを覗き、数百メートル先のドミネーター1体に狙いを定めている。
RBはブレードの柄に備えられたトリガーを、ヒナキはその巨大なリボルバーガンの引き金を引く。
ブレードの背に備えられた推進機構から大量の推進剤が噴出しブレードを加速させる。
リボルバーの弾倉部分及び銃口から凄まじい量の火炎、それと共に対ドミネーター用に加工された弾頭を持つ弾が射出。
向かってきたドミネーターの腕が加速されたブレードによって割られた薪のようになり、返す刃で更に3度斬りつけ両腕と
脚を斬り飛ばす。
ヒナキが撃った銃弾はドミネーターの胴に直撃し抉りこみ、突撃の勢いを殺した上で押し返し後方へ吹き飛ばした。
ネロが放った狙撃銃による銃撃は跳んでいたドミネーターの頭に直撃。
そのすさまじい威力を持った凶弾は貫通するなど生易しいものでは済まず、ドミネーターの頭部を西瓜のごとく爆散させた。
襲ってきた3体のドミネーターが返り討ちにされ、三者三様の崩れ落ち方を披露した。
ヒナキは異様な威力を誇っていたリボルバーを指でくるりと回し銃身を掴み、グリップをRBのほうに向ける形で返却した。
「ハッ、コイツを撃って涼しい顔たァ随分イケる腕だなアンタ。見込んだとおりだぜ」
「あのさぁ、これ人間が撃てるように調整されてないだろ。普通なら肩外れるどころかもげちゃうから」
「じゃあ兄弟、あんたは普通じゃねェわけだ。あの高いとこから怪物銃で頭撃ち抜いたゴリラと同じでよ」
《しどぉ、そいつも撃っていいー?》
「だめだって」
「おっと、聞かれてたか。陰口はバレねェように言わねェとな。マジで狙いつけてきてやがんの」
なんの因縁があるのかはわからないが、RBはネロの事を知っている風でネロも彼の事を知っていて嫌っているようだ。
付近で倒れていたドミネーター、そのうち2体が身体を再生させながら起き上がってきている。
1体……ネロに頭を抜かれた個体のみ絶命したようでその奇形な体躯がドロドロと溶けはじめ粒子状になり瓦解し始めていたが。
「あんたとあのゴリラ、初見のくせにコイツらの核を狙ったな? あんたのは弾が途中で止まって核抜けなかったようだが……。ゴリラはいいとして何者だ、あー……」
「シドウヒナキだ。好きに呼んでくれ」
「シドー」
「そのゴリラとよく似た者だよ。こんな時だ、これ以上の詮索は止してくれ」
「All Light。とりあえずはコイツらをどうにかするとしようぜ」




