グラップルファンタジー
テレビでは、毎日のように市長の闇! 背後関係は? 地方の因習と権力構造、子どもたちが明かす真実、暴力にまみれた過去など様々な言葉が並び世間を賑わせている。それだけ衝撃的で大きな事件だったのだろう。まぁ、娯楽に飢えていた連中に餌が放り投げられた形だな。
今回の事件、カオル先輩たちが録音した安彦自身の言葉だけでは無く、俺の中に眠っている遠野虎一の臓器が大きな証拠となったようだ。それが言い逃れ出来ない証拠となり、手術を行った医師、臓器が何処から流れてきたのか、そういった事件の真相に繋がる流れを作った。例の刑事さんがそこから重点的に事件を洗い直すようだ。まぁ、あの冴えない刑事もさ、追っていた事件の、長年の苦労が実を結ぶんだからな、一生懸命、頑張って動くさ。
安彦も――あいつも俺の、遠野虎一の死体を使うなんて欲を出さなければ破滅することも無かったのにな。欲を掻いたが故の自業自得だ。
俺の体の手術。臓器移植。
……。
それを知って、少しだけ思ったことがある。もしかして、妹が俺に対して敵意を持っているのはそれが原因なのかな、と。
両親が俺の臓器移植のために大きなお金を使った。使ってくれた。それは間違いない。俺は知らなかった。だが、それが原因で生活は苦しくなったはずだ。それを妹が知っていたら? 俺を恨むんじゃあないだろうか。
全ては憶測だけどな。
後は、そうだな。
安彦に指示を出していた存在、背後関係など、その辺りは……気になるところでは、ある。裏切らせないため、安彦に弱みを作らせるために、遠野虎一を殺させた存在。黒幕。だが、そこはもう俺が関われるレベルを超えている。それこそ警察とかそういう組織に任せる話だろう。それに、だ。俺自身がそいつらに、黒幕とやらに興味が無い――気にはなるが関わろうと思うほどの興味は持てない。
俺が関わるのはここまでだ。
――そう、終わったんだ。
遠野虎一の因縁は終わった。
何だか俺も自由になった気分だ。
やっと遠野虎一が終わり、有馬太一という自分が始まった気がする。
いや、まだ、もう一つあったな。
そのために俺は歩いている。
目的地は河川敷だ。
さて、と。
そこで待っていたのは……。
「遅かったな」
俺の姿を見たそいつが呟く。
……。
俺は大きくため息を吐き出す。
そして話しかける。
「はぁい、上路ぃ」
そう待っていたのは上路雷人だ。
まぁ、約束だからな。
「そのふざけた態度がっ」
雷人が俺を見る。見ている。
俺は首を横に振り、指を突き出す。
ちっ、ちっ、喧嘩に言葉は不要だろう?
「有馬太一、お前との因縁終わらせてやる」
雷人が拳を構える。肩を前に出すような攻撃的なボクシングスタイル。
因縁、か。コイツは俺を見ている。遠野虎一の存在を知らず、俺を、俺という有馬太一を見ている。ずっと、そう、最初からそうだ。
中学時代に俺をいじめたクソ野郎だ。俺が引き籠もる原因を作ったクソ野郎だ。弱いくせに、ことあるごとに絡んでくるクソ野郎だ。
俺は無言で指をちょいちょいと動かし、煽る。
かかってきな。
雷人が動く。
飛んでくる。鞭のようにしなった右の拳が飛んでくる。
早いッ!
体を動かす暇が無いッ! 俺はとっさに右腕を動かし防ごうとする。だが、間に合わない。防ごうとした腕ごと打ち抜かれる。走る衝撃。体が――片足が浮く。
回避が出来なかった俺の姿を見て雷人がニヤリと得意気に笑う。
片足が浮く? 違うね。浮かせたんだよッ!
得意気になって足元が疎かになってるぜ!
雷人に足払いをぶちかます。足払いに気付いた雷人が足に力を入れ耐える。
一か所に集中したら他が見えなくなるのは駄目だぜ。
俺は雷人の腕を取る。そして、その腕を捻り上げながら背後へと回り込む。
「がっ!」
「はい、雑魚乙ぅー」
俺は煽る。ボクサーは掴まれたら終わりだからな。
「お前が! 組み技が得意なのは知っている! だから、道場で学んできたっ!」
雷人が叫ぶ。そして腕を外すように回す。お、返し技を習ってきたのか。少しは学習しているようだ。
だが――甘い。
そのまま雷人の足を取り、転かす。そして地面に口づけをしている雷人に覆い被さるような形で、その首に手を回し、締める。
もう動かせない。
もう逃げ出せない。
これで終わりだ。
「俺の組み技はファンタジーだぜ」
空想してください。
落とすために首を締め上げる。
途中、何度か雷人が俺の腕をポンポンと叩いていたが無視する。いやぁ、意味が分からないっす。何がしたいのかなー。
そして、雷人が落ちる。
はい、おしまいっと。
……。
つーかだね、何を俺のライバル面して待ち構えているんだよ、コイツは。運命のライバルみたいな顔して、何がしたいんだよ。お前、俺に一度も勝ててないじゃん。
はぁ。
たく、っよ、もう少し強くなってから挑んでこいっつーの。
まぁ、これでコイツとの約束は果たしたし、うん、これで雷人も満足しただろう。はぁ、俺は律儀だなぁ。
さて、と。
帰るか。
うん、これで中学時代から続く雷人との絡みもおしまいだ。おしまいだよな? まぁ、たまにはからかってやるけどさ。
さあ、行こう。
俺はまだ登りはじめたところだからな、この自由気ままな高校生活をさ……!
さあ、今度は何をしようか。
◇◇◇
これにてグラップルファンタジー完結です。
続けようと思えば……出ますよ。まだまだ話は出ます。例えば修学旅行の話とかバンドのメジャーデビューする話とか、妹という巨悪が入学してきて色々とか続けようと思えば続けることは出来ます。でも、ここで、これにて完結です。
息抜きみたいな形で書きたいことだけ書こうと書き進めた作品でした。サクッと始まってサクッと終わる。十六万字程度なので読むのもサクッといけるのではないでしょうか。うーん、狙った訳じゃあないのに割とぴったり分厚い文庫一冊分くらいですね。毎日適当に書き進めたのにおかしいなぁ。ホント、おかしい。
某大人気ゲームのパクリみたいなタイトルですが、実は、その……そのゲームを遊んだことがありません。基本無料のゲーム、苦手なんですよね。で、そのゲームのタイトルを見て、今作のタイトルを思いついたかというと、実は違います。どうしても、それだけは言いたかった。タイトルを決めてからタイトルがかぶっていないかネットで検索して、そこで気付きました。あ、と思ったのも一瞬、逆にパクりみたいで良いかと開き直りました。
それが今作のタイトルです。
……次作はもっと酷いタイトルになると思います。
そうそう、次の作品です。次は竜退治に飽きてドラム缶を押すような物語になると思います。それとも瓶の蓋で売り買いするような作品でしょうか。次の作品も好き嫌いが分かれるような話になると思うのですが、それでも付き合っていただけるなら幸いです。
それでは、また。




