48 でおちか!
「カオル先輩はちょーっと、ここで待ってて貰えますか。すぐに戻ってきますんで」
「ふぅ、うーん」
カオル先輩はこちらを見透かすような顔でニヤニヤと笑っていた。ホント、やりにくい先輩だ。つかみ所がないというか、何を考えているのか分からないというか、ホント、やれやれだぜ。
カオル先輩と別れ、ドレッドヘアーを追いかける。
ドレッドヘアーにはすぐに追いついた。他に歩いている人の姿も見えないし、コイツ、のんきに歩いているからな。
「おーい」
そして呼びかける。
反応がない。
「おーい!」
もう一度、今度は、かなり大きな声で呼びかける。それでやっと声が届いたのかドレッドヘアーが足を止めた。
「あ? 誰だ?」
振り返ったドレッドヘアーがそんなことを言っている。
「おいおい、あんなにさー、勘違いされるほど仲よく話をしたじゃないか」
ドレッドヘアーが首を傾げる。
「あ? だから、誰だよ」
おいおい、本当に分からないのかよ。
「いや、マジで分からないのかよ」
「あ? だから誰だってぇの」
ドレッドヘアーが肩を竦めている。おいおいおい、コイツのおかげで俺がどれだけ苦労したと思っているんだよ。中学生のくせに馬鹿みたいな怪力と戦闘センス(ノット格闘)を持った木刀君にさー、姿を見せない忍者みたいなヤツに――お前が仲間扱いをしたから、俺はな、お前ら漫画の世界の住人だろってヤツらの相手をすることになったんだぞ。
まぁ、いいさ。忘れているなら、それはそれでいい。
「竹原に会わせてくれ。お前なら居場所を知っているだろう?」
俺の言葉を聞いたドレッドヘアーが手をポンと叩く。
「あー、あの時の薬を欲しがっていたヤツか。やっと思い出せたわ」
「思い出してくれて良かったよ。そういうワケで、だ。会わせてくれ」
「はっ! 竹原さんはな、今、忙しいんだよ。餓鬼は大人しく家に帰って歯でも磨いてクソして寝ろ」
ドレッドヘアーは俺を追い払うように手を振っている。
「いいから、会わせろ」
「あ? 餓鬼が分かってるのか」
ドレッドヘアーが俺を威圧するように睨む。餓鬼、餓鬼ってお前も餓鬼だろうが。
「そっちこそ分かってるのかよ。良いんだぜ、俺はさー、力尽くでもさー。痛い目みちゃうよ」
「餓鬼が」
ドレッドヘアーが地面に唾を飛ばし、着ている長袖のトレーナーに手をかける。
……。
そういえば、コイツ、髪型の方にばかり目が行って着ているものは注視していなかったが、なんで、コイツも、こんなクソ暑いのに長袖なんだ? 竹原のグループでは厚着の我慢大会が流行っているのか?
そしてドレッドヘアーが長袖のトレーナーを脱ぐ。
何故、脱ぐ。
露わになる上半身。
それは筋肉の塊だった。
「俺はタイガードージョーの門下生だぜ。その意味、分かってるのかよ」
ドレッドヘアーが力を入れ筋肉を盛り上げる。はち切れんばかりの筋肉だ。おー、凄い、凄い。
「知らね」
「は! 無知は恐ろしいな! タイガードージョーは! プロの格闘家でも泣いて逃げ出すほどの道場なんだぜ」
「へー、ふーん、そりゃあ凄いね」
ドレッドヘアーの額にビキビキと血管が浮き出る。
「分かってねぇようだな」
そして、そのままドレッドヘアーが殴りかかってくる。
分かってないのはそっちだよな。
俺は殴りかかってきたドレッドヘアーの手を弾き、腕を取る。そのままその腕を脇に挟み込み、小さく飛び上がり体重をかけながら捻る。
「がっ!」
俺は動く。ドレッドヘアーの腕に俺の腕を絡め関節を極める。
「そっちこそ分かってないよな。あのハンバーガーショップで会った時もお前は殴りかかってきたよな? で、どうなった?」
「が、くっ、お、お前、あの時の!」
ドレッドヘアーが泣きそうな声で叫ぶ。って、こいつ、分かってなかったのかよッ! 思い出したフリかよ!
「竹原の居場所を言え。このまま折るぞ」
「はッ! ふ、ふざけんな。この程度、俺の筋肉が跳ね返して、して、して……」
「筋肉が自慢なんだよな。ほら、返して見やがれ」
関節を極めた腕を跳ね返そうとドレッドヘアーが暴れる。だが、暴れれば暴れるほど関節が悲鳴を上げ、ドレッドヘアーに痛みを与える。
「ほらほら、ご自慢の道場では返し方は教えて貰わなかったのか?」
「く、がっ。返し方くらい、見て、ろ、がっ!」
空いている方の、伸ばしてきた腕を取り、そちらも関節を極める。腕を動かせば腕を。足を動かせば足を――関節を極める。動きを封じる。
「え? な、じぇ」
ドレッドヘアーは泣きそうな顔で脂汗を垂らしている。動けば動くだけ、その動きが封じられていくことに困惑しているようだ。
「どうしたのかな? 正直さー、君は漫画なら登場した次のコマでやられているくらいの雑魚なんだぜ。俺はさー、そんな雑魚に時間を取りたくないんだってぇの!」
「人を、そんな風に、がっ」
「で、竹原の居場所を教えてくれるかな?」
「わ、分かった。教える。教えるから外してくれ」
ドレッドヘアーが泣き叫ぶ。
俺は極めていた関節を外し、飛び退く。
「ほらよ、さあ、教えてくれ」
「ああ、竹原さんは……って、教えるかよッ!」
ドレッドヘアーが両手を伸ばしこちらへと掴みかかってくる。
俺は大きく息を吐き出す。まぁ、そうなりそうな気はしたんだよな。
俺は掴みかかってきたドレッドヘアーの手を蹴り上げる。そして、そのまま足でドレッドヘアーの顔を蹴る。往復ビンタでもするように足で蹴り叩く。
これで終わりじゃない。
飛び上がり体を捻る。回り、回転の力を加えた蹴りを放つ。
「がっ」
俺の蹴りによってドレッドヘアーが面白いように吹き飛ぶ。飛び、地面を転がる。
おっと、逃げられてはたまらない。俺は急ぎ、地面に転がっているドレッドヘアーの元まで駆け寄る。そして、その背中を踏みつけ逃げないように抑えこむ。
「筋肉凄いよね。筋肉は凄いが筋力が足りてねえなぁ。言ったよな、筋肉だけあっても意味が無いってな」
「い、言ってな、い……」
筋肉は大事だ。だが、筋力が無ければ意味が無い。力にならなければ意味が無いッ!
俺の筋肉はまだまだ成長途中だ。それでもさ、筋肉が無いなら無いなりの戦い方をすることは出来るんだぜ。柔よく剛を制するってヤツなんだぜ。
「で、竹原のところまで案内してくれるかな?」
「だ、誰が……」
俺は足に力を入れる。ドレッドヘアー君の背中がミシリと音を立てる。
「は、はひぃ、分かりました」
「あー、逃げようとしても俺の方が早いから、無駄だからな」
これで逃げられたら洒落にならないからな。脅しはかけるんだぜー。
「は、はい」
「で、竹原は何処に居る? ここから近いのか?」
「ち、近いです。事務所で商談中だと思います」
「何処の?」
「あ、案内します」
やれやれ、やっとか。
これでやっと誰にも邪魔をされずに片をつけることが出来るな。




