37 めがねぇ!
雷人と二人で中へ突入する。
「雷人、表玄関はこっちだ」
「いちいちうぜぇ、分からない訳がないだろ」
二人で土足のまま廊下を駆ける。
校舎の曲がり角。ここを抜ければ正面玄関だ。
……ん?
廊下の角に何か円筒形の小さな器具が取り付けられている。前まで廊下にこんなものがあっただろうか? いや、ない。
円筒形の小さな器具の黒い部分に紅い光点が灯る。
「お、おい、雷人!」
曲がり角を曲がる。
その先にあったのは足の生えた四角い弁当箱のようなものだった。只という漢字によく似た姿だ。
「あ?」
雷人はのんきに怪訝そうな顔のまま立ち竦んでいる。
「いいから、伏せろ!」
叫ぶ。
俺は叫びながら雷人の方へと飛ぶ。
そして、只が炸裂した。弁当箱部分の中に詰まっていた棘付きの鉄球が飛び散る。俺は雷人を押さえつけ、庇うように転がる。その俺の背に棘付きの鉄球が刺さる。痛ぇ、涙が出そうなほど痛ぇ。
「お、おい、何しやが……」
くそ、ふざけんな。殺すつもりか。こんなもの、当たり所が悪かったら死ぬぞ。殺す気か。
「お前、なんで、俺を庇って……」
雷人が驚いた顔でこちらを見ている。あー、もやっとするなぁ。
「うるせぇ、次は足手まといになるなよ。あー、くそ、音で気付かれたぞ。正面のヤツらが来る。迎え撃つぞ」
俺は自身の頬を叩く。痛む体に活を入れて立ち上がる。
あー、痛ぇ。だが、まだ大丈夫だ。骨は折れていない。背中の皮膚の表面がえぐれて、ちょっと血が出ているくらいだろう。この程度なら動ける。
「お、おう」
雷人は馬鹿みたいに何度も頷いている。あー、この馬鹿面のために、なんで俺が負傷しているかねー、馬鹿みたいだ。
二人で廊下を走る。
そして、正面玄関側、向こうから連中がやって来た。三人。先ほどの炸裂音を聞きつけたのだろう。不意打ちは失敗だ。だが、正面とこちらで挟み撃ちの形になる。それに、こちら側には机のバリケードがない。このまま突っ込める。
三人。中央に拡声器を持った眼鏡先輩。左右の二人は女子だ。湖桜高校では貴重な女子だ。女子? 筋肉? いやまぁ、女子と言って良いのかどうか迷う容姿だけど服装は女子だ。
「会長、木村はやられたようです」
女子の報告を聞いた眼鏡先輩が眼鏡を中指で持ち上げる。
「馬鹿の中にもある程度は考えることが出来る馬鹿がいたようですね」
「木村が駄目なだけです」
「叩き潰す」
三人で盛り上がっている。
……。
何だ、コイツら?
「おい、太一」
「あ?」
「俺は女子は殴らない。だから、お前に任せた」
「は? ふざけんな。んなの関係あるか。男女平等だ、平等。それに、アレが女子に見えるか」
俺は連中を指差す。
「クソイチ、お前、酷いな」
「んだと、誰がクソ、だ。誰が」
雷人が肩を竦め大きなため息を吐き出している。
「会長、あっちの腰巾着は私に任せてください」
「叩き潰す」
何だか女子二人がやる気になっている。女子? その服の袖口から見えている腕がふっといんですけどー。血管が浮き出ているような筋肉の塊なんですけどー。とても女子扱い出来ないんですけどー。平等でいいじゃん。男女平等でいいじゃん。あの机を投げていたのって間違いなく、この子だよな。洒落にならないぞ、おい。
このクソ雷人、やり合うのが面倒だから、俺にふっただけだろ。ふざけんな。
「まぁ、二人とも待つんだ。そこの不良二人、聞け」
眼鏡先輩が眼鏡をクイッと持ち上げている。それは癖なのか。
「今更、何か話し合うことでもあるのかよー。俺が粗品でプレゼントすればこの訳の分からないテロを辞めてくれるのか?」
「テロ? これはこの不良に汚染された学校救うための革命だよ」
いや、だから、それがテロだろ。
「君たちは虐げる側だ。だから、気付かないだろう、虐げられた側の気持ちが! 不良たちの横暴が! 勝手に変なあだ名をつけたり、カツアゲと称してお金を盗む、借りたものを返さなかったり、気分で暴力を振るう! コイツらは僕たちが管理しなければ社会に適合することも出来ないクズだ! そうだろう!」
「あ? 雑魚の言い分だ」
雷人は眼鏡野郎の言葉を鼻で笑う。
んー。
「それ、すっげー、分かる」
分かる。分かるぞー。
「そこの眼鏡先輩、すっげー、分かるわー」
「お、おい、クソイチ」
俺は雷人を見る。
「いや、俺もさ、中学時代、このクソ雷人に変なあだ名をつけられていじめられたから、すっげー分かる」
「お、おい」
雷人がこちらへと手を伸ばす。俺はその手を払いのける。
「俺は眼鏡先輩の味方になるぜ。雷人、お前は今から敵だ!」
「このクソイチが!」
雷人が叫ぶ。
「君も仲間だったのか! なるほど、暴力で無理矢理従わせられていたのだね。大丈夫だ。今日から君も仲間だ」
「あざーっす」
俺は眼鏡先輩に小さく頭を下げる。
そして、そのまま眼鏡先輩の方へと歩いて行く。
「へへ、雷人。今からお前は敵だ。今までの恨みを晴らしてやるからのう、ひょひょひょひょ」
笑う。
笑いながら眼鏡先輩の方へ。眼鏡先輩は両手を広げ、こちらを受け入れようとしてくれている。
うーん。
う、うーん。
俺は眼鏡先輩のもとへ駆け寄る。そして、
その手を取り後ろへと捻り上げる。
はい、おしまいっと。
「が、何をする!」
「何をするって見たままじゃん。はい、そこの女子もどき二人、動くな。動くと眼鏡先輩の腕を折るぞ」
やはり馬鹿だよなぁ。これが湖桜高校だ。頭が良さそうに眼鏡をかけていても馬鹿は馬鹿だからな。うん、馬鹿すぎる。
「卑怯な!」
「潰す」
……。
「くっ、さっきの言葉は嘘だったのか! これだから不良は……無念だ!」
「いや、さっきのは本当だぜ。だから、俺はあいつより強くなったんだよ。まぁ、眼鏡先輩もこんな馬鹿らしいことは止めて、もっと学校生活を楽しもうぜ、な? はい、おしまい。これで解散、解散」
ふぅ、何とか終わりそうだ。
って、ん?




