てをぬいている
「負けた、負けたよねー」
アラタは髪を掻き上げ楽しそうに笑っている。
「おいおい、マジかよ」
それを見た巨漢のテツオは口を大きく開け、呆然としていた。アラタが負けたことがその目で見ていても信じられなかったようだ。
「テツオも見ていたでしょ。久しぶりに思いっきり負けたよ」
「ああ、見ていたよ。兄貴が負けるなんてね」
アラタの弟であるカオルはパーカーのポケットに手を突っ込み、不敵な表情を浮かべている。今の状況を楽しんでいるようだ。
「こっちはカオルほど強くないからねー。うーん、あのまま成長したらカオルでも危ないんじゃないかなー?」
アラタはカオルを見て大きなため息を吐き出し、肩を竦めていた。
「そう? ま、でもさー、興味ないかなー。たいっちゃんとは音楽の趣味も合うしさー、仲良くしたいね」
カオルはアラタと同じような表情でため息を吐き出し、肩を竦めている。
「ま、そっかー。カオルは音楽の方だもんね。そっちの方が興味があるかー」
「そうだよ。いつかビッグになってこのライブハウスを復活させるのさー」
アラタとカオルが同じ顔で笑い合っている。
「はぁ、この兄弟は本当によー」
それを見ている巨漢のテツオはため息を吐き出すことしか出来なかった。
「兄貴、じゃ」
カオルは手を上げ、ライブハウスを後にする。
「はぁ、まったくよ、どうすんだよ。連中になんて説明するんだよ」
ライブハウスの廃墟に残ったのはアラタと巨漢のテツオだけだ。
「どうするもないよ。ここで終わったってだけさー」
アラタの顔からは険が取れ、すがすがしいものに変わっていた。それは背負っていたものが、しがらみが、重荷が、色々なものが消えたからなのかもしれない。
だが……。
そして、連中がやって来る。
「アラタさんよぉ、今日の集まりは何だ?」
集まった一人は特攻服を着込んだ厳つい男。
「今度は何処を攻めるんです?」
もう一人は細長い糸目の狐顔の男。
「こっちの準備は万全」
「いつでも万全」
のっぽと小太りの二人。
飄々としたアラタ、巨漢のテツオ、特攻服、狐、のっぽに小太り。廃墟となったライブハウスに六人の男が集まっている。
アラタが皆の顔を見る。そして、大きなため息を吐き出す。
「集まってくれてありがとう。それでさー、ちょっと予定が変わって四面楚歌を解散することにしたよ」
アラタが告げる。
全員が驚いた顔でアラタを見る。
「何の冗談です?」
狐顔が引きつった笑みを浮かべている。
「おィおィ、ふざけんな」
特攻服がアラタに掴みかかる。それを巨漢のテツオがしまったという様子で顔に手を当て見ていた。
「冗談じゃないよ、本気だよ」
アラタが掴みかかってきた特攻服の手を取り、締め上げる。
「がッ」
「ちょっと喧嘩に負けちゃってね。計画を止めることにしたんだよ」
「おい、お前が負けるってどういうことだ!」
関節を極められている特攻服が叫ぶ。
「言葉通りだよ」
「誰にだ!」
「負けたのはさっきだけど……もう帰ったね」
「んだと。さっきのヤツか!」
「あー、それはジョージィ君だけど、まぁ、いいか」
アラタが改めて皆を見回す。
「というわけで四面楚歌は解散だよ」
「クソがッ! ふざけんな。俺らシャークレイドはお前に未来を見たから傘下に入ったんだぞ。ふざけんな!」
「頼んだワケじゃないしなー」
「クソが、俺は認めねぇからな!」
「自分も認められません」
特攻服の言葉の後に狐顔が続く。
「弱いヤツが言ってもなー。勝ってから言ってね」
アラタは楽しそうに笑っていた。




