表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/66

18 せんとう!

「あ? 馬鹿にしてンのか」

「馬鹿高だけあって数がわかンねぇようだな」

 湖南高校(コナン)の連中は好き勝手なことを言っている。数を集めたからか随分と強気だ。


 俺は手を広げて、ゆっくり連中へ近づいていく。


「あン?」

「マスクなンてつけてんじゃねえ」

「マスク野郎は動画でも撮ってろよ」

 動画? 何を意味の分からないこと言ってやがる。俺が実況動画でも撮っているように見えるのか。


 連中の中でもなるべく背が低いヤツの前に立つ。百七十くらいか? 手を伸ばせば届く距離だ。


「あ?」

「そのマスクをはぎ取ってやるぜ」

 連中は変わらず好き勝手なことを言っている。


 コイツらは油断している。このまま先制攻撃だぜ。


 右拳を軽く握り、大きく振りかぶる。相手の顔面を狙い――放つ。


「あン? そんなへなちょこな拳をよォ、喰らうかよ」

 目の前のヤツは俺のへなちょこ(・・・・・)な拳を――余裕を持って回避する。回避されても構わない。俺は右拳を振り切るだけだ。


 カツン。


 俺は振り切る瞬間に右肘を曲げる。余裕を持って躱したと思った相手の顎を肘が掠める。


「あン? そんなのが効くか……よ、よ、よ、よ? あン、だ」

 相手がふらりと揺れ、倒れる。

「漫画とかで見たことないか? 脳を揺らされると立ってられなくなるんだぜ」

 顎を掠めた一撃によって頭が揺らされ脳震盪(のうしんとう)を起こす。まぁ、実際は漫画ほど簡単じゃない。だけど、やろうと思えば出来ることだ。


「たっくん! あ、こンの野郎が!」

「何してくれてンだ!」

 連中が叫ぶ。


 俺はすぐに回れ右をする。


 走って逃げる。いくら俺でも三十人を一度に相手して何とかするのは難しい。まぁ、無理とは言わない。言わないけどさ。三十人居ようが一度に襲いかかってくることが出来るのは三、四人くらいだろう。だから、そいつらだけを相手して確実に数を減らしていけば――何とかなる。


 でもなぁ。それは机上の空論だ。三、四人でも一人で一度に相手するのはキツい。連中の全部が全部、雑魚なら良いが、もし、喧嘩なれしているようなのが複数居ればさらにキツくなっていく。


 そして、一番の問題は三十人と戦いきる体力だ。俺は持久力に自信がある。そりゃあね、毎日、走り込んでいるからな。だが、人と戦うってのは――喧嘩は、かなり体力を消耗する。普通の運動じゃない。囲まれた状態で消耗する体力は凄まじいものになるだろう。


 だから、俺はそんな無茶をしない。


 勝てる方法を選ぶ。


 だから、俺は走って逃げる。


「ンだと!」

「逃げンな、コラッ!」

「待て!」

「たっくんをこんなことしてタダじゃおかねぇ」

 連中が追いかけてくる。


 走って逃げる。


 足には――持久力には自信があるんだよ!


 走って逃げる。


 走る。


「へへ、馬鹿がよォ! 俺は足に自信があンだよ!」

 だが、追いついてくるヤツもいる。陸上部くずれだろうか。随分と足が速い。


 後ろの集団から抜け出て、一人だけ俺に追いついている。


 んんー。追いつかれたかぁ。


 そいつがこちらへと手を伸ばす。このままだと捕まってしまう。


 だがッ!


「狙い通りなんだよ!」

 その伸ばしてきた手に腕を回し、逆に掴む。掴み相手の懐に入る。そのまま体を沈め背負い上げ――投げる。一本背負いだ。

 走り自慢君は背中から舗装された地面に叩きつけられる。

「あがあがっ」

 動けない走り自慢君を踏みつけてトドメを刺し、蹴り飛ばす。まぁ、数日は大変だろうが病院に行くほどでもないだろう。


 これで二人。


 すぐに俺は逃げる。


 走って逃げる。


「よっくん!」

「こン野郎が!」

 連中が追いかけてくる。


 走る。

「追いついたぜ!」

「もう逃げらンないぞ」

「死ね」

 今度は三人だ。走り自慢君の相手をしたことで、距離を詰められ、すぐに追いつかれてしまったようだ。


 だがッ!


 追いついてきた奴に回し蹴りを放つ。走って勢いのついた状態では躱せないだろう。とっさに手を上げ防ごうとする。だが、俺は、その手ごと蹴る。そして、蹴り足を軸としてさらにまわる。まわって浴びせるような蹴りを放つ。これを防ぐことは出来ないだろう。


 俺の浴びせ蹴りで三人組の一人が沈む。


 着地する。


「ンだと!」

 その着地した俺を掴もうと二人が手を伸ばしてくる。俺は地面に両手を伸ばし、バック転のように後ろへと飛ぶ。その勢いのまま二人を蹴り上げる。


「あがッ!」

「げひッ」

 顎を蹴り上げられ二人が倒れる。


 これで五人。


 俺は軽く息を吸う。


 ふぅふぅ。


 ……。


 って、マスクが辛い。マスクをはぎ取る。マスクをしながら動き回るとか、心臓を鍛える特訓をしている訳でもないのに、俺は馬鹿か。キツすぎるだろうが。


「待て」

「待ちやがれ」


 走って逃げる。


 連中が追いかけてくる。


 追いついてきた奴を順番に投げ飛ばし、蹴り飛ばし――倒す。繰り返しだ。一度に相手をしない。それだけだ。


 そうやって十四人ほど倒したところで連中が集まりだした。まとまって俺を追いかけることにしたようだ。バラバラに追いかければ各個撃破されると気付いたのだろう。まだ半分ほどなのに意外と早く気付かれてしまったな。


 さて、どうする。


 ここらで満足して、このまま逃げるってのも有りだ。後は雷人に譲っても良いだろう。


 だけどなぁ。


 俺は立ち止まり、息を整える。


 すーはー、すーはー。


「追いついたぜ」

「このショボサングラス野郎がよォ!」

「この卑怯者がよォ!」

 ショボサングラスとは酷い言われようだ。俺の百円プラス税で買ったサングラスを馬鹿にするのか。許せんヤツだ。このサングラスを馬鹿にしたヤツ、お前は最後にしてやる。


「一人を相手に負けてるヤツらが卑怯者とか言ってんじゃねえよ」

 俺はヤツらを笑う。

「ンだと!」

「息が上がってンじゃねえか?」

「この数相手に勝てるつもりか、ン?」

 後、十二ってところか。


 まだ、ちょっと多いな。


 だが、何とかなるだろ。


 何とかしてやるぜ。


 だが、まぁ、その前に、と。


「まぁ、待てよ。何でもかんでも暴力で解決しようとするのは良くないな。対話は重要だぜ。今回の件、湖桜高校(クラウン)狩りを詫びて謝るなら許してやるよ。なー、んー」

 うん、対話は重要だ。話すことで誤解が解けるかもしれないからな。

「ンだと!」

「調子にのンじゃねえ」

「何言ってやがる。この人数に怖くなったか、あ?」

 あー、会話で解決は無理だったか。これは仕方ない。


 仕方ない。


 俺はヤツらに指を突きつける。

「分かったぜ。それなら、しょうがない。かかってきな」

 そのままその指を裏返し、くいくいっと曲げて挑発する。


「あンだと!」

「死ね」

 連中が襲いかかってくる。連携もクソもない好き勝手な攻撃だ。


 軍隊じゃないんだから、まぁ、こんなもんだよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ