17 りべんじ!
「江波……俺たちも……逃げる、ぞ」
血が流れ、まだ頭はふらふらする。だが、ここで警察に捕まる訳にはいかない。
「あ、うん」
江波と二人で逃げる。
「おい! 待ちなさい!」
警官は叫んでいる。待つかよ。追うならさっきのヤツらを追えよ。こっちはヤツらにやられた側だ。被害者だぜ――だが、それを信じて貰えるかどうかは別だ。
ま、そんな理由よりも、だ。逃げるのは、ただただ、単純に面倒だってだけなんだけどさ。
逃げる。
逃げる。
「……ふぅ」
警察を巻いたところで一息つく。
「有馬君、頭、大丈夫?」
「大丈夫……じゃない」
血が流れている。切れているかもしれない。大丈夫じゃないだろう。てか、さ。頭、大丈夫って聞かれたら、俺の頭が悪いみたいじゃないか。確かに馬鹿高で有名な湖桜高校に通っているけどさ。それはこの江波も同じだ。江波も頭わるわるだ。
「無茶しすぎだよ」
「とりあえず……医者に……行ってくる……さ」
俺は江波に手を振り、その場を去る。
俺はささっと去るんだぜ。血がだらだらと流れているからな。早く医者に診て貰った方が良いだろう。
その後、医者に診て貰い、三針ほど縫って貰う。思ったよりもざっくりと裂けていたようだ。
はぁ、情けないぜ。完全に油断だよな。背後からの攻撃に気付けないなんてさ。囲まれていたんだから、背後から攻撃が来るのは当たり前だ。だけど、あのタイミングで……いや、言い訳だな。
まぁ、良いさ。ヤツらは――ヤツらのコトは覚えた。
翌日、包帯を巻いた状態で登校する。
情けない姿だが、仕方ない。これは油断した俺に対しての戒めだ。
そして、江波を呼ぶ。
江波はA組だ。
阿呆ばかりのアホのA組。
馬鹿ばかりのバカのB組。
問題児ばかりのクレイジーなC組。
俺や雷人のクラスはC組だ。俺なんて何も問題を起こしていないのにC組なんだぜ。酷いよな。まぁ、今、それは良い。
「江波、ちょっと良いか」
「有馬君、大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だよ」
江波に聞くことがある。だから江波を呼んだ。
「江波、教えて欲しいんだけどさ。湖桜高校狩りって言ってたけど、あいつら何だ?」
「知らないの?」
知らないから聞いているんだよ。
「あいつらは湖南高校のヤツらだよ」
「グレート?」
「何がグレート? とにかく湖南高校の連中だよ」
「名探偵?」
「有馬君、何を言っているの」
いや、分からないなら良いさ。
その湖南高校君たちが湖桜高校のブレザーを集めているってコトだな。何故、そんなことをするかは分からないが、まぁ、かつてのボンタン狩りみたいなものだろう。
「で、その湖南高校は何処にあるんだ?」
俺の記憶にはない高校だ。ここ十数年で出来た新設の高校なのだろう。
「有馬君、どうするつもりなの? 気持ちは分かるけど、落ち着こうよ。有馬君のクラスの上路君をトップに湖南高校の連中を呼び出してやっつけるみたいだから、僕たちは――僕たちみたいなのは大人しくしておこうよ」
大人しく、か。
なるほどなぁ。
にしても、A組の連中が雷人を呼んでいたのはこのためか。湖桜高校狩りの連中に対抗するために、二年を打倒したと言われている雷人を呼んだ、と。あいつも良いように使われているな。
まぁ、それは雷人が選んだことだから、別に良い。
問題はそこじゃない。
湖桜高校狩りだろ?
つまり標的は、ここだ。この湖桜高校だ。連中に一年や二年、三年の区別がつくとは思えない。
なのに、だ。
二年や三年が動いている気配がない。
これはさぁ、湖桜高校の問題だろ? 俺らが軽く見られている――舐められているのに、動かないのかよ。
今の二年が腐っているのは分かった。身をもって知っている。だが、三年はどうなってる。
コイツは問題だよな。
今回のこと。この湖桜高校狩りの件が片付いたら問いただす必要があるな。三年って言えば、その高校の一番じゃねえかよ。そいつらが動かないから、今回の件みたいに舐められる。
湖桜高校が落ちぶれたのも良く分かるってもんだぜ。
「で、江波。雷人のヤツが、ヤツらが湖南高校君たちを何処に呼び寄せるか、場所は分かるか?」
「静姫湖の公園らしいよ。もう呼び出しているそうだから――今日の放課後には、集まっているんじゃないかな……でも、どうするつもりなの?」
なるほど。
「どうする? どうしような。まぁ、安心してくれよ。俺もさ、無茶はしないよ。自分がどの程度かは嫌ってほど分かってるからさ」
分をわきまえろってコトだな、うん。
「そう? それを聞いて安心したよ」
うん。そうそう、安心してくれ。
俺は、僕は、今の自分に出来ることしかしない。
そうだよな、うん。
「有馬君、ニヤニヤ笑って、ちょっと不気味だよ」
「おおっと、ゴメンゴメン」
そして、放課後。
俺は湖南高校の前に立っている。
サングラスとマスクをつけ、校門前に腕を組み一人で立っている。
俺はさ、出来ることしか――しない!
そう、身の程を知っているのだ。
帰路についている真面目そうな一般生徒が他校の生徒である俺の姿を見て不思議そうな顔をしていた。まぁ、頭には包帯を巻いて、サングラスにマスクだもんな。思いっきり不審人物だ。教師を呼ばれていないだけ良しとしよう。
待つ。
そして、現れる。
ガラの悪そうな連中だ。三十人くらいか? 一年から三年までの混合のはずなのに思ったよりも少ないな。
「おーい、ストップ、ストップ」
俺は連中に呼びかける。
「あン?」
「おい、コイツ、馬鹿高だぞ」
「なンだ?」
連中は弾けそうなほど元気いっぱいだ。これから喧嘩をしに行くんだからな、当然だろう。
「これからうちの連中とヤリに行くんだろ? まぁ、その前に俺の相手をしてくれよ」
「あン?」
「お前、一人かよ」
「馬鹿じゃねえの。人数考えろよ」
「なンのつもりだ? あ?」
ふぅ。
「良いから、かかってきな!」
俺は頭の包帯をはぎ取る。連中に指を突きつける。その指を裏返し、くいくいっと曲げ、アピールする。
これはさ、リベンジじゃねえぜ。復讐じゃない。
この学校の連中に立場を分からせる。
躾だぜッ!




